クロンの呼応   作:恐竜紳士

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第十四話:時間を何秒止められる?

 デュエルモンスターズのルールでは、各プレイヤーが自分のターンに取れる行動をフェイズ毎に分けている。

 「ドローフェイズ」、「スタンバイフェイズ」、「メインフェイズ」、「バトルフェイズ」、そして「エンドフェイズ」の五種である。

 更にメインフェイズは二種類に分けられている。バトルフェイズ前に行う《メインフェイズ1》と、バトルフェイズを行った場合にのみ発生する《メインフェイズ2》である。

 もしプレイヤーがバトルフェイズを行わなかった場合、メインフェイズ2も発生せず、そのままエンドフェイズに移行し――…そのプレイヤーのターンは終了する。

 例え他のプレイヤーのカードによってバトルフェイズをスキップさせられた(・・・・・)としても、同様である。

 それがデュエルモンスターズにおける一ターンの流れである。

 ではもし。バトルフェイズだけでなく、メインフェイズ1までもスキップされた場合、どうなるのだろうか。

 結論から言うと、ターンプレイヤーは「ドローフェイズ」・「スタンバイフェイズ」・「エンドフェイズ」の三つしか行う事ができず、実質カードを引くだけでターンを相手に明け渡す事になる。

 従って。もし相手の《メインフェイズ1》と《バトルフェイズ》を奪う事に特化したデッキが存在するならば――。それはルールを味方に付けるに等しい戦術なのである。

 

 

 

 

 

「相手のターンを無理やり終了させる、だとぉ!?」

 恐らくは初めて目にするコンボだったのだろう。ソールが身を乗り出して声を荒げた。

 相手の伏せカードでもモンスターでも無く、相手ターンそのものを狙った戦術。通常のデュエルではまず見かけないものだ。彼女が驚くのも当然だろう。

 が、一度大会でその戦術を見ている姫利と百合は、落ち着いた様子でデュエルを眺めていた。

「あれが、フロム君の得意な戦い方よ。あのコンボ自体は結構前からあるんだけど、それに特化したデッキは、あの子のもの以外に見た事はないわね」

「うんうん、私も初めてあのコンボ食らったた時はちょービビッたよ。実際戦ってみるとわかるけど、あのコンボ、思ってる以上にフロむん側に有利なんだよねぇ」

 冷静ではあるものの、二人とも彼のコンボに良い思い出が無いのだろう。苦笑いしながら、互いに顔を見合わせている。

「しかも、あの子のデッキはあのコンボを使う事を前提に組まれているから、クロン君以上に先が読めない。正直言って強いわよ、彼」

 デュエル開始からまだ三ターンしか経っていないと言うのに、応援席では早くも不穏な空気が流れている。その空気を噛みしめながら、ソールはふと思い出した。同級生から聞いた彼の噂を。

(時間を操る決闘者……時間(ターン)。くそ、そういう意味かよッ…!)

 漸く情報の意味を理解するが、デュエルが始まってしまった今はどうする事もできない。

 ソールは小さく舌打ちして、クロンの様子を伺った。

 

 

 

 

 

 

【クロン】 LP:8000

手札:4枚

モンスター:なし

魔法&罠:2枚

 

【フロム】 LP:8000

手札:4枚(一枚はスロゥ・ナイフス)

モンスター:パラクスの少女 ミン(攻撃表示)

魔法&罠:なし

 

 

 『スロゥ・ナイフス』 通常魔法

 効果:相手フィールド上の表側表示モンスター1体を選択して発動する。

 次の相手ターンのエンドフェイズ時、そのモンスターを破壊する。また、この効果で装備モンスターを破壊した場合、このカードを持ち主の手札に戻す。

 

 

 

 自分の意思とは関係なく、自分のターンが終わってしまう。カードゲームにおいて、これほど恐ろしい事は無い。

 だがクロンにとって幸いだったのは、彼が先攻であった事だ。先攻であったが故に、彼は二枚の伏せカードを出す事ができ、こうして彼の身を守っている。

 しかし、もしこれが逆に後攻だったなら。恐らく一枚のカードすら出せぬまま、彼のターンは終わっていたのだろう。仮の話とは言え、そのあまりの惨めさに、クロンは思わず身震いする。

(先攻か後攻か…、その時点で勝負は始まってたって事ですか。危ない危ない…、けど)

 額の汗を拭いながら、クロンは自分が伏せた二枚のカードに目をやり、微笑する。

 モンスターは破壊されたものの、守りの要はむしろこちらだ。この二枚のカードがある限り、とりあえず最低限の防御はできる。

 クロンは心を落ち着かせ、目の前の相手を真直ぐに見つめる。次はフロムのターンだ、心を引き締めて掛からねばならない。

「じゃあ、ボクのターンだね」

 フロムはゆっくりとカードを引き、それを手札に加える。その顔にはやはり笑みが浮かんでおり、彼の「手」が順調である事を伺わせる。

(…へぇ、あまり驚かないねコイツ。もう少し慌てるかと思ったんだけど)

 彼が知る限り、このコンボを初めて受けた者――特に初心者は、その特異な戦術に驚きを隠せないものだ。

 その為、クロンもそれなりの反応を見せるものと楽しみにしていたのだが…。思いの外彼が冷静だったので、肩透かしを食らった気分だった。

(経験が浅すぎて状況が呑み込めていないのか、それとも姫利お姉ちゃんの指導の賜物なのか…。ま、あのマヌケ面を見る限りは前者かな)

