クロンの呼応   作:恐竜紳士

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第二十一話:殺意足りてる? ―その1

 あれは、いつの事だっただろう。春川 姫利は、デュエルの開始と共に考える。

 彼女がいつも通っているカードショップ近くの自動販売機。クロンに弟子入りを申し込まれたあの場所で、彼に尋ねられた事があった。

「ねぇ姫利お姉ちゃん。一度聞いてみたかった事があるんッスけど…」

「ん? 何?」

 デュエルを終えた後の、息抜きの時間の時だった。クロンは言葉の間にジュースを飲む動作を挟みながら、一つの質問を姫利にぶつけてきた。

「姫利お姉ちゃんにも、ボクと同じ初心者だった頃があるんですよね?」

「まあ、そりゃね」

「どうやって今みたいに強くなったんですか? 参考にしたいので、良ければ教えて欲しいなー、なんて」

 えへ。と媚びるような笑みを浮かべるクロンに対し、姫利は青空を見上げながら、困ったような表情を浮かべる。

「…別に、コツや秘訣なんて無かったわね。私がデュエルを始めたのは、ちょうど貴方と同じくらいの年の頃だったけど…。実を言うと、最初は全然強くなかったのよ、私」

「へぇ? …それは意外ッスねぇ」

「ただ、人一倍負けず嫌いでもあったのよね。だから、毎日のようにデッキを変えて、デュエルに没頭して……どう戦えば強くなれるのか、ずっと考えたのよ」

 今となっては恥ずかしい記憶なのだが、クロンには聞かせておきたい話でもあった。

 強くなりたい。その当時の姫利と同じ思いを、この小さな少年は持っている。何度敗北を喫しても挫けないその姿は、あの頃の自分の姿を連想させるのだ。

「小学五年か六年の時だったかしら。最終的に、基本に忠実な戦い方が最も強力で、私に合っているっていう結論に至ったの」

「基本に忠実、というと?」

「相手のモンスターを破壊して、伏せカードを除去して、攻撃する。説明の必要が無いくらいの単純な事だけど、当時の私はロックやバーンにも興味があったから、この基本に落ち着くのに時間がかかったのよね」

 言いながら、姫利はふとクロンの顔を見て、くすりと微笑する。

「まあ、貴方の場合は基本に落ち着く事はないと思うけどね」

「む…。なーんか気になる言い方ッスねぇ」

「人それぞれって事よ。私が基本を重視してるからと言って、貴方がその真似をする必要はないの。要するに……そうね、自分に合った戦い方を見つける事が重要なの。貴方はもうそれを見つけてるみたいだから、コツ自体は掴んでると言っていいわね」

「なるほど。…と言う事は、お姉ちゃんにとっては、その基本に巡り合えた時……小学五年生の頃が決闘者としてのスタートだったって訳ですね」

 頷きながらクロンが言うと、姫利は「そう言う事よ」と笑って答えた。

「それからはスタンダードデッキを組んで、またひたすらデュエルの日々。相手の戦術をどうやって崩すかとか、攻めるタイミングとか、その時に体で覚えたの」

「ふむふむ…。言われてみると姫利お姉ちゃんのデッキ、スタンダードに近いものがありますよね」

「そう言う事ね。それで、中学二年の頃だったかしら。あの店の大会に初めて出場して……優勝は流石にできなかったけど、そこそこ良い成績を残せて、やっと自分の実力に自信が持てるようになったのよ」

 ほんの二年か三年前の事であるが、当時の事は今となっては懐かしい記憶だった。

 小さなカードショップでの出来事とは言え、大会と言う舞台に上がり、満足のいく結果を残せたのは、当時の姫利にとっては何よりも嬉しい事であった。

 だが、その結果だけで満足せず、それからも実力の向上に努めたからこそ、今の彼女がある。要するに――、

「要するに、努力の人なんですね。姫利お姉ちゃんは」

「そう言う事。基本と経験が、私の武器。貴方とは正反対のタイプの決闘者って訳ね」

「なるほど、なるほど…。んっ、参考になりました! これからもよろしくッス、お姉ちゃん!」

「ええ、こちらこそ。…さ、休憩はこれくらいにして、店に戻ってもう一勝負行きましょうか。今度はちょっと強めに攻めるから、気を付けてね」

「お、オッス…!」

 二人は飲み終えたジュースの缶をゴミ箱に捨てて、また店に戻っていく。

 基本こそ原点。努力と経験こそ武器。その言葉は、そのまま姫利自身の信条であった。どれだけデュエルの環境が変わろうと、その軸が変わる事は決して無い。

 だが。…何故、今その事を思い出したのだろう。何故、クロンとの会話を思い出したのだろう。

 姫利は疑問に思いながら、今は目の前のデュエルに集中する事にした。

 

 ……………

 

 …………

 

 ………

 

 クロンが店を出た時には、姫利とリリオンのデュエルは始まっていた。

 両者共に一枚のカードを出していない所を見ると、たった今開始された所らしい。メイは今の隙にこの場から離れるよう言っていたが、師匠が危険な相手とデュエルしているというのに、弟子の自分が逃げるなどできるはずもない。

 その決意の固さは、鉄よりも堅い。クロンが店を飛び出た事で、慌ててメイらも店から出てきたが、クロンは気付かず、姫利とリリオンのデュエルを見つめていた。

「さーてさて、どーしましょーっかねぇ」

 どうやら先攻はリリオンが得たらしい。

 彼女は初手の五枚のカードを眺めながら、ねっとりとした笑みを浮かべていた。

 あらゆる意味で未知の相手。どんな戦術を出して来るのか。そうクロンが思った矢先、リリオンは予想だにしない行動に出た。

「…はっ、めんどくさ。ターンエンドするわ、私」

「なっ…!」

 言うが早いか、彼女は本当に何をする事もなくターンを終了させる。そのあまりの唐突さに、対戦相手の姫利だけでなくクロン達からも驚愕の声が漏れた。

 一ターン目に場にカードを出さない。余程の手札事故か、特殊な戦術でもない限り有り得ない事だ。ましてリリオンは姫利がどんなデッキを使うかも知らないのだ、場にカードを出さないなど、通常なら考えられない事だった。

「……」

 それでも。姫利は警戒した様子で、リリオンを見つめていた。

 

 

「一ターン目に、何もカードを出さない…?」

 守備を重視するクロンには、とても信じられない事だった。

 モンスターの攻撃力や展開力が激しく上昇している現在、相手の場に何もカードが無い前提ならば、相手のライフを一ターンで削り気る事は決してありえない事では無い。例え手札事故が起きたとしても、ブラフ一枚出さないのは、あまりに危険な行為だ。

 無論、単純に《ゴーズ》や《ドラゴエディア》の特殊召喚が狙いである可能性もあるが――…それにしても、露骨すぎる。ましてリリオンは、姫利の戦術を全く知らないのだ。

「…大胆ですね。ああも簡単に、無防備を晒すなんて」

 考えている所に、後ろからメイの声が聞こえてきた。その声がクロンに向けたものなのか、それとも独り言なのかは定かでは無いが、彼女から見てもリリオンの無行動はリスキーに見えたらしい。

 いや、彼女だけでは無い。この場にいる全ての決闘者が、彼女の行動に不可解なものを感じていた。

「少なくとも、手札事故ではないわね。あの様子だと」

 メイの言葉に答える形で、ミランダが呟く。彼女は落ち着いた表情で、へらへらと笑うリリオンの顔を見ていた。

 手札事故では無いという点に関しては、クロンも同じ考えであった。だが、そこから先がわからない。クロンは一度姫利らのデュエルから視線を外し、ミランダの顔を見上げて質問する。

「あの、確か…。ミラ……お姉ちゃん、でしたっけ?」

「ん?」

「手札事故じゃないとすると、じゃあ何であのお姉ちゃんはカードを出さなかったと思います…? ゴーズやドラゴエディアを出すにしても、ちょっと危険な気がするんですけど」

 その質問を受け、ミランダは暫くクロンの顔を見つめた後、再度視線をリリオンに向ける。

「そうね。一ターン目にカードを出さない理由は、基本的に攻撃的なものが多いわ。あんたの言う通りゴーズを特殊召喚して尖兵にしたり、敢えて攻撃させる事で相手のモンスターを攻撃表示にさせて、返しのターンで高火力のモンスターを出して一撃必殺(ワンターンキル)を狙ったり」

「あ、なるほど…。ベンケイ1KILLみたいなデッキなら、攻撃を誘う為に敢えてカードを出さないのもありっちゃありッスね」

「他には、相手の性格を読んで揺さ振り(プレッシャー)をかけてるなんて事も考えられるけど…。見た感じ、それは無さそうね」

「揺さ振り?」

 すぐには言葉の意味を理解できず、クロンは鸚鵡返しに聞き返す。その疑問に答えたのは、ミランダ本人では無く傍にいたメイだった。彼女はくすりと笑いながら、クロンに質問を投げ返す。

「もしクロン君が姫利さんの立場なら、この状況で攻撃しますか?」

「えっ? …す、する訳ないじゃないッスか、何が出てくるかもわからないのに…! 様子見、ボクなら様子見で守りを…」

 そこまで言って、クロンは気付いた。メイが言おうとしている事、ミラが言った言葉の意味を。

「…相手が攻めてこないのを見越して、その上で嫌な予感だけを与える。そういう心理的駆け引きッスか…」

「そういう事ですね。ですが、これはある程度対戦相手の性格を知っていないと、クロン君の言う通り危険な賭けになります。…なので、姫利さんと初対面のあの女性が、そんな事を狙うはずがない……と言うのが、お嬢様の考えだと思います」

「確かに…、なるほど」

 そういう読み合いもあるのかと一人納得したクロンは、ポケットからメモ帳を取り出し、とりあえず今のやり取りを記録に取る。そんな二人のやり取りを見て、ミランダは「あら」と笑みを浮かべた。

