クロンの呼応   作:恐竜紳士

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『注意』
今回の内容には、グロテスクなデュエルが含まれています。苦手な方はご注意ください。


第二十五話:Welcome to my tower ―その2

 時は少し遡る。

 クリフと亮助が、謎の決闘者達とデュエルを行うより少し前。姫利らの学校ではちょうど授業が終わり、休み時間に突入していた。。

 残る授業はあと一つ。それが終われば、一度帰宅してからクロン達のいる公園に向かってデュエルをしよう。…そんな事を考えながら次の授業の準備をしていると、前の席に座る百合が、椅子を姫利の方に向けて話し掛けて来た。

「あ、そだ。ねぇ聞いてよ姫りーん。最近うちのパッパとマッマがさー、娘に対して疑惑の眼差しなのよー」

「疑惑? あんたまた何かやったの?」

 適当に視線をやりながら答えると、百合はむっとした表情で「またとは何だよー」と口を尖らせる。

「ほら、最近私らクロぽん達と遊んでて帰りが遅くなってるじゃん? そしたらうちの親ってば、男と夜遊びしてるんじゃないかーって勘違いして、それはもーしつこく聞いて来んの」

「まあ、親としては娘の生活習慣の変化は気になるんじゃない? 百合の場合は特に」

「でもさー。普段は放任主義の癖に、たまに思い出したように使命感スイッチ入れてくる親ってのもどうかと思うのよ百合ちゃんは。それに私らもう高校生ですぜ? 彼氏とかいらっしゃってもお父さん達には関係ないっしょって話じゃん」

「それでも気になるのが親心ってやつよ。…で? 私にどうしろって言うの?」

 長い付き合いから百合の意図を見透かした姫利が、吐息混じりに問う。百合は待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべた。

「ずばり! 姫りんからお父さん達に、百合には彼氏なんていませんよーって言ってやって欲しいんよ。うちの両親、姫りんの事は信頼してるからさ、姫りんが言えば誤解が解けると思うんだよね」

「信頼ねぇ…」

「あ、もしくは百合と私は女の関係だから、男が入り込む余地はないですよってのもありだよ? 幼い頃から遊び育った二人の友情は、いつしか禁断の愛へと変わり……ああ姫りん、どうして貴女は姫りんなの? とか言って~」

「椅子に縛り付けるわよ、百合」

 姫利は呆れた表情を浮かべて吐息する。

 この手の冗談にはもう慣れたものだが、それでも時々、何故自分は彼女とと友人でいるのか疑問に思う時もある。今もそうだった。

「…けどま、あんたの帰りが遅くなった責任は私にもあるし、要望通りご両親には私から上手く説明しておくわ。たまには顔を出してご挨拶もしておきたいし」

「おっ、さっすが姫りん話がわかるぅ! んじゃ今日の帰りにでもうちに寄ってよ。お礼にスイーツご馳走するよん」

 つくづく調子が良いと思いつつ、百合の提案に微笑を浮かべた時。不意に、姫利の携帯電話の着信音が鳴った。

「あら…? 誰かしら」

 小首を傾げながらポケットから携帯を取り出し、相手を確認する。液晶に表情された名前を見た姫利は、あまりに意外さに思わず「え?」と頓狂な声を出した。

「ソールちゃんから? …あの子から私に連絡なんて珍しいわね」

 独り言のつもりで呟くと、向かいで聞いていた百合が「へー?」と興味深そうに身を乗り出して、姫利の携帯画面を覗き込む。

「確かに珍しいねぇ。あの子、姫りんの事嫌ってる感じなのに。むしろ番号とか交換してた事にまずビックリだよ」

「クロン君の友達だし、一応ね。…それにしても、いったいなんの用かしら」

 不思議に思いつつ、姫利は通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。盗み聞きしようと顔を近付ける百合を手で追い払いながら。

「もしもし、ソールちゃん? どうかしたの? …今? 学校だけど」

「スケベ電話だったりして。クロぽんとのイチャイチャ実況生中継とか。…にしし」

 姫利が聞いていないのは承知で、口元に手を当てて笑う百合。だが、電話する姫利の表情は、次第に強張っていった。

「――ちょっと待って、何を言ってるの!? 怒鳴ってないで詳しく説明して! 冗談のつもりなら怒るわよ!」

 普段の姫利からは考えられない怒号だった。ただならぬ彼女の様子にに百合だけでなく、教室にいたほぼ全員がぎょっとして視線を向ける。

「うんっ――うん、それで、今何処にいるの!? …うんっ。で、貴方達は無事なの? …えぇ!? クリフ君と亮助君がデュエル中!?」

 周囲の視線に気付かないまま大声で話し込むと、やがて姫利は「すぐに行くから待ってなさい!」と告げ、鬼気迫った表情で通話を終えた。

 只事では無い。話の内容はわからないが、それだけははっきりしている。百合は恐る恐る、姫利に問うた。

「ひ、姫りん…? ソールちゃん何て…?」

「……クロン君が、攫われたって」

 驚くほど淡々と告げられ、百合の頭に衝撃が走る。「攫われた」という言葉の意味も、即座には理解できなかった。

「さ…、攫われた? クロぽんが?」

 真白になった頭で聞き返すと、姫利が重い表情で小さく頷く。彼女もまた状況の整理が出来ず、すぐには言葉が見つからないようだった。

「公園で、デュエルしてたら……この間の黒猫と変な女の子が突然現れて、訳のわからない力でクロン君を消した、そうよ。…今、クリフ君と亮助君が犯人を足止めしてるから、来てくれって」

 恐らくはソールの言葉をそのまま繰り返したのだろう。姫利はそれだけを告げると、頭を抱えて何かを考え始めた。

「ま…、まさかぁ。そりゃきっとあれだよ。質の悪い冗談だよ。ソルたんてば、よっぽど姫りんの事嫌ってるっぽいね。はは、は…」

 口では陽気に笑っている百合だが、次第に彼女の表情も強張っていった。

 信じられない話だが、この間のリリオンの一件を思えば、とても嘘だとは言い切れない。「訳の分からない力で消した」という荒唐無稽さが逆に妙な真実味を持ち、二人の不安を煽るのだ。

 …何より。クロンが狙われる理由について、姫利も百合も心当たりがある。

「とにかく、あの子達の所に行かないと。冗談かどうかなんて、考えてる暇はないわ」

 そう言って姫利が立ち上がった時。休み時間終了のチャイムが鳴り、次の授業の担当教師が悠々と教室に入って来る。

 普段なら真面目に授業を受ける姫利であるが、今回は別だ。彼女は自分の決闘盤だけを手に取ると、「早退します!」と一言告げて素早く教室を後にする。

「あっ、ちょ……姫りん!」

 普段の彼女なら絶対にしない行動に面食らうが、居ても経ってもいられない気持ちは良く分かった。

 彼女は同じように決闘盤を抱えると、「姫りんに続きます!」と教師に告げて、慌てて姫利の後を追った。

 

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 住宅地に囲まれた、ほんの小さな公園だった。

 遊具と呼べる物は滑り台とシーソーくらいしか無く、大人一人が座れるくらい大きさのベンチがいくつか並んでいるだけの殺風景な空間。ソールが姫利との通話を終えた時、デュエルはもう始まっているようだった。

 怒りと必死さで麻痺していた思考が、漸く冷静さを取り戻していく。ソールは自分の足元に落ちていたカードを手に取り、何も描かれていない空白と向き合った。

 異端の札。特定の人間が触れる事で変化し、触れた人間によって変化の形も異なるという未知のカード。多くの人間にとっては紙切れも同然のこのカードが、あの日、意味を持ってしまった。クロンが触れ、《先見眼の銀愚者(フォーサイトアイズ・シルバーフール)》なるカードを発現させた、あの時に。

「こんなカードが、何だってんだよッ…!」

 呟きながら、ソールは異端の札を手で握り潰す。

 こんな物が無ければ。こんな物がクロンの手に渡らなければ。彼は今もここに居て、自分達と呑気にデュエルをしていた筈なのに。あいつらは、現れなかった筈なのに。

 憎悪にも似た感情が双眸に宿り、彼を連れ去った(タワー)死神(デス)を睨みつける。彼女達が何者で、目的は何なのか、クロンを攫ってどうするつもりなのか。異端の札を手放したクロンを、どうして特定できたのか。聞きたい事は山ほどあったが、恐らく彼女達は答えはしないだろう。

 確かな事は、ただ一つ。――こいつらは、『敵』だ。

「おいガキども、よく聞け! そいつらのデッキには異端の札ってカードが入ってる筈だ! その異端の札には絶対に注意しろ!」

 同じく状況を把握出来ていないであろう二人に向けて、ソールは叫ぶ。少しの間を置いて、クリフと亮助は同時に振り返った。

「クリフの方は知ってるだろーが、こいつらは異端の札っつー得体の知れねぇカードを使ってくる! 触れた人間によって効果も種類も変わる、何もかもが異常なカードだ! 前に春川とデュエルしたリリオンって女がその異端の札を使った時、あの春川が手も足も出なかった! いいか、とにかく気を付けろ!」

 自分でも雑な物言いだと思ったが、他にアドバイスのしようが無いのだからしょうがない。感情的であった方が、却って相手に伝わる事もある。

 今回の場合も、クリフ達はそれぞれソールの言葉を解釈して納得したらしい。何も言わずに小さく頷き、自分達の『敵』に向き直った。

 

 

【クリフ & 亮助】 LP:7750

クリフの手札:3枚

亮助の手札:5枚

モンスター:無し

魔法&罠:1枚

ペンデュラム:無し

フィールド:無し

 

【塔 & 死神】 LP:8000

塔の手札:3枚

死神の手札:5枚

モンスター:首なし騎士(攻撃表示)

魔法&罠:2枚

ペンデュラム:無し

フィールド:無し

 

 

「…俺のターン!」

 デュエル開始から三ターン目。亮助は苦虫を噛み潰したような表情でカードをドローする。

 勝負はまだ序盤、良しとも悪しとも言えない状況であるが、亮助の胸中は穏やかでは無かった。無論、怪奇な存在とデュエルをする時点で心地の悪いものはあったのだが、今の塔のターンで起きた出来事は、決闘者としても理解に苦しむものだった。

 《首なし騎士》――。何の効果を持たず、攻守共に平均以下の数値を持つモンスター。通常のデッキであればまず使われる事のないこのカードを、塔は使ってきた。そして《首なし騎士》はクリフが召喚した《鬼ガエル》の首を無残にも切り落とし、今は塔と死神の身を守っている。

 彼女が何を思ってあのカードをデッキに入れているのか、推測は出来るが現時点では確かめようが無い。亮助はゆっくりと息を吐いて心を落ち着かせると、自らの決闘盤に視線を落とす。

 彼の決闘盤にはまだ何のカードも出されていないが、魔法・罠カード用のカード差し込み口には、一ターン目にクリフが伏せたカードが立体映像としてうっすらと表示されている。タッグルールでは仲間同士でカードは共用する、従ってクリフが伏せたこのカードは、亮助にも扱う権利があるのだ。

 それを踏まえて、亮助は思案する。今、自分が取るべき最善の手を。

「…魔法カード、(ディフォーマー)・スピードユニットを発動! 手札の(ディフォーマー)・ボードンをデッキに戻して、俺達から見て右側のカードを破壊する!」

 亮助が発動したのは、手札の(ディフォーマー)をデッキに戻す事と引き換えに、相手の場のカードを破壊する除去カード。

 場にスケードボードを模した機械が出現し、人型のロボットに変形する。《ボードン》は次いで出現した加速ユニットを装備すると、亮助が指定した伏せカード目掛けて直進。接触の寸前に加速ユニットを切り離し、ユニットだけを伏せカードに命中させた。

「よし、いいカードが落ちた!」

 破壊されたのは、通常モンスターが攻撃される事で発動する罠カード《ジャスティブレイク》。

 塔が低ステータスの《首なし騎士》を攻撃表示で出した時点で、二枚の伏せカードの内どちらかはこのカードだと睨んでいたが、予感と直感が見事に的中した形だった。

「スピードユニットの効果で一枚ドロー! クリフ、俺はこのまま一気に攻める! カードを使わせてもらうぜ!」

「うんっ!」

「クリフが伏せた魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動! 手札の(ディフォーマー)・ステープランを墓地に送って、デッキから(ディフォーマー)・モバホンを攻撃表示で特殊召喚する!」

 一ターン目にクリフが伏せたカードが翻り、亮助のデッキから携帯電話の形をした機械が出現する。その機械は場に出ると同時に流れるような動作で変形し、飛行用の翼を持った人型のロボットの姿となる。

 《D・モバホン》。攻撃力・守備力共に100ポイントと低く戦闘面では頼りないモンスターであるが、代わりにデッキから仲間の《ディフォーマー》を呼び出すという効果を持つ。

