クロンの呼応   作:恐竜紳士

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第三十六話:教皇の奇跡 ―その2

 人間の体は、何兆個という無数の細胞によって構成されている。

 それらは人が成長する毎に分裂を行い、古い細胞を捨てる事によって身体の劣化を防ぐ機能を持つ。人が健康状態を永く保つ事が出来るのは、細胞が定期的に分裂を行うからなのである。

 だが、生物が一生の内に行える細胞分裂の回数には限度がある。細胞組織の末端、テロメアと呼ばれるものが細胞分裂の度に短縮し、徐々に細胞が劣化していく為である。

 回数の限度は生物の種によって異なるが、限度を迎えた細胞は分裂を行う事ができずに老化。やがてその生物は死に至る。――遺伝子的に刻まれた、生命の寿命である。

 このテロリアの短縮を防ぎ、細胞分裂の限度を取り除く事が出来るとしたら、その生物は寿命という束縛から解き放たれる事も可能である。現にロブスターやベニクラゲといった生物はその術を会得し、理論上は永遠の命を得ている。外敵さえ存在しなければ、彼等は永遠の時を生きる事が出来るのだろう。

 そして、もし。人間が細胞分裂(ヘイフリック)の限界を取り除き、テロリアの短縮を防ぐ事が出来たとしたら。その者は寿命を捨て、永遠を生きる事さえ出来るだろう――…。

「それが、僕のデッキのテーマの一つだ」

 廃墟の玄関ホールに、教皇の声が木魂する。

 三十半ばを越えて尚、青年のような若々しさを保つ細身の男。狡猾な光を緑色の双眸に宿らせ、口元には子供のような笑みを浮かべている。彼は一度デュエルの手を止めると、子供に語り掛けるような穏やかな声でミランダ達に語り掛けた。

「不老不死、死後の復活、魂の転生…。描き方は様々だが、不滅の存在でありたいと願うのは古来から人の夢だった。死の束縛から解放され、永遠を生きたい。生きられる筈だと、彼らは心から信じていたんだ。…星ですら、いつかは光を失ってしまうと言うのにね」

「……いったい、何の話?」

「聖書によれば」

 話に割り込もうとしたミランダの声を教皇は手で遮り、

「神が人を楽園から追放したのは、知恵の実を食べた人類が生命の実をも口にして、自らと同じ永遠の存在になる事を恐れたからだとされている。人の創った物語に過ぎないけれど、神が人を恐れた……というのは興味深いと思わないかい? 永遠の命は人類の夢であると同時に、神にとっての恐怖でもあったんだ」

 胸に手を添え、己の言葉に酔いしれる様に。あるいは役者の如き芝居がかった語り口で、教皇は言葉を続ける。

「僕のデッキは、ライフを永遠に維持する事で人類の夢を叶えている。神の恐怖を体現している。どれだけダメージを受けようとも、どれ程のライフコストを払おうとも。僕のライフはそれ以上に回復し、決して尽きる事は無い。少なくとも、君達が倒れるまではね」

 物静かに語りながら、教皇はふとミランダ達に眼差しを向ける。

 君達には、僕のライフを削り切る事は出来ない。そう遠回しに言っているらしい彼に、ミランダは小さく舌打ちした。

 何故彼が急に自らデッキの情報を喋り出したのかはわからないが、少なくとも嘘を言っている様子は無い。この男なりの下らない美学なのか、それとも心理的な揺さぶりなのか? …どちらでもいい、とミランダは内心呟いた。

 このデュエルが始まってから現在までの数ターン、自分達が教皇に与えたダメージは既に10000ポイントを越えている。それでも尚教皇が立っていられるのは、彼の言葉通りそれ以上のライフ回復力があるからに他ならない。

 それを如何に攻略し、このデュエルに勝利するか? 今重要なのはそれだけだ。

「今の君達の連携は見事だった」

 そんなミランダの考えを知ってか知らずか、教皇は再び話題をデュエルへと戻す。

「血縁の絆は偉大だね。相手の弱さを認めた上でそれを支える、言うのは簡単だがそうそう出来る事じゃない。…けれど惜しいな、致命傷で無ければ僕へのダメージは無いに等しい。次はより強い火力を出すといいよ。さもなければ…」

 さもなければ、君達が勝利する事は決してない。言葉で無く目で嘯き、教皇は次のターンプレイヤーである(タワー)に視線を向ける。

 意識を失い、教皇の意のままに操られる無垢な人形。その右腕が力無く持ち上がり、新たなカードを引くべくデッキへと伸びた。

「楽しいな、人生は。一人では生きていけないから、多くの出会いがある。永く生きていれば、死に別れた恋人や友人と再会する事だって出来る。永遠は、人の夢だよ」

 もう一度呟きながら、教皇はにこりと笑みを浮かべる。飾り過ぎる程のその言葉が紛れも無い本心である事は、その表情だけで伺う事が出来た。

 

 

 【ミランダ & クリフ】

 LP:6400

 

 クリフ手札:1枚(鬼ガエル)

 ミランダ手札:2枚

 モンスター:デスガエル(攻撃表示)、No.73 激瀧神アビス・スプラッシュ(攻撃表示)

 魔法&罠:水神の護符(残り2ターン)

 ペンデュラム:無し

 フィールド:湿地草原

 

 【教皇 & 塔】

 LP:3250

 教皇手札:0枚

 塔手札:2枚

 モンスター:無し

 魔法&罠:無し

 ペンデュラム:無し

 フィールド:無し

 

「さて、お話はここまでにしようか。次は塔のターンだったね」

 その一言をきっかけに止まっていたデュエルは動き出し、塔は機械的な動きでカードを引き抜く。

 本来であれば彼女が何を引いたのか確認する事は出来ないが、今回に限ってはわかっている。先のターンにデッキトップに戻した《セーヌのデスマスク》だ。 

「まずは生命力の果実の効果でライフを回復しておこうか。そしてまだまだ回復するよ、永続魔法、セーヌのデスマスクを発動だ」

 塔の指がそのままドローカードを決闘盤に差し込み、石膏で造られた少女の死に顔が再び出現する。

 これで教皇達のライフは、彼らのターン毎に1700ポイント回復する事になる。平凡な下級モンスターの直接攻撃一回分に相応する数値だ。

 教皇は「デスマスクの効果説明は不要だね?」と冗談を一つ零すと、塔の体越しに次の手を打った。

「手札からモンスターを裏守備表示でセット。そして魔法カード、命削りの宝札を発動するよ。塔の手札が三枚になるようにカードをドローする」

「っ…!」

 面倒なカードを。思わず顔をしかめるミランダだが、今の彼女には《宝札》の発動を止める手は無い。一度は尽きた塔の手札が三枚に増えるのを指を咥えて見るしか出来なかった。

「…うん、悪くない引きだ。カードを二枚セットして、ターンエンドだよ」

 三枚となった手札のうち二枚を展開し、徹底した守りの布陣となる。

 次の教皇のターンまでライフの損失を最小限に抑え、反撃に転じようという腹なのだろう。攻撃的であった塔とは対照的に、慎重な手の打ち方だった。

「そしてこの瞬間……命削りの宝札により、塔の手札は全て墓地へ送られる」

 小さく告げた教皇があらぬ方向に視線をと向けると同時、暗闇の中から現れた刃が塔の右手を切断し、使い損ねた《デーモン・イーター》のカードごと地面に落とす。

 決闘盤による《命削りの宝札》のデメリット演出であるが、立体永続とは言え少女の手首が切り落とされる様は痛々しいものがある。教皇が視線を逸らしたのも、その場面を直視したくなかった為だろう。

「…それから、もう一つ。デスマスクの効果により、僕のライフは700ポイント回復する」

 塔の場に浮かんだ少女の死に顔が仄かに光り、教皇のライフを回復する。これにより教皇のライフは4950にまで持ち直し、クリフが与えたダメージは早くも癒えつつあった。

 

 

 「命削りの宝札」 通常魔法

 効果:「命削りの宝札」は1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚できない。

 ①:自分は手札が3枚になるようにデッキからドローする。

 このカードの発動後、ターン終了時まで相手が受ける全てのダメージは0になる。このターンのエンドフェイズに、自分の手札を全て墓地へ送る。

 

 「デーモン・イーター」 モンスター

 地属性 獣族 ☆4

 攻撃力1500 守備力200

 効果:①:「デーモン・イーター」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

 ②:自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

 ③:相手エンドフェイズにこのカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊し、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 【教皇 & 塔】

 LP:3250→4250→4950

 

 

「私のターン!」

 ミランダがカードを引き抜くと同時、彼女の頭上に浮かぶ《水神の護符》に亀裂が生じる。

 長らく彼女達のモンスターを破壊から守っていたこのカードも、そろそろ効果が切れかけているようだ。次の教皇のターンが終わると《護符》は完全に砕け散り、ミランダ達のモンスターは破壊耐性を失う事になる。ミランダはパラパラと落ちる《護符》の欠片を髪で受けながら、まずは余裕の笑みを浮かべている教皇に目を向けた。

(戦局的には私達の有利……けど、確かに教皇(こいつ)の回復ペースは普通じゃない。もし私達が一度でも攻撃の手を止めようものなら、こいつのライフは際限なく回復していく事になる…)

 そうなったら、今の優勢なんて一瞬で崩壊しかねない。

 改めて油断ならない勝負である事を実感したミランダは、攻勢を続けるべく一枚のカードを決闘盤に差し込んだ。

「魔法カード、死者蘇生を発動! クリフの未知ガエルを攻撃表示で蘇生するわ!」

 ミランダが発動したカードにより再度蘇る《未知ガエル》。教皇の《樹護天使メタトロン》には容易く破壊されたものの、《湿地草原》によって強化された貫通攻撃は今の状況に最も適していた。

(未知ガエルの貫通攻撃と、アビス・スプラッシュとデスガエルの追撃…。これだけでも仕留め切れそうなものだけど、念を入れるに越した事は無いわね)

 戯言とは言え、不死を嘯く程の戦術と自信だ。三度の攻撃だけで、ライフを削り切れるとは思えない。ミランダは手札に視線を落とすと、新たなカードを選んで決闘盤に叩き付けた。

「手札から、オーロラ・ウィングを召喚!」 

 ダメ押しとばかりに召喚されたのは、絹の様に滑らかな翼を持つ美しい鳥。その体はその名の通り鮮やかな輝きを放ち、神秘的な印象を受ける。攻撃力こそ高く無いものの自己再生効果を持ち、場持ちの良いモンスターである。

 これでミランダ達の場には四体ものモンスターが並んだ。屈強な僕がズラリと並ぶ様は圧巻の一言だが、勝負が終わるまでは気を緩める暇など無い。

「さあ、バトルよ! 未知ガエルで、裏守備モンスターに攻撃!」

 呼吸を一つした後、ミランダは意を決して総攻撃を仕掛ける。

 このバトルで教皇のライフを0にするのが理想だが、仮にそれがならなかったとしても彼のライフを3000ポイント……否、2000ポイント以下にすれば次の《樹護天使》の召喚を封じられる。《死の合唱》によって教皇の体制が崩れた今こそ、勝敗を別つ正念場だった。

「セットモンスターは無頭のケルベロス、リクルートモンスターだ。戦闘によって破壊された場合、デッキから新たなケルベロスを特殊召喚できるよ」

「――けど、ダメージは受けて貰うわ!」

 《未知ガエル》の矛が頭部を持たない地獄の番犬を貫き、教皇のライフを大きく削る。それと同時、教皇の場には新たな《ケルベロス》が召喚され彼を守る盾となった。

 残る攻撃モンスターは三体。《ケルベロス》によって最低でも二回は攻撃を止められる事が確定した今、教皇のライフを削り切る事は不可能となった。ならば、ここは次善の策。少しでも教皇のライフを削りに掛かるしかない。