「随分その子と仲良くなってるじゃない、メイ。勘ぐってもいいのかしら?」

「お、お嬢様!? 私はただ…!」

「ふふ、冗談よ冗談」

 そう言ってミランダは体を揺すって笑う。姫利が危険な相手と戦っている状況の割には、のんびりとした空気だった。

 その空気の背景には、姫利に対する一つの信頼があるのだろう。相手が何を考えていようと、そんな事で敗北する姫利ではない、と。

 その信頼は、当然クロンも抱いていた。リリオンが何を企んでいようと、姫利という決闘者が簡単に負ける訳がない。メモを取り終えた後、クロンは、真直ぐな瞳で姫利を見つめた。

 

 

「…私のターン」

 姫利は、珍しく苛立った表情を浮かべてカードをドローする。

 リリオンの場に彼女を守るカードが存在しないとは言え、ここで迂闊に攻撃する事はできない。何しろ相手が自ら無防備を晒しているのだ、どんな罠が潜んでいてもおかしくはなかった。

 無論、単純に手札事故と言う事も考えられるが――…クロンらと同様に、その可能性は低いと姫利は考えていた。

 必ず、何かある。姫利はゆっくりと息を吐きながら、まずは自分の手札を確認する。幸い、彼女自身の手札は良好なものだった。

「…決めたわ。手札から、『春風姫‐カレン』を召喚!」

 姫利がそのカードを出すと同時、その場に暖かな風が吹き、鉄板を取りつけたドレスと丸型の盾を身に着けた少女が現れる。

 その容姿はその名の通り可憐なものだが、その目には強い光を宿らせ、腰に付けた剣を鞘から引き抜き、リリオンに刃を突き付ける。

 攻撃力は1600と次第点と言った所だが、リリオンの場にカードが無い現在、攻撃力の大小はそこまで重要ではない。しかもこのカードの真価は、別の所にある。

「カレンが召喚・特殊召喚された時、私の手札から更に一体の春風姫を特殊召喚する事ができるわ。私は『春風姫‐ハルカ』を特殊召喚する!」

 更に一枚、姫利の手札からモンスターが繰り出される。

 現れたのは、桜色の和服を着こんだポニーテールの少女。その容姿は世に言う大和撫子を連想させるが、腰には刀を一振り下げており、《カレン》と同じく厳しい表情でリリオンを見つめている。

 その攻撃力は1800ポイントと下級モンスターの平均値で、更に一ターンに一度、相手の場に魔法・罠カードが存在しない場合に限り相手の場のモンスター一体を破壊する事ができる効果を持つ。仮にリリオンが手札に《ゴーズ》を忍ばせていたとしても、即座に破壊する事が可能だ。

 これで姫利の場のモンスターは二体。その総攻撃力は3400ポイント、最上級モンスターの攻撃力に等しい数値だ。

(何が狙いか知らないけど、序盤からこのダメージは大きいはず。誘いに乗るわ、遠慮なくね)

 小さく微笑した後、姫利は動く。罠があると言うのなら、それごと破壊して突き進むとばかりに。

「バトル! まずはカレンで、直接攻撃!」

 姫利が命令を下すと同時、ドレス姿の少女《カレン》が何もないリリオンの場を駆け抜け、その無防備な体に袈裟切りを浴びせる。

 リリオンは、動かなかった。驚くほど静かに彼女のライフが削られ、《カレン》は姫利の元へと帰っていく。無論、だからと言って、まだ罠が無いと安心はできないのだが。

「…次! ハルカで攻撃するわ!」

 攻撃の手は止まらない。静かに刀を引き抜いた《ハルカ》が、音一つ立てずにリリオンの場を駆け抜け、同じように彼女に一撃を見舞う。

 これで姫利のモンスターは全て攻撃した。もしリリオンが動くとすれば、このタイミングだと思われたが――…意外にも、彼女は動かなかった。にやにやと笑みを浮かべたまま、ぺろりと舌なめずりをするだけだ。

「ンッン~。合計で3400ポイントのダメージか。まっ、こんなもんかな。ふつーの奴が出せる攻撃力なんてさ」

 ダメージなど意に介していないように、リリオンは嗤う。その口振りは、もっと大きなダメージを期待していたかのようだった。

 もっとも。今の姫利の手札ならば、その彼女の期待に応える事は可能であった。1ターンKILLとまでは行かずとも、6000ポイント近いダメージならば十分に叩きだす事はできた。

 だが、その為には今以上に手札を消耗する必要がある。相手の狙いがわからない以上、悪戯にカードを出して手札を減らしたくはない、というのが姫利の考えだった。

 何にしても、序盤から相手のライフを半分近く減少させた事実は大きい。後は次のリリオンのターンに備え、防御を固めるだけだ。

「メインフェイズ2! カードを一枚セットして、ターンエンド! 貴方のターンよ!」

 姫利は一枚のカードを場に出し、最初のターンを終える。

 まずまずのダメージと、次の相手の攻撃に対する備え。一ターン目の行動としては十分だと、姫利は考えていた。

 後は、相手(リリオン)がどう出るか。彼女はより警戒を強め、リリオンの動きを見る事にした。

 

 

 『春風姫‐カレン』 モンスター

 風属性 戦士族 ☆4

 攻撃力1600 守備力1700

 効果:このカードが召喚・特殊召喚された時、手札から「春風姫」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 

 『春風姫‐ハルカ』 モンスター

 風属性 戦士族 ☆4

 攻撃力1800 守備力1900

 効果:相手フィールド上に魔法・罠カードが存在しない場合、1ターンに1度、相手フィールド上の表側表示モンスター1体を破壊する事ができる。

 

 【リリオン】

 LP:8000→4600

 

 

「ふふ~ん、っとぉ。私のターン」

 揚々と、鼻歌混じりにリリオンは自らのターンを開始する。姫利は厳しい表情で、その様子を見つめていた。

 彼女にどんな狙いがあるにせよ、このターンも何もせずに終わるという事はありえない。次の姫利のターンに今度こそライフを削り気られる可能性が高いからだ。

 従って、彼女が一ターン目に何も行動しなかった理由は、このターンで明らかになると考えていい。あれほどのリスクを冒した事を納得できるほどの理由が。

(鬼が出るか蛇が出るか…。さ、お手並み拝見と行こうかしら)

 半ば期待しているのは、決闘者の(さが)というものだろうか。姫利はゆっくりと息を吐きながら、リリオンの次の動作を待った。

 リリオンは相変わらず気怠そうな顔をしているものの、計六枚となった手札を眺めている。少なくとも、動くつもりなのは間違いないようだ。

「…ん、まずはこれでいくか。手札からキャモ~ン、『バーバラス・スレイブ』!」

 漸くにして彼女が繰り出したのは、粗末な布きれを纏った、薄汚い巨漢のモンスターであった。

 その両手には金属製の枷が嵌められ、左足には重しを付けた鎖の枷がある。全身は生々しい切り傷や打撲の跡があり、家畜も同然の扱いを受けている事が見て取れる。

 その攻撃力は1550ポイントとやや微妙な数値であるが、このモンスターの姿を見て、姫利は顔をしかめた。このモンスターの無残な風貌に、ではなく、このカードが持つ効果に対して。

「バーバラス・スレイブ……確か効果は…、」

「おっとぉ、知ってるなら話が早い。こいつは私のエクストラデッキにカードが存在しない場合、攻撃力が元々の数値の倍になる!」

 リリオンの解説と同時、弱々しくさえ見えた巨漢の奴隷が赤黒いオーラを身に纏い、その体を拘束していた枷を容易く破壊する。

 その攻撃力はリリオンの説明通り倍の3100ポイントにまで上昇しており、レベル4でありながら最上級モンスターをも上回るパワーを手にしていた。

 厳しい条件があるとはいえ、召喚条件の無い下級モンスターでこの攻撃力は破格である。もっとも見方を変えれば、攻撃力だけが取り柄の単純なアタッカーでもあるのだが。

 しかし、このモンスターが投げ捨てた一ターンに見合うエクスキューズであるとは思えない。まだ何かある。そう確信する姫利に応えるように、リリオンは更に一枚のカードを場に送り込んだ。

「さらに手札から、『暴君類人猿』を特殊召喚! こいつは上級モンスターだが、私の場にレベル4以下で攻撃力3000以上のモンスターがいる場合に特殊召喚できる!」

 続いて現れたのは、黄金の冠と真赤なマントで着飾ったゴリラの王。その手には木の枝にリンゴを突き刺して作った王笏が握られており、知性と自尊心の高さを伺わせる。

 その攻撃力(ゴリラパワー)は2000ポイントと上級モンスターにしては低い数値であるが、攻撃力3100の《バーバラス・スレイブ》の後詰めとしては十分な数値と言ったところか。そしてこのモンスターには、まだ効果が残されている。

「くっくっく、暴君類人猿が場に存在する限り、全ての私のモンスターは攻撃力が1000ポイントアップする!」

「っ…!」

 ゴリラの王がその両腕を大きく広げて咆哮すると、士気が高まったのか、リリオンの場のモンスターは攻撃力が上昇する。《暴君類人猿》の攻撃力は3000ポイントに、《バーバラス・スレイブ》に至っては4100ポイントと並のモンスターでは太刀打ちできない数値となった。

 その総攻撃力は、驚異の7100ポイント。先程の姫利の火力を、大きく上回る数値だ。しかもリリオンはまだ、二枚しか手札を消費していない。

「んギャハァ! 今度は手札から永続魔法、『強者の暴走』を発動! 私の場のモンスターの攻撃力は、レベル×200ポイント分! ギャハハハ! パワーアップする!」

 攻撃力は、まだ上昇を続ける。

 レベル一つに付き200ポイントという数値は、決して小さな強化では無い。レベル4の《バーバラス・スレイブ》は800ポイント上昇して攻撃力4900、高レベルモンスターであった《暴君類人猿》は攻撃力4400ポイントにまで跳ね上がった。