 亮助は「さらに!」と力強く宣言すると、手札から一枚のカードを選び決闘盤に差し込む。

「魔法カード、機械複製術を発動! 俺のデッキから更に二体、D・モバホンを特殊召喚する! もちろん攻撃表示だぜ!」

 慣れた手付きでデッキから二枚のカードを選び、決闘盤に連打する。単体でも優秀なモンスターが更に二体増え、合計で三体の《モバホン》が亮助達の場に並ぶ。その光景に、『死神』ことデスは「ほう」と声を漏らした。

「同じモンスターを三体も展開しましたか。ディフォーマーというカテゴリは知りませんが、なかなか面白そうなカードですね」

 戯けているのか、本心なのか。尻尾をゆっくりと振りながら、デスは呟く。亮助はその呟きを無視し、「さらに!」と声を大にして宣言を続ける。

「モバホンの効果を発動! このカードは攻撃表示の時、1から6までの数字をランダムに選出して、その数と同じ数だけ俺のデッキを捲る! そしてその中にディフォーマーと名のつくモンスターが存在した場合、そのうち一体を場に特殊召喚する事ができる!」

 亮助達に並ぶ三体の《モバホン》のうち、二体の胸部にあるダイヤルが点滅し始める。《モバホン》の効果は本来はサイコロを使う効果であるが、決闘盤を使うデュエルではその手間を省き、このように立体映像によってランダムに結果が決定されるのだ。

 ダイヤルはやがて「5」と「3」の数字を選出して止まる。サイコロで言えば5と3の目、悪くない結果だった。

「デッキから五枚カードを捲って、(ディフォーマー)・ラジオンを攻撃表示で特殊召喚! そして二体目のモバホンの効果で(ディフォーマー)・リモコンを攻撃表示で特殊召喚だ!」

 亮助達の場に更に二体、電子機器をモチーフにしたモンスターが展開される。ラジオが変形して人型のロボットなった《ラジオン》と、人型と言うには無理があるが愛嬌はあるロボット《リモコン》である。

 これで彼らの場にはモンスターが五体。クリフの協力あっての結果とは言え、瞬く間に場を埋め尽くした展開力は見事なものだ。対する塔とデスの場には、《首なし騎士》と伏せカードが一枚のみ。デスに至っては、今は手札を発動する事すらできない状況だ。

 ――ならば、もう少し。

「D・リモコンの効果を発動! 墓地のD・ステープランをゲームから除外して、デッキから二枚目のD・ラジオンを手札に加える! そして! レベル4のラジオンにレベル3のリモコンをチューニング!」

 亮助の手は止まらない。彼は先程デッキに戻した《ボードン》を再度手札に加えた後、展開したモンスターを用いて新たな戦力を呼び出しにかかる。シンクロ召喚という方法によって。

「世界の平和を守るため、勇気と力をドッキング! シンクロ召喚! 愛と正義の使者、パワー・ツール・ドラゴン!」

 亮助の声に応え、現れたのは両腕と尾に工具を装備した機械造りの竜。攻撃力は2300ポイントとレベル7のシンクロモンスターにしてはやや低い印象を受けるが、装備魔法カードに関連した二つの効果を持ち、デッキによっては十分な爆発力と信頼性を発揮する事ができる。

 数あるシンクロモンスターの中からこのカードを召喚した所を見ると、亮助のデッキもまたこのカードを活かす事ができる構成なのだろう。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果発動! 俺のデッキから三枚の装備魔法カードを選択し、その中の一枚をランダムに手札に加える!」

 もっとも……と、亮助は口元を吊り上げ、デッキから選んだカードを塔、デスの両名に提示する。

「選ぶカードは三枚とも団結の力だから、結果は決まってるけどな。手札に加えた団結の力を発動して、パワー・ツール・ドラゴンに装備! 俺の場のモンスター一体につき、攻撃力と守備力が800ポイントアップする!」

 勢いに乗った亮助は、手札に加えたカードを即座に発動。これにより《パワー・ツール・ドラゴン》の攻守は3200ポイント上昇し、攻撃力は5500ポイントと圧倒的な数値に達した。

「まだまだぁ! さっきサーチしたD・ラジオンを召喚! ラジオンが攻撃表示の時、俺の場のディフォーマーの攻撃力は800ポイントアップするぜ!」

 再び現れた《ラジオン》により、彼らの場に並ぶディフォーマー達の攻撃力は更に強化され、場のモンスターが増えた事で《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力も更に800ポイント上昇する。

 その総火力は、初期ライフを大きく上回る10800ポイント。《首なし騎士》の存在を踏まえても、相手のライフを一瞬にして消し飛ばす事のできる数値だった。

 《ジャスティブレイク》を破壊し、タッグルール上デスの妨害が100%有り得ない現状は、総攻撃をかけるには申し分ない。塔の場にはまだ一枚伏せカードが残っているのが気掛かりだが、二枚目の《ジャスティブレイク》という事はまずあるまい。

 迷いなく攻撃を仕掛けるタイミングであるが、しかし、ここで亮助の手が止まる。その理由は、対戦相手である塔とデスの表情に合った。。

 お互いに相手の戦術を知らぬまま始めたこのデュエル、彼女達は亮助がここまで戦力を展開して来るとは思わなかったはず。仮に彼の攻撃を防ぐ手段が塔の手札にあったとしても、何らかの反応を見せるのが普通である。

 しかし、彼女達の表情は動かない。塔はくすくすと笑みを浮かべたまま、デスは尻尾を山形に持ち上げて、静かに《パワー・ツール・ドラゴン》を見上げていた。何の問題も無いと言わんばかりに。

 と言って。ここまで来て、今さら攻撃を躊躇う訳にもいかない。亮助はクリフと顔を見合わせ互いに小さく頷き合うと、意を決して攻撃を宣言した。

「バトル! パワー・ツール・ドラゴンで首なし騎士を攻撃だ!」

 迷いを振り切って発された攻撃命令に《パワー・ツール・ツール》は僅かに頷き、塔の《首なし騎士》に向かって突進する。

 攻撃力6300と1450の勝負だ、結果は戦う前から見えている。問題は、塔がこの攻撃をすんなり通してくれるかどうかだが――、 

「うふふ…。次は、その子の頭を落とせばいいの?」

 塔が小首を傾げて呟いたと同時、彼女の場の伏せカードが翻る。

「永続罠カード、未染色の塔(アンステンド・タワー)を発動…!」

 彼女がそのカードを発動させると、上空から黒い何か(・・)が降り注ぎ、彼女の背後に落下する。それも一つや二つでは無い、黒い何か(・・)は次から次へと空中に出現し、塔の傍に積み重なっていくのだ。

 積み上げられているものの正体は、動物の頭部であった。目玉を繰り抜かれた犬の首、額に釘を打ち付けられた猫の首、人体模型の様に顔の半分の皮が剥がれた人間の首。積み上げられた死肉はやがて二メートル程の大きさの《塔》を築き、亮助達の背筋を凍らせた。

「うっ…」

 立体映像とは思えぬほど精密に作られたリアリティ。目を背けたくなる醜悪なデザインを前に、亮助は一歩後退りし――…やがて、気付く。自分はこの《未染色の塔》というカードを、立体化された映像を、見た事があると。

「あぅ…。あ、あのカード……さっき、クロンくんを……連れてった…」

 怯えた様子のクリフが、震えた唇でか細く呟く。亮助は小さく頷くと、揺れる瞳で塔の背後に築かれた《未染色の塔》を見上げた。

 見ているだけで痛々しい凄惨な死体の山。あれは紛れもなく、塔と共に現れ、彼らを襲った生首だった。亮助は口内に溜まった唾を飲みこむと、帽子の鍔を下に降ろし、受け入れがたい事実を受け入れた。

「…間違いない。クリフの言う通り、あれはさっき俺達を襲ったやつだ…。でも、これって…」

 ふと抱いた疑問を亮助が口にするよりも先、心持ち高揚している塔の声が響いた。

「お喋りしてる暇があるのかな…? 未染色の塔は一ターンに一度、相手の攻撃モンスターを破壊する事ができるの。何とかしないと、機械のドラゴンちゃん死んじゃうよ…?」

「っ…! 攻撃反応型のカードか!」

 亮助が叫ぶと同時、生首達はまるで意思を持つかのように浮遊し、《パワー・ツール・ドラゴン》に襲い掛かる。それらは《パワー・ツール・ドラゴン》の体に纏わりつくと、金属製の腕や首筋に次々と歯を立てた。

 人間が、あるいは獣が歯で金属を噛み砕く事は決して不可能では無い。歯は単純な硬度ならば鉄より硬いとされ、実際に人間が歯で鉄を噛み砕いたケースも存在する。まして死体である生首達は痛みを恐れず顎を使う事ができる、このまま放置すれば《パワー・ツール・ドラゴン》の体を容易く破壊してしまうだろう。

「させるかっ! パワー・ツール・ドラゴンの効果発動! 装備している団結の力を身代わりにして、破壊を回避する!」

 言うが早いか、《パワー・ツール・ドラゴン》は体を回転させて纏わりついた生首達を弾き飛ばした。

 《団結の力》を失った事より攻撃力は元の数値に戻ったが、もとより下級モンスターを相手にするには問題ない数値。攻撃は続行され、《パワー・ツール・ドラゴン》の容赦ない一撃が《首なし騎士》の鎧を砕き、消滅させた。

 また、この戦闘によって塔とデスのライフは850ポイント減少する。予定よりもダメージが減少してしまったが、今の亮助にはそんな事はどうでも良かった。

 重要なのは、たった今塔が発動されたカード。《未染色の塔》と呼ばれた永続罠の事だ。

「……未染色の塔、だって? そんなカード、聞いた事もないぞ…!?」

 カードショップで働く彼にとって、カードは言わば商売道具だ。過去に出たカードはもちろん、これから発売される最新のカードに関する情報については誰よりも知っていたし、知識の面では誰にも負けない自信があった。

 だが、あの《未染色の塔》というカードは……あんなカードは見た事も無かった。あのグロテスクなデザインに、毎ターン攻撃モンスターを破壊できる強力な効果だ。そんなカードが存在するならば亮助の耳に入らない筈がない。

 だが実際に今、亮助の知らないカードが発動され、《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃を阻んだ。亮助は攻撃の手を止め少し考えた後、ある一つの可能性に気付きソールの方を振り返る。

「常連の姉ちゃん! あのカードが、さっき言ってた…!」

「…だろうな。クロンやリリオンって女のものとはまた別物だが、間違いねぇ。…異端の札だ」

 苛立ちを表情に出しながら、ソールは答える。無論、そうだと断定する根拠など一つも無かったが、これまでの経緯とクロンの推察から、彼女は確信していた。あのカードが何であるかを。

「だが、どう言う事だ…? さっき俺様があの生首共を殴った時、殴った感触が確かにあった。立体映像じゃ断じてねぇ……まさか、カードが実体化してたっつーのか…?」

 有り得ないとは思いながら、しかし、彼女はそう思わずには居られなかった。

 元より未知な部分の多いカードなのだ。どんな力を秘めているのか、わかったものでは無い。デュエルが始まる前、デスが塔に対して「異端の札の実体化」という言葉を発していた事実もある。

「…とにかく、奴らがそのカードを使ってきたからには気をつけろ! さっきも言ったが異端の札は持ち主によって効果も種類もガラリと変わりやがる、何があってもおかしくねぇ! …それに、そっちの糞猫も同じようなカードを使ってくる筈だ! 用心しろ!」

 確かな事は、あれが危険なカードであるという事だけだ。ソールの忠告に亮助は目で応じ、改めて塔の方に向き直った。

「バトル続行だ! まず三体のモバホンで、直接攻撃する!」

 《首なし騎士》が消滅した今、塔の場に壁となるモンスターはいない。本来は戦闘には向かない《モバホン》も、ここぞとばかりに連携攻撃を仕掛ける。

 《ラジオン》によって強化された《モバホン》の攻撃力は900ポイント。単体では大したダメージ量では無いが、三体合わせれば2700ポイントと上級モンスター一体分の攻撃力に相当するダメージである。

「よし! 最後はD・ラジオンで直接攻撃!」

 五度目となる攻撃命令が下され、指令を受けた《ラジオン》が塔に攻撃を仕掛ける。《モバホン》の攻撃が全て通った直後だ、この攻撃も通るかと思われたが……塔が手札から抜き出した一枚のカードが、それを阻んだ。

「残念残念、その攻撃は通さないよ…? 手札の『惨劇の磔少女』の効果発動…。相手モンスターが直接攻撃する時、特殊召喚できるの…」

 《ラジオン》の拳が塔に触れようとした矢先、塔の場に現れたある物体がその進攻を阻む。…首を切られた、女の死体だった。

 四肢を五寸釘で打ち付けられ、空中に磔にされた、宛ら藁人形のような死体。衣服は血に汚れ、首の断面からは血が滴っている。本来頭があるべき場所には、生前の姿を写したと思われる顔写真が、額縁に入れられて同じく宙に打ち付けられていた。