「次よ! オーロラ・ウィングで、無頭のケルベロスに攻撃!」

 命令を受けた《オーロラ・ウィング》が宙を泳ぐようにして二体目の《ケルベロス》に飛び掛かり、これを破壊する。しかし《未知ガエル》のような貫通効果を持たない為、教皇にダメージは無い。教皇は涼しげに笑いながら、新たな壁を展開した。

「無頭のケルベロスのリクルート効果。三体目のケルベロスを特殊召喚するよ」

 三度ミランダ達の前に現れる無頭の番犬。それを視界に入れるが早いか、ミランダは再び攻撃を宣言した。

「デスガエルの攻撃! 消え去りなさい、悪趣味な駄犬!」

 第三の攻撃が宣言され、《デスガエル》は舌を鞭の様にしならせて新たな《ケルベロス》を粉砕する。

 今度も教皇にダメージは無いが、確実に敵を追い詰めている実感はある。後は《アビス・スプラッシュ》の攻撃が通れば…。そう考えた矢先、「まだまだ!」と叫んだ教皇の声が彼女の思考を遮った。

「無頭のケルベロスのリクルート効果! 新しいケルベロスを特殊召喚するよ!」

 高らかに宣言した教皇が自身の場に手を伸ばすが、これまでと違い《ケルベロス》は出現しない。教皇は「あれ?」と頓狂な声を漏らした後、思い出した様に口を手で抑えた。

「あっ、しまった…。塔のデッキにはもう、特殊召喚できるケルベロスが…!」

 演技でやっているのか、それとも素でやっているのか。

 大袈裟に焦る彼の様子からは判断できないが、これで教皇の場のモンスターは尽きた。そしてミランダの場にはまだ、《アビス・スプラッシュ》が攻撃の指令を待って控えている。

「壁が無くなったのなら、次はあんた自身で受けなさい! 激瀧神アビス・スプラッシュ、教皇に直接攻撃よ!」

 巨神の眼が光り、振り上げられた杖の先端から放たれた裁きの雷が教皇へと向かう。

 三度攻撃を凌がれ、ようやく手にした痛撃の機会だ。ミランダは拳を強く握りしめて、この教皇の動向を見つめた。

(この一撃が通れば、次の樹護天使の召喚を阻止できる――!)

(この一撃を通したら、次の樹護天使の召喚は無理だ――!)

 ミランダと教皇の思惑が交わり、《アビス・スプラッシュ》の一撃が教皇を撃とうとした、まさにその瞬間。教皇の足元の段差が吹き飛び、白銀の鎧を身に着けた騎士が彼の場に馳せ参じた。

 塔の愛用モンスター、《首なし騎士》。彼の妄執の塊とも言うべきそのモンスターは身を盾にして《アビス・スプラッシュ》の攻撃を受け止め、我が身と引き換えに教皇を護り切った。

「なっ――!」

「そうそう、思い出したよ…。さっきの塔のターンに、蘇りし魂を伏せていたんだった。これを発動して、首なし騎士に攻撃を防いで貰ったよ」

 砕け散った《首なし騎士》の残骸を幾つか身に受けながら、教皇は穏やかな笑みを塔に向ける。力無く右腕を持ち上げた塔の場には、教皇の言葉通りのカードが翻っていた。

 最後の攻撃も、防がれた。その事実を実感したミランダは、より強い力で拳を握りしめる。渾身の一撃を防いだのが塔のカード、それもただの通常モンスターだったというのも余計に彼女の怒りを加速させた。

「不思議なものだね」

 そんなミランダの怒りを知ってか知らずか、教皇は彼女の思考を乱すかのように落ち着いた声で呟く。

「塔のデッキは攻撃特化型だ。本来なら守りには向かない構成なのに、今、君の攻撃を全て凌ぐ事が出来た。もし一枚でもカードが欠けていれば、僕のライフは大きく削られていただろう」

 芝居がかった声がミランダ達の耳朶を撫で、再びデュエルを中断させる。

「デッキが持ち主の想いに応え、理想的な引きを与える事があるそうだ。愛情を注いで作られたデッキほど、その傾向が強いと言う。僕を守ろうとする塔の意思がカードに伝わり、我が身を削ってまで僕への致命傷を防ごうとした……そうは思わないかい?」

「…乙女チックが過ぎるわね。ただ単に引きが良くて、このターンを凌いだ。それだけの事でしょ」

 辛辣に返しながらも、ミランダは教皇の言葉を強く否定する事は出来なかった。

 決闘者の想いに、デッキが応える。あり得る事だと、ミランダは心の奥底では認めていた。馬鹿げた考えかも知れないが、デュエルでは時に確率を超越した“奇跡”が起きる事もままある。

 数十分の一という確率の連鎖が、戦局を大きく変えるのだ。それが単なる偶然によるものか、それとも、カードが持ち主に注がれた愛情に応えようとしたのか? …少なくとも決闘者と呼ばれる者達は、後者を信じる傾向にある。

 だが。例えそうであったとしても、実際にデュエルを行うのは人間である。ミランダは心に忍び寄ろうとする教皇の言葉を振り解くと、強い眼差しを倒すべき敵に向け直した。

「これ以上あんたの戯言に付き合うつもりは無いわ。カードを一枚セットして、ターンエンドよ!」

 教皇の反撃に備えるべく守りを固め、ミランダはターンを終了する。

 これで彼女の手札は尽きた。もしこの先デュエルの主導権を敵に奪われる事があれば、そこからの巻き返しは難しい。このターンで仕留め切れなかった事が悔やまれるが、全ては過ぎた事。ミランダは前向きに状況を受け入れ、教皇の出方を待った。

 

 

 「死者蘇生」 通常魔法

 効果:①:自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

 「オーロラ・ウィング」 モンスター

 水属性 鳥獣族 ☆4

 攻撃力1200 守備力1600

 効果:このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、このカードを表側攻撃表示で特殊召喚できる。

 「オーロラ・ウィング」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 『無頭のケルベロス』 モンスター

 闇属性 獣族 ☆3

 攻撃力1000 守備力700

 効果:①:このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから「無頭のケルベロス」1体を特殊召喚できる。

 ②:このカードが墓地に存在する場合に発動できる。このカード以外の墓地の「無頭のケルベロス」2枚をゲームから除外する事で、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

 「蘇りし魂」 永続罠

 効果:①:自分の墓地の通常モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

 

 【未知ガエル】

 攻撃力1200→2400

 

 【教皇 & 塔】

 LP:4950→3250

 

 

「えぇと…、次は僕のターンかな」

 余裕を含んだ宣言と共に、教皇はカードをドローする。

 彼の手札はこのドローカード一枚のみ。本来であればプレッシャーにすら感じない枚数であるが、この男の性格と戦術は未だ底知れぬ所がある。油断は出来なかった。

「生命力の果実により、僕のライフは1000ポイント回復する。そして墓地の『神園樹の種』の効果を発動! このカードをゲームから除外する事で、デッキから神園樹モンスターを一体手札に加える!」

 宣言した教皇はデッキを扇状に広げ、その中から一枚のカードを選ぶと、ちらりとミランダ達を一瞥して手札に加えた。

 任意の《神園樹》を手札に加える。それは即ち、より状況に適した《樹護天使》を特殊召喚できる事を意味する。状況に適するとは即ち、ミランダ達にとって最も都合の悪い効果を秘めた強敵が出て来るという事だ。

「さあ、反撃といこうか。手札から『神園樹ホド』を召喚!」

 教皇が手札に加えたカードを決闘盤に叩きつけると、彼の背後に新たな大樹が出現し、周囲の壁や天井を突き破って成長する。

「神園樹ホドが召喚された事で、効果発動! 3000ポイントのライフを代償に、樹護天使ラファエルを特殊召喚する!」

 育ちきった大樹に桃色の実が成り、地に落ちる。砕け散った実から吹き出した光の粒子は、これまでと同じように新たな天使を形作った。

 ピンク色の髪を靡かせた、絶世の美女。スタイルの良い体を一枚の布のみで着飾ったその天使は、四枚の翼を大きく広げて《神園樹ホド》の傍に寄り添う。

 その攻撃力は《メタトロン》らと同じ4000ポイント。これだけでも驚異として十分であるが、《樹護天使》の真価はモンスター効果にある。

「樹護天使ラファエルの効果を発動! デュエル中に一度だけ、僕のライフが8000ポイントになるように回復する!」

「なっ――」

 予想を上回る効果に驚く暇も無く、舞い落ちる天使の羽が戦い疲れた教皇を癒し、1250ポイントにまで低下していたライフを回復させる。

 デュエル中に一度のみとは言え、6750ポイントもの回復は尋常では無い。《ラファエル》の召喚に使用したコストはおろか、クリフとミランダが苦心の末に与えたダメージまで一度に取り返されてした形だった。

(流石にイラっと来るわね…)

 思わず舌打ちするミランダだが、と言って、これで勝機が潰えた訳では無い。

 《樹護天使》は《神園樹》さえ除去してしまえば自壊する制約を持っているし、ミランダ達のモンスターは未だ健在。この程度(・・・・)の事であれば、まだまだ優位は彼女達の方だ。

 ただ、一つ。ミランダが恐れているのは、塔が残した一枚のカードの存在だった。《命削りの宝札》の効果でドローし、先程の連続攻撃の最中でも発動する事の無かった一枚の伏せカード(・・・・・)…。

(もし…。あの伏せカードが、例のカードだったとしたら…)

 十分にあり得る。

 緊張状態の中で研ぎ澄まされた彼女の直感が、最悪の展開を敏感に感じ取った時。「さて」と一声置いた教皇が、静かに唇を吊り上げた。

「今度は僕らが、異端のコンビネーションを披露しようか。――機動しろ、塔の異端の札! 永続罠カード、未染色の塔を発動!」

 塔の伏せカードが翻り、塔の背後に夥しい数の生首が降り注ぐ。それらは小石を積み上げるように積み重なり、やがて生首の塔を作り上げた。

 《未染色の塔》。破壊に特化した効果を持つ、塔の異端の札――。クリフ達を何度となく苦しめたこのカードは、使用者が意識を失った今も発動し、ミランダ達の前に姿を現した。

(やっぱり引いてたわね…。けど、水神の護符の効果が私の場に残っている限り、未染色の塔の効果は私達のモンスターには通用しない筈。何故このタイミングで異端の札を…?)