 凄まじい、あまりに凄まじい火力。これ程の戦力を手にした以上、リリオンが次に出る行動はただ一つ。

「さぁて、バトろうか! バーバラス・スレイブで――、」

 攻撃。そうリリオンが続けるよりも早く、姫利の場の伏せカードが翻った。

「罠カード、威嚇する咆哮を発動! このターン、貴方のモンスターの攻撃を封じるわ!」

「ン…!」

 何処からともなく聞こえてきた獣の咆哮が、リリオンのモンスターを竦ませる。高い攻撃力を持ちながら、心臓は兎同然だったのだろう。怯えて動けない様子であった。

 如何に攻撃力の高いモンスターを出そうと、攻撃できなければ意味が無い。悔しげに舌打ちするリリオンに、姫利は微笑を向ける。

「わざわざ一ターン目を犠牲にしたのに、無駄にしちゃったかしら? ごめんなさいね、空気読めなくて」

 彼女にしては珍しい、相手の神経を逆撫でする物言いだった。

 普段であれば、彼女が初対面の人間にここまで嫌味を言う事はない。デュエル中であれば尚更だ。

 その彼女がここまで辛辣なのは――、それほどリリオンの傍若無人な態度が腹に据えかねたのだろう。デュエルの事では無い。カードショップでの事、今までの彼女の物言いの事。…姫利は、怒っていた。

 だが。リリオンはそんな彼女の怒りを歯牙にもかけず、にやりと笑みを浮かべる。

「一ターン目の犠牲? …くっくく、なぁに勘違いしてんのやら。私が最初のターンに何もしなかったのは、別に狙いがあった訳じゃないけど?」

 そう言うと、リリオンはにたりと笑い、ターンを終了する。

「ただの、ハンデだよ」

 不穏な一語を、姫利に浴びせながら。

 

 

 『バーバラス・スレイブ』 モンスター

 地属性 獣戦士族 ☆4

 攻撃力1550 守備力0

 効果:自分のエクストラデッキにカードが存在しない場合、このカードの元々の攻撃力は倍になる。

 

 『暴君類人猿』 モンスター

 地属性 獣族 ☆7

 攻撃力2000 守備力1000

 効果:このカードは通常召喚できない。

 自分フィールド上にレベル4以下・攻撃力3000ポイント以上のモンスターが存在する場合のみ、手札から特殊召喚する事ができる。

 このカードが自分フィールド上に存在する限り、自分フィールド上のモンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。

 「暴君類人猿」はフィールド上に1枚のみ存在できる。

 

 『強者の暴走』 永続魔法

 効果:自分フィールド上のモンスターの攻撃力は、そのモンスターのレベル×200ポイントアップする。

 

 「威嚇する咆哮」 通常罠

 効果:このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

 

 

 【バーバラス・スレイブ】

 攻撃力1550→3100→4100→4900

 

 【暴君類人猿】

 攻撃力2000→3000→4400

 

 

「…大した自信ね。私のターン!」

 リリオンの最後の言葉に不快なものを感じながら、姫利はカードをドローする。

 何にしても、今の攻防に関しては姫利の勝ちと言っていいだろう。リリオンの手札を三枚消費させ大凡の戦術を見極めつつ、こちらは一枚のカードの消費で攻撃を食い止める事ができた。

 しかも、彼女が《バーバラス・スレイブ》を出した事で、彼女のエクストラデッキにはカードが存在しない事もわかった。これは即ち、彼女がシンクロモンスターやエクシーズモンスターを使用しない事を意味している。

 エクシーズ召喚やシンクロ召喚の利点は、下級モンスターから上級モンスタークラスのモンスターを出せる生産性はもとより、状況に応じてある程度出すモンスターを選択できる汎用性にある……と、姫利は考えていた。

 もちろん、エクストラデッキが無い事で使用できるカードが存在する以上、エクストラデッキの放棄がイコール悪手だと決めつける事はできない。

 だが、エクストラデッキがないという事実は、デュエルが長期戦になればなるほど響いてくるものだ。何しろ十五枚ものカードを、自ら切り捨てているのだから。

(…逆に言えば、短期決戦ならエクストラデッキが無くても戦局にあまり響かない。つまり…、彼女のデッキは短期決戦型と考えられるわね)

 長い経験と先のリリオンの行動からそう判断した姫利は、長期戦も視野に入れて自らの手札を見つめる。

 何にしても、リリオンの場に強力なモンスターが二体いる事は事実だ。まずはこれを除かなければ、形勢の不利は免れない。姫利は、即座に行動した。

「手札からフィールド魔法、『桜吹雪の決闘場』を発動するわ!」

 彼女がそのカードを決闘盤に差し込むと、彼女の足元から広がるようにして、周囲の景色が一変する。

 辺り一帯の建物は全て消え、美しい花畑が、地平線の彼方まで続いている。青空には小鳥が飛び、、桜の花弁が雪の様に降り注ぐ。決闘場と呼ぶには、あまりに幻想的で華美に満ちた場所。そこが、姫利の舞台(フィールド)だった。

「桜吹雪の決闘場は私の場に春風姫がいる限り破壊されず、私のスタンバイフェイズ時と貴方の魔法・罠カードが破壊される度にカウンターを一つ乗せる! そして任意のカウンターを取り除く事で、複数の効果を発動する事ができるわ!」

「…へぇぇ。そりゃー凄い」

「――さらに!」

 挑発的な表情で笑うリリオンを無視して、姫利は手を進める。手札から一枚のカードを取り出し、決闘盤に差し込んだ。

「速攻魔法、サイクロンを発動! 効果により、強者の暴走を破壊するわ!」

 言うが早いか、姫利の場に生み出された青い小型の竜巻がリリオンの場に突進し、《強者の暴走》のカードを破壊する。

 アドバンテージとしては、互いにカード一枚ずつの損失であるが、《強者の暴走》を破壊した事でリリオンの場のモンスターは僅かながら弱体化、《桜吹雪の決闘場》にもカウンターが一つ乗り、戦術的に姫利が得たものは大きい。

 そして、もう一つ。

「貴方の場に魔法・罠カードが無くなったところで、春風姫‐ハルカの効果を発動するわ! 一ターンに一度、相手の表側表示モンスター一体を破壊する事ができる! 私は、暴君類人猿を破壊する!」

 姫利が宣言すると、《ハルカ》は足元に裂いた花々を踏み散らしながらリリオンの《暴君類人猿》に接近、これを瞬く間に斬り捨てる。《サイクロン》を発動したもう一つの狙いが、この破壊効果であった。

 《強者の暴走》を破壊し、《暴君類人猿》をも撃破した事で、リリオンの場には攻撃力がさらに減少した《バーバラス・スレイブ》が一枚あるのみ。それでも攻撃力3100と驚異的なものであるが、対抗策は既に手の内にある。

「さらに! 春風姫‐ハルカを手札に戻して、A・ジェネクス・バードマンを特殊召喚するわ!」

 怒涛の攻めは続く。姫利は効果を使用した《ハルカ》を一度回収し、代わりに鳥のような格好をした人型の機械を場に送り出す。彼女にしては珍しい、闇属性のモンスターだ。

 属性に関する効果を持つ事が多い《A・ジェネクス》シリーズの一枚であるこのカードは、風属性に対応した効果を持つ。特殊召喚の際に手札に戻したカードが風属性ならば、攻撃力が500ポイントアップするというものだ。

 リリオンの超強化に比べれば微々たる数値に感じるが、それでも、攻撃力1900という数値は下級モンスターにしては優秀な方だ。しかも、このカードの真価はむしろ自分の場のモンスターを手札に戻す事にある。

「そして、手札に戻した春風姫‐ハルカを、改めて召喚!」

 手札に戻ったばかりの可憐な騎士が、再び姫利の場に舞い降りる。それを見て、リリオンは小さく舌打ちする。

 それもそのはず。本来は一ターンに一度しか発動できない《ハルカ》の除去効果は、一度手札を経由して場に戻った事で、再び発動する事ができるのだ。――即ち、

「ハルカの効果を発動! 今度はバーバラス・スレイブを破壊させてもらうわ!」

 即ち、殲滅である。

 姫利のモンスターの倍以上の攻撃力を誇ったリリオンのモンスターは、その力を発揮する事も無く、全て撃破された。再びがら空きとなったリリオンの場を見て、姫利は「あら?」と惚けたように微笑する。

「これもハンデのうちなのかしら。悪いわね、手加減してもらっちゃって」

 嫌味は、更なる嫌味で返す。こうも容易くリリオンのモンスターを破壊できたのは意外だったが、ともあれ、状況は姫利に有利だった。

 否、有利どころの話では無い。彼女のモンスターの総攻撃力はリリオンのライフを上回る5300ポイント。もし彼女の攻撃が全て通れば、このターンにでも決着がつくのだ。

 無論、リリオンにはまだ手札が三枚残されているため油断はできない。だが、勝利に手が届くところまで迫っているのは間違いない事だった。あまりに順調なので、拍子抜けするところもあるが。

「…バトル! 春風姫‐ハルカで、直接攻撃を仕掛けるわ!」

 何にしても、ここで攻撃しない手は無い。姫利は少し考えた後、まずは《ハルカ》で攻撃を仕掛ける。

 少なくとも、一ターン前は妨害される事無く全ての攻撃が通ったのだ。このターンの攻撃も、全て通る可能性は高い。――そう考えていると、リリオンはにやりと笑みを浮かべて、手札から一枚のカードを繰り出した。

「だぁ、かぁ、らぁー……貧弱だっての! 手札から『サヴェージ・ベヒモス』を特殊召喚するッ!」

 それは、まるで巨大な肉の壁であった。

 元は「動物」の意味を名に持つそのモンスターは、異形ながらも、地上に存在する動物類に近い姿をしていた。巨体を支える四肢は象のそれに似ており、角が生えた頭部は猛牛を連想させる。全身は分厚い灰色の皮で覆われ、背中に当たる部分から尻尾にかけてのみ金色の体毛が確認できる。

 所謂RPGで見かけるような怪物染みた外見では無いものの、その攻撃力は2800と決して低くは無い。少なくとも現在の姫利のモンスターの攻撃力では、これを撃破するのは不可能だった。