 惨たらしい死体に生前の写真を添えるという猟奇的センス。これを見た《ラジオン》は攻撃を躊躇し、亮助の場に逃げ戻っていった。

「ま…、また首のないモンスターか…。首なし騎士といい、未染色の塔ってカードといい…」

「あうぅ…。あ、あの子のカード、怖い…」

 グロテスクなデザインに衝撃を受けたのはモンスターだけではない。亮助もクリフも、《惨劇の磔少女》を前に目を背けずにはいられなかった。

 だが、怯んでばかりもいられない。亮助は顔を左右に振って気を取り直すと、今すべき事を続行する。

「攻撃は続ける! ラジオンで磔少女に攻撃!」

 《磔少女》のステータスは極めて低く破壊は容易だ。他に何か効果を秘めている可能性はあるが、気にしている余裕はない。

 一度は攻撃を躊躇した《ラジオン》が主の命令に奮起し、物言わぬ死体に攻撃をかける。攻撃は通り、《磔少女》の体は脆くも四散する。――だが、

「くすくす…。じゃあ、磔少女の効果を発動するね。このカードを戦闘で破壊された場合、破壊したモンスターを道連れにゲームから除外するよ…」

 穏やかな笑みを浮かべていた額縁の写真が突然憎悪の表情に変わったかと思うと、《磔少女》を破壊した《ラジオン》の頭部が爆発する。

 何かあるとは思っていた亮助の予感が的中した形だが、損害もまた予想の範疇。亮助は僅かに眉を顰めた後、次の手に取り掛かる。

「…メインフェイズ2! 二体のD・モバホンをエクシーズ素材に、ランク1のエクシーズモンスター、シャイニート・マジシャンを守備表示でエクシーズ召喚する!」

 手堅いダメージを与えたとは言え、攻撃力の低いモンスターを並べたままターンを明け渡す訳にはいかない。三体並んだ《モバホン》のうち二体が亮助のフィールドから消え、新たなモンスターを場に呼び出した。

 現れたのは、長い青髪と薄着が目を引く魔術師の少女。その表情にはやる気が感じられず、気だるそうにクッションに横たわっている。見るからに頼りなげなモンスターだが、守備力はランク1にしては高く、効果も壁として優秀である為、愛用する決闘者は少なくはない。

「更にカードを一枚伏せて、ターンエンドだ!」

 流石にこのターンで仕留める事は出来なかったが、デュエル序盤の展開としては悪くない。

 唯一の気掛かりは、塔が発動した《未染色の塔》というカード。亮助は姫利とリリオンのデュエルを見ていないが、あれが異常なカードである事は直感でわかる。その使用者もまともでは無いという事も。

 

 

 「(ディフォーマー)・スピードユニット」 通常魔法

 効果:手札の「(ディフォーマー)」と名のついたモンスター1体をデッキに戻してシャッフルする。

 その後、フィールド上のカード1枚を選択して破壊し、デッキからカードを1枚ドローする。

 

 「(ディフォーマー)・ボードン」 モンスター

 地属性 機械族 ☆3

 攻撃力500 守備力1800

 効果:このカードはこのカードの表示形式によって以下の効果を得る。

 ●攻撃表示:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上の「(ディフォーマー)」と名のついたモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

 ●守備表示:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカード以外の自分フィールド上の「(ディフォーマー)」と名のついたモンスターは戦闘では破壊されない。

 

 「ジャスティブレイク」 通常罠

 効果:自分フィールド上の通常モンスターを攻撃対象とした相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

 表側攻撃表示で存在する通常モンスター以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する。

 

 「ワン・フォー・ワン」 通常魔法(制限カード)

 効果:手札からモンスター1体を墓地へ送って発動できる。

 手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する。

 

 「(ディフォーマー)・ステープラン」 モンスター

 地属性 機械族 ☆4

 攻撃力1400 守備力1000

 効果:このカードはこのカードの表示形式によって以下の効果を得る。

 ●攻撃表示:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手は他のモンスターを攻撃対象に選択できない。このカードが戦闘によって破壊された場合、このカードを破壊したモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。

 ●守備表示:このカードは戦闘では破壊されない。このカードが攻撃された場合、そのダメージ計算後に相手フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して守備表示にし、このカードの表示形式を攻撃表示にする。

 

 「(ディフォーマー)・モバホン」 モンスター

 地属性 機械族 ☆1

 攻撃力100 守備力100

 効果:このカードはこのカードの表示形式によって以下の効果を得る。

 ●攻撃表示:サイコロを1回振り、出た目の数だけ自分のデッキの上からカードをめくる。

  その中からレベル4以下の「(ディフォーマー)」と名のついたモンスター1体を選び、召喚条件を無視して特殊召喚し、残りのカードはデッキに戻してシャッフルする。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ●守備表示:サイコロを1回振り、出た目の数だけ自分のデッキの上からカードを確認して元の順番でデッキの上に戻す。

  この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 「機械複製術」 通常魔法

 効果:自分フィールド上に表側表示で存在する攻撃力500以下の機械族モンスター1体を選択して発動する。

 選択したモンスターと同名モンスターを2体まで自分のデッキから特殊召喚する。

 

 「(ディフォーマー)・ラジオン」 モンスター

 光属性 雷族 ☆4

 攻撃力1000 守備力900

 効果:このカードはこのカードの表示形式によって以下の効果を得る。

 ●攻撃表示:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上の「(ディフォーマー)」と名のついたモンスターの攻撃力は800ポイントアップする。

 ●守備表示:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上の「(ディフォーマー)」と名のついたモンスターの守備力は1000ポイントアップする。

 

 「(ディフォーマー)・リモコン」 チューナー

 地属性 機械族 ☆3

 攻撃力300 守備力1200

 効果:このカードはこのカードの表示形式によって以下の効果を得る。

 ●攻撃表示:1ターンに1度、自分の墓地の「(ディフォーマー)」と名のついたモンスター1体を選択してゲームから除外し、デッキからそのモンスターと同じレベルを持つ「(ディフォーマー)」と名のついたモンスター1体を手札に加える。

 ●守備表示:1ターンに1度、手札の「(ディフォーマー)」と名のついたモンスター1体を墓地へ送り、自分の墓地からそのモンスターと同じレベルを持つ他の「(ディフォーマー)」と名のついたモンスター1体を選んで手札に加える。

 

 「パワー・ツール・ドラゴン」 シンクロ

 地属性 機械族 ☆7

 攻撃力2300 守備力2500

 効果:チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

 1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。

 デッキから装備魔法カードを3枚選んで相手に見せ、相手はその中からランダムに1枚選ぶ。相手が選んだカード1枚を自分の手札に加え、残りのカードをデッキに戻す。

 また、装備魔法カードを装備したこのカードが破壊される場合、代わりにこのカードに装備された装備魔法カード1枚を墓地へ送る事ができる。

 

 「団結の力」 装備魔法

 効果:装備モンスターの攻撃力・守備力は、自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体につき800ポイントアップする。

 

 『未染色の塔(アンステンド・タワー)』 永続罠

 “マイク、マイク、お前の頭は見つかったかい? それはお前と同じように、胴が無くても生きて動いていたのかい?”

 効果:「未染色の塔」はフィールド上に1枚しか存在できない。

 このカードが魔法&罠カードゾーンに存在する場合、1ターンに1度、以下の効果から1つを選んで発動する事ができる。

 ●???

 ●相手モンスターの攻撃宣言時、その攻撃モンスターを破壊する。

 ??????

 

 『惨劇の磔少女』

 闇属性 悪魔族 ☆1

 攻撃力0 守備力0

 効果:相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードを手札から特殊召喚できる。

 このカードが相手モンスターとの戦闘によって破壊された場合、ダメージ計算後にそのモンスターとこのカードをゲームから除外する。

 

 「シャイニート・マジシャン」 エクシーズ

 光属性 魔法使い族 ランク1

 攻撃力200 守備力2100

 効果:レベル1モンスター×2

 このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。

 また、このカードを対象とする魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

 【パワー・ツール・ドラゴン】

 攻撃力2300→5500→6300→2300

 

 【D・モバホン】

 攻撃力100→900→100

 

 【D・ラジオン】

 攻撃力1000→1800

 

 【塔&死神】

 LP:8000→7150→6250→5350→4450

 

 

「やれやれ、どうにか僕のターンが回ってきたようですね。前奏(イントロ)で終わるかと思いましたよ」

 不満そうに塔の顔を見つめながら、黒猫デスは自らのターンを開始する。

 彼の周囲に浮かぶ決闘盤から一枚のカードが引き抜かれ、初手の五枚と共に彼の眼前に並び、浮遊する。宛らサイコキネシスやポルターガイスト現象の様に。

 思えばこの猫は、異端の札以上に怪奇的な存在だった。人語を話すのは無論の事、人間の遊戯であるカードゲームを嗜んでいる辺り、ただの猫では有り得ない。見た目から推測するに生後一年も経っていないようだが……油断は禁物というものだろう。

「では、参りましょうか。魔法カード、魔獣の懐柔を発動。効果により、デッキからレベル2以下の獣族効果モンスター三種類を特殊召喚します」

 デスが淡々とカードの使用を宣言すると、彼の手札にあった《魔獣の懐柔》のカードが滑らかな動きで決闘盤に差し込まれる。

「展開するモンスターは『魚市場の老番猫』『地縛猫(ジバネコ)』『13番地の金華猫』の三体。全て攻撃表示で召喚します」

 デスのデッキから三枚のカードが抜き出され、彼の決闘盤にセットされる。現れたのは、何れも猫の姿をしたモンスターだった。

 貝殻で作られた鎧と笠を身に着けた二足歩行に黒猫に、赤い体毛と腹巻がトレードマークの二股の猫、全身の毛を逆立てた化け猫。何れも攻撃力の低いモンスターであり効果も無効化されているが、三体ものモンスターを一度に特殊召喚されたのは穏やかでは無い。

「更に手札からチューナーモンスター、『緑眼の黒猫(グリーンアイズ・ブラックキャット)』を召喚します」

 次いで現れたのは、名前通りの姿をした一匹の猫。効果を持たないモンスターだが代わりに高い守備力を持ち、チューナーであると言う強みもある。

 瞬く間に召喚された四匹の猫。今召喚された《緑眼の黒猫》も攻撃力の低いモンスターであったが、展開力がそのまま火力に化ける環境においては、軽視できる事では無い。

「レベル2の魚市場の老番猫とレベル2の緑眼の黒猫でチューニングを行い、シンクロ召喚を実行。レベル4のシンクロモンスター、『バレット・リンクス』を攻撃表示でシンクロ召喚します」

 棒読みにも聞こえる声と口調で宣言し、デスは新たなモンスターを場に展開する。

 現れたのは、可愛らしい執事服を着た二足歩行の山猫。《パワー・ツール・ドラゴン》と同じシンクロモンスターであるが、攻撃力は1900ポイントと僅かに劣る。そもそも戦闘向きのモンスターでも無いのだろう、山猫は亮助達に向けて丁寧に一礼すると、のんびりと毛繕いを始めてしまった。

「バレット・リンクスは相手によって破壊された時、墓地からレベル2以下の獣族モンスターを二体特殊召喚する効果を持っています。…が、今は関係ありませんね。バトルフェイズに突入しましょう。まず一体目、地縛猫でパワー・ツール・ドラゴンを攻撃します」

 小さく発せられた攻撃宣言を受け、亮助とクリフは「え?」と声を漏らす。

 デスが攻撃を命じた《地縛猫》は、攻撃力100ポイントのモンスター。攻撃力2300ポイントの《パワー・ツール・ドラゴン》に戦闘を仕掛けた所で、返り討ちに合うのは明らかだ。仮に彼の手札に《収縮》のようなサポートカードがあるにしても、より攻撃力の高い《バレット・リンクス》で攻撃を行うのが普通である。

 しかし実際にデスは《地縛猫》に攻撃を命じ、《地縛猫》は気合いたっぷりに《パワー・ツール・ドラゴン》に特攻を掛ける。

 例えるなら猫がトラックに勝負を挑むようなもの。亮助達が理解できずに訝しんでいると、デスはちらりと塔の方に視線を向けた。

「では塔さん、よろしくお願いします」

「はーい。…未染色の塔の第二の効果、発動」

 疑問の答えは、すぐに返って来た。

 塔が静かに宣言すると同時、彼女の背後に聳え立つ生首達がふわりと浮かび上り、亮助の《パワー・ツール・ドラゴン》に一斉に顔を向ける。

「うふふ…。私の異端の札、未染色の塔はモンスターの破壊に特化したカード。一ターンに一度、私達のモンスターが貴方達のモンスターを攻撃した時――、」

「その攻撃を相手への直接攻撃に変更し、さらに攻撃対象となっていたモンスターを破壊します」

「何ッ!?」

 塔とデスの解説を裏付けるように、生首達は再度《パワー・ツール・ドラゴン》に襲い掛かる。

 ピラニアのように獲物に群がり、鮫のように一撃離脱を繰り返し。歯を折り歯茎から血を流しながら、生首達は《パワー・ツール・ドラゴン》の頭部を残らず噛み砕き、やがて塔の元に戻っていった。