 如何に異端の札と言えど、カードには違いない。破壊されないものを破壊するような真似は出来ない筈だ。積み上がった生首の塔を一睨みし、ミランダが一つの疑問を抱いた時。「この瞬間――、」と続いた教皇の言葉が、彼女の耳朶を叩いた。

「塔の異端の札、未染色の塔が発動したこの瞬間! 今度は僕の異端の札(・・・・・・・・・)、『二心抱きし傀儡教皇(ディプライブ・パペット・ハイエロファント)』の効果が発動する!」

「何ですって!?」

 重なった衝撃にミランダが声を荒げたと同時、積み上がったばかりの生首の塔の頭頂部が崩れ、そこから一体の人形が半身を覗かせる。

 黒いローブを羽織った、人間の子供程の大きさの木彫りの人形。背中には下半身の無い人骨を背負い、のっぺらぼうの顔をミランダ達に向けている。

「あれは…、さっきの…!」

 亮助の震える声に応じる様に、人形は球体関節を曲げて両腕を広げ、ふわりと宙に浮かび上がる。

 人形は火の玉の様に不規則かつ力無い動きで《未染色の塔》の傍を旋回し、異質な存在感を周囲にばら撒く。人形からは《未染色の塔》にも劣らない程の禍々しさが感じられ、このカードが通常のもので無い事を一目で実感できた。

「僕の異端の札、傀儡教皇は少し特殊でね」

 その人形――。《傀儡教皇》の威圧に呑まれて掛けていたミランダ達の意識を、教皇の声が呼び覚ます。

「傀儡教皇は塔の異端の札、つまり未染色の塔が発動した時、デッキか手札から特殊召喚する事ができる。つまり他者の異端の札によって目覚める異端の札だ。呼応する、と言い換えてもいい」

「他人の異端の札に連動して発動する、ですって…!?」

「仲間内で、この手(・・・)の効果が発現したのは僕だけだ。どうしてこんな効果が発現したのかは僕自身にもわからないけれど……そうだなぁ。多分、相性というやつなんだろう。僕と塔は、何かと性格が噛み合っていたからね」

 思わず聞き返したミランダの問いに、教皇は涼しげに答えた。

 他者の異端の札をきっかけに発動する異端の札。考えもしなかった可能性だが、もとより異端の札に付いて多くを知っている訳では無い。だからこのタイミングで《未染色の塔》を、だからタッグデュエルをと、遅すぎる納得に歯噛みするしか無かった。

「異端の札には持ち主の性格が出ると、僕は言ったね…? まさにその通りなんだ。異端の札は心の表れ、相性の良い者同士が出会った時、異端の札は共鳴する。僕と塔の異端の札は、二枚(ふたり)揃って初めて力を発揮するのさ。ふふ…」

 微笑に影を含ませながら、教皇は《傀儡教皇》に向けていた双眸を《ラファエル》に向ける。その視線の動きで彼の思惑を察したミランダは、半ば無意識に伏せカードに手を伸ばした。

「論より証拠、見せてあげよう。樹護天使ラファエルで、オーロラ・ウィングを攻撃する!」

 教皇が宣言すると同時、彼の声に応えるように積み上げられた生首達が宙に浮かび、《オーロラ・ウィング》に向かっていく。

「未染色の塔の効果発動! オーロラ・ウィングに対するラファエルの攻撃を、君達への直接攻撃に変更する!」

 生首達が一斉に《オーロラ・ウィング》に飛び掛かり、美しき鳥を地面に押し倒す。攻撃対象を見失った《ラファエル》は標的をミランダ達に定め、攻撃態勢を取った。――その瞬間、

「させないわ! 罠カード、『氷結界』を発動! 攻撃モンスターの攻撃力を0にして、モンスター効果を無効にする!」

「むっ…!」

 一瞬早く動いたミランダが伏せカードを発動し、そのカードから放たれた冷気が《ラファエル》を凍結させる。

 如何に《未染色の塔》が強力だろうと、《樹護天使》そのものを無力化してしまえば問題は無い。全身を氷漬けにされた《ラファエル》は完全に静止し、完全に攻撃能力を失った。

 これで、このターンの攻撃は凌いだ。ミランダがそう考えた、次の瞬間。

「甘いな」

 教皇の声が小さく聞こえたかと思うと、《ラファエル》を覆っていた氷が粉々に砕け、一度は止まったかに見えた攻撃が再開される。《神園樹ホド》から放たれた樹皮の弾丸がミランダの体を刺し貫き、彼女のライフを大きく減少させた。

「なっ…!」

 攻撃は確かに止めた筈。思わず声を上げたミランダが決闘盤を確認するが、彼女のライフはきっちり4000ポイント減少しており、攻撃が直撃した事を示していた。

「いったい何故…!? 氷結界の効果でラファエルの攻撃力は0になった筈――! 教皇の異端の札が何かしたって言うの!?」

「ミ、ミラるん…。違うよミラるん、今のは……」

 さしものミランダも動揺を隠せず、苛立ちで焦りを誤魔化した時。彼女の背後から、掠れるような百合の声が聞こえて来た。

 振り返ると、そこには百合と亮助が青ざめた顔をしてミランダを指差していた。――いや、正確にはミランダの右手を指差しているのだろうか。何か訴えようとして言葉が浮かばず、指だけで示している。そんな様子だった。

「い、今……私は後ろで見てたから何が起こったのかわかったけど…。マズいよミラるん…。あの異端の札は、私達が思っている以上に絶対にヤバいよ…!」

「…? 何の話? 百合、いったい何を…」

 言いながら、彼女達が指差す方に目を向けると。自らの右腕に光り輝く何かが巻き付いている事にミランダは気付いた。

 光の糸とでも言うべきそれは、植物の蔓の様に彼女の腕に巻き付き、一部は腕と一体化している。その糸は真っ直ぐ《傀儡教皇》の方へと伸びて行き、《傀儡教皇》が背負う人骨の左手の指先から発されている事が確認できた。

 そして、もう一つ。ミランダの右手には、たった今発動したばかりの《氷結界》のカードが握られている。その二つの事実を前に、ミランダは大きく目を見開いた。

「これ、は…!?」

「その糸みたいなのが何なのかはわからないけど……ミラるんは今、自分でそのカードを決闘盤から外したんだよ。そのカードを外したから、決闘盤は氷結界の発動を止めてラファエルの攻撃を続行させた…! つまり、氷結界の発動を止めたのは…!」

 百合の言葉は、半分もミランダの頭には入らなかった。

 理解するよりも先に「何かされた」と直感したミランダは、その実行犯であろう教皇を睨み付ける。

「これが、あんたの異端の札の能力……ってわけね…!?」

「おや…。気付くのが早いね。その通り、僕の傀儡教皇は対戦相手そのもの(・・・・・・・・)を操る効果を持っている。君の罠カードが発動しなかったのも、その力によるものだ」

 悪びれる訳でも無く、開き直るでも無く。手品の種明かしをするかの様に教皇は語る。

 いつしかミランダの腕に絡んでいた糸は外れ、《傀儡教皇》の人骨の指先へと戻って行く。教皇は糸の回収を見届けると、微笑を一つ浮かべて言葉を続けた。

「発動条件は相手が魔法か罠カードを発動した時。2000ポイントとライフと引き換えに、傀儡教皇はそのカードの発動を無効にする事が出来る。無効にしたカードは持ち主の手札に戻り、そのターン中は再び発動する事が出来ない。…そうだな、ゴブリンのその場しのぎに似た効果と言えばわかりやすいかも知れないね」

 教皇が古いカードの名を挙げると同時、《傀儡教皇》が背負う人骨の口から赤い炎が吐き出され、衛星のように《傀儡教皇》の傍を回り始める。

 教皇はそちらに目をやりながら、

「そしてこの効果でカードの発動を無効にした後、傀儡教皇にカウンターが一つ乗る。…以上が、傀儡教皇の二つ目の(・・・・)効果だ」

(ライフと引き換えにこっちのカードの発動を封じる効果…。成程、確かに未染色の塔との相性は良さそうね…)

 次第に冷静さを取り戻しながら、ミランダは次いで《未染色の塔》が襲っている《オーロラ・ウィング》へと視線を向ける。それに釣られる形で視線を動かした教皇は、「そうそう」と恍けた声で自らのターンを再開した。

「未染色の塔の効果には続きがあったね。君への直接攻撃が済んだ後、最初に攻撃対象となっていたオーロラ・ウィングを破壊する」

 静かに教皇が告げ、生首の一つが地面に引き摺り下ろされた《オーロラ・ウィング》の喉元を食い破ろうとした刹那。ミランダの場に浮かぶ《水神の護符》が突如として光り輝き、その輝きで生首達を弾き飛ばす。

 ミランダ達のモンスターを効果破壊から守り続ける。水神の力を宿した護符。如何に異端の札と言えど神の力には抗えないらしく、《オーロラ・ウィング》をそのままに教皇達の元へと戻って行った。

「…どうやら、既に発動しているカードまでは無効化できないようね」

「ま、そういう事だね。もっとも水神の護符の効果はこのターンで切れる、もし無効化できたとしても、わざわざライフを払ってそのカードを取り除こうとは思わないけどね」

 言いながら教皇はバトルフェイズを終え、最後の手札を決闘盤に差し込む。

 攻撃力4000の《樹護天使》に、モンスターを破壊しつつ直接攻 撃を可能にする《未染色の塔》。そしてこちらの魔法・罠カードの発動を阻止する《傀儡教皇》。一見して、隙が無い。

 今の一撃だけでミランダ達のライフは大きく削られ、残り2400ポイントにまで低下した。もう一度同じ攻撃を受ければ、それだけでミランダ達は敗北する事になる。しかも教皇はまだ、手の内を全て晒した訳では無い。

「あ、そだ。ついでにもう一つ教えておこうかな。僕の傀儡教皇の効果は全部で四つ、今教えた二つ効果とは別に更に二つの効果を持っている」

 右手と左手でピースを作りながら、教皇はにっこりと笑みを笑みを浮かべる。

 今見せた効果に加えて、更に二つのモンスター効果。その事実に、対峙しているミランダはもちろん、後方で観戦していた亮助からも驚愕の声が漏れた。

「ただでさえとんでもない効果なのに、まだ二つも…!? 場には未染色の塔だってあるのに…!」

「どんな効果なのかは発動してのお楽しみ、かな。…っと、僕はこれでターンエンド。さ、君達のターンだよ」

 余裕をたっぷりと滲ませながら、ようやく教皇はターン終了を宣言する。

 それと同時、ミランダ達のモンスターを護っていた《水神の護符》が音も無く崩れ去り、その加護が失われる。文字通り殺傷能力を高めた《未染色の塔》と、未知なる効果を秘めた《傀儡教皇》。状況は、何から何まで悪化している。

(……上等よ…!)

 心の内で自身に喝を入れ、ミランダは改めて教皇達と向き合う。

 元より二枚の異端の札が出て来る事は承知の上だ。その上で勝利すべくタッグを組んだのが自分達だ。ここから先は正念場、今まで以上に気を引き締めて掛からねばならない。…ミランダの闘志は、少しも衰えては居なかった。

 

 

 『神園樹ホド』 モンスター

 地属性 植物族 ☆2

 攻撃力600 守備力600

 効果:①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、3000LPを払う事で発動できる。EXデッキから「樹護天使ラファエル」1体を特殊召喚する。

 ②:このカードの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

 

 『樹護天使ラファエル』 融合モンスター

 光属性 天使族 ☆10

 攻撃力4000 守備力3000

 効果:このカードは「神園樹ホド」の効果でのみ特殊召喚できる。自分フィールドに「神園樹ホド」が表側表示で存在しない場合、このカードを破壊する。

 「樹護天使ラファエル」の①の効果はデュエル中に1度のみ使用できる。

 ①:このカードの特殊召喚に成功したターンのエンドフェイズ時、自分のLPが8000より少ない場合に発動する。自分のLPは8000になる。

 ②:このカードが効果によって破壊され墓地へ送られた場合に発動する。自分は1000LPを回復する。

 

 『未染色の塔(アンステンド・タワー)』 永続罠

 “マイク、マイク、お前の頭は見つかったかい? それはお前と同じように、胴が無くても生きて動いていたのかい?”

