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岩壁を背後に、僕達は窮地に立たされていた。
斜め左側から、銃を持った人間達が向かってきている。
そして右側、僕達の想定していた逃走経路から、不気味な人間が現れた。
「………李喋隊長、どうしたら?!」
「くそっ……私が奴を抑える!その間に、貴様等は脇を抜けていけ!」
確かに僕等の逃げ道はそこしかない。
そこ以外は、銃の射線上。
だが………
「人間に手を出しては……」
「大丈夫だ……怪我はさせない」
李喋隊長は、そう言うと木陰から飛び出した。
だが李喋隊長がいる場所は、僕等の正面。
そこから飛び出せば、銃の射線上にでてしまう。
案の定……
激しい銃撃音が響いた。
「「隊長っ!」」
僕達、部下の心配する声が重なる。
だが僕達の心配をよそに、銃弾は隊長に当たらず、隊長の影に当たるに終わった。
「心配するな!行くぞ、私の後をついてこい!」
僕達は慌てて、李喋隊長の後についていく。
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「……これはどういう事だ?」
牙城の崖下で、男は荒い声を上げる。
犬界ではあまりに有名な姿をした男。
彼はある契約のもと、自らの犬生を捨てていた。
そのお陰でアイツが、今も笑えているのだから悔いはない。
彼の名はトニー、奥羽の総大将の側近ジョンの影武者であった。
崖下には洞窟があり、多数の者が余裕で入れるスペースがある。
今はこの場に二匹だけ。
トニーの表情は、険しかった。
洞窟の惨状をみて、隣の男を睨んでいる。
「どうやら先客が、お邪魔していったみたいだな」
淡々とつげる、漆黒の少年。
少年とは思えない風格を持つ彼の言葉に、トニーは苦虫を噛み潰す。
…………何を?!白々しいっ!
見張りの者であった、五匹の男たちをみやる。
既に彼等を骸になっており、ゴミのように洞窟に放置されていた。
隣の奴は、一欠片も驚いてなどいなかった。
むしろ当然とばかりに、笑みを浮かべている。
トニーは、十中八九彼の仕業だと思っていた。
…………だが、証拠がない。
奥に行けば案の定、保管されていた筈の
あれが無ければ、彼との取引は白紙となってしまう。
………どうする?!
このままでは彼等との繋がりが消えてしまう。
今までアレのお陰で、彼等を抑える事が出来ていた。
そして今回は契約を結ぶ事で、アレを渡す取り引きをしたのだ。
だが、アレが無ければ契約もない、そしてアレも無ければ彼等との繋がりも消える。
八方塞がりな状況に、トニーは頭を悩ませる。
「そのようだ………」
「それで、
薄い笑みを浮かべ、トニーを眺めていた少年。
彼は一段と口角をあげ、わざとらしく周りを見回している。
「………それはっ」
「もしや無くしたとかではないよな?」
………こいつ?!
トニーは少年を睨み付ける。
「まさか……本当に?」
「っぐ!」
「これは取引不成立だけで終わらないぞ?」
「貴様っ、それが狙いか?!」
「はっ、何の事だ?」
「馬鹿にするなよ!白々しいにも程がある、貴様が盗んだんだろ?!」
「心外だ、そちらがそういう対応ならこっちも、それ相応の対応をさせてもらうぞ!」
トニーの怒気と少年の殺気が、洞窟内で衝突する。
痺れる空気の中、少年は踵をかえす。
「……………奥羽だけでなく、世を乱すつもりか?!」
少年の去った洞窟内で、トニーの呟きだけがこだましていくのであった。
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