 攻撃対象が破壊された事で、《地縛猫》の矛先も変わった。《地縛猫》は崩れ落ちた《パワー・ツール・ドラゴン》の残骸を踏み台にして亮助に飛びかかり、前脚による百列ラッシュで攻撃する。

「くそっ、パワー・ツール・ドラゴンが…!」

 《地縛猫》からのダメージはともかく、《パワー・ツール・ドラゴン》が撃破された事は亮助にとって痛手だった。彼は苦衷を隠さず表情に出し、舌打ちする。

 一ターンに一度という制限こそあれ、ノーコストで自分のモンスターに直接攻撃させ、更に相手モンスターをも破壊する効果は考えるまでも無く強力だ。永続罠である事のデメリットを考慮しても、あまりに常識破りなカードに思える。

 通常のカードならばありえない能力。これが異端の札と呼ばれるカードの力かと実感すると同時、どうしようもない憤りを覚えた亮助は、強く拳を握り締めた。

 限られた個人にのみ扱う事ができる強力なカード。そんなものの存在を、一決闘者として、デュエルモンスターズを生業とする者として認める訳にはいかない。偽造されたカードとなれば尚更だ。

 もとより負ける訳にはいかない勝負であるが、尚更負けたくないという思いが強くなる。強力なカードを前にして、亮助はその闘志を強くした。

「続いてバレット・リンクスで、攻撃表示のD・モバホンを攻撃します」

 バトルは続く。デスの命を受けた山猫の執事が《モバホン》に飛びかかり、鋭い爪で金属製のボディを切り裂く。

 これにより亮助達は1800ポイントのダメージを受けるが、《モバホン》を攻撃表示で残した時点でこの程度のダメージは覚悟している。むしろ予想よりも低いダメージだった。

「ふむ、伏せカードは使いませんでしたか。ではメインフェイズ2、地縛猫と13番地の金華猫をエクシーズ素材に、ランク2のエクシーズモンスター『迷える泥棒猫(ストレイ・シーフ・キャット)』を守備表示でエクシーズ召喚します」

 攻撃が止み、現れたのは唐草模様の手拭いを頭に巻いた二足歩行の猫。

 名前の通り盗みを生業としているらしく、背には大きく膨らんだ唐草模様の袋を背負い、愛くるしさと怪しい雰囲気を併せ持っている。

「更に手札から魔法カード、一時休戦を発動。お互いカードを一枚ドローし、次の貴方達のエンドフェイズまでお互いの戦闘ダメージを0にします」

 そう言って、デスはデッキから一枚ドローし、亮助にもカードを引くよう目で促す。

 ややこしいルールであるが、この場合、《一時休戦》によるドロー効果はターンプレイヤーであるデスと、直前のターンプレイヤーである亮助に対して発生する。亮助はちらりとクリフの方を見ながら、言われるままにカードをドローした。

「この瞬間、迷える泥棒猫の効果を発動。相手が効果によってカードをドローした時、それと同じ枚数までこのカードのエクシーズ素材を取り除き、取り除いた枚数分カードをドローできます。13番地の金華猫を取り除き、一枚ドローします」

 そう言ってデスは、更に一枚のカードを手札に加える。

 この時点で彼の手札は五枚。シンクロモンスターとエクシーズモンスターをそれぞれ展開した割には、手札の消耗は実質一枚のみである。

「最後にカードを三枚伏せて、ターンを終了します」

 デスの手札から三枚のカードが決闘盤に差し込まれ、場に立体映像が出現する。

 それらがどんなカードであるかは亮助達には知る由も無いが、厄介な存在である事は確かだった。

 

 

 「魔獣の懐柔」 通常魔法

 効果:自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。

 カード名が異なるレベル2以下の獣族の効果モンスター3体をデッキから特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに破壊される。

 このカードの発動後、ターン終了時まで自分は獣族以外のモンスターを特殊召喚できない。

 

 『魚市場の老番猫』 モンスター

 水属性 獣族 ☆2

 攻撃力1300 守備力1450

 効果:フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードが攻撃対象に選択された時、このカードの表示形式を守備表示にする。

 

 『地縛猫(ジバネコ)』 モンスター

 炎属性 獣族 ☆2

 攻撃力100 守備力100

 効果:フィールド上に表側表示で存在するこのカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズ時、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 『13番地の金華猫』 モンスター

 闇属性 獣族 ☆2

 攻撃力400 守備力200

 効果:このカードが効果によって破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地からレベル2以下のモンスター1体を表側守備表示または裏側守備表示で特殊召喚できる。

 

 『緑眼の黒猫(グリーンアイズ・ブラックキャット)』 通常モンスター

 闇属性 獣族 ☆2 チューナー

 攻撃力200 守備力2200

 テキスト:ご近所で高い人気を誇る伝説の野良猫。

 どんな相手でも癒してしまう、その愛らしさは計り知れない。

 怒りの猫パンチはその眼に映る者全てを粉砕し尽くす。

 

 『バレット・リンクス』 シンクロ

 地属性 悪魔族 ☆4

 攻撃力1900 守備力1700

 効果:獣族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

 このカードが相手によって破壊され墓地に送られた時、自分の墓地からレベル2以下の獣族モンスターを2枚選択し自分フィールド上に守備表示で特殊召喚できる。

 この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

 『未染色の塔(アンステンド・タワー)』 永続罠

 “マイク、マイク、お前の頭は見つかったかい? それはお前と同じように、胴が無くても生きて動いていたのかい?”

 効果:「未染色の塔」はフィールド上に1枚しか存在できない。

 このカードが魔法&罠カードゾーンに存在する場合、1ターンに1度、以下の効果から1つを選んで発動する事ができる。

 ●自分フィールド上のモンスターが相手モンスターを攻撃する場合、その攻撃を相手への直接攻撃に変更し、攻撃対象となっていたモンスターをダメージ計算後に破壊する。

 ●相手モンスターの攻撃宣言時、その攻撃モンスターを破壊する。

 ??????

 

 『迷える泥棒猫(ストレイ・シーフ・キャット)

 闇属性 獣族 ランク2

 攻撃力1200 守備力800

 効果:レベル2の獣族モンスター×2

 相手が効果によってカードをドローした場合、ドローした枚数と同じ数までこのカードのエクシーズ素材を取り除いて発動できる。

 自分はこの効果で取り除いたエクシーズ素材と同じ枚数分デッキからドローする。

 

 「一時休戦」 通常魔法(制限カード)

 効果:お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 

 【迷える泥棒猫】

 エクシーズ素材:2→1

 

 【クリフ&亮助】

 LP:7750→7650→5850

 

 

「ボ…、ボクの、ターン…っ」

 各プレイヤーのターンが一巡し、再びクリフのターンが訪れる。

 新たにカードを補充し、この時点での彼の手札は四枚。場には亮助が残した伏せカードと鉄壁の《ニート》がおり、攻めるにも守るにも申し分ない状況だが、クリフの表情には明らかな怯えの色が浮かんでいた。

 《首なし騎士》《惨劇の磔少女》、そして《未染色の塔》。これまで塔が出した首の無いカード達は、小学二年生の彼にはあまりにショッキングなものであった。決闘盤によるリアルな映像は、デュエル展開とは関係ない所で彼の心を挫き始めていた。

 カードを持つ手が震え、足に力が入らない。出来る事ならこのデュエルから逃げ出したいとすら思い始めるが、それすらも叶わない。こんな状態でまともな思考ができる訳が無く――…つまるところ、彼は一種の錯乱状態に陥っていた。

「落ち着けクリフ! あの女の子のカードを見ちゃ駄目だ!」

 クリフの異変に気付いた亮助が、励ましの声をかける。タッグデュエルに置いて二人は一蓮托生、クリフの錯乱は亮助にとっても無関係ではなかった。

「あいつらがどんなカードを使おうと関係ない! 次のターン、俺のディフォーマーの火力で今度こそあいつらのライフを削り切る! だから、クリフは俺のサポート頼む! 二人であいつらを倒すんだ!」

「う…、うん!」

 亮助の激励を受け僅かに勇気を取り戻したクリフは、目に涙を浮かべながらも力強く頷く。

 と言って、まだ塔のカードを直視するのは怖い。そこで彼は、亮助のアドバイス通り塔と彼女が出したカードに目を向けず、その隣にいるデスの方だけを見る事を思いついた。

 人語を操る不気味さはあるが、デスの姿は普通の猫と何ら変わりない。愛らしい猫の姿はクリフの恐怖をいくらか和らげ、落ち着かせるには十分だった。

「…ボク、亮助くんをサポートする! 手札から魔法カード、ハーピィの羽根帚を発動するよ! このカードは制限カードだけど、猫さん達の場の魔法と罠カードを破壊するんだよ!」

 落ち着きを取り戻した後のクリフの行動は早かった。彼はまずデスが伏せたカードと《未染色の塔》に狙いをつけ、除去カードを発動させる。

 狙いとしては悪くない。しかしこの試みは、デスによって阻まれた。

「カウンター罠、魔宮の賄賂を発動。相手に一枚ドローさせる代わりに、羽根箒の効果を無効にします」

「あぅ…」

 場に伏せられたカードのうち一枚が翻り、《羽根箒》の効果を封じ込め爆散する。

 だが、場に三枚もカードを出した以上、この程度の防御策は当然と言える。クリフは悔しげな表情で《羽根箒》のカードを墓地に送り、デッキから新たにカードをドローした。

「この瞬間、迷える泥棒猫の効果を発動。最後のエクシーズ素材を取り除き、デッキから一枚ドローします」

 そう告げて、デスは同じくカードをドローする。余裕の表れなのか、尻尾をゆっくりと大きく振りながら。

「…でも、まだカードはあるもん! 手札からサシカエルを召喚するよー!」

 気を取り直したクリフが召喚したのは、右半身と左半身とで体色が異なる蛙のモンスター。黒い右半身には悪魔の、桃色の左半身には天使の羽がそれぞれ生えており、本物の蛙と比べて奇妙な印象を受ける。

「サシカエルはボクの場の水族モンスターをリリースすると、墓地のガエルと名の付いたモンスターを特殊召喚できるよ! サシカエルをリリースして、ボクの墓地から鬼ガエルを攻撃表示で特殊召喚!」

 召喚されたばかりの《サシカエル》の体が光の粒子となって辺りに散り、別のモンスターとして再構築される。一ターン目にクリフが召喚したモンスター、《鬼ガエル》であった。

「鬼ガエルの効果で、デッキから粋カエルを墓地に送るよ! 粋カエルは墓地のガエルモンスターをゲームから除外して、場に特殊召喚できるんだよ! 墓地の黄泉ガエルを除外して、粋カエルを生き返らせるよ!」

 続いて現れたのは、腰に小刀を差した二足歩行の蛙。口に稲を咥えるその姿は、名前の通り粋な者という印象を受ける。攻撃力は低めだが、守備力は2000ポイントと高めなのも印象的だ。

 そして、このカードにはもう一つ粋な効果がある。クリフは亮助が伏せたカードに目を向けながら、意気揚々と手を続けた。

「粋カエルは場に存在する限り、名前をデスガエルとしてあつかうよ! さらに亮助くんが伏せた魔法カード、地獄の暴走召喚を発動! このカードはボクの場に攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚された時――、」

「そのモンスターと同名のカードを、デッキ・手札・墓地から攻撃表示で可能な限り特殊召喚できる! 粋カエルは今デスガエルとして扱われているから、特殊召喚されるのはもちろんデスガエルだ!」

 恐らくは亮助が《暴走召喚》を伏せた時点で、戦術の意思疎通が行われていたのだろう。彼らは先程の意趣返しとばかりに二人で解説を挟み、実行する。

 余談であるが、クリフが発動した《暴走召喚》の効果は本来相手にも効果が及び、相手モンスターをも増やしてしまうというデメリットがある。だが、デスと塔の場のモンスターは全てエクストラデッキから特殊召喚されたカードである為、今回のケースではその点は気にする必要はない。発動タイミングとしてはベストである。

「ふむ、同名モンスターの大量展開ですか。…なるほど、エクシーズ召喚の下準備という訳ですね。いいでしょう、通します」

 少し考える仕草をして小さく頷くデス。だが、彼の言葉に反し、場の伏せカードが一枚翻った。…彼のパートナーである塔が、無断で伏せカードを発動させたのだ。

「甘いよ猫ちゃん。カウンター罠、神の宣告を発動…。ライフを半分払って、地獄の暴走召喚の発動を無効にするよ…」

 一度は通るかに見えた《暴走召喚》が、神の意志によって無効にされ、墓地へ送られる。

 これにより《デスガエル》の大量展開というクリフの狙いは阻止された訳だが、驚いたのは無断で《神の宣告》を使われたデスであった。彼は心持ちむっとした表情で、塔の方を睨む。