「くっくっく、サヴェージ・ベヒモスは通常召喚できないかわりに、相手の直接攻撃時に手札から出す事ができる。攻撃力はちょい低めだけど、あんたの雑魚モンスターを押さえつけるには十分ってとこだね。…あ、まだ攻撃する? 別にいいけど」

「…手札にエネミーコントローラーが無いのが悔やまれるわね。バトルフェイズ終了よ」

 挑発を惜しまないリリオンに対し、姫利は落ち着いた表情で攻撃の中断を宣言する。このターンで決着を付けられなかったのは残念だが、この程度の事は想定の範疇だ。

 重要なのは、リリオンが新たな高攻撃力モンスターを出したという点だ。こうなると必然、姫利は次のリリオンの攻撃に備えなくてはならない。

 姫利は少し考えた後、場の《カレン》と《ハルカ》のレベルがどちらも4である事を利用する事にした。

「メインフェイズ2! 風属性のカレンとハルカをエクシーズ素材に、電光千鳥をエクシーズ召喚するわ!」

 フィールドから二人の少女モンスターの姿が消え、代わりに刀が一振り、音を立てて姫利の場に転がり落ちる。鞘にこそ納められていないものの、刃は冷たく怪しい光を帯びており、一目で名刀の類であると感じさせられる。

 その刃に、一筋の雷鳴が直撃する。――無論、本物の雷では無く、立体映像の演出の雷であるが――落雷を受けた刃は帯電し、やがて鳥のような姿をした魔物を作り出した。

 雷から生み出されたその鳥は、まるで意思を持つように翼を広げて天空を飛翔する。刀に宿った何かの力が、雷という媒体を得て表に出てきたという所だろうか。

「エクシーズ素材となったハルカを取り除いて、電光千鳥の効果を発動! サヴェージ・ベヒモスを貴方のデッキの一番上に戻させてもらうわ!」

 バチバチと火花と光を散らせながら、《電光千鳥》は立ちはだかる《ベヒモス》目掛けて突進する。電鳥と巨獣の衝突により、落雷と同等のスパークが生じ、その場にいる者の視覚を一時奪った。

 一瞬の視界の遮断の後、再び場を見ると。そこにはもう《ベヒモス》の姿は無かった。残った《電光千鳥》もまた、眠るように刀の中へと還っていく。

「あちゃー、デッキトップに戻されたかぁ」

 よりによってと言いたげな表情で、リリオンが毒づく。デッキの一番上にカードを戻されるという事は、言わば一回分のドローを潰されたようなものだ。リリオンが苛立ちを覚えるのも無理からぬことである。

 しかも、《電光千鳥》の効果は一ターンに一度という制約こそあれ、エクシーズ素材がある限り発動する事ができる。つまり最低でも後一回は、《電光千鳥》の効果を警戒しなければならないのだ。

「残念だけど、パワー勝負に付き合う気は毛頭ないのよね。…カードを一枚セットして、ターンを終了するわ」

 強気に言ってのけた後、姫利は最後の手札を場に伏せる。

 次のリリオンの攻撃に対する罠。…のように見えるが、この伏せカードの正体は《春風一閃》。デッキから「春風姫」を一体サーチする効果を持つ通常魔法であった。

 当然、このカードを伏せた所で次のリリオンのターンで発動する事はできない。破壊される危険がある分、伏せるだけ損である。にも関わらず彼女がこのカードを伏せたのは、リリオンに揺さぶりをかける為であった。

 このターンに彼女がエクシーズ召喚した《電光千鳥》は強力な効果を持つものの、攻撃力は1900と低い。これまでのリリオンの火力を考えれば、除去カードを使わずとも撃破するのは容易だろう。

 だが、姫利の場に一枚でも伏せカードがあれば、事はそう単純ではなくなってくる。何故ならリリオンが《電光千鳥》の戦闘破壊を試みる場合、必ずモンスターを表側表示で出し、攻撃を通さなくてはならないからだ。

 この「攻撃を通さなければならない」という点が、リリオンにとってのアキレス腱だ。何しろ《電光千鳥》はまだ一回効果を発動できるのだから、迂闊にモンスターを召喚して、もしも攻撃を止められようものなら。次の姫利のターンで再び《電光千鳥》の効果が発動、そのモンスターは再びデッキに戻される事になる。

 無論、実際には伏せカードはブラフなので、攻撃は確実に通るのだが――リリオンにはそれを知る術はない。故に、迷う筈なのだ。攻撃を止められるリスクを背負って戦闘破壊を狙うか、否かを。

 一度だけならまだしも、二度もドローを潰されては、そこからの逆転は困難だ。と言って、リリオンからすれば厄介な《電光千鳥》を放置する事もできない。その苦渋の決断に悩んだ末の思考の乱れ、それによって生まれる判断ミス。それが姫利の狙いであった。

(もし、あの女性の手札に地砕きのようなカードがあったとしても、手札一枚を消費させたと考えれば痛く無い。リスクを承知で攻撃を決断したとしても、あの手札枚数じゃ、さっきのような火力はすぐには出せないはず。…さあ、どうする?)

 目論見が読まれないよう、心の内でだけ笑いながら。姫利は、リリオンの出方を待った。

 

 

 『桜吹雪の決闘場』

 効果:自分フィールド上に「春風姫」と名のついたモンスターが存在する場合、このカードは相手のカードの効果によっては破壊されない。

 相手フィールド上の魔法・罠カードが破壊される度に、破壊されたカードと同じ数だけこのカードに春風カウンターを置く。また、自分のターンのスタンバイフェイズ時、このカードに春風カウンターを1つ置く。

 このカードに乗っている春風カウンターを任意の個数取り除く事で、以下の効果を適用する。

 ●1つ:???

 ●2つ:???

 ●3つ:???

 

 「サイクロン」 速攻魔法

 効果:フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

 「A・ジェネクス・バードマン」 モンスター

 闇属性 機械族 ☆3 チューナー

 攻撃力1400 守備力400

 効果:自分フィールドの表側表示モンスター1体を持ち主の手札に戻して発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

 この効果を発動するために風属性モンスターを手札に戻した場合、このカードの攻撃力は500アップする。

 この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 『サヴェージ・ベヒモス』 モンスター

 地属性 獣族 ☆8

 攻撃力2800 守備力500

 効果:このカードは通常召喚できない。

 相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から特殊召喚できる。「サヴェージ・ビースト」のこの効果は1ターンに1度のみ発動できる。

 自分フィールド上にこのカード以外のモンスターが存在する場合、フィールド上のこのカードをゲームから除外する。

 自分のターンのエンドフェイズ時、このカードは守備表示になる。

 

 「電光千鳥」 エクシーズ

 風属性 雷族 ランク4

 攻撃力1900 守備力1600

 効果:風属性レベル4モンスター×2

 このカードがエクシーズ召喚に成功した時、相手フィールド上にセットされたカード1枚を選択して持ち主のデッキの一番下に戻す。

 また、1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

 相手フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して持ち主のデッキの一番上に戻す。

 

 『春風一閃』 通常魔法

 効果:デッキから「春風姫」と名のついたモンスター1体を手札に加える。「春風一閃」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 【桜吹雪の決闘場】

 カウンター:0→1

 

 

「さてさて、どうしたものかなぁっと……私のターン!」

 状況は、リリオンの不利に傾いている。にも関わらず彼女は余裕を保ったまま、デッキに戻された《サヴェージ・ベヒモス》のカードをドローした。

 これで彼女の手札は三枚。そのうち《ベヒモス》はこのタイミングで召喚できるカードではない為、実質彼女が出せるカードは他の二枚のみだ。

「魔法カード、パワー・リベレイションを発動! 私の場にカードが無い時、デッキからカードを三枚捲り、その中で一番攻撃力の低いモンスターを攻撃力を1000ポイントアップさせて出す事ができる!」

「っ…!」

 彼女が発動したのは、《名推理》や《モンスターゲート》のようなデッキからモンスターを特殊召喚する効果のカード。やや運任せの部分もあるものの、三枚のうち一枚でもモンスターがあればいいのだから、分の悪い賭けでは無い。

 案の定、リリオンは捲った三枚のカードを見て、にたりとほくそ笑み、その中の一枚を決闘盤に叩き付けた。

「ギャッハハハ! ヤバいの来たぁ! 『ポッシビリティ・バトルオックス』を特殊召喚!」

 血の付いた斧を持つ牛頭人身の化物がリリオンの場に現れ、獣とも人ともわからぬ咆哮を上げる。その容姿はギリシャ神話の《ミノタウルス》を連想させ、これまで同様、攻撃的なモンスターである事を感じさせる。

 もっとも、攻撃力そのものは1700と並の下級モンスターにすら劣る数値なのだが、《パワー・リベレイション》の効果によって現在は攻撃力2700ポイントに上昇している。さらに、リリオンの行動は続く。

「これだけでも電光千鳥を破壊するには十分な攻撃力なんだけど……こいつは召喚に成功した時、手札からモンスターカードを一枚捨てる事で、捨てたモンスターの攻撃力分だけ攻撃力を上げる事ができる。私はサヴェージ・ベヒモスを捨てて、バトルオックスの攻撃力を更に2800ポイントアップさせる!」

「なっ…!?」

 予想の外、であった。

 姫利が驚いている間に、リリオンは言葉通り《ベヒモス》のカードを捨てて、《バトルオックス》の攻撃力を5500ポイントにまで上昇させる。これまでリリオンが出したモンスターの中でも、最も高い数値であった。

 罠を恐れていては勝負に勝てないという考えなのだろう。まんまと姫利の思惑を裏切った形だが、これでリリオンの手札は残り一枚。流石にこれ以上の強化はできないらしく、リリオンは下卑た笑い声を上げながら、バトルフェイズに突入する。

「そらそらぁ! ポッシビリティ・バトルオックスで、雑魚エクシーズに攻撃ぃ!」

 一切の躊躇を見せず、リリオンは攻撃を宣言した。

 二枚のカードの力を吸収した牛頭の魔物は、手に持つ斧を振るいながら《電光千鳥》が宿る刀に向かって突進する。攻撃力5500と1900の勝負だ、どちらが勝つかは明らかだ。攻撃を防ごうにも、姫利の場に伏せられたカードはブラフである為、それも叶わない。