 効果:「未染色の塔」はフィールドに1枚しか存在できない。

 このカードの②と③の効果はそれぞれ1ターンに1度、このカードが魔法&罠カードゾーンに存在する場合に発動できる。

 ①:このカードが効果によって破壊された場合、このカードは効果モンスター(アンデット族・闇・星8・攻/守3000)となり、モンスターゾーンに攻撃表示で特殊召喚する。このカードは罠カードとしても扱う。

 この効果を発動したターン終了時、このカードを罠カードとして魔法&罠ゾーンにセットする事ができる。

 ②:自分フィールドのモンスターが相手モンスターを攻撃する場合、その攻撃宣言時に発動できる。その攻撃を相手への直接攻撃にし、攻撃対象となっていたモンスターをダメージ計算後に破壊する。

 ③:相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その攻撃モンスターを破壊する。

 

 『二心抱きし傀儡教皇(ディプライブ・パペット・ハイエロファント)』 モンスター

 光属性 魔法使い族 ☆11

 攻撃力1700 守備力3250

 “神の導きに殉じよう。愛し敬い慰め助け、命の限り心を捧ごう。死が二人を分かつまで”

 効果:このカードは通常召喚できない。このカードを特殊召喚する場合、自分フィールドに存在するモンスター3体をリリースしなければならない。「二心抱きし傀儡教皇」はフィールドに1枚のみ存在できる。

 ①:???

 ②:相手が魔法・罠カードを発動した時、2000LPを払って発動できる。その発動を無効にし、そのカードを持ち主の手札に戻す。このターン、相手は手札に戻したカード及びその同名カードを発動できない。この効果の発動後、このカードに傀儡カウンターを1つ置く。

 ③:???

 ④:「未染色の塔」が発動した場合に発動できる。デッキまたは手札からこのカードを召喚条件を無視して特殊召喚できる。

 

 『氷結界』 通常罠『漫画版・遊戯王GXより』

 効果:相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

 そのモンスターの攻撃力は0となり、次の自分のターンのエンドフェイズまで表示形式を変更する事ができず、効果モンスターの効果は無効化される。

 

 【二心抱きし傀儡教皇】

 傀儡カウンター:0→1

 

 【教皇 & 塔】

 LP:3250→4250→1250→8000→6000→6700

 

 【ミランダ & クリフ】

 LP:6400→2400

 

 

「ボ…、ボクのターン!」

 王手を掛けた状況から、一転して不利な状況へ。クリフは不安と恐怖で胸いっぱいになりながら、希望を得るべく新たなカードを引き抜いた。

 この状況でクリフに求められる役割は、何としても次の《ラファエル》の攻撃を阻止する事。その為には《未染色の塔》、もしくは《ラファエル》の破壊は絶対条件だ。クリフは気力を奮い立たせ、今自分に出来るベストに向けて思案を巡らせる。

「手札から、鬼ガエルを召喚するよっ!」

 一ターン目からクリフを助けて来た角付きの蛙が再び現れ、降り注ぐ雨を浴びてガアガアと鳴き声を上げる。召喚が通った事を確認すると、クリフはデッキを広げて一枚のカードを教皇に提示した。

「鬼ガエルの効果で、粋カエルを墓地へ送るよ! それから、レベル2の未知ガエルと鬼ガエルでオーバーレイ!」

 雨が滴る《湿地草原》に空間の歪みが出現し、二匹の蛙達は吸い込まれるように歪み中へ消えていく。

 やがて歪みは爆発を起こし、新たなモンスターを誕生させる。不利な状況を打開すべく、クリフが選び抜いた最良の切り札――。

「エクシーズ召喚! 来て、餅カエル!」

 現れたのは、真っ白な餅肌をした二匹の蛙が積み重なったモンスター。大小異なる蛙が綺麗に積み上がった姿様は鏡餅を連想させ、ご丁寧に橙も乗せている辺り、外見のモチーフはそれで間違い無いだろう。

 攻撃力は2200ポイントとランク2にしては高く、モンスターの展開、カードの発動の無効化、サルベージ効果と三つの能力を持つ。中でもクリフが目を付けたのは、相手のカードの発動を無効にする効果だ。

 既に発動された《未染色の塔》には無力であるものの、このカードであれば《傀儡教皇》に対抗する事ができる。しかもこのカードは無効にしたカードを敵から奪う事ができ、ちょっとした異端の札レベルの性能となっている。その強力無比な暴力的バランスの匙加減は決闘者の間では有名で、流石の教皇もこのカードを見た瞬間は露骨に嫌そうな表情を浮かべた。

「餅カエルかぁ……、餅カエルか。効果はともかく、あまり好きな外見じゃないかなー。ヨーグルトみたいな色してて…」

 言いながらも、次の瞬間にはにこにこと笑みを浮かべる教皇。クリフが何を狙ってこのモンスターを召喚したか、既に読んでいるのだろう。クリフは緊張を表情に出しながら、次の手を打った。

「アビス・スプラッシュのエクシーズ素材を取り除いて、効果発動! アビス・スプラッシュの攻撃力はこのターン4800ポイントになるよ! そして取り除いたデスガエルを除外して、粋カエルを特殊召喚っ!」

 クリフ達の場を支える《アビス・スプラッシュ》を強化しつつ、《鬼ガエル》で墓地へ送った《粋カエル》の効果の発動条件も満たす。クリフの場に刀を下げた妙に人間臭い蛙が出現し、《餅カエル》の傍に降り立った。

 これで準備は整った。クリフは教皇の表情を伺いながら、たった今引いたばかりのカードを決闘盤に差し込む。

「魔法カード、ハーピィの羽根帚を発動! おじさん達の魔法と罠カードを、ぜんぶ破壊するよっ!」

 クリフの場に巨大な白い羽根が出現し、教皇達のカードを掃き捨てるべく突風を巻き起こす。させじと動いた教皇は、《傀儡教皇》の効果を発動させた。

「おっと、流石にそれは通せないな。ライフを2000ポイント払い、羽根帚を無効にする」

 人骨の右腕が持ち上がり、今度はクリフに向けて光の糸を伸ばす。

 先程《氷結界》を無効にした時同様、今度はクリフ自身を操って《羽根帚》を阻止しようというのだろう。――だが、この展開は読んでいる。

「させないよっ! 粋カエルをリリースして、餅カエルの効果発動! 傀儡教皇の効果無効にして、破壊するよ!」

 生き返ったばかりの《粋カエル》が光の粒子となって消え、《餅カエル》は長い舌を伸ばして《傀儡教皇》の光の糸を絡め捕ろうとする。

 魔法と罠の発動を阻止して来るというのなら、こちらも同じ事をすればいい。…それがクリフの見出した結論だったのだが、教皇は少しも動じず「読んでたよ」と笑みを見せた。

「残念だけど、それも通らないな。傀儡教皇は場に存在する限り、あらゆるモンスターの効果を受けない。よって餅カエルの効果は通用しないよ」

「あぅ…!?」

 光の糸が《餅カエル》の舌をすり抜け、クリフの右腕に絡み付く。

 絹に触れるような柔らかな感触が皮膚を通して脳髄に伝わり、触れられたという実感を抱いた時。クリフの右腕は、既に彼の物では無かった。

「さてと。羽根帚の発動を、止めて貰おうかな」

 静かに命じた教皇に応える様に、クリフの右腕が彼自身の意思とは無関係に持ち上がり、《羽根帚》へと伸びていく。

 咄嗟に左腕で右腕を抑えようと考えたが、体に力が入らない。目や口だけは動くものの、それ以外の部分は、まるで肉体が石にでもなったかのように動かなかった。

 自分の体が、他人の意思で動かされる恐怖。クリフがその恐怖から解放された時には、既に《羽根帚》のカードは決闘盤から抜き取られ、その効果もフィールドから消滅していた。

「羽根箒を無効にした事で、傀儡教皇に二つ目のカウンターが乗る。…さ、次はどうする?」

 にこりと笑みを浮かべながら、教皇が尋ねる。クリフは体の自由が戻った事を確かめながら、改めて教皇の場に眼差しを向けた。

 このデュエルに勝利する為には《ラファエル》の破壊は不可欠だ。《羽根帚》を手札に戻され、このターン中は再発動が出来ないとしてもその事実は変わらない。そしてそれが出来るのは、ターンプレイヤーである自分(クリフ)しか居ない。

「……いくよー! デスガエルで、神園樹ホドを攻撃っ!」

 しばらく迷った後、意を決したクリフは自らの僕に攻撃を命令する。

 塔の場には一ターンに一度攻撃モンスターを破壊する《未染色の塔》が存在するが、クリフの場に《傀儡教皇》を撃破可能な《アビス・スプラッシュ》が居る為、ここで発動する事はまずあるまい。この状況に置いて、《アビス・スプラッシュ》と《未染色の塔》は互いに相手への抑止力なのだ。

「ん…。これは仕方ないな。通すよ」

 定石に従った教皇が呟くと、《デスガエル》はガアガアと死の音色を発し、ずっしりと構えた老木を崩壊させる。

「だが、神園樹が戦闘を行う場合、僕へのダメージは全て遮断される。このバトルで僕にダメージは無いよ」

「けど、神園樹がいなくなった樹護天使は破壊されるよ!」

 護るべき大樹を失った《樹護天使》が空中で泣き崩れたかと思うと、その体が光の粒子となって大気に舞う。光の一部は教皇の体へと吸収され、彼のライフの一部として還元された。

 これで教皇のモンスターは《傀儡教皇》が一体のみ。このまま総攻撃と行きたいところであるが、《未染色の塔》が目を光らせている以上、迂闊に飛び込む事は出来ない。クリフは「むむ…」と難しそうな表情で唸りながら、手札に戻された《羽根帚》のカードを見つめた。

(羽根帚を発動できてたら、ぼくのアビス・スプラッシュで異端の札をやっつける事ができたのに……)

 後ろ向きに考えながら、クリフが自身のターンを終了させようとした時。クリフの脳裏に一つの可能性が浮かびあがり、ターンを終えようとした手を止めた。

(あれ? でも……羽根帚はこのターンはもう発動できないけど、伏せる事はできるんだよね…?)

 沈黙の内に考えながら、クリフは隣に居るミランダに眼差しを向ける。

 魔法・罠カードを無効にする《傀儡教皇》の効果は確かに厄介だが、その為には2000ポイントのコストを必要とする。ライフ回復力に優れる教皇と言えど、このコストは少なくは無い筈だ。

 一方で、発動を無効にされたカードは手札に戻るだけに留まる為、ターンを跨げば何度でも発動する事は出来る。――ならば。もしここで《羽根帚》のカードを伏せ、ミランダと共にこのカードを何度も使い回した(・・・・・)としたら。

(あっ……!)