「…説明を願います。僕は通すと言った筈ですが」

「通しちゃ駄目だから、勝手に発動したの。あの子の手札にあるかはわからないけど…、デュエルモンスターズにはデスガエルが三体いる時に発動できる、死の合唱っていう魔法カードがあるの。暴走召喚を通してそのカードを使われたら、私達の場のカード全部破壊されちゃうよ?」

 苛立った表情を浮かべながら、塔は返す。彼女の言葉はまさにクリフが、そして亮助が行うつもりの事だった。

 クリフの手札には彼女の読み通り《死の合唱》のカードがあり、《暴走召喚》で《デスガエル》を展開してすぐに発動する予定だった。《魔宮の賄賂》を使われた直後なら妨害もあるまいと思っていたが、まんまと思惑が外れた形である。

 尤も、デスの方は彼らの狙いには全く気付いていなかったようで、「なるほど」と小さく頷きながら、もう一度塔に視線を向ける。

「理由はわかりました。しかし……それならば敢えて暴走召喚を通し、死の合唱を発動した所で神の宣告を発動した方が良かったのでは? 危険なカードは早いうちに墓地に送ってしまうのが賢明かと」

「……あの子の手札に、死の合唱が二枚あったら? 三体のデスガエルでエクシーズ召喚されたらどうするの? デスガエルの攻撃力、そこそこあるよ? アタッカーを三体も並べられてもいいの…?」

 静かに、しかしながら確かな苛立ちを声に含ませて少女は答える。デスは納得したのか或いは彼女の威圧に怯んだのか、それ以上追求はせず、しょんぼりしたように尻尾を下げた。

「…ねぇ、亮助くん。あの猫さん、ひょっとして…」

 このやり取りを見てふと気付いたクリフが、亮助の方を見る。彼もクリフと同じ考えに至ったらしく、「ああ」小さく頷いて見せた。

「俺もさっきから気になってた。まさかあの猫……初心者か?」

 先程からのデスの言動を思えば、十分に考えられる話だった。

 もしそうだとすれば、クリフ達にとってこれ程有利な事は無いが……推測だけで結論を出す訳にもいかない。二人は疑惑を頭の片隅に追いやり、デュエルを続行した。

「フィールド魔法、湿地草原を発動するよ! レベル2かレベル1の水属性・水族モンスターの攻撃力は1200ポイントアップするんだよ! ボクのカエルさん達は湿地が大好きだから、全員パワーアップするよ!」

 《死の合唱》で場を荒らす作戦は崩れたが、クリフのデッキの強みは他にもある。彼が発動した魔法カードにより、辺りの景色がジメジメした草原地帯へと変わる。蛙達にとっては居心地の良い場所だったようで、《鬼ガエル》《粋カエル》共に生き生きした様子で飛び跳ねていた。

 地の利を得た事で二匹の蛙の攻撃力は大きく上昇、《鬼ガエル》に至っては攻撃力2200ポイントと、《サイバー・ドラゴン》すら上回る攻撃力を得た。

 クリフとしては直ぐにでも攻撃したい所であったが、その為には一つだけ決断しなければならない。クリフはゆっくりと息を吐き、思案した。

 …塔の異端の札《未染色の塔》は、一ターンに一度だけ相手の攻撃モンスターを破壊する効果を持つ。ここで二匹の蛙で一斉攻撃を掛けたとしても、どちらか一方、恐らくは先に攻撃を仕掛けた方が破壊されるのは確実だ。

 《羽根箒》を無効化され、《死の合唱》の発動を阻まれた現在、クリフの手に《未染色の塔》を破壊する術は無い。デスの伏せカードがまだ一枚残っているという不安もある。

 詰まるところ、攻撃するにはリスクが高すぎるのだ。無理に攻撃を仕掛けた所で、リターンは少ない。ならば、ここは攻撃を仕掛けずに戦力を温存し、次の亮助のターンに繋ぐのが最善ではないかとクリフは考えた。

 だが一方で、多少強引でも攻撃を仕掛け、相手の戦力を少しでも削ぐ事が勝利への道筋という考え方もある。場には《ニート》という優秀な壁モンスターがいる為、仮に《鬼ガエル》と《粋カエル》の両方が破壊されたとしても、場ががら空きになる恐れは無い。

 無難な道を歩くべきか、茨の道を駆け抜けるべきか。クリフは暫く悩んだ後、決断する。

「…バトルするよ! 粋カエルで、迷える泥棒猫を攻撃!」

 彼は敢えて危険な道のりを選んだ。《粋カエル》は主人の命令に不敵な笑みで応え、生い茂る草で身を隠しながら《泥棒猫》に向かって駆け抜ける。――直後。「次はその子の首をくれるの?」という塔の愉悦の声を、クリフは聞いた。

「じゃあ、そのカエルちゃんも貰うね。未染色の塔の効果、発動…!」

 宣言と同時、彼女の背後に積み上げられた生首達がふわりと浮かぶ。これから起こる惨劇を察したクリフは、思わず目を閉じ、手で耳を塞いだ。

 浮遊した生首達は《湿地草原》の中を進む《粋カエル》の姿を見つけると、一斉に飛びかかる。《粋ガエル》は小刀で応戦、生首の一つを両断するが、数に物を言わせた生首の突撃を全て食い止める事は出来ず、両腕両足に噛みつかれ甲高い声を上げた。

 生首達は決闘者達によく見える(・・・・・)ように《粋ガエル》の体を空中に持ち上げると、先程と同様、ピラニアのようにその肉体を食らい始めた。金属すら噛み砕く強靭な顎だ、蛙の柔らかい皮膚では防ぎようがない。ぐちゃぐちゃと耳障りな音が十秒ほど鳴り響き、生首達は僅かに食べ残した《粋ガエル》の頭だけを、クリフの目の前に放り投げた。

「うふふ…、くく……あっははは、ははは! カエルさんカエルさん、体が無くなって可哀想だね!? ふふ、あはは!」

 狂気を孕んだ塔の声を浴びながら、《粋カエル》の死骸が光の粒子となって消えていく。

 だが、これで少なくともこのターン中に《未染色の塔》の効果が使用される事は無くなった。

「き…、鬼ガエルで迷える泥棒猫に攻撃するよ!」

 クリフは恐る恐る瞼を開き、本命のモンスターに命令を下す。《鬼ガエル》は浮遊する生首達に見付からないよう、より慎重に草影に隠れながら、《泥棒猫》を目指して進んでいく。

 だが、《鬼ガエル》が射程圏内まで敵に近付くより先、デスが口元を緩めて笑った。

「狙いは泥棒猫ですか。エクシーズ素材も使い切った事ですし、破壊されても一向に構いませんが……縄張りに侵入されるのは気に入りませんね。迎撃します、罠カードを発動」

 デスが最後の伏せカードに目をやり、発動しようとした刹那。塔の「猫ちゃん、ストップ」の声が、彼の行動を制止した。

「そのカードは残しておいて。とっても素敵なものを見せてあげるから」

 そう言って塔は、手札のカードで首を切るような動作をする。何か察したらしいデスは小さく吐息して、承諾した。

「…前言を撤回。鬼ガエルの攻撃を通します」

 半ば呆れているような投げやりな声。接近に成功した《鬼ガエル》は二本の角を《泥棒猫》の胸に突き刺し、これを撃破する。

 戦闘ダメージこそ無いが、これで相手の戦力を一つ減らす事ができた。この行動がクリフ達にとって吉となるか凶となるかはわからないが、少なくともクリフの心に後悔の念は無い。

「カードを一枚伏せて、ターン終了! 猫さん達のターンだよ!」

 ターンを終えたクリフは、またデスの方に視線を向けて自分を落ち着かせる。心に忍び寄る恐怖を、パートナーが振り払ってくれると信じて。

 

 

 「ハーピィの羽根箒」 通常魔法

 効果:相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する。

 

 「魔宮の賄賂」 カウンター罠

 効果:相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

 相手はデッキからカードを1枚ドローする。

 

 「サシカエル」 モンスター

 水属性 水族 ☆1

 攻撃力100 守備力2000

 効果:自分フィールド上に存在する水族モンスター1体をリリースし、自分の墓地に存在する「ガエル」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。

 選択したモンスターを墓地から特殊召喚する。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 「粋カエル」 モンスター

 水属性 水族 ☆2

 攻撃力100 守備力2000

 効果:このカードのカード名は、フィールド上に表側表示で存在する限り「デスガエル」として扱う。

 また、自分の墓地の「ガエル」と名のついたモンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを墓地から特殊召喚する。

 このカードはシンクロ素材にできない。

 

 「地獄の暴走召喚」 速攻魔法

 効果:相手フィールド上に表側表示でモンスターが存在し、自分フィールド上に攻撃力1500以下のモンスター1体が特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。

 その特殊召喚したモンスターと同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する。

 相手は相手自身のフィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターと同名モンスターを相手自身の手札・デッキ・墓地から全て特殊召喚する。

 

 「神の宣告」 カウンター罠(制限カード)

 効果:LPを半分払って以下の効果を発動できる。

 ●魔法・罠カードが発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 ●自分または相手がモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚する際に発動できる。それを無効にし、そのモンスターを破壊する。

 

 「死の合唱」 通常魔法

 効果:自分フィールド上に「デスガエル」3体が表側表示で存在する時に発動する事ができる。

 相手フィールド上に存在する全てのカードを破壊する。

 

 「湿地草原」 フィールド魔法

 効果:フィールド上の水族・水属性・レベル2以下のモンスターの攻撃力は1200ポイントアップする。

 

 

 【鬼ガエル】

 攻撃力1000→2200

 

 【粋カエル】

 攻撃力100→1300

 

 【迷える泥棒猫】

 エクシーズ素材:1→0

 

 【塔&死神】

 LP:4450→2225

 

 

「次はどんな首が落ちるのかな…? くすくす、私のターン」

 恍惚の表情を浮かべながら、塔はターンを開始する。彼女はドローしたカードを確認すると、迷いなくそれを決闘盤に差し込んだ。

「ふふ…。手札から『首なしの道化師(ヘッドレス・ジェスター)』を召喚するよ…」

 現れたのは、首を持たない道化師のモンスター。奇妙なステップを踏みながら六つ程の眼球をジャグリングする様は、もはや悪趣味を通り越して寒気すら覚える。

「この子が召喚された時、墓地の攻撃力1500以下の通常モンスターを一体特殊召喚できるの。…首なし騎士ちゃん、帰っておいで」

 少女の呼びかけに応えるように、大地を割って再度現れる騎士の亡霊。一度撃破された事で恨みが増したのか、それとも《道化師》の効果による演出か、体の所々に黒い炎を纏っている。

「うふ、ふふ……まだ、まだまだ…! 首なしの道化師は魔法使い族モンスターだから、手札からこのカードを出せるよ。おいで、デーモン・イーターちゃん…!」

 彼女の行動は終わらない。次に現れたのは悪魔の翼と一本角を持つビーバー。小動物であるが気性は荒々しく、悪魔の頭部を美味しそうに齧っている所からもその凶暴さが伺える。

 これでこのターンに彼女が展開したモンスターは三体。何れも攻撃力の低い下級モンスターだが、何れもレベルは4。クリフ達は次の塔の行動が手に取るように理解できた。

「カエルさんのお礼に、可愛いカードを見せてあげるね…? 道化師と首なし騎士、デーモン・イーターをエクシーズ素材にして、ランク4、『ビザール・コレクター』をエクシーズ召喚!」

 予想は的中。三体のレベル4モンスターを利用して召喚されたのは、屈強な肉体を持つ半裸の男。このデュエルで初めて塔が見せる、首の付いた人型モンスターだった。

 ただ、デザインはやはり悪趣味極まりない。女の頭部を体の至る所に髪で巻き付け、顔は硫酸でも浴びたかのように爛れている。猟奇的な収集家とは良く名付けたものだ。

「エクシーズ素材になった首なし騎士を取り除いて、効果発動。相手の墓地のモンスター一体を装備して、その攻撃力の半分、このカードを強化する…」

「俺達の墓地のモンスターを…!? まさか!」

「もちろん、まさかだよ…? 装備するのはパワー・ツール・ドラゴン、攻撃力が1150ポイントアップするよ」

 亮助の墓地から《パワー・ツール・ドラゴン》の頭部パーツが引き摺り出され、《コレクター》の体に装備される。2000ポイントと低めだった攻撃力が、一瞬にして3150ポイントにまで上昇した。

 それが何を意味するのか、もはや説明は不要だろう。

「…もう一匹のカエルさん、貴方の首もちゃーんと落としてあげるからね? ビザール・コレクターで、鬼ガエルに攻撃…!」

 紫色の瞳が《鬼ガエル》を映し、死刑宣告にも等しい命令が下される。指名を受けた《コレクター》はその場で獣のような雄たけびを上げると、女の頭部を振り回しながら敵へと突進した。