 結果。雷の力を得た刀は斧の一撃によって脆くも粉砕され、飛び散った刃の破片が姫利の体に突き刺さる。そのダメージは驚異の3600ポイント、モンスター同士の戦闘で発生したとは思えないダメージだ。

「くっ…、流石に洒落にならないダメージね。致命傷で無いだけ良しとすべきなんでしょうけど…」

「伏せカードは使わずか。っつー事は……はん、出せばビビるとでも思ったのかねぇ? くく、残念でした」

 高らかに笑った後、リリオンはメインフェイズ2を挟まずにターンを終了する。

 ライフの優劣が逆転する程の一撃だが、とは言え、リリオンの場には《バトルオックス》が一枚のみ。戦闘破壊は望めないが、破壊する事自体は難しい事では無い。姫利は、まだまだ余裕を失ってはいなかった。

 

 

 『パワー・リベレイション』 通常魔法

 効果:このカードは自分フィールド上にカードが存在しない場合、メインフェイズ1開始時に発動できる。

 自分はデッキの上から3枚カードをめくる。その中にモンスターカードがあった場合、攻撃力が一番低いモンスターを攻撃力を1000ポイントアップさせて自分フィールド上に攻撃表示で特殊召喚する。

 このカードを発動したターン、自分は他のモンスターを召喚・特殊召喚する事ができない。

 

 『ポッシビリティ・バトルオックス』 モンスター

 炎属性 獣戦士族 ☆6

 攻撃力1700 守備力1000

 効果:このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、手札からモンスターカードを1枚捨てて発動する事ができる。

    このカードの攻撃力は、手札から捨てたモンスターの攻撃力の数値分アップする。

 

 【ポッシビリティ・バトルオックス】

 攻撃力1700→2700→5500

 

 【姫利】

 LP:8000→4400

 

 

「私のターン!」

 ライフポイントの数値は並んだものの、それでもまだ、状況は姫利の有利にある。攻撃力と言う一点を除けば、彼女の方がリリオンより一枚上手という印象だ。

 今のターンにリリオンが出した《バトルオックス》にしても、撃破の計画は既にできている。《桜吹雪の決闘場》にカウンターがまた一つ乗り、ゲームメイクは完璧であった。

 だが。ここに来て、姫利の手が一時止まる。今引いたカードを確認した後、怪しむような目でリリオンの顔を見た。

(…何か、おかしいわね)

 特に理由の無い違和感であった。

 長い時間をかけて培ってきた決闘者としての勘が、彼女に「何か」としか表現できない警告を与えた。

「…伏せていた魔法カード、『春風一閃』を発動! デッキから春風姫一体をサーチする事ができる! 私は『春風姫‐サクヤ』を手札に加えて、召喚するわ!」

 違和感の正体がわからぬまま、姫利は自分のターンを再開する。まずは先程ブラフで伏せたカードを発動し、新たな戦力を戦線に送り出す。

 現れたのは、長い髪をツインテールにした少女の騎士。宝石を散りばめた美しいドレス姿はその名の通りお姫様のようであるが、その手には自身の身長に匹敵するほどの長剣と派手な装飾を施した盾を持ち、腰には剣が折れた場合に使用する短剣を二つ装備している。

 攻撃力は1500ポイントとやや低めだが、破壊された際に『春風姫』を一体攻撃表示で特殊召喚するリクルート効果を持っており、攻めにも守りにも役立つ存在となっている。手札が少なくなって来たこの局面、このカードの存在は非常に心強いのだが、姫利は敢えてこのカードを墓地に送る戦術を立てた。

「春風姫‐サクヤにA・ジェネクス・バードマンをチューニング! シンクロ召喚、現れなさい、『スプリング・バード』!」

 姫利の場の《ジェネクス・バードマン》が三つの光のリングへと変わると、その輪の中を《サクヤ》が通り抜け、四つの光の球体へと変化する。それらはやがて眩い光と共に消え、代わりに新たなモンスターを場に生み落とした。

 その姿は鳥のハヤブサに似ているが、体格は二回りほど大きい。体からは蔦が生え体毛に絡んでおり、所々に美しい花を咲かせている。羽ばたく度に花弁を散らせているのが残念だが、名前に負けぬ風流なモンスターだった。

 攻撃力は2200ポイントと《バトルオックス》には大きく劣るものの、元より攻撃力5500のモンスターを戦闘破壊する気は無い。狙いはこれまでと同じ、戦闘以外による対処だ。

「スプリング・バードの効果! このカードがシンクロ召喚に成功した時、場のカードを一枚選択して手札に戻す事ができる! 私はバトルオックスを選択、手札に戻してもらうわ!」

 姫利が宣言すると、《スプリング・バード》は大きく羽ばたき、《バトルオックス》に自らの花弁つきの強風を叩きこむ。風は《バトルオックス》そのものを撃破するには至らなかったものの、その体を持ち上げ、持ち主であるリリオンの手札に戻した。

 これにより、再び――…三度、リリオンの場はがら空きになった。攻撃するには絶好のタイミング、しかし姫利は、すぐには動かなかった。

(やっぱり、何か変だわ…。いくらなんでも、上手く行き過ぎている)

 一ターン目の事は数に入れないとしても、これで二度目なのだ。リリオンの場が、がら空きになったのは。

 無論、それは姫利が除去やバウンスを駆使した結果なので、それ自体は何ら妙な事では無い。問題は、それに対してリリオンが何のアクションを起こさない事なのだ。

 あまりに簡単に除去が通り、あまりに簡単にバウンスが成功し、あまりに簡単に攻撃を叩き込む事ができる。

 故に、迷うのだ。全てが順調であるが故に、まるで相手の思惑通りに動かされているかのような不快感があった。

(嫌な予感がする…。けど、ここで攻撃の手を緩めても相手を喜ばせるだけ、なら――、)

 心の中に湧いて出た不快感を無理やり奥へと追いやり、姫利は決断する。

「バトル! スプリング・バードで、直接攻撃っ!」

 どの道、勝つにはそれしかないのだ。姫利の命令を受けた《スプリング・バード》はリリオンに向かって突進し、擦れ違い様に鋭い爪で彼女の腕の肉を裂く。

 これでリリオンのライフは残り2400ポイント。彼女のような高攻撃力モンスターを出さずとも、十分削りきる事が可能な数値に入った。

 あと少し。ほんの少し押し込むだけでいい。運が良ければ次のターンにでも、勝利する事ができる。そう考えてもいい状況なのだが、しかし姫利の心は晴れなかった。

(…やっぱり、手応えがありすぎる。どういう事? 何なの、この気味の悪さは…)

 何故そこまで拘るのか、自分でも不思議な程だった。

 だが、何か(・・)が、何か(・・)なのだ。説明のできない直感的な不安、形容しがたい底知れぬ不気味さ。それが姫利を捉えて離さない。

 そして、姫利はある事に気付く。

(…何だろう。この変な感じ、前にも経験した事があるような…)

 この違和感の正体を知るヒントに成り得る、既視感であった。

 どんな状況であったかは思い出せないが、以前同じような違和感を感じた事があるのは断言できる。

 あれは、どんな時だっただろう。記憶の底を探ろうとする姫利だが、今は姫利のターンである。当然のように、リリオン側からターン進行を急かす声が聞こえてきた。

「あれれぇ、どったのかなー? 早いとこカード出すなりエンドするなり、サレンダーするなり? してくれると嬉しいんだけどぉ」

「…ん、そうだったわね。えーと……私はこのまま、ターンを終了するわ」

 姫利はエンド宣言をすると、唇に手を当てて、違和感の正体を探し始めた。

 

 

 『春風姫‐サクヤ』 モンスター

 風属性 戦士族 ☆4

 攻撃力1500 守備力1800

 効果:このカードが戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから「春風姫」と名のついたモンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚できる。

 

 『スプリング・バード』 シンクロ

 風属性 鳥獣族 ☆7

 攻撃力2200 守備力1700

 効果:チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

 このカードのシンクロ召喚に成功した時、フィールド上のカードを1枚選択して持ち主の手札に戻す事ができる。

 このカードが風属性モンスターのみをシンクロ素材としてシンクロ召喚された場合、このカードの攻撃力と守備力は800ポイントアップする。

 

 【桜吹雪の決闘場】

 カウンター:1→2

 

 【リリオン】

 LP:4600→2400

 

 

 姫利の違和感はともあれ、客観的に見ればデュエルは姫利が圧倒的に優勢であった。

 その事を誰よりも喜んでいるのは、当然、彼女の弟子であるクロンである。彼はもはや勝負は決まったとばかりにガッツポーズを取り、口元を吊り上げた。

「よし、ここまでくれば姫利お姉ちゃんの勝利はまず確実ですね! 確かに凄い攻撃力ではありますけど、ただ攻めるだけじゃ姫利お姉ちゃんには絶対勝てないッスよ!」

 彼にしては珍しい浮かれきった声だった。それを受けて、傍にいた百合もうんうんと頷いて見せる。

「強いて言うなら、姫りんに伏せカードが無いってのがちょい不安だけど……あのデュエル馬鹿の事だし、考えはあるでしょ。ねっ、ミラるん!」

 けらけらと笑いながら、百合はミランダの両肩に手を乗せる。ミランダはちらりと百合を睨むように見つめた後、「だといいけど」と複雑な表情でデュエル中の二人を見た。

「確かに姫の腕なら、ここから逆転される事はまず無いわ。…ただ、何か引っかかるのよね」

 姫利と同じ違和感を感じているのだろうか、ミランダの視線はどちらかというとリリオンの方に向けられている。彼女はクロンらとは違い、まだ油断できないと考えているようだ。