 僅かに浮かんだ疑問を一笑で済ませ、フロムは視線を自らの手札に落とす。

「…よし。手札の魔法カードを一枚捨てて、ミンの効果を発動! 次の君のメインフェイズ1を、スキップする!」

 再度、クロンのメインフェイズを封じに掛かるフロム。その行為が何を意味するのか、今のクロンにははっきりと理解できた。

「さらに、手札から『パラクスの少女 マリア』を召喚!」

 フロムの場の空間が一部歪み、そこから青色のロングヘアーの少女が姿を見せる。

 肌の露出が目立つ服装ながら体の一部が機械化されており、肩に取り付けられた青色の大型スラスターは、翼のようなシルエットを少女に与えている。

 好戦的な顔立ちをしているがその攻撃力は900と低く、お世辞にも戦闘向けとは言えない。それだけに、それに見合う効果を持つ事は明らかだった。

「マリアの効果発動! このカードが召喚された時、デッキからレベル3以下のパラクスの少女を一体特殊召喚する事ができる。ただし、特殊召喚したモンスターはエンドフェイズにボクの手札に戻っちゃうけどね」

 そう言って、フロムは決闘盤からデッキを外し扇状に広げる。それと同時、《マリア》の目の前の空間に再び歪みが生じ、彼女は背面のスラスターを吹かせその中に突入した。

「マリアの効果によって、『パラクスの少女 ジェシカ』を特殊召喚!」

 歪みの中よりマリアに連れられて現れたのは、金髪の髪をサイドポニーにした幼い少女。服装は所々破れたシャツにホットパンツとワイルドと軽装で、体の至る所に小型のスラスターが取り付けられている。軽くて速い、というイメージだろうか。

 だが攻撃力は600ポイントと《マリア》より更に低く、戦闘向けのモンスターでない事は明らかだった。

「マリアの効果で特殊召喚された事で、ジェシカの効果発動! 次の君のバトルフェイズをスキップする!」

「うっ…」

 笑みを浮かべていたクロンの表情が曇る。

 メインフェイズに続き、バトルフェイズをも封じられた。それは先程のコンボの再現であり――次の彼のターンも、奪われた事を意味する。

 ここに至って、クロンは確信した。これが、この戦術が、彼のデッキのコンセプトなのだと。

(まっずいなぁ…。このターンだけなら何とか凌げると思ったけど、二度もターンを飛ばされたらどうしようもない。いや、下手すればその次のターンも…)

 そう思った瞬間、クロンの背筋が凍った。

(う…。いったい何ターン止める気ッスか、この人…?)

 一ターンだけなら、まだ何とかなる。しかし何ターンも続けて飛ばされるというのなら話は別だ。

 クロンは手を震わせながら、《ミラーフォース》を温存すると判断した自分の甘さを後悔した。

「バトル! パラクスの少女 マリアで、直接攻撃するよ!」

 にやりと笑いながら、フロムが攻撃を宣言する。《マリア》は背中のスラスターから青い光を放出して、クロンへと急接近した。

「っ! トラッ――」

 咄嗟に伏せカード《メタル・リフレクト・スライム》で防御しようとしたクロンだが、寸前でフロムの手札に《スロゥ・ナイフス》という除去カードがある事を思い出し、その手を押し留めた。

(リフレクト・スライムが破壊されたら、もう攻撃を防ぐ術はない…。次のターンが無くなった以上、ここは敢えて攻撃を受けるのが正解――…のはず!)

 短い時間で出した結論なだけに自信は無かったが、この判断は決して誤りでは無かった。

 フロムがこれまで召喚した三体のモンスターは何れも攻撃力が低く、全ての攻撃を受けた所で大したダメージにはならない。

 ならば、その微々たるダメージの為に罠モンスターを消耗するよりも、更に次のフロムのターンに備えて温存しておくべきというのが大局的な見方である。シンクロ召喚やエクシーズ召喚によって上級モンスターを簡単に呼べる今日では尚更だ。

「く…」

 敢えて攻撃を受ける事を選んだクロンの胸に、《マリア》の拳が突き刺さる。だが所詮は攻撃力900のモンスター、掠り傷程度のダメージでしかない。

「次! ジェシカで直接攻撃!」

 続いて、第二の攻撃宣言。主人の命令を受けた《ジェシカ》は全身のスラスターで体を浮かせ、クロンに突進する。

 第一の攻撃を受けた以上、クロンはこちらの攻撃も直接受ける覚悟だった。一瞬にして距離を詰めた《ジェシカ》は、くるりと急速旋回してクロンに背を向け、おしりでパンチを叩きこむ。

 そのダメージは600ポイント。見た目の派手さに対し、こちらも大したダメージではない。

「まだまだ! 今度はミンで直接攻撃!」

 バトルはまだ終わらない。

 命令を受けた《ミン》は、体に埋め込まれたリングを一つ取り外すと、宛らチャクラムのようにクロンに向けて放つ。

 こちらもクロンは甘んじて受け入れた。投げられたリングがクロンの頭に命中し、彼に1000ポイントのダメージを与える。《ミン》は小さくガッツポーズした後、地面に落ちたリングの回収に向かった。

 この三度の攻撃により、クロンが受けたダメージは合わせて2500ポイント。上級モンスターの直接攻撃に等しいダメージだが、ライフに余裕のある序盤では気にする程のダメージではない。

 と言って、安堵している暇も無かった。次の攻撃は、すぐに来るのだから。

「伏せカードは使わない、か…。なるほどね」

 フロムは笑みを浮かべながら、静かにバトルを終了させる。

「なら、ボクはこれでターンエンド。この瞬間、特殊召喚したジェシカは手札に戻るよ」

 場の《ジェシカ》の姿がカードに変わり、持ち主の手札に戻る。フロムはにやりと笑みを見せて、クロンにターンを明け渡した。

 

 

 

 『パラクスの少女 マリア』 モンスター

 光属性 機械族 ☆3

 攻撃力900 守備力900

 効果:このカードの召喚に成功した時、デッキからレベル2以下の「パラクスの少女」と名のついたモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚できる。

 この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに手札に戻る。

 