 天啓にも似た衝撃が、クリフの心を揺り動かす。

 この土壇場で舞い降りた逆転の発想に身震いしたクリフは、一度は手札に残したままにしようとした《羽根帚》のカードを決闘盤に差し込んだ。

「ボクはハーピィの羽根帚を伏せて、ターン終了だよっ!」

 思いついた事を実行に移すべく、クリフは《羽根帚》をセットしてターンを明け渡す。

 後は、姉が自分の考えに気付いてくれれば。クリフは自信たっぷりに笑みを浮かべながら、姉に目で合図した。

 

 

 「粋カエル」 モンスター

 水属性 水族 ☆2

 攻撃力100 守備力2000

 効果:このカードのカード名は、フィールド上に表側表示で存在する限り「デスガエル」として扱う。

 また、自分の墓地の「ガエル」と名のついたモンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを墓地から特殊召喚する。このカードはシンクロ素材にできない。

 

 「餅カエル」 エクシーズ(制限カード)

 水属性 水族 ランク2

 攻撃力2200 守備力0

 効果:水族レベル2モンスター×2

 ①:自分・相手のスタンバイフェイズにこのカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。デッキから「ガエル」モンスター1体を特殊召喚する。

 ②:1ターンに1度、相手がモンスターの効果・魔法・罠カードを発動した時、自分の手札・フィールドの水族モンスター1体を墓地へ送って発動できる。

 その発動を無効にし破壊する。その後、破壊したカードを自分フィールドにセットできる。

 ③:このカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地の水属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

 「ハーピィの羽根帚」 通常魔法

 効果:①:相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する。

 

 『二心抱きし傀儡教皇(ディプライブ・パペット・ハイエロファント)』 モンスター

 光属性 魔法使い族 ☆11

 攻撃力1700 守備力3250

 “神の導きに殉じよう。愛し敬い慰め助け、命の限り心を捧ごう。死が二人を分かつまで”

 効果:このカードは通常召喚できない。このカードを特殊召喚する場合、自分フィールドに存在するモンスター3体をリリースしなければならない。「二心抱きし傀儡教皇」はフィールドに1枚のみ存在できる。

 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードはこのカード以外のモンスターの効果を受けない。

 ②:相手が魔法・罠カードを発動した時、2000LPを払って発動できる。その発動を無効にし、そのカードを持ち主の手札に戻す。このターン、相手は手札に戻したカード及びその同名カードを発動できない。この効果の発動後、このカードに傀儡カウンターを1つ置く。

 ③:???

 ④:「未染色の塔」が発動した場合に発動できる。デッキまたは手札からこのカードを召喚条件を無視して特殊召喚できる。

 

 【No.73 激瀧神アビス・スプラッシュ】

 攻撃力2400→4800→2400

 X素材:2→1

 

 【二心抱きし傀儡教皇】

 傀儡カウンター:1→2

 

 【教皇 & 塔】

 LP:6700→4700→5700

 

 

「さて、次は塔のターンかな」

 《ラファエル》の破壊に一切動じる事無く、教皇は塔に新たなカードをドローさせる。

 同時に《生命力の果実》によってライフが更に1000ポイント回復し、彼らのライフは現在6700ポイント。あれだけライフを消費していながら尚、疲弊する事を知らない数値だ。

 そして、このまま勝利を決めるべく塔の小さな指が動いた瞬間。クリフは叫んだ

「今だっ! スタンバイフェーズ(・・・・)に餅カエルの効果を発動するよ! エクシーズ素材を一つ取り除いて、デッキから新しいガエルモンスターを特殊召喚できるよ!」

 汎用性に優れる《餅カエル》の効果を惜しまず発動し、クリフはデッキを扇状に広げる。

 この場で求められるのは、《未染色の塔》から《アビス・スプラッシュ》を守るカード。クリフはデッキの中から一枚のカードを選び取り、決闘盤に叩き付けた。

「ボクが選ぶのは魔知ガエル! 守備表示で特殊召喚だよ!」

 現れたのは、角帽を被った小さな蛙。攻撃力こそ低いものの高い守備力を持ち、仲間のモンスターを敵の攻撃から守る能力を持っている。

「魔知ガエルがボクの場にいる限り、他のモンスターに攻撃する事はできないよっ!」

「おや。…ん、なるほどね。未染色の塔の破壊効果は攻撃対象となったモンスターのみを対象とする。魔知ガエルを先に破壊しない限り、他のモンスターは排除できないという事か」

 口元に指を当てて頷きながら、教皇は《魔知ガエル》と《アビス・スプラッシュ》を交互に見比べる。

「なら、狙いを火力に絞ろうかな。手札から、『首なしの道化師』を召喚!」

 塔のドローカードが決闘盤に叩き付けられ、その名の通り頭部を持たない道化師風のモンスターが出現する。

 眼球を使ってジャグリングを始めるその道化師の姿には覚えがある。以前のデュエルでも塔が使用したカードだ。

「首なしの道化師が召喚された事で効果が発動! 塔の墓地から首なし騎士を特殊召喚する!」

 効果発動を宣言した教皇が、ちらりとクリフに目を向ける。

 恐らく教皇の狙いは《首なし騎士》と《道化師》を使ったエクシーズ召喚だろう。ここで攻撃力2400ポイント以上のモンスターを召喚されて《未染色の塔》で直接攻撃されれば、その瞬間にデュエルは終わる。――なら、この効果を通す訳にはいかない。

「もう一度、餅カエルの効果をつかうよ! 今度は餅カエルを墓地に送って、そのモンスターの効果を無効にして破壊するよっ!」

 次のミランダのターンに繋ぐべく、クリフは《餅カエル》のカードを墓地へ送って《首なしの道化師》を粉砕する。

 この時、発動コストには《デスガエル》を使う事も出来たが、クリフは敢えて《餅カエル》を選択した。《餅カエル》は場に維持するだけで旨味のあるモンスターだが、墓地に送る事でも発動する効果がある。

「餅カエルが墓地に送られた時、墓地の水属性モンスターを手札に戻す事ができるよ! ボクが選ぶのは、ミラお姉ちゃんのブリザード・ファルコン! ボクのカードじゃないから、お姉ちゃんの手札に戻るよ!」

 墓地へ送られた《餅カエル》の魂が一枚のカードを墓地から弾き、ミランダの手元へと届ける。ミランダはそのカードを掴み取ると、何も言わずに手札に加えた。

「…意外だな。僕達の異端の札を前にして、まだ勝負を諦めてはいない訳だ」

「当然よ。どんなカードにも必ず弱点がある。それを探そうともしないで勝負を捨てる程、私達は馬鹿じゃ無いわ」

 教皇の呟きに答えたミランダが、ちらりとクリフに視線を送る。

 クリフの考えを見抜き、あるがまま認めた優しい瞳。「次のターンに決めるわ」と声なき声が聞こえたような気がして、クリフは思わず頷いていた。

「なるほど、決闘者だ。若いのに立派なものだね」

 教皇はそんな二人をやり取りに口元を吊り上げながら、

「けど、年季が違うな。塔の墓地に眠る無頭のケルベロスの効果発動! 同名モンスターが三体揃っている時、そのうち二枚を除外する事で墓地から特殊召喚できる!」

 教皇の目の前の段差が砕け、頭部を持たない地獄の番犬が再び出現する。

 本来であれば攻撃力1000ポイント程度のモンスターなど何の脅威でも無いが、《未染色の塔》が存在する今の状況では、どんな弱小モンスターも脅威となり得る。思わず身構えるクリフだが、彼の場には敵の攻撃を阻む術は残されていない。

「バトルフェイズだ! 無頭のケルベロスで、魔知ガエルに攻撃する! その攻撃は未染色の塔によって直接攻撃となり、攻撃対象であった魔知ガエルは破壊される!」

 首の無い番犬と生首の塔による容赦ない猛攻が命令され、クリフ達に襲い掛かる。

 《魔知ガエル》は生首達によってその頭部を食らい尽くされ、クリフ自身は《無頭のケルベロス》の爪をまともに受けてしまう。――残りライフは1400ポイント、いよいよ後が無くなった形だった。

「まだ、だよ! 魔知ガエルが墓地に送られた時、デッキから新しいガエルモンスターを手札に加えられるよ! ボクはデッキから……貫ガエルを持ってくるよっ!」

 ダメージを受けて尚も踏ん張り、クリフは新たなモンスターを手札に加える。

 相手への直接攻撃と、相手の魔法・罠カードを除去する効果を持ったモンスター《貫ガエル》。《羽根帚》が通用しないのであれば、モンスター効果で《未染色の塔》の破壊を狙えばいい。そう考えての選択だった。

「おっと、おやおや…。貫ガエルか、厄介だな。けど残念。君達のライフは残り1400、次の僕のターンに傀儡教皇で直接攻撃すれば、もうそれで決着だ。次の君のターンが回って来るとは思えないけどね」

 勝利宣言とも取れる言葉と共に、教皇はターンを終了する。《デスマスク》によって彼のライフは更に回復し、ほぼ初期ライフに近い数値となった。

 《未染色の塔》による防御と直接攻撃、《傀儡教皇》による魔法と罠の無効化。この二つを攻略した上で、教皇のライフを削り切る。…到底不可能と思える状況だったが、クリフは諦めてはいなかった。

(それでもミラお姉ちゃんなら……ミラお姉ちゃんのあのカード(・・・・・)なら――!)

 一途に信じる思いが、次のターンプレイヤーであるミランダに向けられる。勝負の行く末は、ミランダに託された。

 

 

 「魔知ガエル」 モンスター

 水属性 水族 ☆2

 攻撃力100 守備力2000

 効果:このカードのカード名は、フィールド上に表側表示で存在する限り「デスガエル」として扱う。

 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手は他のモンスターを攻撃対象に選択できない。

 このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、自分のデッキ・墓地から「魔知ガエル」以外の「ガエル」と名のついたモンスター1体を選んで手札に加える事ができる。

 

 『首なしの道化師(ヘッドレス・ジェスター)』 モンスター

 地属性 魔法使い族 ☆4

 攻撃力1200 守備力1200

 効果:①:このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の攻撃力1500ポイント以下の通常モンスター1体を選択して発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

 「貫ガエル」 モンスター

 水属性 水族 ☆2

 攻撃力400 守備力400

 効果:このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

 このカードが直接攻撃によって相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、自分フィールド上に「貫ガエル」以外の「ガエル」と名のついたモンスターが存在する場合、相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊できる。

 

 【教皇 & 塔】

 LP:5700→6700→7400

 

 【ミランダ & クリフ】

 LP:2400→1400

 

 

「引き受けたわ、クリフ。…私のターン!」

 全ての期待を一身に受け、ミランダはカードをドローする。

 これで彼女の手札は三枚。この三枚で状況を打開しなければ、彼女達の敗北は決定する。仮に次のターンを凌いだとしても、教皇のライフは延々と回復し続けるのだから、現状を維持するほど逆転の機会は離れていく。

 二枚の異端の札に対処し、その上で教皇に致命的な損害を与える。それが勝利の為に彼女に求められる責務だった。

「…魔法カード、ハーピィの羽根帚を発動!」

 困難な状況を達成すべく、ミランダは行動を開始する。クリフが伏せた《羽根帚》が翻り、再び教皇のカードの除去を図った。

「もちろん、通す訳がないよね。ライフを2000ポイント払って、傀儡教皇の効果を発動! 羽根帚の発動を無効にするよ!」

 教皇の傍に浮遊する《傀儡教皇》の糸が伸び、《羽根帚》は効力を発揮する間も無く本来の持ち主であるクリフの手札に戻る。

「そして傀儡教皇には、三つ目の傀儡カウンターが乗る!」

 新たに人骨から吐き出された炎の球が、他の二つと衝突する事無く公転する。このカウンターが何を意味するのかはわからないが、《羽根帚》が無効にされるのは想定の内だ。

 ミランダの狙いは障害の除去では無く、敢えて《傀儡教皇》の効果を誘う事で教皇のライフを削る事にあった。《傀儡教皇》の効果を発動した事で、教皇の残りライフは5400――…この程度なら、削り切る事は可能(・・)だ。

「クリフ。このデュエル、勝つわよ」

 自信に満ちた一言をクリフに向け、ミランダは思い描いた戦術を実行すべく教皇と向き合う。

 彼女は呼吸を止めて全神経をデュエルに集中させると、勝負に打って出た。

「まずは手札から、ブリザード・ファルコンを召喚!」

 先程クリフによって回収されたカードを決闘盤に叩き付け、彼女の場に一匹の隼が出現する。

 不自然に角張った外見にアンテナの様な形状をした脚部と機械のような印象を受けるが、種族は《オーロラ・ウィング》と同じ鳥獣族。特殊な条件で発動するバーン効果を持ったモンスターだ。