「引っかかる? …何がッスか?」

 デュエル経験の浅いクロンは、首を傾げてミランダの表情を見上げる。答えは、クロンのすぐ隣から返って来た。

「適当過ぎんだよ、あの女の戦い方が」

 声のする方に振り向くと、ソールが腕組みをしながら、リリオンの方を睨んでいた。

「確かに火力はそこそこあるぜ? だがな、いくら攻撃力が高くても、攻撃を通してダメージを叩き込めなきゃ意味がねぇ。だから俺様みてぇな一流のパワー決闘者は、何かしら攻撃を通す為の一工夫をするんだが……今までの戦いぶりを見る限り、あいつのデッキにそんな工夫は見当たらねぇんだ。テメェの言う通り、考えなしに攻めてるだけじゃねーか」

「一流、ですか…」

「考えてもみろよ。今は春川が殴り合いに付き合ってるからいいが、もし相手がマシュマロンでも出してきたら、それだけであの女のモンスターどもは止まるじゃねぇか」

 言われてみると、確かにその通りであった。

 これまでリリオンが使用したカードはほぼ全てが攻撃力強化に特化しており、貫通効果や破壊耐性を持つアタッカーもいなければ、除去カードすら使っていない

 これではソールの言う通り戦闘破壊に耐性を持つモンスターを出されるだけで攻撃の手は止まるし、《ミラーフォース》や《炸裂装甲》などを発動された場合、対処できずにモンスターを除去されてしまう。彼女のエクストラデッキにカードが無い以上、この汎用性の無さは致命的と思えた。

「…最初の予想通り、1ターンKILLに特化したデッキだったんじゃないですか?」

「どうだかな…」

 肯定もせず、否定もせず。それきりソールは口を閉ざした。

 何にしても、戦局は姫利の有利に動いているのだ。例えリリオンが何を企んでいたとしても、その事実は変わらない。ならば、クロンのやる事はただ一つ。姫利の勝利を信じて、祈るだけだ。

 そう思い、再び姫利達のデュエルを見ようとした時。クロンは、気付いた。このデュエルを観戦する影がもう一つ、存在する事に。

(…あれ? あの猫……)

 いつからそこに居たのだろう。あるいは初めからそこに居たのかも知れない。リリオンの傍に、黒い猫が一匹座っていた。

 立体映像によって周囲の景色が変化している為、空中に座っているように見えるが、実際は塀か民家の屋根の上に座っているのだろう。小柄である事から、恐らくは子猫。ゆらゆらと長い尻尾を動かしながら、じっと、二人のデュエルを見つめている。

 もっとも、猫がデュエルというものを理解しているとは思えないので、実際は立体映像に興味を魅かれて見ているだけなのだろうが、黒い猫がこの場にいるという事実が、クロンには妙に引っかかった。

 その理由が、「しあわせの黒い猫」の噂によるものである事は言うまでもない。考え過ぎだとは思いつつ、クロンは、疑わずにはいられなかった。

 できればあの猫に近づいて確かめたい所であるが、猫がいるのはリリオンの傍だ。今あそこに近づくのは、流石に危ない。気にはなるが、今は関心を押し込んで、姫利らのデュエルに集中する事にした。

 

 

「ハッ、まだまだぁ! 私のターン!」

 依然として自信に満ちた笑みを浮かべたまま、リリオンは新たなカードをドローする。

 手札枚数こそ姫利より多いものの、彼女の場にはカードが無く、ライフポイントも残り僅かだ。敗色濃厚とまでは行かずとも、相当厳しい状況に置かれているのは誰の目にも明らかだった。

 にも関わらず、彼女の表情からは余裕の色が消えていないのだから姫利達が訝しむのも無理もない。元より何を考えているのかわからない女性なのだから尚更だ。

「くっくっく…、手札から魔法カード、『帝王の宝札』を発動! 私のエキストラデッキにカードがない時に発動可能で、カードを二枚ドローする!」

 彼女が発動したのは、彼女の言葉通りエキストラデッキが存在しない場合にのみ発動できる手札補充カード。

 その効果に彼女は更に二枚のカードをドローする。この場面でこのカードを引けたのは、強運と言うべきだろう。

「ギャハァ、いいねぇ! 手札から『フィーブル・アードウルフ』を召喚!」

 彼女が新たに呼び出したのは、酷く痩せ細った小型のハイエナのモンスター。

 これまで彼女が出してきたモンスターに比べて弱々しい印象を受け、実際に攻撃力も100ポイントと、彼女にしては低い数値だ。

「こいつは召喚された時、デッキから同じ名前のモンスターを好きなだけ特殊召喚する事ができる。この効果で、デッキから二体のアードウルフを守備表示で特殊召喚する!」

 《アードウルフ》がその場で遠吠えすると、更に二体、小型のハイエナが何処からともなく現れる。

 これでリリオンの場にはモンスターが三体。何れも弱小モンスターであるが、一度に複数のモンスターを展開したというのは穏やかでは無い。そしてリリオンにはまだ、手札が二枚残されている。

(…どうやら、まだ何か仕掛けてくるみたいね)

 姫利はゆっくりと息を吐きながら、リリオンの出方を見る。

 あの三体のモンスターを使って切り札モンスターでも出して来るのか、それとも《強制転移》でも使ってくるのか。様々な展開が考えられるが、彼女は決して慌ててはいなかった。

 と言うのも。リリオンは説明しなかったが《アードウルフ》の効果にはまだ続きがあり、同名モンスターを特殊召喚する効果を使用した場合、そのプレイヤーはそのターン中バトルフェイズを行う事ができないのだ。

 従って、リリオンが何を出してきたとしても、このターン攻撃される事は決してない。それを知っているからこその落ち着きであった。

「そろそろフィナーレと行こうかぁ! 三体のアードウルフを墓地へ送り、『ハードコア・キングレオン』を手札から特殊召喚するッ!」

 リリオンがそのカードを決闘盤に叩き付けると、上空から金色の獅子が降り立ち、瞬く間に三体の《アードウルフ》を捕食する。

 象ほどはあろう巨大な体躯に、金色の鬣。頭部には曲線を描いた角があり、その姿は神々しくすらある程美しい。これまでリリオンが出してきたモンスターとは、明らかに次元が異なる生物であった。

 その容姿に違わず攻撃力は単体で3500ポイントと非常に高く、姫利の《スプリング・バード》を軽く上回る。しかもこのカードは三体の生贄を必要として出されたカード、ただ攻撃力が高いだけとは思えなかった。

「キングレオンの効果! 私のエクストラデッキにカードが存在しない場合、攻撃力は倍になる! つまり、今のこいつの攻撃力は7000ポイントって訳よ!」

「なっ…!」

 これまでリリオンが叩きだした攻撃力を更に上回る、驚異的な数値であった。

 《スプリング・バード》との攻撃力差は4800ポイント。一度でも攻撃を許せば、姫利のライフが一撃で消し飛ぶ程の差だ。《アードウルフ》の効果でリリオンのバトルフェイズが封じられていなけば、リリオンの逆転勝利も十分にあり得ただろう。

「さらにぃ…、こいつは貫通攻撃を持っている。例えあんたがモンスターを守備表示にしても、ライフはごっそりもらえるって訳だ」

「攻撃力7000の貫通効果持ちモンスター……なるほど、これが貴方の切り札って訳ね」

 姫利のその問いに、リリオンは一度「ん?」と惚けたような表情をした後、にたりと笑って両腕を大きく広げて見せる。

「そうそう、ギャハハ! アードウルフの効果(せい)でこのターンは攻撃できないけどさぁ! 次のターン、この切り札(・・・)であんたをぶっ殺してお終いって訳よ!」

 高らか叫び、リリオンはそのままターンを終了する。

 攻撃力7000。なるほど、確かにこれまで以上に戦闘破壊は難しい数値に違いない。だが姫利に言わせれば、ただそれだけの事に過ぎない。姫利は、あくまで冷静だった。

 

 

 『帝王の宝札』 通常魔法

 効果:デッキからカードを2枚ドローする。

 自分のエクストラデッキにカードが存在する場合、このカードの効果は無効となる。

 

 『フィーブル・アードウルフ』 モンスター

 地属性 獣族 ☆2

 攻撃力100 守備力100

 効果:このカードが召喚に成功した時、デッキから「フィーブル・アードウルフ」を任意の枚数特殊召喚する事ができる。

 この効果は自分のターンのメインフェイズにのみ発動でき、この効果を発動したターン、自分はバトルフェイズを行う事ができない。

 

 『ハードコア・キングレオン』 モンスター

 地属性 獣族 ☆10

 攻撃力3500 守備力0

 効果:このカードは通常召喚できない。

 自分フィールド上のモンスター3体を墓地に送った場合のみ特殊召喚できる。

 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が越えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 自分のエクストラデッキにカードが存在しない場合、このカードの攻撃力は倍になる。

 

 【ハードコア・キングレオン】

 攻撃力3500→7000

 

 

「…私のターン!」

 次いで姫利のターン。彼女はドローしたカードを確認すると、心の中で「良し」とほくそ笑む。

 ドローしたカードは、《幽鬼うさぎ》。場のモンスターか表側表示で存在する魔法・罠カードの効果が発動した時、手札・あるいはフィールドからこのカードを墓地に送る事で、そのカードを破壊する効果を持つモンスターだ。

 どのタイミングで手札に来ても嬉しいカードであるが、この土壇場で手札に舞い込んでくれたのは姫利にとって僥倖であった。このカードが手札にあるだけで、より強気に手を進める事ができるのだから。

(このスタンバイフェイズで桜吹雪の決闘場に三つ目のカウンターが乗ったし、彼女の場に伏せカードは無い。…うん、いける!)