 『パラクスの少女 ジェシカ』 モンスター

 光属性 機械族 ☆2

 攻撃力600 守備力600

 効果:このカードは通常召喚できない。

 このカードが「パラクス」と名のついたカードの効果によって特殊召喚された場合、次の相手ターンのバトルフェイズをスキップする。

 

 【クロン】

 LP:8000→7100→6500→5500

 『次のターンのメインフェイズ、およびバトルフェイズのスキップ確定。』

 

 

「おにいちゃ~んっ! がんばって~!」

 視点は変わり、応援席では少女クルスが一生懸命に兄に声援を送っていた。

 今どちらが押していて、どちらが苦戦しているのか。幼い彼女にはまだわからない様子だが、心から兄の勝利を期待している姿は見ていて微笑ましい。

 一方で、クロンを応援しているはずの姫利ら三人の方には、早くも重い空気が流れていた。

「お、おい…。どう見ても一方的じゃねーか。大丈夫なのか、あいつ?」

 ソールが姫利の顔を見上げて問う。

 もちろん、初めて戦う両者のデュエルの行く末など、保証できる筈もない。それは彼の師匠である姫利とて例外ではなかった。

「…正直、苦しいわね。あのコンボは一度ハマっちゃうと、最悪負けるまで抜け出せない。初見なら尚更ね」

 一度戦った事があるだけに、姫利の分析は厳しい。隣にいる百合も、苦笑して頷いた。

「私もそれでやられた口だからねぇ。まあクロぽんもそこん所はもう気付いてるんじゃない?」

「そうね。伏せカードも温存していたみたいだし、何もできないって事はないと思う。何とかしてフロム君のコンボを破る事ができれば、あの子にも勝機があるんだけど…」

 唇に指を当て、考え込む姫利。その曖昧な口ぶりが気になったのか、ソールが苛立った声で絡んだ。

「何とかしてだぁ? もっと具体的なアドバイスはねーのかよ。テメー春川なんだろ?」

「残念だけど、一度あのコンボを許してしまったら、本当に何とか(・・・)するしかないのよ。伏せカードもモンスターも出せない以上はね」

「…つまり――、」

「私のアドバイスじゃあの子を助ける事はできないってこと。あの子次第よ、完全に」

 普段はクロンに優しい彼女も、ことデュエルとなれば彼に厳しい。それだけに、彼女の言葉が決して誇張でも贔屓目でもない事が伺えた。

 ソールは舌打ちすると、デュエル中のクロンに向けて「おい!」と叫ぶ。

「もたもた戦ってんじゃねーぞテメェ! そのデッキには俺様のカードも混ざってんだからな! さっさと何とかして、何とかしろ!」

 言葉は荒いが、彼女なりに励ましだった。

 その不器用な応援に姫利は微笑して、すぐに厳しい表情でデュエルに視線を戻した。

(まあ、それができれば苦労はしないんだけど……ね)

 クロンとフロム。そのどちらとも戦った彼女には、彼らの実力差が残酷な程に見えている。しかし、姫利の目は決してこの状況を悲観してはいなかった。

 もとより勝ち目は無いものと思っていた勝負。しかし、彼ならばあるいは…。そう期待してこのデュエルを観ているのだ。この程度の危機は、初めからわかっていた事だ。

(さ、どうするのクロン君。このままフロム君に好き放題やらせたら、本当に手も足も出せなくなっちゃうわよ)

 応援は、心の中で。彼女もまた不器用な性格の一人だった。

 

 

 

 

「――何とかする!」

 次いで、クロンのターン。彼は声援に応えるように、気合を入れてカードをドローした。

(…よし!)

 思わず笑みを浮かべそうになるのを、辛うじて堪える。

 彼が引き当てたのは《エフェクト・ヴェーラー》。手札から発動でき、相手モンスターの効果を一ターンの間無効化する事のできるカードだった。

 メインフェイズとバトルフェイズが封じられ、カードをセットする事ができない今、手札から発動できるこのカードの存在は大きい。モンスター効果を無効にするという効果も、この状況では何とも心強かった。

(このカードがあれば、フロムお兄ちゃんがもう一度ミンの効果でボクのメインフェイズを封じようとしても対処できる。あのコンボを失敗させる事ができれば、反撃できるはず…!)

 漸くにして訪れた転機である。

 このチャンスは決して逃してはならない。クロンはゆっくりと呼吸して気持ちを落ち着けると、まっすぐな瞳でフロムを見た。

 この数ターン、殆ど彼にやられっぱなしであったが、一方で、彼の戦い方をじっくり観る事ができたとも言う事ができる。その中で、クロンはある事に気付いた。

(お兄ちゃんがこれまで使ったモンスターは、どれも攻撃力が低いものばかり…。ひょっとして、火力自体はあまり高くないんじゃ…?)

 確証はないが、ありえる事であった。

 三体のモンスターで直接攻撃を行いながら、クロンが受けたダメージは2500ポイント止まり。長い目で見ればそれでも十分なダメージであるが、決して大きな数値ではない。ソールとのデュエルでは、一度攻撃を通しただけでも致命傷だった事を考えれば尚更だ。

 もちろん、そんなものはシンクロ召喚やエクシーズ召喚で何とでもなるのだが、現時点で彼の場に攻撃力の高いモンスターがいない事は確かである。

(もし、あのコンボを破って反撃する事ができれば、火力を上げたボクのデッキなら押し勝てるかも知れない。…これだ、ここが狙い目だ)

 思い込みにも等しい分析だが、クロンはその可能性に賭ける事にした。

 まずはどうにかしてあのコンボを崩し、そこから力で捻じ伏せる。難しい計画だが、やれない事はない。クロンは微笑して、短い自分のターンを終了させた。

 

 

 

 「エフェクト・ヴェーラー」 モンスター

 光属性 魔法使い族 ☆1 チューナー

 攻撃力0 守備力0

 効果:このカードを手札から墓地へ送り、相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。

 選択した相手モンスターの効果をエンドフェイズ時まで無効にする。この効果は相手のメインフェイズ時にのみ発動できる。

 