「鳥獣族モンスターが二体……それで呼び出せるモンスターは、確か…」

「思い出すまでも無く見せてあげるわ! 私はレベル4のブリザード・ファルコンとオーロラ・ウィングでオーバーレイ!」

 叫んだミランダの下、二体の鳥獣は煌めく光となって次元の歪みを構築。空間の爆破と共に新たなモンスターを生み出す。

 どんなカードにも弱点があると豪語したミランダが、この逆境を覆すべく選び出した答えにして切り札。その異様なシルエットが光の中に見えた時、ミランダはそのモンスターの名を叫んだ。

「現れなさい、零鳥獣シルフィーネ!」

 彼女の叫びに応えて現れたのは、何とも形容しがたい姿をした女性型のモンスター。

 甲殻類のコスプレか、それとも人間とロボットを合体させた結果の慣れの果てか。筆に起こす事さえ困難を極める珍妙な姿が、ミランダ達の眼前に浮遊する。

 攻撃力は2000ポイントと《餅カエル》に劣るものの、その効果はこと攻撃に関しては《餅カエル》を上回る。それこそ状況が噛み合えば一発逆転が可能な程の、攻撃的な効果だった。

「っ…。シルフィーネか…!」

 教皇の顔から笑みが消え、僅かな焦燥が垣間見える。その心境の変化をミランダは見逃さず、畳み掛けるようにターンを続行した。

「シルフィーネの効果発動! このカードのエクシーズ素材を一つ取り除く事で、相手の表側表示のカードの効果を全て無効にするわ!」

 《シルフィーネ》が徐に両腕を大きく広げたかと思うと、フィールドに吹雪が吹き荒れる。その零度は教皇の場に並ぶカードを凍結させ、その効果を一時的に無力化させた。

 《無頭のケルベロス》は全身が氷漬けとなってその場に固まり、《セーヌのデスマスク》と《未染色の塔》は効果が失われた事により立体映像が消滅する。

 ただ一体、《傀儡教皇》だけは《シルフィーネ》の効果を受けないものの――…《未染色の塔》が無力化された今、その脅威は半減したと言っていい。

「あわわっ…。しまった、未染色の塔を狙われたか…!」

「これでこのターン、私達のモンスターが破壊される事は無くなったわ! そしてシルフィーネが効果を発動したターン、その攻撃力は他の表側表示のカード一枚につき300ポイントアップする! 私達の場には表側表示のカードが七枚! よってシルフィーネの攻撃力は、2100ポイント上昇するわ!」

 異端の札の無力化に成功した《シルフィーネ》が、更にその力を増大させる。その攻撃力は今や《傀儡教皇》の守備力を大きく上回り、攻撃力4100を誇る矛となった。

 《アビス・スプラッシュ》《デスガエル》、そして《シルフィーネ》。場に並んだ三つの矛が、それぞれ教皇を見据えている。漸くにして訪れた反撃の時、ミランダは一切の躊躇も無くバトルフェイズに移行した。

「効果を封じてしまえば、異端の札だろうと何だろうと関係ないわ! シルフィーネ! 無頭のケルベロスを粉砕しなさい!」

 下された命令に従い、《シルフィーネ》は教皇の場に佇む番犬に攻撃を仕掛ける。

 最上級モンスターをも上回る攻撃力と、僅か1000ポイントの攻撃力のぶつかり合いだ。この攻撃一つでも通れば、教皇に3100ポイントものダメージを与える事が出来る。

 そこに続けて《アビス・スプラッシュ》で《傀儡教皇》を破壊し、《デスガエル》で直接攻撃を仕掛ければ。ダメージの合計は5000ポイント。教皇のライフは400ポイントにまで削られる事になる。

(奴の異常な回復力は、樹護天使の効果があってこそ…。ライフが400ポイントにまで落ち込めば、しばらくは次の樹護天使は出せない筈! ――そこを叩くッ!)

 どのみち他に手は無いのだ。一縷の勝ち筋に全力を込めた一撃が、今まさに通ろうとした時。「この瞬間!」と声を上げる教皇の声を聞いた。

「永続罠カード、『セフィラの光楯』を発動! 相手モンスターが攻撃する時、墓地の神園樹をゲームから除外する事でその攻撃を無効にする!」

「なっ…!」

「僕は墓地の神園樹ケテルを除外し、シルフィーネの攻撃を無効にする! 更にこの効果で攻撃を無効にした時、僕のライフは更に1000ポイント回復する!」

 教皇の場のカードが翻り、《シルフィーネ》の眼前に破壊された筈の《神園樹ケテル》が、ボロボロに朽ち果てた状態で出現する。

 神樹の残骸は自身を盾に《シルフィーネ》の攻撃を受け止めると、光の粒子となって崩壊する。その一部は教皇の体に取り込まれ、彼の生命(ライフ)へと還元された。

「こ、ここに来てまだ防御カードだって!?」

 思わず声を荒げた亮助の言葉が、そのままこの場の全員の反応だった。教皇は胸に手を当てながら「ふー、危ない危ない」と安堵の息を吐く。

「今のはちょっとヒヤリとしたよ。たまたま(・・・・)このカードを伏せてたから助かったものの、そうじゃなかったらケルベロスはもちろん傀儡教皇も破壊されて、大ダメージを受けてたなー」

 ふえー、と表情を崩しながら、教皇は胸を撫で下ろす仕草をする。

 その様子を見ると、本当にたまたま(・・・・)攻撃を防いだかのように思えるが……そうではあるまい、とミランダは見抜いていた。

(偶然伏せていたカードで助かったですって? …よく言うわ)

 心の内で舌打ちしながら、ミランダは教皇の場に翻った《セフィラの光楯》のカードに目を向ける。

(あのカードは、さっきの教皇のターンに伏せたカード。なら、クリフのターンにだって発動する事は出来た筈。未染色の塔と組み合わせれば、ラファエルの戦闘破壊は止められないにしても、私達のモンスターを一体余分に破壊する事も出来た……そういう使い方も出来るカードだった)

 にも拘わらず。

 他に発動の機会があったにも拘わらず、教皇はこのターンまで《セフィラの光楯》を温存していた。……こちらが《シルフィーネ》を出して来る事を、読んでいたとしか考えられない。

 恐らくはミランダが《オーロラ・ウィング》を召喚した時点で、《シルフィーネ》の召喚も予測していたのだろう。もし教皇が目先の利を優先して《セフィラの光楯》を発動していれば、《シルフィーネ》は《セフィラの光楯》さえも無効にして、壊滅的なダメージを敵に与える事が出来た筈だ。

 考え得る可能性の中から最も現実的な脅威を見つけ出し、それに備える。誰にでもできる事じゃない。

 ましてタッグデュエルという多数の戦術が飛び交う状況の中、ピンポイントでこちらの思惑を見抜いた教皇の「読み」は、熟練の業と言っても過言では無かった。そしてその読みを、ただの偶然で片付けようとする狡猾さも併せ持っている。勝負事において、自分の力量を低く見せる事の重要性を知っているのだ。

(…強敵ね、認めたくは無いけど。リリオンや塔とは明らかにレベルが違うわ)

 けどね。と心の内で続け、ミランダは恍けた表情の教皇を睨み上げる。

(こっちも読んでいたわ。あんたがこの程度で倒せるような、三流じゃないだろうって事は)

 攻撃が失敗に終わり、苦戦が続く事になって尚、ミランダの闘志は挫けない。むしろ相手を強敵と認めたからこそ、勝利への渇望は強まっていった。

「メインフェイズ2! デスガエルを守備表示に変更して、墓地の魔知ガエルをコストに粋カエルを守備表示で特殊召喚! 更にカードを二枚セットするわ!」

 教皇の反撃に備え、ミランダは一転して守りを固める。攻撃力の低い《デスガエル》を守備表示にし、念の為に蘇生せずにいた《粋カエル》を壁として展開する。

 これで次のターン、教皇が新たな《樹護天使》を召喚したとしても持ちこたえる事が出来る。《未染色の塔》はクリフのターンまで無力化されている為、直接攻撃の心配も無い。

 ただ一つ気掛かりなのは、未だに発動される様子の無い《傀儡教皇》の最後の効果だ。ミランダの予想では、《シルフィーネ》らの一斉攻撃はこの最後の効果によって止められると踏んでいたのだが――…僅かに読みが外れた形である。

(恐らくは傀儡カウンターを使った効果なんでしょうけど、まったく発動して来ないのが逆に不気味ね…。傀儡教皇のステータスに変化が無い所を見ると、カウンターを消費して発動する起動効果か……カウンターが一定数乗る事を条件に発動するタイプの効果ってところかしら)

 現時点で《傀儡教皇》に乗っている傀儡カウンターは三つ。

 一つにつき2000ポイントものライフを消費しているのだから、最後の効果は並大抵のものではあるまい。ミランダは唇に手を当てて考えながら、教皇の傍に浮遊する人形に視線を向けた。

(奴の話によれば、傀儡教皇は対戦相手を操る能力って話だったわね…。なら最後の効果は、私達の行動を制限するか自滅させるような効果である可能性が高い。手札破壊……ドローフェイズのスキップ……いえ、シンプルに全体除去という事も有り得るわね)

 どれも有り得ると考えながらも、何処かピンと(・・・)来ない。

 手札破壊に全体除去。確かに厄介ではあるのだが、膨大なライフコストに見合う効果かと言われると、とてもそうとは思えないのだ。

(リリオンや塔の例を見ても、もっと凶悪な効果がある筈よね…。それを発動するだけで、勝敗が決してしまう程の強力な力……それこそ相手を操作して、勝利を掠め取るような――…)

 そこまで考えた瞬間。

「――っ!」

 ある一つの可能性がミランダの脳裏に浮かび上がり、身の毛がよだつ感覚が、彼女の全身を駆け巡った。

(まさ、か…!)

 どくん…。と一際大きく跳ねた心臓の鼓動が、自身の狼狽を自覚させる。

 有り得る。いや、それしか考えられない。思い付く限り最悪の想定だが、だからこそ、それが答えだという確信があった。

「……クリフ。ここから先は、たとえ何があっても魔法と罠カードは使っちゃダメよ」

 視線は《傀儡教皇》に向けたまま、声を絞り出すようにクリフに語り掛ける。自分が思っている以上に小さな声だったのだろう、クリフは「え?」と小首を傾げていた。

「私の予想が正しければ、あいつの異端の札は……私達が考えていた以上に危険よ。これからは私が合図を送るまで、何があっても魔法も罠も使っちゃいけないわ。…いいわね?」

 初めてクリフに直接的な指示を出しながらも、その理由は敢えて告げない。

 もし今彼にその理由を話してしまったら、恐らくクリフは落ち着いて自分のデュエルする事は出来なくなる筈だ。それ程の圧力と脅威が、あの異端の札にはある。

(私とした事が、今の今まで気付けなかったなんて…!)