 先程まで感じていた違和感は、いつの間にか勝利の確信へと変わっていた。姫利は迷いなく手札から一枚のカードを選び、決闘盤に叩き付ける。

「まずは手札から、『春風姫‐リンリン』を召喚するわ!」

 現れたのは、これまでの《春風姫》と同様ドレスを着こんだショートヘアの少女。頭にはゴーグルをつけており、手にはレンチやドライバーが握られている。

 どうやら戦闘員では無いらしく、その場にしゃがみこんで、リリオンの《キングレオン》を興味深そうに見つめていた。

「そして桜吹雪の決闘場の春風カウンターを二つ取り除いて、効果を発動! デッキから『春風姫‐マモル』を攻撃表示で特殊召喚するわ!」

 姫利が宣言すると、何処からともなくローラースケートの車輪の音が聞こえ、ドレス姿の少女が姫利の場に走ってくる。

 優雅な服装に反してボーイッシュな印象を受け、手には武器らしいものは持っていない。花畑の中でローラースケートなど使えば車輪に花弁を巻き込んでしまいそうなものだが、少女はその場でくるくると数回転するなどパフォーマンスをして見せた。

 瞬く間に現れた二体の春風姫は、攻撃力こそ平凡であるものの、レベル4であるという共通点があった。それが意味する事は、一つ。

「春風姫‐マモルと春風姫‐リンリン、二体のモンスターを素材にして、エクシーズ召喚を行うわ! 現れろ、No.103 神葬零嬢ラグナ・ゼロ!」

 二人の少女が姫利の場から姿を消し、新たに女性型の天使族モンスターが現れる。

 その美しい外見は無機質ながら気品が漂い、攻撃力も2400とまずますの数値。使いどころは限られるものの、フリーチェーンで発動できる効果も持っているモンスターである。

「ハッ、何を出すかと思えば攻撃力2400程度の雑魚モンスターかい。残念ながら、そいつじゃ攻撃力7000のキングレオンを倒すのは無理だね」

「あら、そうかしらね。…ラグナ・ゼロの効果を発動!」

 姫利は惚けた口調で答えると、《ラグナ・ゼロ》のカードの下に重ねた《リンリン》を墓地へ送り、リリオンの場に君臨する《キングレオン》を指さす。

「ラグナ・ゼロは一ターンに一度、エクシーズ素材を一つ取り除く事で、相手の場に元々の数値と異なる攻撃力を持つモンスター一体を破壊し、さらにデッキからカードを一枚ドローする事ができる!」

「げっ!? 元々の数値と異なる……って事は、まさか…!」

「そう。攻撃力が倍になってるキングレオンは、もれなく対象に入るってわけ」

 姫利がにこりと笑うと同時、《ラグナ・ゼロ》は手に持った双剣を構えて《キングレオン》に突進、攻撃力差を物ともせずに葬り去る。

 これで、四度。先のターンに続いて、再びリリオンの場はがら空きになった。そして《ラグナ・ゼロ》の攻撃力は2400、奇しくもリリオンのライフと同じ数値であった。

「なッ、馬鹿なぁ…! 私の切り札、キングレオンがこうも簡単に…!?」

「勝負あり、ね。バトルフェイズ! ラグナ・ゼロで、直接攻撃!」

 初めて焦燥の表情を浮かべるリリオンに対し、姫利は容赦なく攻撃を宣言する。

 命令を受けた《ラグナ・ゼロ》は留めの一撃をリリオンに向けて振り下ろす。

 攻撃は――、通った。

 《ラグナ・ゼロ》が放った剣の一撃がリリオンの体を貫き、彼女のライフを削り気る。

 ライフポイントは、ちょうど0。姫利の勝利が決まった瞬間だった。

 

 

 「幽鬼うさぎ」 モンスター

 光属性 サイキック族 ☆3 チューナー

 攻撃力0 守備力1800

 効果:「幽鬼うさぎ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 フィールドのモンスターの効果が発動した時、またはフィールドの既に表側表示で存在している魔法・罠カードの効果が発動した時、自分の手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。

 フィールドのそのカードを破壊する。

 

 『春風姫‐リンリン』 モンスター

 風属性 戦士族 ☆4

 攻撃力1550 守備力1750

 効果:相手フィールド上の魔法・罠カードが破壊された時、デッキから「春風姫‐リンリン」以外の「春風姫」と名のついたモンスターカードを1枚手札に加える事ができる。

 「春風姫‐リンリン」の効果は1ターンに1度のみ発動できる。

 

 『桜吹雪の決闘場』

 効果:自分フィールド上に「春風姫」と名のついたモンスターが存在する場合、このカードは相手のカードの効果によっては破壊されない。

 相手フィールド上の魔法・罠カードが破壊される度に、破壊されたカードと同じ数だけこのカードに春風カウンターを置く。また、自分のターンのスタンバイフェイズ時、このカードに春風カウンターを1つ置く。

 このカードに乗っている春風カウンターを任意の個数取り除く事で、以下の効果を適用する。

 ●1つ:フィールド上に表側表示で存在する「春風姫」と名のついたモンスターの攻撃力は、このターンのエンドフェイズ時まで500ポイントアップする。

 ●2つ:自分のデッキから「春風姫」と名のついたモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。

 ●3つ:フィールド上のモンスター1体を持ち主のデッキに戻す。

 

 『春風姫‐マモル』 モンスター

 風属性 戦士族 ☆4

 攻撃力1700 守備力1200

 効果:自分フィールド上に「春風帝‐ワタル」が存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

 

 「No.103 神葬零嬢ラグナ・ゼロ」 エクシーズ

 水属性 天使族 ランク4

 攻撃力2400 守備力1200

 効果:レベル4モンスター×2

 1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールド上に表側攻撃表示で存在する、元々の攻撃力と異なる攻撃力を持つモンスター1体を選択して発動できる。

 選択したモンスターを破壊し、デッキからカードを1枚ドローする。

 この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 【桜吹雪の決闘場】

 カウンター:2→3→1

 

 【リリオン】

 LP:2400→0

 

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 

 リリオンのライフが0になった事で、二人の決闘盤は停止した。

 一面の花畑は元の景色へと戻り、全てのモンスターも同様に姿を消す。デュエルが終わったのだという事を実感させる瞬間であった。

 デュエル中に感じた違和感の正体は結局わからないままだったものの、負ける訳にいかない勝負に勝てたのだ、満足すべきなのだろう。不完全燃焼という気持ちは、否めないが。

「やったやったー! ひめお姉ちゃんが勝ったーっ!」

 暫くの静寂の後、真先に声を上げたのはクリフ少年だった。彼はその場でぴょんぴょん飛び跳ね、全身で姫利の勝利を祝福する。

 姫利は安堵の息を吐いて彼の姿を見た後、次いでリリオンの方に目を向けた。

 リリオンは、項垂れていた。前髪が顔を隠しているため彼女が今どのような表情をしているのかはわからないが、勝負は既に着いたのだ。彼女の顔を気にした所で、意味はない。

「姫利お姉ちゃん!」

 そう思っている所に、声が聞こえ、何かが姫利の横からぶつかって来た。

 見ると。今までデュエルを観戦していたクロンが、年齢相応の笑みを浮かべて、姫利の顔を見上げていた。

「さっすがボクの師匠! あんなに攻撃力の高いモンスターを次々出されたのに、危なげなく勝つなんて! もちろんお姉ちゃんが負けるなんてこれっぽっちも思ってなかったですけど、予想以上でしたッス!」

「そ、そう? んー、なんだか褒めすぎな気がするけど…」

「全っ然! あれです、惚れ直したってやつですよ!」

 つくづく調子がいい性格だと呆れてしまうが、リリオンの狙いが彼の持つカードであった事を考えると、この笑顔を守れて良かったと考えるべきなのだろう。

 姫利はクロンの頭に手を置いて撫でてやると、厳しい表情でリリオンの方を見た。

「さあ、約束だったわね。二度とこの店に近寄らないと誓ってもらうわ。それと貴方が壊した店の扉、あれの修理代も置いて行ってくれると全て丸く収まるんだけど」

 もともとこのデュエルは、彼女の迷惑行為に耐え兼ねた事から始まったものだ。

 約束を守るタイプには見えないが、警察には既に通報を入れてある。彼女がこの上さらに無法行為を重ねたとしても、彼女自身の報いとなって返るだけだ。

 どちらにしても、リリオンの顔はもう二度と見たくは無かった。姫利は怒気を含んだ声で、再度リリオンに告げる。

「さっきも言ったけど、貴方のような人間にこの店に居られると迷惑なの。お引き取り願えるかしら?」

 敗者を鞭打つようで胸が痛むが、良心が通じる相手では無いのはわかってる。姫利はわざと棘のある言葉を用いて通告した。

 リリオンは、動かなかった。相変わらず顔を俯かせたまま、じっとその場で立っているだけだ。

 やがて。ようやくリリオンが口を開いた時、聞こえてきたのは彼女の嗤う声だった。

「…くくく」

 にたりと笑った口元が見えたかと思うと、リリオンはゆっくりと顔を上げて、赤い双眸に姫利の姿を映した。

 負け惜しみか罵倒でも飛んでくるのかと思ったが、彼女はその何れも発さずに、手に持っていた一枚のカード――…最後に残っていた手札に視線を落とし、呟いた。

「ファックユー。雑魚が」

 その呟きは、姫利の耳には届かなかった。

 リリオンはぎらついた目を再度姫利に向けると、既に機能停止した決闘盤にそのカードを叩き付けた。

「手札から罠カード、『ストレングス・フォー・ユー』を発動ッ! このカードは私のライフが0になった時に手札から発動し、そのダメージによる私の敗北を無効化! 決闘盤を再起動させる!」

 その言葉の意味を理解できた者が、果たしてこの場に何人いただろうか。

 否。理解できる、できないの話では無い。既に勝敗はついたのだ。例えどんなカードだろうと、既に決定した勝敗を覆す事などできるはずがない。ルールを捻じ曲げるようなものだからだ。

 

 ――だが。

 

 リリオンがそのカードを決闘盤にセットした瞬間、姫利達は確かに聞いた。彼女の決闘盤から、異様な音が発されるのを。

 何かが壊れる音。何かが外れる音。何かが、狂う音。

 少なくとも決闘盤の起動音とは程遠い騒音を鳴らしながら、彼女の決闘盤は再起動(・・・)した。

「なっ…!?」

 否。リリオンの決闘盤だけではない。姫利の決闘盤もまた、同じような破壊音と共に再び息を吹き返す。全ての立体映像も再び現れ、周囲は再び花畑へと代わる。気が付けば、リリオンのライフが0になった時と全く同じ光景となっていた。