 

 

「ボクのターン、だね?」

 わざとらしく確認しながら、フロムは新たなカードをドローし、メインフェイズに移る。

 これでクロンは自由なタイミングで《エフェクト・ヴェーラー》を発動する事ができるのだが、今はまだ早い。《ミン》の効果を起動すべく、手札を捨てた瞬間がベストなタイミングだろう。それまでは、《エフェクト・ヴェーラー》の気配すら出してはならない。

 クロンはじっと息を殺し、フロムが《ミン》の効果を発動する瞬間を待つ。しかし、ここで予期せぬ事態が起きた。

「うーん…、どうしよっかな? よし、パラクスの少女 ミンを守備表示にして、バトルフェイズに入るよ」

「えっ…!?」

 予想外の展開だった。

 フロムの手札には少なくとも魔法カード《スロゥ・ナイフス》があり、《ミン》の効果を発動する事はできる。その為、真先に例のコンボを使おうと《ミン》の効果を発動してくるものと思っていたのだが――…思惑を早くも外された形だ。

(ミンの効果を使わない!? まさか、手札にエフェクト・ヴェーラーがある事に気付いて……いや違う! そんな筈はない!)

 予想が外れ一瞬狼狽するクロンだが、頭を振って落ち着きを取り戻す。

(いくら何でも、相手がドローしたカードをピンポイントで察知する事なんてできる訳がない! きっと何か別の理由があるはずだ…!)

 その「理由」が何なのか考えるよりも早く、フロムの攻撃の手が伸びた。

「パラクスの少女 マリアで、プレイヤーに直接攻撃!」

 先程と同様、背中のスラスターを吹かせた《マリア》が攻撃を仕掛けてくる。

 この攻撃を素直に受けるか、それとも伏せカードを発動して防ぐか。熟考する時間すら無い今、クロンは珍しく勘で動く事にした。

「永続罠カード、メタル・リフレクト・スライムを発動! このカードは発動後、守備力3000の壁となってボクの身を守る!」

「ん? …へえ?」

 クロンの場に巨大な液体金属の塊が現れ、瞬く間にその姿を変えていく。粘土の様に自由に形状を変えていくそれは、古の巨神兵(オベリスク)の姿に変わり、《マリア》の前に立ちはだかった。

 その守備力は、最上級モンスターでも滅多にない3000ポイント。当然、《マリア》の攻撃力では破壊は不可能だ。

「なるほど、罠モンスターを伏せてたんだね。さっきのターンに発動しなかったのは、ボクの手札にスロゥ・ナイフスがあったから、かな?」

「…そゆ事ッス。あの攻撃の時点で、ボクのターンがスキップされるのは決まってましたからね」

「ふふ…。やるね」

 にこにこと笑みを浮かべるフロムだが、クロンにはその仮面の裏の黒い本性が透けて見えるようだった。

 意表は突けたかも知れないが、結局のところ自分の身を守っただけで、フロムにとっては何の痛手も無い。口では褒めていても、心の中では嘲笑っている事だろう。

(さて、どうしたもんッスかね。もしお兄ちゃんの手札にまだ例のコンボを決めるだけの余力があったら、せっかく呼び出した罠モンスターも……)

 そこまで考えた時、クロンは気付いた。フロムが《ミン》の効果を使わずに攻撃してきた、その理由に。

「あっ…」

 思わず漏れたその声は、フロムのフェイズ終了宣言に掻き消された。

(わかった! 無いんだ! フロムお兄ちゃんの手札に、ボクのバトルフェイズを封じるカードが!)

 これまでフロムがバトルフェイズを封じる為に発動させたカードは、《覇者の一括》や《ジェシカ》といった、一度きりの使い捨てや効果の発動に条件のあるものばかりだった。これは言うならば消耗品であり、コストさえあれば毎ターン効果を起動できる《ミン》と違い、いつでも何度でも発動できるという訳ではない。

 従って今、彼の手札にクロンのバトルフェイズを封じる手段(カード)が無い可能性は非常に高い。もし手段があるのなら、先に例のコンボを仕掛けてから攻撃してきたはずだ。

(…間違いない。例のコンボが使えなくなったお兄ちゃんは、手札を温存する作戦に切り替えたんだ。ミンの効果を発動しないのは、手札の魔法カードがスロゥ・ナイフスしかないからで……例のコンボと相性のいいあのカードを手札コストにしたくないから、次のターン攻撃される可能性があってもミンの効果も使わない。うん、辻褄は合う!)

 噛みあった思考の歯車は回転し、納得のいく解答(ロジック)を組み立てていく。と同時に、クロンの口元は緩んでいた。

 フロムのコンボは、確かにデュエルの常識を覆す強力なものだ。だが、それは二種のフェイズを封じるカードを用意しなければならないという条件がある。

 もし彼がクロンの予想通りその条件を満たせなくなったのならば、再度あのコンボを使うには幾らか時間を要する筈だ。一ターンか、二ターンか、コンボパーツを引くための時間が。

 そのクールダウンの瞬間こそ、絶好の好機だと思えた。あらゆる全てを覆す為の。

「うーん、どうしよっかな…。まずはジェシカを守備表示にして…」

 指をくわえて考え込むフロム。自分を可愛く見せる為の演技だと思えるが、その手の指し方に些かの狂いはない。

「あと、モンスターと伏せカードを一枚ずつセットして、ターンエンド! クロン君のターンだよ!」

 やはり彼は最後まで《ミン》の効果を発動しようとはしなかった。クロンはもう一度笑みを浮かべて、小さく頷いた。

 

 

 

 「メタル・リフレクト・スライム」 永続罠

 効果:このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

 このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

 

 

 

 