 もう一度、今度は自分自身に舌打ちしながら。ミランダはターンを終了した。

 

 

 「零鳥獣シルフィーネ」 エクシーズ

 水属性 鳥獣族 ランク4

 攻撃力2000 守備力2200

 効果:鳥獣族レベル4モンスター×2

 1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

 相手フィールド上に表側表示で存在する全てのカードの効果を無効にし、このカードの攻撃力はこのカード以外のフィールド上に表側表示で存在するカードの数×300ポイントアップする。

 このカードの効果は次の自分のスタンバイフェイズ時まで適用される。

 

 『セフィラの光楯』 永続罠

 効果:①:相手モンスターの攻撃宣言時に1度、自分の墓地の「神園樹」モンスターカードをゲームから除外して発動できる。その攻撃を無効にし、自分は1000LP回復する。

 

 【二心抱きし傀儡教皇】

 傀儡カウンター:2→3

 

 【零鳥獣シルフィーネ】

 攻撃力2000→4100

 

 【教皇 & 塔】

 LP:7400→5400→6400

 

 

「僕のターンか。カードをドローさせて貰うよ」

 にこりと微笑を浮かべながら、教皇はデッキから新たなカードを引き抜く。

 それと同時、《生命力の果実》により彼のライフは7400ポイントにまで上昇。湯水のようにライフを消費していながら、未だ初期ライフに近いラインを保っていた。

(彼女のあの表情を見るに……どうやら、傀儡教皇の最後の効果に勘付いたようだね)

 ドローカードを確認した教皇は、再びデュエルの手を止めて思考に入る。

 明らかに《傀儡教皇》を警戒しているミランダの眼差しと、それに近い感情を浮かべるクリフの表情。どうやら当たり(・・・)を付けたらしいと直感した教皇は、笑みを浮かべたまま自らの決闘盤にセットされた《傀儡教皇》のテキストに視線を落とした。

 

 “――このカードに傀儡カウンターが4個置かれた時、このカードのコントローラーはデュエルに勝利する。”

 

 《傀儡教皇》のテキストには、そう書かれていた。カウンターが一定数乗る事で発動する特殊勝利。それこそがミランダが危惧する《傀儡教皇》の最後の効果であった。

(傀儡教皇は対戦相手そのものを操作する…。その究極系は、相手にサレンダーを強要する事だ。事前に気付いた辺りは勘が良いとしか言いようが無いけれど――…もう遅い)

 勝利を確信した双眸が、哀れむようにミランダ達に向けられる。

(傀儡教皇のカウンターは三つ。あと一つカウンターが乗れば、つまりもう一度だけ君達のカードの発動を無効にすれば、それで僕の勝利が確定する。だが君達は、必要なカウンターの数までは予測する事が出来ない。あと一度くらいはと賭けに出れば餌食だし、ましてやモンスター効果だけで僕に勝つ事は不可能だ)

 どちらにしても、こちらの術中でしかない。そう心の中で呟き、教皇はターンを続行する。最後の詰めに入るかのように。

「魔法カード、『セフィロトの逆流』を発動! 僕がこのデュエルで三体以上の樹護天使の特殊召喚している場合に発動でき、墓地の樹護天使を三体EXデッキに戻す事で、カードを三枚ドローする!」

 ここに来て彼が引き当てたのは、一度に三枚ものカードを補充する魔法カード。

 発動条件こそ厳しいものの《命削りの宝札》のような発動後の制約は一切無く、使用済みの《樹護天使》をデッキに戻す事すら出来る。ミランダ達を追い込みに入ったこの状況では、この上なく最良のカードだった。

 教皇の墓地から《メタトロン》《ハニエル》《ラファエル》のカードがEXデッキに回収され、彼の手札は三枚に増える。教皇はそれらのカードを一瞥すると僅かに口元を吊り上げ、そのうち一枚を決闘盤に差し込んだ。

「手札を一枚捨てて、魔法カード『グレートヒェンの祈り』を発動! このカードをゲームから除外し、僕のライフは1000ポイント回復する!」

 彼の傍に一人の美しい少女が現れ、その場に跪いて祈りを捧げる。

 その祈りは教皇のライフを回復させるが、その代償か少女の体は泥水の様に溶けて消滅。何とも趣味の悪い立体映像だが、これで教皇のライフは更に即死圏内を離れて行った。

 とは言え、手札一枚をコストにした割には回復力が低く効率が悪い。ミランダも「何故そんなカードを?」と首を傾げていたが、教皇がコストとして捨てたカードを見て、その表情は一変した。

「墓地へ送ったのは二枚目の神園樹の種だ。これで次のターン、僕は好きな樹護天使をEXデッキから繰り出す事が出来る。駄目押しかも知れないけど、戦力を繋げるに越した事は無いからね」

「なるほど、そういう事…」

 随分と周到ね、と吐き捨てたミランダの声を教皇は軽く聞き流し、

「そして手札から、『神園樹マルクト』を召喚!」

 最後に残った手札(いちまい)を、決闘盤に叩き付けた。

 コンクリートの床が持ち上がり、彼の場に新たな大樹が伸びる。これまで何度もミランダ達を苦しめてきた《神園樹》の、新たな種だった。

「ライフを3000ポイント払い、マルクトの効果を発動! 光の彼方より現れろ、『樹護天使サンダルフォン』!」

 育ちきった《神園樹》の枝に、果実が一つ実を付ける。黄色や黒、明暗の異なる四色で配色されたその果実は、実が熟すると同時に地面に落ち、そこから新たな《樹護天使》を出現させた。

 《メタトロン》と瓜二つの姿をしたその天使は、他の樹護天使と同様4000ポイントの攻撃力を持つ。《シルフィーネ》や攻撃力を倍化可能な《アビス・スプラッシュ》には僅かに劣るものの、召喚の手軽さを思えば十分以上に驚異だった。

「また、新しい天使さんが…!」

「このバトルフェイズで、君達の未来を占うとしようか。樹護天使サンダルフォン、粋カエルに攻撃だ!」

 クリフの怯えを攻撃指令が呑み込み、命令を受けた《サンダルフォン》は両腕を大きく広げる。その背後に聳える《神園樹マルクト》から樹皮の弾丸が放たれ、《粋カエル》の体をズタズタに引き裂いた。

(伏せカードは使わない、か…。やはり傀儡教皇の最後の効果に気付いているようだね)

 なら、この機を逃す手は無い。教皇は口元を吊り上げると、攻撃体勢を維持している第二の僕に視線を向けた。

「次だ。無頭のケルベロスで、デスガエルを攻撃する!」

 頭部を持たない地獄の番犬が動きだし、防御している《デスガエル》に飛び掛かる。攻撃力では《ケルベロス》を上回る《デスガエル》だが、受けに回れば脆いもの。抵抗する間も無く鋭い爪で八つ裂きにされ、光の粒子となって消滅した。

 だが。破壊された二体のモンスターは守備表示であった為、ミランダ達にダメージは無い。頭数が減ったとは言え、このターンで決着とは行かなかった。

「こんなところかな。僕はこれでターンエンドだよ」

 静かに宣言した教皇のライフが、《デスマスク》によって治癒していく。

 《サンダルフォン》の召喚に多大なコストを払って尚、、彼のライフは6100ポイントも残っている。永遠の命というデッキのテーマが、その真価が、いよいよデュエルに表れてきた形だった。

 

 

 『二心抱きし傀儡教皇(ディプライブ・パペット・ハイエロファント)』 モンスター

 光属性 魔法使い族 ☆11

 攻撃力1700 守備力3250

 “神の導きに殉じよう。愛し敬い慰め助け、命の限り心を捧ごう。死が二人を分かつまで”

 効果:このカードは通常召喚できない。このカードを特殊召喚する場合、自分フィールドに存在するモンスター3体をリリースしなければならない。「二心抱きし傀儡教皇」はフィールドに1枚のみ存在できる。

 ①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードはこのカード以外のモンスターの効果を受けない。

 ②:相手が魔法・罠カードを発動した時、2000LPを払って発動できる。その発動を無効にし、そのカードを持ち主の手札に戻す。このターン、相手は手札に戻したカード及びその同名カードを発動できない。この効果の発動後、このカードに傀儡カウンターを1つ置く。

 ③:このカードに傀儡カウンターが4個置かれた時、このカードのコントローラーはデュエルに勝利する。

 ④:「未染色の塔」が発動した場合に発動できる。デッキまたは手札からこのカードを召喚条件を無視して特殊召喚できる。

 

 『セフィロトの逆流』 通常魔法

 効果:このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

 ①:自分の墓地の「樹護天使」モンスター3体を対象として発動できる。そのモンスター3体をEXデッキに加える。その後、自分はデッキから3枚ドローする。

 この効果は自分が「樹護天使」モンスター3体以上の特殊召喚に成功しているデュエル中にのみ発動と処理ができる。

 

 『グレートヒェンの祈り』 通常魔法

 効果:「グレートヒェンの祈り」の②の効果はデュエル中に1度のみ使用できる。

 ①:手札を1枚捨てる事で発動できる。自分は1000LP回復し、このカードをゲームから除外する。

 ②:???

 

 『神園樹マルクト』 モンスター

 地属性 植物族 ☆2

 攻撃力600 守備力600

 効果:①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、3000LPを払う事で発動できる。EXデッキから「樹護天使サンダルフォン」1体を特殊召喚する。

 ②:このカードの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

 

 『樹護天使サンダルフォン』 融合モンスター

 光属性 天使族 ☆10

 攻撃力4000 守備力3000

 効果:このカードは「神園樹マルクト」の効果でのみ特殊召喚できる。自分フィールドに「神園樹マルクト」が表側表示で存在しない場合、このカードを破壊する。

 ①:???

 ②:このカードが効果によって破壊され墓地へ送られた場合に発動する。自分は1000LPを回復する。

 

 【教皇 & 塔】

 LP:6400→7400→8400→5400→6100

 

「あぅぅ……ボ、ボクのターン、だよっ…!」

 徐々に悪化する状況と疲弊を知らない教皇に怯えながら、クリフはカードをドローする。

 彼の手札は現在三枚。《傀儡教皇》によって手札に戻った《羽根帚》と、《餅カエル》によってデッキからサーチした《貫ガエル》。そして、たった今ドローした三枚目のカードは――、

(っ…! サルベージのカード…!)

 墓地に眠る二体の僕を手札に回収する魔法カード。思わず決闘盤に差し込んで発動しようとするクリフだが、先程のミランダの言葉が、それを押し留めた。

『――ここからは、たとえ何があっても魔法と罠カードは使っちゃダメよ』

 何があっても。その一語がクリフの心に重くのし掛かり、彼は発動しようとした《サルベージ》を手札に戻す。

(本当はサルベージと羽根帚をつかって教皇おじさんのライフを減らしたいけど……それはダメだって、おねえちゃんは言ってた。どうしてダメなのかはわからないけど…、おねえちゃんがダメって言うならっ!)