 《コレクター》の攻撃力は3150。対して《鬼ガエル》の攻撃力は《湿地草原》による強化を含めても2200ポイント。このまま戦闘を行っても《鬼ガエル》の破壊は確実だが――、彼女の狙いは《未染色の塔》による直接攻撃だ。これを通す訳にはいかない。

「させるか! クリフが伏せたミラーフォースを発動! お前達の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」

「っ…」

 敵を直視できないクリフに代わり、亮助が伏せカードを発動させる。ドーム状のバリアが《コレクター》から二人を守り、逆に塔とデスの場のモンスターを光で打ち据え、殲滅させる。

「いくら未染色の塔が強力でも、攻撃するモンスターがいなきゃ効果を使えないよな! そう何度も同じ手は食わないぜ!」

「……。バレット・リンクスが破壊された時、レベル2以下の獣族モンスター二体を墓地から守備表示で特殊召喚できるよ。その効果で、地縛猫と13番地の金華猫を蘇生する…」

 不機嫌を顔に出しながら、塔はデスの墓地から二体の猫を蘇生する。どちらも戦闘には向かないモンスターであるが、特定の条件で破壊された時に発動する効果を持つ。壁モンスターとして運用するには最適と判断したのだろう。

「せっかく可愛いモンスターを見せてあげたのに…。カードを一枚伏せて、ターンエンド」

 ぷくーっと頬を膨らませながら。塔は残り少ない手札を決闘盤に差し込み、悪夢のようなターンを終了させた。

 

 

 『首なしの道化師(ヘッドレス・ジェスター)』 モンスター

 地属性 魔法使い族 ☆4

 攻撃力1200 守備力1200

 効果:このカードの召喚に成功した時、自分の墓地の攻撃力1500ポイント以下の通常モンスター1体を選択して発動できる。

 そのモンスターを特殊召喚する。

 

 「デーモン・イーター」 モンスター

 地属性 獣族 ☆4

 攻撃力1500 守備力200

 効果:「デーモン・イーター」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

 自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 相手エンドフェイズにこのカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターを破壊し、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 『ビザール・コレクター』 エクシーズ

 地属性 悪魔族 ランク4

 攻撃力2000 守備力0

 効果:地属性レベル4のモンスター×3

 1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。

 選択したモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力の半分の数値分アップする。

 

 「聖なるバリア-ミラーフォース-」 通常罠

 効果:相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

 相手フィールド上に攻撃表示で存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

 【ビザール・コレクター】

 攻撃力2000→3150

 エクシーズ素材:3→2

 

 

「俺のターン!」

 二つ、はっきりした事がある。いや、確信した事がある。亮助はデッキからカードを引きながら、塔と彼女の《未染色の塔》を睨みつけた。

 今の攻撃は何とか防ぐ事ができたが、このデュエル、やはり《未染色の塔》を破壊しなければ亮助達に圧倒的に不利だ。まだライフに余裕があるとはいえ、最優先で除去しなくてはならない。その事を改めて実感した。

 そして、もう一つ。ずっと気になっていた事が、今の塔のターンではっきりした。彼女のデッキの戦術……否、テーマについてである。

 《首なし騎士》《惨劇の磔少女》《未染色の塔》《首なしの道化師》《デーモン・イーター》《ビザール・コレクター》。これまで彼女が見せたカードには、頭部が無い、もしくはイラストに生首が描かれているという共通点がある。まさかとは思っていたが、それが答えだった。

 彼女のデッキは、そういう(・・・・)カードばかりを集めて構成されているのだ。理解できない感情だが、彼女は首なしモンスターを使役し、相手モンスターの首を刎ねる事に無上の喜びを感じているらしい。先程からの言動がその事を証明している。

 決闘盤が広く使われるようになった現在、ビジュアルでカードを選ぶ決闘者は決して珍しくは無い。デッキと相性が悪いにも関わらず《闇霊使いダルク》や《ガスタの希望 カムイ》、《リチュア・アバンス》を好んで使う男性決闘者を、職業柄何度も目撃したものだ。

 亮助自身、機械弄りが好きだからという理由で【ディフォーマー】を使っている部分もある。だからこそ断言できる。塔のデッキは、自身の趣味を取り込んだファンデッキだ。そしてこの手のデッキは、趣味を優先するあまり、デッキの性能が犠牲になっている事が多い。

(あの未染色の塔さえ破壊すれば、俺のディフォーマーとクリフのガエルで押し切れる! 手札に余裕がある今、やるしかない!)

 今ドローしたカードを含め、亮助の手札は五枚。異端の札と言えど一枚のカード、手札を活用すれば破壊できない事はない筈だ。

「手札の(ディフォーマー)・ラジカッセンを捨てて装備魔法、(ディフォーマー)・リペアユニットを発動! 墓地からD・モバホンを攻撃表示で特殊召喚して、このカードを装備! もちろんモバホンの効果を発動だ!」

 亮助の墓地から大破した《モバホン》が引き摺り出され、奇妙なパーツを取り付けられた事で再起動。辛うじてダイヤルを点滅させ、効果を使用した。

 《モバホン》のダイヤルがランダムに点滅を繰り返し、やがて「2」の数字で止まる。思いの外低い結果に亮助は小さく舌打ちするが、幸いにもデッキから捲ったカードの中に特殊召喚可能なモンスターが含まれていた。

「特殊召喚するのは(ディフォーマー)・クリーナン! 守備表示だ!」

 仲間の救援に駆けつけたのは、掃除機の形状をしたモンスター。守備表示で召喚された為か変形は行わず、電化製品の姿のまま静止している。

 ステータスは攻守共に0と明らかに戦闘に不向きなカードだが、装備カードを墓地に送る事で相手にダメージを与える効果と、相手フィールド上の攻撃表示モンスターを装備カードにする効果を表示形式によって使い分ける事ができる。

 だが、塔とデスの場に存在するモンスターは全て守備表示の為、後者の効果は使用できない。バーン効果も500ポイントと微弱であり、カードの消耗に見合うとは言い難い。…もっとも、特殊召喚できただけでも儲け物なのであるが。

「さらに手札から、(ディフォーマー)・パッチンを召喚!」

 続いて現れたのは、ゴムの弾力を利用して物体を遠くに飛ばすY字型の道具。俗に言うパチンコの姿をしたモンスターだった。

 こちらは召喚されると同時に人型に変形するが、ゴムによる発射機構はそのまま残っている。どんな効果を持っているのか、その姿を見れば一目瞭然だ。

「パッチンは一ターンに一度、このカード以外のディフォーマーをリリースする事でフィールド上のカードを一枚破壊する事ができる! 俺はモバホンをリリースして――、塔! お前の異端の札、未染色の塔を破壊する!」

「…っ!」

 役目を終えた《モバホン》が最後の仕事とばかりに、《パッチン》の()となって射出される。亮助の宣言通りに生首の塔に命中した《モバホン》は、自爆して生首達を吹き飛ばした。

「よし! 破壊した!」

 長らく自分達を苦しめて来た塔の崩壊に、亮助は思わずガッツポーズを取る。

 これで少しは。勝利への道筋を描きながら、そう考えた時。亮助の耳に、くすくす笑う塔の声が届いた。

「――未染色の塔の、最後の効果……発動」

 塔が歪んだ笑みを浮かべると同時。吹き飛ばされた筈の生首達が、今度は彼女の正面に集う。

 積み上げられた塔の形から一変、まるで魚の群れのように巨大な団子状になったそれは、不気味に蠢きながら彼女の場に留まり続けた。

「ッ!? どうしてッ…、破壊した筈じゃ!」

「未染色の塔は効果で破壊された時、攻撃力3000のモンスターカードになって攻撃表示で特殊召喚されるの。モンスター化すると破壊効果は使えないけど……倒すのは難しいと思うよ?」

「攻撃力3000の、モンスターに…!?」

「あと、もう一つ。モンスターになった未染色の塔はこのターンのエンドフェイズに元の永続罠カードに戻って私の場にセットされるよ。…凄いでしょ。残念でした」

「っ…。破壊されても、すぐに戻るって事か…。なんてカードだよ…!」

 ここまで来ると、呆れる他ない。亮助は重苦しい表情で魔物(モンスター)と化した《未染色の塔》を見上げた。

 罠カードならば破壊してしまえば終わりだと考えていたが、その予測はより大きな脅威によって覆された。

 だが――。思惑が外れたのは、何も亮助だけでは無い。

「けど、問題ない! D・クリーナンの効果発動! このカードが守備表示の時、一ターンに一度相手フィールドの攻撃表示モンスターを吸収、装備カードにする事ができる!」

「あっ…」

 亮助の狙いに気付いた塔が頓狂な声を上げるが、もう遅い。彼は強気な笑みを浮かべると、反撃開始の狼煙を上げた。

「そう、まさかだぜ! モンスターカードになった未染色の塔を、クリーナンに装備する!」

 亮助の声に反応した《クリーナン》は吸込口を浮遊する生首達に向け、凄まじい勢いで吸引を開始する。

 幽霊には掃除機が効果的である事は広く知られているが、デュエルにおいてもそのルールは例外では無かったらしい。生首達(ゴースト)は数秒程で一つ残らず吸引(バスター)しつくされ、今度こそ塔の場から消滅した。

 ここから更に復活して来られたら流石に御手上げだが、塔の悔しげな表情を見る限り、その心配は無いらしい。亮助は再度ガッツポーズを取り、隣にいるクリフと顔を見合わせた。

「このまま一気に行くからな! 魔法カード、ジャンクBOXを発動! リペアユニットで墓地に送ったラジカッセンを、攻撃表示で特殊召喚する!」

 最大の脅威を取り除いた今。――いや、今だからこそ。持てる全てを攻撃に使う。

 亮助の場に現れたのは、ラジカセの形をしたモンスター。召喚されると同時に変形を行い、二回攻撃効果を持った人型のロボットの姿となる。

 攻撃力は1200ポイントと頼りないが、塔とデスの場に残った二体のモンスターを排除するには十分な数値。二枚の伏せカードが気掛かりではあるが、手を拱いてはいられない。

「いくぜ、バトルだ! ラジカッセンで、地縛猫と13番地の金華猫を攻撃する!」

 このターンで決着をつけるつもりで発された攻撃宣言は、これまで以上に力強いものであった。指令を受けた《ラジカッセン》は小さく頷き、二体の猫を排除すべく飛翔する。

 この攻撃が通れば。――通れ! 心の中で祈る亮助とクリフ。しかし、その願いは塔の苛立った声によって空しく砕け散る事となった。 

「…猫ちゃん、例のカード使って。今すぐ」

「了解しました。ラジカッセンの攻撃に対して罠カード、アヌビスの呪いを発動します。全ての効果モンスターは守備表示となり、ターン終了時まで元々の守備表示を0に低下させます」

「うっ…。くそッ」

 デスが発動したカードにより、《ラジカッセン》を含む場の全てのカードが強制的に守備表示となる。当然、これでは攻撃は不可能だ。

 これ以上無い攻撃の機会を手にしながら…。唇を噛んで悔しがる亮助だが、ある一つの疑問に気付き、その思いは頭から吹き飛んだ。

(待てよ…? あの猫の伏せカードがアヌビスの呪いだったなら、なんでミラーフォースの時に発動しなかったんだ? あの時発動していれば、モンスターの破壊を回避できたはずなのに。――…まさか!)