「ボクのターン!」

 久しぶりに、本当の意味でのクロンの時間(ターン)が訪れる。カードを引く彼の手に力が入るのも無理からぬ事だろう。

 彼の手札は現在六枚と、反撃を仕掛けるには十分な枚数。フロムのコンボがドローフェイズまでは飛ばせない事が、効いて来たといった所か。

「…よし。手札から、トリオンの蟲惑魔を召喚するよ!」

 彼が呼び出したのは、触覚らしきものが生えた少女型のモンスター。

 人間型のモンスターであるにも関わらず名前に「蟲」がつき種族も昆虫族という珍しいカードだが、それには理由がある。実はこの少女の姿は本体では無く、獲物を罠に誘う為の疑似餌なのだ。

 従って、本来《トリオン》と呼ぶべきモンスターはここにはいない。今は何処かに身を隠し、哀れなロリコンが罠に掛かるのを虎視眈々と待っている。疑似餌が全裸ではなく衣服を着ている辺り、相当の策士と思われる。

 少女の姿に騙されて首筋をぺろぺろしに行ったが最後。本体である蟲に捕まり、眼球の裏側までぺろぺろされる事だろう。

 だがクロンは、このカードを非常に気に入っていた。露骨な罠で獲物を捕るという陰湿さは、ある意味では彼の戦い方に通じるものがある。彼がこのカードを採用したのも、その辺りが理由だった。

「トリオンの効果! このカードが召喚した時、名前に『ホール』もしくは『落とし穴』とついてるカードを一枚デッキから手札に加える事ができる!」

 クロンは決闘盤からデッキを外し、扇状に広げる。その中から一枚のカードを選ぶと、それをフロムに提示して手札に加えた。

「ボクが選択するのは奈落の落とし穴ッス!」

「…ふむ」

「まだまだ行くよー! 手札を一枚捨てて、THE トリッキーを特殊召喚ッス!」

 続いて現れたのは、道化師のような姿をした上級モンスター。

 攻撃力は2000と上級モンスターにしては低いものの、手札を一枚消費するだけで特殊召喚できるというシンプルな効果を持つ。

「さらに! トリッキーを出す為に捨てた魔轟神獣ガナシアは、手札から捨てられた場合、攻撃力を200ポイントアップさせて特殊召喚できます!」

 これまでの沈黙を晴らすように、クロンは動き続ける。現れたのは、二本の脚で歩く象の姿をしたモンスター。

 自身の効果によって特殊召喚された事で攻撃力は1800ポイントにまで上昇し、アタッカーとして恥じない数値を誇る。

 これでこのターン、クロンが召喚したモンスターは三体。その攻撃力は何れもフロムのモンスターを上回っており、これまでの彼には無かった速効性も光る。

 攻撃の準備は整った。これらのモンスターで総攻撃をかければ、フロムの場を一気に殲滅する事ができる。

 ただ気掛かりなのは、フロムの場に伏せられた一枚のカードだ。恐らくは攻撃を防ぐための罠なのだろう、彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

「………」

 クロンはじっと彼の顔を見つめた後、自らの手札に視線を落とす。その中には、《魔宮の賄賂》のカードが含まれていた。

 最初にコンボを受けたターンに引き、今まで伏せる事すらできず持ち続けていたカード。このカードを事前に伏せていれば安心して攻撃できたのだが、状況がそれを許さない。

(こんなチャンスがそう何度もあるとは限らない…。罠はあるだろうけど…、行くしかない!)

 迷いを断ち切り、前を向く。

「行きます! バトルフェイズ、トリオンの蟲惑魔で――、」

 全ての結果は運に任せ、一気に攻め込もうとした矢先。フロムの伏せカードが、くるりと翻った。

「悪いね。バトルフェイズに入る前に速攻魔法、パラクスの古時計を発動! このターンのバトルフェイズをスキップする!」

「なっ…!?」

 思いがけない展開に、咄嗟に理解が追い付かなかった。

 フロムの場に機械仕掛けの大きな時計が現れ、不協和音を鳴らして爆ぜる。その不気味な音色はクロンのモンスターの気力を削ぎ、バトルフェイズそのものも封印した。

「な…! そんな、なんで…!」

 バトルフェイズをスキップするカードはもう無い。そう結論した直後の出来事なだけに、クロンはショックを隠せなかった。

(まさか、そんなはずが…! バトルフェイズを封じるカードがまだある……なら、なんでさっき《ミン》の効果を…!? まだコンボが使えたのに!? ――違う! もし《ミン》の効果を使われても《エフェクト・ヴェーラー》があったから――、いや違う!)

 頭の中で様々な言葉が散らばり、組み立てる傍から崩れていく。

 落ち着こうとしても、自分が錯乱しているらしいと辛うじて理解するのが精一杯の状況だった。

 その様子を見て、フロムはにやりと意地悪い笑みを浮かべる。その時、クロンは確かに聞いた。「無駄な努力ご苦労様」と言う、彼の声無き声を。

(……ッ! やられた――!)

 フロムの笑みを見て漸く全てを理解したクロンは、拳に力を入れて身を震わせる。

(お兄ちゃんは作戦を変えたんだ…! さっきのターン、フロムお兄ちゃんはもう一度あのコンボを使う事ができたけど、それだけじゃボクのライフを削り切れないと計算した…!)

 ゆっくり息を吸いながら、クロンは言葉を組み立て、遅すぎる答え合わせをしていく。

(ボクの場には伏せカードが二枚あって、手札もたっぷりある。短期決戦を仕掛けても不利だと判断したお兄ちゃんは、一度コンボを止めて……ああもう、ここだけ合ってる! 手札を温存する作戦に切り替えた!)