「ど、どういう事!? 貴方、何をしたの!? もう勝負はついた筈よ!」

「ギャハハァ! 現実逃避はやめちくりぃ! 私のカード、『(ストレングス)』は敗北を無かった事にしてデュエルを続行させるカード! 決闘盤のシステムだとかを改竄して無理やり起動させてるから、発動する度に決闘盤は壊れちまうけどさぁ!」

 そう言って。リリオンは姫利の理解を待たずに、墓地から一枚のカードを選び、火花が飛び散る決闘盤に叩き付ける。

「そして(ストレングス)が発動した時、私の墓地からモンスター一体を特殊召喚し、このカードを装備カードとして装備させる! 復活しな、バーバラス・スレイブ!」

 リリオンの場に再度現れる、野蛮な奴隷。その姿は彼女の決闘盤に異常が発生しているせいか、首が危ない方向を向いていたり、右腕が一本増えていたりと、先程とは変化していた。

 そして、《バーバラス・スレイブ》が蘇生すると同時、上空から巨大なハンマーが落下し、《バーバラス・スレイブ》の真横に突き刺さる。

 鉄筋コンクリートの柱の先端に大量のミサイルを縄で括り付けただけの雑な武器であるが、ミサイル部分にはハザードシンボルが確認でき、危険な代物である事が伺える。無論、今の姫利にそんな事に気付く余裕はないのだが。

 《バーバラス・スレイブ》は自身の身長の倍はあろう大槌を両腕で掴み拾い上げると、その場でぶんぶん振り回す。どうやらこの大槌がリリオンが発動した《ストレングス》のデザインらしいと、姫利は理解が追い付かない頭の中で辛うじて理解した。

「くくく…。(ストレイングス)が場にある限り、私はデュエルに敗北しない。逆に言えば(ストレングス)が場を離れた場合、今度こそ私の敗北が決定するって訳だ」

「くっ…。何が起きてるかわからないけど……そのカードを破壊すればいいって言うなら、簡単な事よ…! ラグナ・ゼロの効果は相手ターンでも発動できる、それでバーバラス・スレイブを破壊して――、」

「さらに!」

 破壊してしまえばいい。そう続けようとした言葉は、リリオンによって遮られた。

(ストレングス)を装備したモンスターの攻撃力は――…あー、ここ重要だから聞き間違えないでよ? 攻撃力は、350000ポイントとなる!」

「はっ…!? さんじゅっ…!?」

 耳を疑う数値であった。

 350000――、三十五万。デュエルモンスターズではまず見かける事のない、途方もない攻撃力の数値。だがそれは決して聞き間違いなどでは無かった。

 異様な音を立てる自らの決闘盤で確認すると、確かに現在の《バーバラス・スレイブ》のステータスには攻撃力350000の数値が書かれている。型破りも甚だしい、圧倒的な数値であった。

 しかも。リリオンの言葉を聞く限り、《ストレイングス・フォー・ユー》を破壊しなければデュエルは終わらないらしい。一目で無理とわかる、理不尽な条件であった。

「ギャハ! ギャハハハハ! さぁ、こっからが本当の勝負だ! まだあんたのターンだけど、どうする? ターン終了するかい?」

「ぐっ…。ま、まだよ! クロン君、私から離れてなさい!」

 姫利は一先ずクロンを自分から遠ざけた後、半壊した決闘盤を構えてデュエルを続行する。

 まだ目の前の事態が信じられなかったが、ともあれ、やるしかない。姫利はゆっくりと自分を落ち着かせ、今取るべき行動を模索した。

 確かに驚異的な攻撃力であるが、結局は今までと同じ攻撃力を上げただけに過ぎない。今までと同じように、落ち着いて処理すれば良いだけだ。次のリリオンのターンで《ラグナ・ゼロ》の効果を発動し、撃破する。これで終わりだ。

「…念の為、スプリング・バードを守備表示にして……ターンエンド。…貴方の、ターンよ」

 勝利を掴んだと思った矢先の出来事に混乱を隠せないが、しかし、負けられない勝負には違いない。

 姫利は強い意志でターンを終了し、次の自分のターンが回ってくる事を祈った。

 

 

 『ストレングス・フォー・ユー』 通常罠

 “僕は君の全てが欲しい。君の綺麗な眼球を、君の綺麗な心臓を。無残に散れ、僕の為に”

 効果:このカードは手札から発動する事ができる。

 このカードは自分のライフポイントが0になった場合に発動でき、発動後自分の墓地からモンスターを1体選択して攻撃表示で自分フィールド上に特殊召喚する。その後このカードを装備カード扱いとして装備する。

 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分はライフが0でも敗北しない。

 装備モンスターの効果は無効化され、このカード以外のカードの効果を受けず、攻撃力が350000ポイントとなる。

 ??????

 

 【バーバラス・スレイブ】

 攻撃力1550→350000

 

 

(ストレングス)を発動した場合、私はカードをドロー出来ない。――んだけどさぁ、これもう手札とか必要ないよね? ギャハっ、ギャハハハ!」

 黒い煙が上り始めた決闘盤をちらと見ながら、リリオンはターンを開始する。

 もっとも、彼女の場にあるカードは《バーバラス・スレイブ》と《ストレングス》の二枚のみ。彼女ができる行動は限られているのだが。

「そらそらぁ、バトルいくよぉ! 攻撃力350000で、攻撃表示のラグナ・ゼロに攻撃ぃ!」

 命令を受けた《バーバラス・スレイブ》がゆっくりと大槌を持ち上げ、《ラグナ・ゼロ》に向かって突進する。

 この攻撃を通してしまえば、姫利のライフは木端微塵に吹き飛ばされる。姫利は舌打ちして、しかしながら落ち着いた表情で、《ラグナ・ゼロ》のもう一枚のエクシーズ素材を取り除いた。

「ラグナ・ゼロの効果を発動! バーバラス・スレイブを破壊するわ! 今度こそ、終わりよっ!」

 姫利が宣言すると同時、《ラグナ・ゼロ》は手に持つ双剣を構えて《バーバラス・スレイブ》を正面から迎え撃つ。

 如何に攻撃力差があろうとも、効果で撃破してしまえば関係が無い。それはこのデュエルで何度も証明してきた事だ。

 そして《バーバラス・スレイブ》の撃破は、《ストレングス》のカードを同時に葬る事を意味する。――筈であった。

「ギャハハハ! あれぇ? 言わなかったっけぇ!? (ストレングス)と装備モンスターは、あらゆる効果を一切受けない! だからラグナ・ゼロの効果も受けねーんだっての!」

「っ…!? 効果耐性まで!?」

「貧弱! ギャハハハッ、貧弱ゥ!」

 《ラグナ・ゼロ》の剣戟を全て躱した《バーバラス・スレイブ》が、爆発性のある大槌を《ラグナ・ゼロ》に向けて振り下ろす。

 攻撃力350000に、相手の効果に対する耐性。もはや姫利には、この攻撃を止める術は無かった。

 ――ここに来て、姫利はようやく気付いた。さっき感じた、既視感の正体が何であるのかを。

(そうか…、あの時だ。拍子抜けするくらい有利だったのに、最後の最後で逆転されるこの感じ――…初めてクロン君と出会ったあの日のデュエルに、似てたんだ)

 あれは、いつの事だっただろう。

 もはや思い出している余裕もないが、リリオンの狙いが初めから《ストレングス》による逆転勝利だったというのなら、あの時のクロンと考えは同じだったと言える。

 何故、もっと早く違和感の正体に気付かなかったのだろう。…いや、気付いていたとして、果たして《ストレングス》の発動を止められただろうか。

 もはや、それすらもわからない。

「ギャハハハ! その隙ありはもらったぁぁぁぁ!」

 リリオンの声が、聞こえる。

「姫!」

「姫りん!」

「春川!」

 ミランダと、百合と、ソールの声が聞こえる。

「――姫利お姉ちゃん!」

 誰かの声が、聞こえる。

 そして次の瞬間。振り下ろされた大槌に括られたミサイルが起動し、凄まじい轟音と共に爆発が起こる。地平の彼方まで続く花畑の中で、大きなきのこ雲が、天に向かって伸びた。

 

 

 『ストレングス・フォー・ユー』 通常罠

 “僕は君の全てが欲しい。君の綺麗な眼球を、君の綺麗な心臓を。無残に散れ、僕の為に”

 効果:このカードは手札から発動する事ができる。

 このカードは自分のライフポイントが0になった場合に発動でき、発動後自分の墓地からモンスターを1体選択して攻撃表示で自分フィールド上に特殊召喚し、その後このカードを装備カード扱いとして装備する。

 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分はライフが0でも敗北しない。

 装備モンスターの効果は無効化され、このカード以外のカードの効果を受けず、攻撃力が350000ポイントとなる。

 このカードと装備モンスターは相手のカードの効果を受けない。このカードがフィールドから離れた時、自分はデュエルに敗北する。

 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分はカードをドローする事ができない。

 

 

【姫利】 LP:???

手札:2枚(うち一枚は幽鬼うさぎ)

モンスター:No.103 神葬零嬢ラグナ・ゼロ(攻撃表示)、スプリング・バード(守備表示)

魔法&罠:無し

ペンデュラム:無し

フィールド:桜吹雪の決闘場(カウンター数:1)

 

【リリオン】 LP:0

手札:0枚

モンスター:バーバラス・スレイブ(攻撃表示)

魔法&罠:ストレングス・フォー・ユー(発動中)

ペンデュラム:無し

フィールド:無し




と言う事で、今回投稿した21話でストック分は終わりです。
今後はゆっくりと執筆して更新していく事になります。私は鈍筆なので更新は月に一度くらいになりそうですが、今後もご愛読いただければ幸いです。
ではでは、次回もお楽しみにー。
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