 疑問を言葉にした瞬間、亮助の脳裏に一枚のカードが浮かび上がる。

 ありえる(・・・・)。自分の趣味を優先したデッキを使う塔ならば、伏せている可能性がある。全てのモンスターを守備表示にする効果と相性が良く、彼女の性格にも噛みあったあのカードを。

「ふふ、アハ、あッはははっ! 罠カード、断頭台の惨劇を発動ッ! 貴方達の守備モンスターを皆纏めて! 処刑して! 可愛い死体にしてあげる!」

 予感は、的中した。亮助達のモンスターが守備表示になった瞬間、場に四つの断頭台が出現し、彼らのモンスターを拘束する。

 あの時。クリフのターンで塔が《アヌビスの呪い》の発動を止めたのは、これが狙いだったのだ。塔は目を爛々と光らせて、拘束されたモンスター達を見つめている。

 特に彼女の興味を引いたのは、唯一の人型モンスターである《ニート》らしい。家電製品の姿に戻ったディフォーマーと違い、彼女は死の恐怖に怯えて冷たい刃を見つめていた。喚き散らし、持っていたクッションを投げる等して暴れるが、その足掻きは塔の心を高鳴らせるだけだった。

「みぃんな、落とされちゃえ…!」

 塔がにやりと笑うと同時、《断頭台》の刃が空を裂いて落下する。思わず目を瞑る亮助とクリフだが、ごとり、と命が地面に落ちる音だけは、彼らの耳と脳髄に響いた。

 心が痛む音だった。立体映像とは言え、自分が手を下した訳では無いとは言え、罪悪感が圧し掛かる。二人が恐る恐る目を上げた時には、既に《断頭台》も処刑されたモンスター達も消え、高笑いする塔の姿が真先に彼らの視界に飛び込んできた。

「うふ、ふふふ…! あはッ、っはぁ! シャイでニートな魔術師ちゃん、これで永遠に寝ていられるね…!? あはははッ…!」

 手を叩いて狂喜する塔に底知れぬ闇を感じた亮助は、知らぬうちに頭を抱えていた。

 正気では無い。この子は、狂っている。このデュエル中に何度も思った事が、改めて脳裏に突き刺さる。

「……なんなんだよ、こいつら(・・・・)…!」

 弱々しく呟きながら、亮助は自分が恐怖している事を実感した。

 これが悪い夢だったなら、どれだけ幸せだったろう。頭に響く塔の笑い声が、目が覚めると同時に聞こえなくなったのなら、どれだけ救われる事だろう。

 だが、目の前で起きている事は紛れもない現実だ。現実である以上、向かい合うしかない。亮助は足の震えを必死で堪えた。

「…ところで、今は誰のターンだっけ?」

 一頻り笑い叫んだ後、塔は憑き物が落ちたように微笑を浮かべながら小首を傾げる。その豹変ぶりがそのまま彼女の異常さを表しており、恐怖だった。

 それでも、戦わなくてはならない。勝たなくてはならない。亮助は胸に手を当てて自分を落ち着かせ、一先ず自分達が置かれている状況を整理する事にした。

 《未染色の塔》を排除できたとは言え、今の《アヌビスの呪い》と《断頭台》のコンボで二人のモンスターは全滅。まずは壁となるモンスターを用意しなければ、無防備な状態でデスのターンを迎えてしまう事になる。

 だが、亮助に残された手札は一枚の魔法カードのみ。それもモンスターの攻撃力を上昇させる効果のカードなのだから、モンスターが全滅した今はブラフにしか使えそうに無い。

(まだライフに余裕があるから、最悪ダメージ覚悟でターンを終了するって手もあるけど…。いや駄目だ! こいつらのカードは普通じゃない、場をがら空きにするのは危険過ぎる!)

 デスが《未染色の塔》と同等のカードを所持している事を考えると、あまりにリスキーな賭けになる。

「…ごめんクリフ。墓地の鬼ガエルを除外して、粋カエルを守備表示で特殊召喚する!」

 結局、選択肢は一つしか無かった。再び生を得た《粋カエル》が場に出現し、二人を守る。

 様々な応用が可能なこのカードは出来る事ならクリフの為に温存しておきたかったが、こうなっては仕方がない。クリフ自身も止むを得ない判断だと考えたようで、亮助の行動に異を唱えはしなかった。

「カードを一枚セットして……ターンエンドだ」

 最後の手札を場に伏せ、ターンを終える。こちらも手札に温存しておきたいカードだったが、一枚でも多く場にカードがあった方が、塔達に対する牽制になると判断した。

 

 

 「(ディフォーマー)・ラジカッセン」 モンスター

 地属性 機械族 ☆4

 攻撃力1200 守備力400

 効果:このカードはこのカードの表示形式によって以下の効果を得る。

 ●攻撃表示:このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 ●守備表示:1ターンに1度、自分フィールド上の「(ディフォーマー)」と名のついたモンスターが攻撃対象に選択された時、その攻撃を無効にできる。

 

 「(ディフォーマー)・リペアユニット」 装備魔法

 効果:手札から「(ディフォーマー)」と名のついたモンスター1体を墓地へ送り、自分の墓地に存在する「(ディフォーマー)」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。

 選択したモンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。装備モンスターは表示形式を変更する事ができない。

 このカードがフィールド上に存在しなくなった時、装備モンスターを破壊する。

 

 「(ディフォーマー)・クリーナン」 モンスター

 風属性 機械族 ☆1

 攻撃力0 守備力0

 効果:このカードはこのカードの表示形式によって以下の効果を得る。

 ●攻撃表示:1ターンに1度、このカードに装備された装備カード1枚を墓地へ送る事で、相手ライフに500ポイントダメージを与える。

 ●守備表示:1ターンに1度、相手フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択し、装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備できる。

 

 「(ディフォーマー)・パッチン」 モンスター

 風属性 機械族 ☆4

 攻撃力1200 守備力800

 効果:このカードはこのカードの表示形式によって以下の効果を得る。

 ●攻撃表示:1ターンに1度、「D・パッチン」以外の「(ディフォーマー)」と名のついたモンスター1体をリリースする事でフィールド上のカード1枚を破壊する。

 ●守備表示:このカードが破壊される場合、代わりにこのカード以外の「(ディフォーマー)」と名のついたモンスター1体を破壊する事ができる。

 

 『未染色の塔(アンステンド・タワー)』 永続罠

 “マイク、マイク、お前の頭は見つかったかい? それはお前と同じように、胴が無くても生きて動いていたのかい?”

 効果:「未染色の塔」はフィールド上に1枚しか存在できない。

 このカードが効果によって破壊された場合、このカードは効果モンスター(アンデット族・闇・星8・攻/守3000)となり、モンスターゾーンに攻撃表示で特殊召喚する。このカードは罠カードとしても扱う。

 この効果を発動したターンのエンドフェイズ時、このカードがモンスターゾーンに存在する場合、このカードを罠カードとして魔法&罠ゾーンにセットする事ができる。

 このカードが魔法&罠カードゾーンに存在する場合、1ターンに1度、以下の効果から1つを選んで発動する事ができる。

 ●自分フィールド上のモンスターが相手モンスターを攻撃する場合、その攻撃を相手への直接攻撃に変更し、攻撃対象となっていたモンスターをダメージ計算後に破壊する。

 ●相手モンスターの攻撃宣言時、その攻撃モンスターを破壊する。

 

 「ジャンクBOX」 通常魔法

 効果:自分の墓地からレベル4以下の「(ディフォーマー)」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。

 この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。

 

 「アヌビスの呪い」 通常罠

 効果:フィールド上に表側表示で存在する効果モンスターは全て守備表示になる。

 発動ターン、それらの効果モンスターの元々の守備力は0になり、表示形式の変更ができない。

 

 「断頭台の惨劇」 通常罠

 効果:相手フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスターの表示形式が表側守備表示に変更された時に発動できる。

 相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを全て破壊する。

 

 

「未染色の塔を突破しましたか。塔さんには悪いですが、見事と言う他ありませんね」

 ぽつりと呟きながら、デスはターンを開始する。《未染色の塔》の破壊は彼にとっても痛手の筈だが、デスは特に気にした様子も無くのんびりと尻尾を振っている。

「僕は補助に徹するつもりでしたが、こうなっては致し方ありません。レベル2の地縛猫と13番地の金華猫でエクシーズ召喚を実行し、ランク2のエクシーズモンスター、『ブラック・マジニャン』をエクシーズ召喚します!」

 デスの壁となっていた猫達の姿が消え、新たに黒魔術師の格好をした二足歩行の茶トラ猫が現れる。

 その名前と格好は《ブラック・マジシャン》を連想させるが、攻撃力は本物に遠く及ばない500ポイント。お世辞にも戦闘向きのモンスターとは言い難い。

「ブラック・マジニャンは自身のエクシーズ素材を取り除く事で、次の相手ターン終了時まで取り除いたエクシーズ素材1つにつき攻撃力と守備力が1000ポイント上昇します。エクシーズ素材を全て取り除き、マジニャンの攻撃力を2000ポイント上昇させます!」

 《マジニャン》の足元に肉球を描いた魔法陣が現れ、その魔力を底上げする。

 少々間抜けな演出だが、これにより《マジニャン》は一時的ながら《ブラック・マジシャン》に匹敵する攻撃力を手に入れた。それが意味する事は、一つ。

「力押しは好みませんが、参ります。ブラック・マジニャンで粋カエルを攻撃、破壊します!」

 力を得た《マジニャン》は持っていた木の杖を《粋カエル》に向け、先端から炎の球を放つ。見た目は弱々しい炎だが、その威力は最高クラスの黒魔術師の魔術に匹敵する。小刀で切り落とそうとした《粋カエル》を。一瞬にして焼き尽くした。

「くっ…。だが粋カエルは守備表示だ、俺達のライフにダメージは無い!」

「確かに。…ですが、これで貴方達を守るモンスターは居なくなりました。粋カエルの蘇生に必要なモンスターカードも無くなったようですし、失礼ながら、貴方達のピンチかと」

 挑発とも取れる言葉の後、デスは塔の方に目を向けて「ですが」と呟く。

「塔さんの手札は残り一枚。このチャンスを活かすには、少し心許ないですね。…そこで永続魔法、『猫の貯金箱』を発動します」

 デスが発動したカードから招き猫型の貯金箱が出現し、デスと塔の間に設置される。

 姿形は通常の招き猫と同じだが、猫の顔部分が《強欲な壺》のような嫌らしい笑みを浮かべており、ドローに関連した効果である事を予想させる。

「猫の貯金箱は一ターンに一度、1000ポイントのライフを払う事で貯金カウンターを一つ置く事ができます。そしてライフ1000ポイント払って自壊するか相手によって破壊された時、このカードのコントローラーは乗っていたカウンターの数だけカードをドローします」

 ライフと引き換えに手札を潤す永続魔法。互いに手札を消耗しきった今、このカードが彼らに齎すものは大きい。

 …否、どのような状況であろうと手札の補充は戦局を左右する重要な要素である。この猫は、手札という小判の価値を理解しているのだ。

「手始めにライフを1000ポイント払い、一つ貯金カウンターを乗せます。これで僕のターンは終了です」

 デスの体から仄かな光が放たれ、《貯金箱》の投入口に吸い込まれる。これによりデスのライフは1225ポイントに低下するが、こちらも気にする様子は見られなかった。

 

 

 『ブラック・マジニャン』 エクシーズ

 闇属性 獣族 ランク2

 攻撃力500 守備力100

 効果:レベル2の獣族モンスター×2

 自分のターンのメインフェイズ時、このカードのエクシーズ素材を任意の枚数取り除いて発動できる。

 このカードの攻撃力と守備力は次の相手ターン終了時まで、取り除いたエクシーズ素材の数×1000ポイントアップする。

 

 『猫の貯金箱』 永続魔法

 効果:1ターンに1度、1000ライフポイントを払う事でこのカードの上に貯金カウンターを1つ置く事ができる。(最大2つまで)

 また、このカードは自分のターンのメインフェイズ時、1000ライフポイントを払う事で破壊する事ができる。

 このカードが自身の効果で破壊されるか、相手のカードの効果によって破壊された場合、自分はこのカードに乗っていた貯金カウンターと同じ枚数カードをドローする。

 

 

 【ブラック・マジニャン】

 攻撃力500→2500

 守備力100→2100

 

 【猫の貯金箱】

 カウンター:0→1

 

 【塔&死神】

 LP:2225→1225

 

 

「ボクの、ターンっ…」

 厳しい状況だった。クリフはデスに言われるまでも無く、自分達の窮地を実感していた。

 最後の砦であった《粋カエル》が破壊され、クリフを守るモンスターはもう居ない。亮助が先程伏せたカードも、相手の攻撃に対しては無力だ。

 手札には《死の合唱》が一枚。起死回生を狙えるカードであるが、発動条件を満たせない以上、今は文字通り死に札でしかない。唯一の救いは彼らのライフが6000ポイント近く残されている事だが、不利な状況に変わりはない。

 亮助の手札も0枚。誰の目にも明らかな絶望的な状況だが、しかし、勝ちの目が消えた訳では無い。クリフはごくりと唾を飲みこみながら、自らのデッキに目を向けた。

(猫さん達のライフポイントは残り1225ポイント。ボクのデッキには直接攻撃ができる貫ガエルが入ってるから……ここで貫ガエルをドローできれば、猫さん達に勝てる!)

 例え僅かな可能性でも、勝てる道筋があるならば希望は捨てない。否、捨てる訳にはいかない。クリフは右手を握ったり開いたりして緊張を解し、やがてデッキからカードを引き抜いた。

「…ドロー!」

 勢い良くカードを引き、縋るような気持ちでそれを確認する。引いたカードは、《貫ガエル》……では無かった。

「あぅ…」

 思い描いた未来との食い違いに一時は落胆するクリフだが、少しの間を置いて、彼は気付く。自分のデッキは十分に、持ち主の信頼に応えてくれている事に。

 絶望の霧が晴れ、勝利への希望が見えた。落ち込んでいたクリフの表情に笑みが戻り、そのカードを発動させる。

「魔法カード、死者蘇生! ボク達の墓地から、亮助君のパワー・ツール・ドラゴンを攻撃表示で蘇生するよ!」

「むっ…!」

 《未染色の塔》によって破壊された亮助の機械竜が、クリフの手によって蘇る。《リペアユニット》の時のような不完全な形では無く、完全な状態で。

 だが、その攻撃力は2300ポイントと僅かに《マジニャン》には届かない。クリフの引き運に驚き、尻尾の毛を逆立てていたデスもすぐにその事に気付き、にやりと笑みを浮かべる。

「良いカードを引いたようですが、そのモンスターではブラック・マジニャンを倒す事は出来そうにありませんね。確か装備カードをデッキからサーチする効果があったと記憶していますが、発動には最低でもデッキに三枚の装備カードが必要だったはず」

「…確かに、ボクのデッキには装備カードが一枚もないから、パワー・ツール・ドラゴンの効果を使う事はできないよ。…でもボクは――、」

 そこでクリフは言葉を切り、亮助と顔を見合わせて微笑を浮かべる。

「ボク達は、パワー・ツール・ドラゴンで攻撃する!」

 自信に満ちた宣言を受け、《パワー・ツール・ドラゴン》は《マジニャン》に向かい突進する。

 だが、先述の通り《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力は2300ポイント。攻撃を仕掛けた所で、返り討ちに遭うのは目に見えている。デスは二人の行動の意図が読めず、思わず「馬鹿な」と声を荒げた。

「自滅するつもりですかッ? 攻撃力では勝てなくとも、そのカードを壁にしていれば、まだ勝機は――、」

 そこまで言って、デスは気付く。

 確かにこのまま戦闘を行えば、《パワー・ツール・ドラゴン》の敗北は明らかだ。…だがもし、ここであのカードを発動されたら?