 考えてみれば。相手のフェイズをスキップするという効果は、本来攻撃ではなく防御に役立つ効果である。彼はクロンの反撃を考慮して、コンボ用のカードを防御に使う事にしたのだ。

 クロンがどれだけモンスターを並べた所で、バトルフェイズを封じられては攻撃のしようがない。それが彼の作戦だったのだろう。

(ミンの効果の方を使わなかった理由は、スロゥ・ナイフスを温存するためと……反撃のチャンスと勘違いしたボクに、手持ちのカードを吐き出させるため…?)

 そうだとすれば。クロンは物の見事にフロムに踊らされていた事になる。

 《ミン》の効果を使わなかった事でコンボパーツの不足を臭わせてチャンスを演出し、相手がモンスターを並べた所で、バトルフェイズそのものを封じる。…相手に希望を見せて一気に突き落とすやり方は、彼らしい意地悪さに見えた。

 そして、その戦い方は、クロンが得意とするやり口でもあった。

「……計算ッスか…。全部」

 小さく呟き、泣きそうになるのを堪える。いや、実際は目にじんわりと涙が浮かんでいた。

 自らが得意とする戦術…。相手の思考を読み裏を掻くつもりが、ものの見事に手玉に取られたのだ。子供心にはあまりにもショックで、悔しかった。

 だが、クロンは涙を腕で拭い、両手で自分の頬を叩く。泣いてる場合じゃない、デュエルはまだ途中だと、思い出した。

「…よし。色々スッキリした」

 攻撃こそ通らなかったものの、クロンのモンスターは何れも健在だ。チャンスはまだ、きっとある。

 クロンは笑みを浮かべて強がってみせると、いつもの調子でターンを続行した。

「バトルフェイズを行わなかったら、メインフェイズ2には入れない……でしたよね? なら、ボクのターンは終了です」

 できれば身を守るための罠をセットしておきたかったが、ルールには逆らえない。モンスターを出せただけよしと自分を慰め、クロンはターンを終えた。

 

 

 

 「トリオンの蟲惑魔」 モンスター

 地属性 昆虫族 ☆4

 攻撃力1600 守備力1200

 効果:このカードは「ホール」または「落とし穴」と名のついた通常罠カードの効果を受けない。

 このカードが召喚に成功した時、デッキから「ホール」または「落とし穴」と名のついた通常罠カード1枚を手札に加える事ができる。

 また、このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

 

 「奈落の落とし穴」 通常罠

 効果:相手が攻撃力1500以上のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動できる。

 その攻撃力1500以上のモンスターを破壊しゲームから除外する。

 

 「THE トリッキー」 モンスター

 風属性 魔法使い族 ☆5

 攻撃力2000 守備力1200

 効果:相手が攻撃力1500以上のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動できる。

 その攻撃力1500以上のモンスターを破壊しゲームから除外する。

 

 「魔轟神獣ガナシア」 モンスター

 光属性 獣族 ☆3

 攻撃力1600 守備力1000

 効果:このカードが手札から墓地へ捨てられた時、このカードを墓地から特殊召喚する。

 この効果で特殊召喚したこのカードの攻撃力は200ポイントアップし、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

 

 『パラクスの古時計』 速攻魔法

 効果:自分フィールド上に「パラクスの少女」と名のついたモンスターが存在する場合に発動できる。

 次の相手のバトルフェイズをスキップする。

 このカードが破壊され墓地に送られた場合、次の自分のターンをスキップする。

 

 

 【魔轟神獣ガナシア】

 攻撃力1600→1800

 

 

 

「危ない危ない。ボクのターン、ドロー!」

 余裕の表情を浮かべながら、新たにカードを引くフロム。

 彼の手札は現在四枚。そのうちの二枚は、《スロゥ・ナイフス》と《パラクスの少女 ジェシカ》だと判明している。

「手札のジェシカを捨てて魔法カード、『パラクスの壺』を発動! ボクのメインフェイズ2に、カードを二枚ドローする!」

「む…!」

 彼が発動したのは、ドローのタイミングが特殊な手札増強魔法。バトルフェイズの後にとは言え、このタイミングで更に二枚ドローする事の意味は決して小さくはない。

「更に手札から、『パラクスの少女 ハイジ』を召喚するよ!」

 再び空間に歪みが生じ、現れたのは山羊に乗った幼い少女。

 体の一部が機械となっているのはこれまでの「パラクスの少女」と同じだが、こちらは動物に乗っているという客観的に見た特徴がある。

 攻撃力はやはり800ポイントと低い数値であるが、レベルは《マリア》と同じ3であった。それが何を意味するのかは、もはや語るまでもないだろう。

「レベル3のマリアとハイジでオーバーレイ! 『パラクスの戦乙女』をエクシーズ召喚!」

 二体のモンスターを一つに束ね、現れたのは紫色の鎧を付けた金髪の少女だった。

 手には美しく光る剣と宝石が埋め込まれた盾を持ち、背中には天使の翼を模した大型のスラスターが取り付けられている。その顔立ちは凛々しく美しいが、外見はこれまで召喚された「パラクスの少女」よりも幼く見えた。

 だが攻撃力は2100ポイントとこれまでの「パラクスの少女」とは一線を画する数値を誇り、戦闘向きのモンスターである事が予想される。

「パラクスの戦乙女の効果! 1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を一つ取り除く事で、攻撃力が500ポイント上昇! さらに相手の全てのモンスターに攻撃する事ができる!」

「っ…!」

「ハイジを取り除いて、効果発動!」

 ここに来て、フロムが本格的に牙を向けてきた。

 全体攻撃という事は、クロンのモンスターは《メタル・リフレクト・スライム》を除いて全て戦闘破壊される事を意味する。それだけは、阻止しなくてはならない。

 クロンは小さく舌打ちすると、手札の《エフェクト・ヴェーラー》に手をかける。

「させない! 手札のエフェクト・ヴェーラーを捨てて、戦乙女の効果を無効にするッス」

「ん…!」

 クロンの場に現れた女性モンスターが、《戦乙女》の能力を封じ込める。一ターン限定ではあるものの、これで全体攻撃を阻止する事ができた。

 ここで《エフェクト・ヴェーラー》を使うのは勿体ない気もしたが、三体ものモンスターを失うよりはずっといい。もちろん、効果を無効にしただけでは通常の攻撃を止める事はできないのだが。

「…ま、仕方ないね。戦乙女で、トリオンの蟲惑魔に攻撃するよ!」

 フロムが命じたと同時、《戦乙女》の翼が僅かに持ち上がり、青色の光を噴射する。

 光と見紛う程の速度で《トリオン》に接近した《戦乙女》は、手にした剣で疑似餌(ようじょ)の体を両断。たまらず出てきた本体の蟲をも、その刃で切り捨てた。

「く…」

 500ポイントという僅かなダメージが、クロンのライフに刻まれる。

 残るライフは5000ポイント。少しずつではあるものの、確実にダメージは溜まってきていた。

「バトルフェイズを終了して、メインフェイズ2。さっき使ったパラクスの壺の効果で、二枚ドロー!」

 流れるような動作で新たに二枚ドローするフロム。引いたカードを目にした瞬間、彼の口元が緩んだのをクロンは見逃さなかった。

「カードを二枚セットして、さらにこのカードを反転召喚するよ!」

 フロムのターンは終わらない。彼は先程伏せたカードを表にして、その正体をクロンに見せる。

 そのカードは、《ワーム・リンクス》。攻撃力は低いものの、極めて強力なドロー効果を持ったリバースモンスターだった。

「なっ、そのモンスターって確か…!」

「そ、ワーム・リンクス。このカードの効果で、ボクはエンドフェイズ毎に一枚カードをドローできるってわけ」

 にこりと笑うフロムだが、行為そのものはえげつないものだ。

 《リンクス》が存在する限り、彼は毎ターンカードをドローする事ができる。それは一ターン毎に両者のアドバンテージ差が開いていく事を意味する。しかもフロムは、相手の攻撃そのものを封じる事を得意としている。

(むぅ、エフェクト・ヴェーラーの使いどころを間違えたかな…? 何とかしてあのカードを除去しないと、ボクの勝ちの目が完全に無くなっちゃう)

 と言って。フロムの場には、今度は二枚の伏せカードがある。果たしてあの二枚の壁をすり抜けて《リンクス》を破壊できるだろうか?

 …いや。できる、できないの問題では無い。ここであのカードを破壊できなければ、このデュエルの勝敗は決してしまう。それだけは死に物狂いで阻止しなくてはならない。

 幸い、フロムはこのターンも例のコンボを仕掛けては来なかった。ならば、手の打ちようはきっとある。

「それじゃあ、ターンを終了して……さっそく一枚ドローさせてもらうよ」

 早くも一枚カードを補充するフロムを見ながら、クロンは必死に自分を励ましていた。

 

 

 

 『パラクスの壺』 通常魔法

 効果:自分のターンのメインフェイズ1に、手札から「パラクスの少女」と名のついたカードを1枚捨てて発動する。

 次の自分のメインフェイズ2開始時、カードを2枚ドローする。

 

 『パラクスの少女 ハイジ』 モンスター

 光属性 機械族 ☆3

 攻撃力800 守備力1000

 効果:????

 

 『パラクスの戦乙女』 エクシーズ

 光属性 天使族 ランク3

 攻撃力2100 守備力1900

 効果:「パラクスの少女」と名のついたレベル3モンスター×2

 1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

 このターン、このカードの攻撃力は500ポイントアップし、相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃できる。

 

 「ワーム・リンクス」 モンスター

 光属性 爬虫類族 ☆2

 攻撃力300 守備力1000

 リバース:このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、お互いのエンドフェイズ毎に自分はデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

 【クロン】

 LP:5500→5000

 

 

 

「ボクのターン、ドロー!」

 落ち着いたつもりでも、彼の声には焦りがはっきりと表れていた。クロンはドローしたカードを確認するなり、決闘盤に叩き付ける。

「手札から、アマゾネスの鎖使いを召喚!」

 現れたのは、先端に刃のついた鎖を武器にする女戦士。攻撃力は1500ポイントと中途半端な数値だが、戦闘破壊された際に相手の手札からモンスターカードを一枚奪うという珍しい効果を持つ。

 だが、今回クロンがこのカードを出したのはその効果を使う為では無く、戦闘要員を一体でも増やす為だ。フロムの伏せカードは二枚、クロンの場のアタッカーは三体。伏せカード一枚につき一回攻撃を止められたとしても、三度目の攻撃で《リンクス》を破壊する事ができるという計算だ。

「カードを三枚セットして……バトル! THE トリッキーで、ワーム・リンクスに攻撃するッス!」

 先程の様に伏せるタイミングを失わないよう、カードをセットしてから一度目の攻撃宣言を行う。それと同時、フロムの伏せカードが一枚翻った。

「かかったね! 罠カード、聖なるバリア-ミラーフォース-を発動! 君の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」

「うっ…!」

 最悪のカードだった。

 彼が発動したのは、クロンの手札にもあった罠カードの代表格、《ミラーフォース》。攻撃モンスターだけでなく、攻撃表示のモンスターをも全て破壊するという凶悪な効果を持つカードである。

 これにより、彼のモンスターは《メタル・リフレクト・スライム》を除いて全滅――…するかと思われたが、クロンは咄嗟に伏せカードを発動させた。

「させない! 罠カード、スターライト・ロードを発動! ミラーフォースの効果を無効にして、さらにエクストラデッキからスターダスト・ドラゴンを特殊召喚するよ!」

「なにっ!」

 彼が発動したのは、姫利戦でも使用した罠カード。クロンの場のカードを二枚以上破壊する効果を無効にした上、強力なシンクロモンスターを特殊召喚するという、クロンのデッキには相性が良いカードだ。