 ディフォーマーに限らず、機械族モンスターを主流とするデッキにおいて、切り札とも呼べるあのカード(・・・・)なら。この攻撃に対しても納得がいく。そして亮助は先のターンで、カードを一枚セットしている。

 全てを理解したデスは、思わず口元を吊り上げた。

「――なるほど。リミッター、」

「解除ッ!」

 亮助の伏せカードが翻り、《パワー・ツール・ドラゴン》は限界を超えて機体性能を大きく向上させる。

 その攻撃力は4600ポイントと《マジニャン》を大きく上回るが、機体の負荷も凄まじいらしく、放熱によって塗料が剥げ、関節部分からは黒い煙が漏れていた。

 だが、それで構わない。重要なのは、このバトルで勝つ事だ。限界以上の力を得た《パワー・ツール・ドラゴン》は、目で追うのがやっとの速度で《マジニャン》の目の前まで接近、防御の構えすらさせずに右腕のバケットで殴りつける。スピードを乗せた一撃は《マジニャン》の小さな体を容易く押し潰した。

 そして。この攻撃によって発生する戦闘ダメージは2100ポイント。デス達の残りライフを削り切るには十分な数値だ。《パワー・ツール・ドラゴン》は勢いを一切止めずにデスへと向かっていく。最後の一撃を加える為に。

「…マジニャンの攻撃力では戦力になりませんか。やはり僕は防御に回った方が何かと向いているようですね」

 金色の双眸に《パワー・ツール・ドラゴン》を映しながら、デスはやれやれと吐息する。敗北を受け入れたとも取れる行為だが、彼の目はまだ諦めてはいなかった。

 デスはゆっくりと尻尾を振りながら、最後に残った手札に視線を向け、呟いた。

「――…“グリムリーパー・リゼンブルズ・キャット”」

 振り下ろされた《パワー・ツール・ドラゴン》の右腕がデスの言葉を掻き消し、舞い上がった砂埃が両者の姿を覆い隠す。

 戦闘ダメージは入った。その事実は、そのままクリフ達の勝利を意味していた。攻撃を終えた《パワー・ツール・ドラゴン》がクリフの元に戻った事で、その確信は更に強くなる。

「俺達の、勝ちだ…!」

 堪えきれずに「勝利」を口にする亮助。だが、砂埃が消えていくと、彼の表情は一変した。

 宙に舞った砂の中に、黒いドーム状の何かが見える。それはデスの小さな体を包み、守っているようだった。『バリア』という言葉を無意識に連想し、亮助は即座に理解する。デュエルはまだ、終わってはいないと。

「お見事と言っておきましょう。まさか、このカードまで使う事になるとは思ってもいませんでした」

 黒い膜の向こうからデスの声が聞こえたかと思うと、彼を覆っていたそれ(・・)が黒い粒子へと変わり、やがて別の形状となって彼の場に舞い降りた。

 子供くらいの大きさの、黒いローブを纏った人型のシルエット。輪郭らしいものはあるものの顔はマネキンの様に無機質で、黒く塗られている。手や足も同様で、宛ら影が形を持ったようであった。

 頭に被ったフードには猫耳のような膨らみがあり、手には自身より大きい大鎌が一本。猫の耳を持つ死神、という表現がしっくり来るだろうか。

「っ…。まさか…!」

 黒いシルエットの出現に嫌な予感を抱いた亮助が、また一歩後退りする。

「異端の、札か…!」

「その通りです。僕の異端の札『グリムリーパー・リゼンブルズ・キャット』は、ダメージによってライフが0になる時、そのダメージを無効にして場に特殊召喚されます」

 デスの解説を受け、慌ててクリフが彼のライフを確認する。その数値は言葉通り、《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃を受ける前より一切変化していなかった。

「グリムリーパーは戦闘では破壊されず、他のカードの効果を受けません。そしてこのカードが場にいる限り、僕と塔さんに向けられる全てのダメージは0になります」

「何だって!? じゃあ…」

「ええ。このカードが場にある限り、僕達のライフを削る事はできません。…もっとも、グリムリーパーは次の塔さんのスタンバイフェイズにコントローラーの手札に戻ってしまいますがね」

 淡々と告げられる事実に、亮助は言葉も出なかった。

 撃破する事ができず、プレイヤーへのダメージをも無効にする。それは即ち、ダメージではデスを倒す事ができない事を意味する。

 例えもう一度《パワー・ツール・ドラゴン》でデスを攻撃しようと、初期ライフを上回る火力で一斉攻撃をしようと。あの死神が立ち塞がっている限り、デスのライフが0になる事は無い。

「相手の攻撃を全て遮断する。それが僕の異端の札、死神は猫のような姿をしている(グリムリーパー・リゼンブルズ・キャット)

 《未染色の塔》を撃破したのも束の間、第二の異端の札の出現に亮助は思わず息を飲む。

 効果そのものは《未染色の塔》と違い受け身なものだが、それだけに崩す事は難しい。だが、あのカードをどうにかしなければ、このデュエルに勝利するのは極めて困難だ。

「厄介な事になったな…。どうするクリフ、あのカードを何とか処理しないと、俺達に勝ち目は無さそうだぜ」

 互いに手札を消耗しきった今、第二の異端の札を突破するのは難しい。何か良い手は無いものかと相談を持ち掛ける亮助だが、クリフは答えず、ぼんやりとした表情でデスの方を見ていた。

「…クリフ?」

 思わず声をかけると、クリフは顔をデスに向けたまま、「亮助君」と小さく呟く。

「ボク、気付いたかも…。あの猫さん、弱点があるよ」

「弱点?」

「うん。あのね…」

 クリフは亮助の傍に歩み寄り、自信無さげな表情でそっと耳打ちする。

 ごにょごにょと告げられる、ある事実。それを聞いた亮助は表情を変え、「本当か?」とクリフに問い返した。

「あの猫、本当にそうなのか?」

「うん。ボク、あの女の子のカードが怖くて、ずっと猫さんの方を見てたから…。間違いないよ」

「…わかった。だとすると、あのデスって黒猫には…」

 クリフと亮助、二人の瞳がデスへと向けられる。

「決闘者として、致命的な弱点がある――」

 デュエルは新たな役者を加え、終盤へと突入する。

 

 

 「死者蘇生」 通常魔法(制限カード)

 効果:自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。

 そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

 「リミッター解除」 速攻魔法

 効果:このカードの発動時に自分フィールド上に表側表示で存在する全ての機械族モンスターは、ターン終了時まで攻撃力が倍になる。

 このターンのエンドフェイズ時、この効果を受けたモンスターを全て破壊する。

 

 『グリムリーパー・リゼンブルズ・キャット』 モンスター

 闇属性 悪魔族 ☆1

 攻撃力0 守備力0

 “悪しき魔女を焼いてしまえ。二度と悪さができぬように。奴の猫も焼いてしまえ。二度と犠牲者が出ぬように。”

 効果:このカードは通常召喚できない。

 自分のライフポイントが戦闘及びカードの効果によるダメージによって0になる場合、そのダメージを0にしてこのカードを手札から特殊召喚する事ができる。

 このカードは戦闘では破壊されず、このカード以外のカードの効果を受けない。このカードが存在する限り、自分が受ける全てのダメージは0となる。

 自分のターンのスタンバイフェイズ時、このカードをコントローラーの手札に戻す。

 

 

 【パワー・ツール・ドラゴン】

 攻撃力2300→4600

 

 

【クリフ & 亮助】 LP:5850

クリフの手札:1枚(死の合唱)

亮助の手札:0枚

モンスター:パワー・ツール・ドラゴン(リミッター解除によりエンドフェイズに破壊確定)

魔法&罠:0枚

ペンデュラム:無し

フィールド:湿地草原

 

【塔 & 死神】 LP:1225

塔の手札:1枚

死神の手札:0枚

モンスター:グリムリーパー・リゼンブルズ・キャット(攻撃表示)

魔法&罠:猫の貯金箱(カウンター数:1)

ペンデュラム:無し

フィールド:無し

 

 

――――

【デッキ紹介】

 

No.12

デッキ名:ディフォーマーデッキ

使用者:明端 亮助

切り札:パワー・ツール・ドラゴン

コンセプト:機械弄りが好きな彼のイメージに合った機械族を中心としたデッキ。各種ディフォーマーを展開し、一気に攻める戦術を得意とする。

ディフォーマーは専用サポートカード以外にも相性が良いカードが多く、表示形式によって変化するモンスター効果と合わせて多彩な戦い方をする事ができる。特に《D・モバホン》の展開力は優秀で、このカードを軸に置いた戦術が基本となる。

また、ディフォーマーの攻撃力不足をシンクロ召喚や装備魔法で補っており、火力面も十分。それどころか1ターンキルで相手を即座に畳みかける事も可能である。

ただし。このデッキの性能を引き出すには、とにもかくにもモンスターを展開しなければならなず、特殊召喚を封じられたりモンスター効果を無効化されると脆い。他にもサポートカードの発動を妨害された場合も戦局に大きく響いてしまうという弱点がある。

もっともそれはこのデッキに限った弱点では無いのだが。

 

No.13

デッキ名:首なしデッキ

使用者:塔

切り札:未染色の塔

コンセプト:相手モンスターの首を刎ねる事にのみ特化した頭のおかしいデッキ。主要モンスターは首が無い、あるいは頭部に関連したデザインのものが多く、決闘盤で立体化するとそれはもう凄い事になる。

《断頭台の惨劇》や《デーモン・イーター》など、明らかにイラストだけで採用したとしか思えないカードが多数入っているのも特徴。特に《首なし騎士》がお気に入りのようで、わざわざ通常モンスター専用のサポートカードを投入する程。

デッキとしては決して優秀とは言えないが、趣味に特化している為に先が読めない事と、シンクロ召喚やエクシーズ召喚を行う事自体は容易い事。何より異端の札《未染色の塔》が非常に強力な事などから油断は禁物。

また、これは塔自身も予期していなかった事なのだが、グロテスクなモンスターを立体映像で呼び出す事により、対戦相手の精神にダメージを与える事もある。怖がりな女性や子供はもちろん、お気に入りのモンスターを惨殺されればどんな決闘者でも心に来るものである。そもそも塔自身の雰囲気が怖いという事もあるが。

良くも悪くも決闘盤の立体映像システムを活用したデッキであり、原作で梶木漁太が使用したシー・ステルスと着目点が近い戦術であるとも言える。

 

――――

【異端の札紹介】

 

カード名:未染色の塔(アンステンド・タワー)

所有者:塔

カードタイプ:永続罠

詳細:塔が異端の札に触れる事で発現するカード。彼女好みの悪趣味なデザインと、「破壊」に関する三つの効果を持つ。

相手の攻撃モンスターを破壊する効果、自分の攻撃モンスターを直接攻撃させた上で相手モンスターを破壊する効果、自身が破壊された場合モンスター化しエンドフェイズに再度セットされる効果。何れもノーコスト且つ毎ターン発動する事ができ、シンプルながら非常に凶悪。

一方で除外やバウンスには弱く、リリオンの異端の札に比べて弱点が多い。強力な直接攻撃効果を使うには一度セットしてから一ターン待たなければならない事も難点か。




もうすぐコナンの最新映画が公開されるみたいだけれど、冒頭のクイズってまだ飽きずにやってるのかな?
と言う訳で、今回は久しぶりに読者の皆様にクイズを二つ用意しました。暇つぶし程度に受けてやってください。

クイズ1.
「今回の話の最後で触れられていたデスの弱点とは、いったい何でしょうか?」

クイズ2.
「デスの異端の札グリムリーパー以下略は、彼の言う通り防御に特化した効果を持っていますが、実は防御の他にもう1つ使い道があります。それは何でしょうか?」

答えはまた次回かな!
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