 最初のターンで伏せたきり今まで使う機会が無かったのだが、最高のタイミングで発動する事ができた。《ミラーフォース》を無効にするだけでなく、《パラクスの戦乙女》を上回る攻撃力を持つ《スターダスト》を出す事ができる。

 災い転じて吉となすという言葉通りの展開に笑みを浮かべるクロンだが、ここでも、フロムが一枚上だと思い知らされる事になる。

「…うん。ちょっと驚いたけど、なんて事ないね! 永続罠カード、強制終了を発動! ミラーフォースを墓地に送る事で、このバトルフェイズを終了させる!」

「な!?」

 安堵したのも束の間、フロムのもう一枚の伏せカードが翻り、その効果によって《ミラーフォース》は消滅、《スターライト・ロード》も不発に終わった。

 しかも、バトルフェイズそのものを終了させられた事で攻撃は中断される。モンスターの破壊こそ阻止したものの、目的である《ワーム・リンクス》の破壊は失敗に終わった。《スターダスト・ドラゴン》の特殊召喚も、効果の不発のため失敗に終わる。

「はい、ドジャ~ン」

 両腕を大きく広げ、勝ち誇った表情を浮かべるフロム。

 無論、今のやり取り全てが彼の作戦通りであった筈は無く、全ては偶然の応酬に過ぎない。しかし、彼の咄嗟の機転と強運は、結果として彼はクロンの一つ上を行った。

 その事実は、先程の読み違いで弱っていたクロンの心に深々と突き刺さる。

「いやぁ…。はは、まいったな」

 クロンは頭を掻きながら、ふと視線を応援席のソールへと向けた。

「ごめん、ソールちゃん。ちょっと勝てそうにないや…」

 クロンの乾いた笑いが、そのまま彼の苦衷を表していた。

 

 

 

 「アマゾネスの鎖使い」 モンスター

 地属性 戦士族 ☆4

 攻撃力1500 守備力1300

 効果:このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、1500ライフポイントを払って発動する事ができる。

 相手の手札を確認し、その中からモンスター1体を選択して自分の手札に加える。

 

 「聖なるバリア-ミラーフォース-」 通常罠

 効果:相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

 相手フィールド上に攻撃表示で存在するモンスターを全て破壊する。

 

 「スターライト・ロード」 通常魔法

 効果:自分フィールド上のカードを2枚以上破壊する効果が発動した時に発動できる。その効果を無効にし破壊する。

 その後、「スターダスト・ドラゴン」1体をエクストラデッキから特殊召喚できる。

 

 「強制終了」 永続罠

 効果:自分フィールド上に存在するこのカード以外のカード1枚を墓地へ送る事で、このターンのバトルフェイズを終了する。

 この効果はバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。

 

 

 

【クロン】 LP:5000

手札:1枚

モンスター:メタル・リフレクト・スライム(守備表示)、THE トリッキー(攻撃表示)、魔轟神獣ガナシア(攻撃表示)、アマゾネスの鎖使い(攻撃表示)

魔法&罠:メタル・リフレクト・スライム(発動中)、伏せカード×3

 

【フロム】 LP:8000

手札:2枚(一枚はスロゥ・ナイフス)

モンスター:パラクスの少女 ミン(守備表示)、パラクスの戦乙女(攻撃表示)、ワーム・リンクス(攻撃表示)

魔法&罠:強制終了(発動中)

 

 

――――

 

【デッキ紹介】

 

No.6

デッキ名:「パラクスの世界」

使用者:フロム=アステリア

切り札:特になし。

コンセプト:相手のメインフェイズ1・バトルフェイズをスキップする事で相手の行動を制限し、その有利性を駆使して戦うデッキ。

モンスターはほぼ全て光属性で統一されており、種族は機械族が多め。その為「パラクスの少女」の専用サポートカードも含め、様々なサポートカードを組み込む事ができる。

また上記のコンボに使うカードは防御面に回す事も可能。フェイズそのものをスキップさせる効果であるため、確実に相手の攻撃を防ぐ事ができる。

一方で、モンスターの平均攻撃力が低く火力不足である事と、デッキのカードの大部分をコンボの為に裂いている為、ごり押しが出来ないという弱点を持つ。ただし上記のコンボを連続して使えば、一度のチャンスで相手を殺し切れる事もあるので侮れない。

単純なコンセプトとコンボの手軽さ故に扱う分には容易いが、このデッキで勝つには慎重なプレイングが求められる。ある意味、上級者向けのデッキと言える。

 

No.7

デッキ名:「ソールちゃんとの共同作業デッキ」

使用者:クロン=ナイト

切り札:カオス・ソルジャー ‐開闢の使者‐

コンセプト:ソールから提供されたカードを組み込み、攻撃と守備の両立を求めて組み上げた試作デッキ。モンスターの平均攻撃力が上昇し、更にモンスターを大量展開する事が可能になった。

戦術そのものは単純で、序盤は罠を駆使して相手を翻弄し、隙を見て物量攻撃をかけるというもの。これまでのクロンには無かった火力が加わり脅威度が増した反面、罠カードの数が減少している。(良い事だが)

ただし彼にとって攻撃を重視したデッキの作成は初めてであり、ソールも性格上防御と攻撃を両立したデッキを組むのは苦手な為、デッキバランスが良いかと言うと決してそうではない。色んな意味で初々しいデッキ。

火力が上昇したとはいえ、アタッカーのチョイスにクロンらしさが光るのはご愛嬌である。

 




たまには変わった事をしようかなー。…という訳で、ここでクイズです。

現在、圧倒的不利な状況にあるクロンですが、実はここから一転攻勢します(ややネタバレだけど気にしない)
さて、彼はどうやって状況を覆すのでしょーか? ヒントは、第一話から現在までに使った事があるカードを何枚か使う事、です。
答えは次回! お楽しみに!
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