 直感でも、読みでも無い。ただ姉を信じる一心があるのみだった。

 クリフは二枚のカードの事はひとまず忘れ、今自分に出来る最良を尽くす事にのみ思考を巡らせる。

 忘れてはならないのは、《シルフィーネ》の効果が切れた事で《未染色の塔》が復活した事だ。これを抑えない限り、自分達に勝利は無い。

「最後のエクシーズ素材を取り除いて、シルフィーネの効果を発動っ! もう一度おじさん達のカードの効果を無効にするよ!」

 決断したクリフは、再び《シルフィーネ》で《未染色の塔》の封印に掛かる。《シルフィーネ》が巻き起こした寒波が、再度教皇らのカードに迫った時。「この瞬間!」という教皇の声が返って来た。

「シルフィーネの効果にチェーンして、樹護天使サンダルフォンの効果を発動! デュエル中に一度だけ、君の場の全ての攻撃表示モンスターを守備表示に変更し、このターンの表示形式変更を封じる!」

 《サンダルフォン》が右手を高く掲げたかと思うと、暗闇の中から光の檻が出現し、クリフのモンスター達を閉じ込める。《未染色の塔》の無力化には成功したものの、これによってクリフの攻撃は封じられた。

「これでこのターン、君のモンスター達は攻撃できない…。そしてサンダルフォンの効果で守備表示となったモンスター一体につき、僕はライフを1000ポイント回復する!」

 天使の羽根が教皇の元に降り注ぎ、彼のライフは再び治癒。瞬く間に8100ポイントにまで回復する。

 それと同時に《サンダルフォン》の効果が無効化されるが、攻撃を阻止された今、その意味はあまりにも薄い。反撃はおろか、せいぜい延命に成功したに過ぎないのだ。

「くそっ! どんなにダメージを与えてもすぐに回復して、しかも立て直してくる! あれじゃいつまで経っても倒せっこない! 押し返されるのだって時間の問題だ!」

 クリフ達の心境を代弁するかのように、亮助が表情に焦りを浮かべて叫ぶ。

 《樹護天使》による“強力な火力”と、ライフ回復による“安定した防御”、そして異端の札による“後方支援”。まるで三人の部下の戦術(リリオン・デス・塔)を一つに集約したかのように隙が無く、しかも長期戦に優れている。

「せめて傀儡教皇か未染色の塔のどっちかを破壊できればまだチャンスはあるけど、あの二枚は弱点を庇い合ってるからそれも出来ない…! ――無理だ、こんなの! 勝てる訳が無いよ!」

 いつしかクリフ達の応援すら忘れ、やり場のない焦燥を吐露する。それがクリフ達の思考を乱すだけである事はわかっていたが、亮助は言わずにはいられなかった。

「――…いんや、一つだけ。…たった一度だけ、逆転のチャンスがあるかも知れないよ」

 そんな亮助の焦りを横で聞きながら、百合がぽつりと呟く。

 逆転のチャンス。とてもこの場にそぐわない響きに驚いた亮助に、百合は神妙な面持ちで「傀儡教皇だよ」と返した。

「あの異端の札さえ何とか破壊できれば、未染色の塔は羽根帚で対処できる。そしたら敵さんのライフは残り8000とちょっと……まだ削り切れなくも無いラインだよ。何とか傀儡教皇を突破して、羽根帚を絡めてもう一度総攻撃を仕掛ければ……あるよ、ワンチャン」

「それは……そうだけど…。でも、どうやって? 傀儡教皇には魔法も罠も、モンスター効果だって…」

「んにゃ。ミラるんが言ってたでしょ、どんなカードにも弱点があるって。一見万能っぽく見える傀儡教皇にもさ、無効に出来ないカードはあるんよ。…特に、自分より速いカードはさ」

 そう言って、百合は視線を再びデュエルに向ける。

 自分より速いカードは無効に出来ない。その言葉の意味に気付いた亮助は、はっとしてミランダの伏せカードに目を向けた。

(そうか、確かにそれなら…!)

 逆転はあるかも知れない。一度はそう思いつつ、それが糸の様にか細い可能性である事に即座に気付く。

 追い詰められたこの状況で、その糸を掴み取れるものだろうか? 不安はあるが、今は信じるしかない。クリフ達が、その逆転の可能性に気付いてくれている事を。そして二人がそのチャンスを掴む“奇跡”が起きる事を。

「えっと、ボクは…。カードを二枚セットして、粋カエルを守備表示で蘇生するよ!」

 少なくとも、クリフはまだ諦めてはいない。とにかく次のミランダのターンに回そうと、懸命に防御を固めていた。

「それから粋カエルを守備表示で蘇生して……ターンエンドだよ!」

 手札で持て余した《サルベージ》《羽根帚》のカードを吐き出し、墓地の《鬼ガエル》をコストに《粋カエル》を壁として展開する。

 これならば少なくとも次の塔のターンは持ちこたえる事が出来るだろう。だが、それだけでは勝利には繋がらない。勝負の行方は、二度ミランダに託された。

 

 

 「サルベージ」 通常魔法

 効果:自分の墓地の攻撃力1500以下の水属性モンスター2体を選択して手札に加える。

 

 『樹護天使サンダルフォン』 融合モンスター

 光属性 天使族 ☆10

 攻撃力4000 守備力3000

 効果:このカードは「神園樹マルクト」の効果でのみ特殊召喚できる。自分フィールドに「神園樹マルクト」が表側表示で存在しない場合、このカードを破壊する。

 ①:このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ発動できる。このターン終了時まで相手フィールドの全てのモンスターは全て守備表示となり、そのターン表示形式を変更する事ができない。

 その後、自分はこの効果で守備表示にしたモンスターの数×1000LP回復する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 ②:このカードが効果によって破壊され墓地へ送られた場合に発動する。自分は1000LPを回復する。

 

 【零鳥獣シルフィーネ】

 攻撃力2000→4400

 

 【教皇 & 塔】

 LP:6100→8100

 

 

「なかなか頑張ってはいるけれど、そろそろ限界なんじゃないかな。君達の動きが鈍くなっているのが僕にはわかる」

 言いながら、教皇は塔に新たなカードをドローさせる。

 同時に彼らのライフは更に回復し、9100ポイントにまで上昇。精神的な余裕という点でも、勝負は教皇が優位だった。

「攫われた仲間を……愚者を助けようと僕達に挑んだ君達の心は正しい。けれど現実は非情だ、正しいだけでは誰も救う事は出来ない。自分一人の未来さえも」

 ほんの一瞬、憐れみとも哀しみとも取れる表情を浮かべた教皇は、次の瞬間には目に決意を光らせてミランダ達を凝視する。

「悪いけど、このまま押し切る。樹護天使サンダルフォン! 激瀧神アビス・スプラッシュを攻撃だ!」

 教皇が指令を下すと、《神園樹マルクト》から無数の樹皮が放たれ、防御の姿勢を取る《アビス・スプラッシュ》へと向かっていく。

 《シルフィーネ》のX素材が尽きた今、教皇にとって最後の脅威はこの《アビス・スプラッシュ》だ。このモンスターさえ破壊してしまえば、勝利はより決定的となる。優位な状況に立って尚、教皇は手を緩める事はしなかった。

「……あんた達と言葉を交わす気なんてさらさら無いけれど、一つだけ言っておくわ。教皇」

 迫りくる樹皮の弾丸を前に、ぽつりと呟く声。ミランダは真直ぐに教皇を睨みながら、己の右腕を伏せカードに伸ばした。

勝利(みらい)が無いのは、あんた達の方よッ! リバースカード、氷結界を発動ッ!」

 渾身の叫びと共に翻る《氷結界》のカード。彼女の思いがけない行動にクリフは「え?」と思わず声を出し、教皇もまた目を丸くして彼女を見つめる――…そして次の瞬間には、勝利を確信した笑みを浮かべていた。

「痺れを切らしたのなら、君達の負けだ! 傀儡教皇は、そのカードの発動を無効にする!」

 光の糸がミランダの腕に絡みつき、発動した《氷結界》を決闘盤から取り外しに掛かる。

 この発動を食い止め、傀儡教皇に四つ目のカウンターが乗った時、このデュエルは終了する。その未来が、今まさに教皇の手中に収まろとした時だった。

「クリフ、今よ!」

「うん! ミラおねえちゃんの、もう一枚の伏せカードを発動っ!」

 右腕を操られたミランダが何か指示を飛ばしたかと思うと、クリフはミランダに代わって彼女もう一枚のカードを発動させる。

「カウンター罠、天罰だよっ! 手札の貫ガエルを捨てて、傀儡教皇の効果を無効にして破壊するよ!」

「あっ――!」

 やられた、と教皇が唖然とした表情を浮かべたと同時、雨雲の中から放たれた雷が《傀儡教皇》を打ち付け、その身を感電させる。

 激しい神の怒りを受けた《傀儡教皇》は全身が真黒な粒子となって消滅、ミランダの腕に絡み付いていた光の糸も力無く解けた。

「くっ…! 傀儡教皇が…!」

「思った通り、カウンター罠までは無効に出来なかったみたいね。そして傀儡教皇の効果が無効になったと言う事は――」

 にやりと笑ったミランダが《サンダルフォン》に目を向ける。

 《氷結界》を無効にしようとした《傀儡教皇》の効果が無効になった事で、《氷結界》はその効力を失う事無く発動。《サンダルフォン》の体を一瞬にして凍結させ、その攻撃力を0にした。

 それにより樹皮の弾丸の威力も弱まり、《アビス・スプラッシュ》の低い守備力でもそれに耐える事が出来る。それどころか弾丸を跳ね返し、逆に教皇にダメージを与えた。

「これであんたの異端の札は攻略したわ! 後は無駄に増えたあんたのライフを、きっちり0にするだけよ!」

 高らかに宣言し、真直ぐ教皇を睨むミランダ。《傀儡教皇》の破壊は教皇にとっても予想の外だったらしく、彼の顔からは先程まで見せていた余裕が消え去っていた。

「むむむ…、まずいなぁ…。傀儡教皇がやられたとなると、次のターンに羽根帚を使われるから……未染色の塔も…、もたないか…」

 動揺と焦りを隠さず、思考を巡らせてる教皇。頼りの異端の札が敗れ、反撃が目に見えているのだ。その胸中は想像に難しく無い。

 これまで散々苦しめられミランダ達にとって、その様子は痛快の一言だった。今の一手によって流れが変わったのは一目瞭然。長い苦難の末に掴んだ勝機に、ミランダ達が口元を綻ばせた時――、

「…ま、いいか。やられちゃったものは仕方ないもんね」

 失敗をけろりと忘れ、笑みを浮かべた教皇の声が、ミランダ達の安堵に否を突き付けた。

「傀儡教皇が突破されたのは驚いたけど、僕はリリオンやデスみたいに異端の札に頼きりって訳でも無いからね。君達を倒す準備は済んでる事だし、挫けず前向きにいくとするよ」

「…何ですって?」

 君達を倒す準備は済んでいる。その一語に反応してミランダが教皇を睨み付けると、彼は「言葉通りだよ」と両腕を後ろ手に組んで笑って見せた。

「さっき墓地に捨てた神園樹の種は、神園樹専用のサーチカードだ。その効果で新しい樹護天使を呼べば、残り少ない君達のライフを削り切る事くらい訳も無い。…で、今の僕のライフは5700、このターンの終わりに回復して6400…。手札の尽きた君達に、このライフを削り切れるのかな?」

 流れが変化して尚、冷静に戦局を見詰める教皇。彼が指摘した通り、デュエルはまだミランダ達の有利に傾いた訳でも無かった。

 《傀儡教皇》を倒したとは言え、教皇の場にはまだモンスターが三体。そのうち攻撃力0となった《サンダルフォン》は問題ないとしても、まだ二体のモンスターが壁として存在する。

 これらの壁を突破して、次のターンに教皇のライフを削る戦力は今のミランダ達には無い。そして一撃必殺で無ければ、教皇は必ず次のターンで大勢を整え今度こそ自分を倒しに来るだろう。

「僕のデッキは回復特化型だ。ライフが1ポイントでも残っていれば、そこから樹護天使を召喚するのも珍しい事じゃない。――つまり、君のターンを耐えるだけでいいんだ。それだけで僕はこのデュエルに勝つ事が出来る。そういう戦術だ」

 ハッタリでも誇張でも無い、ただ事実を述べただけという教皇の表情。

 ライフが1でも残れば勝てる。本来であれば巧言に過ぎないその言葉も、これまでの彼の戦いぶりを見れば嘘では無い事がよくわかる。今のミランダ達に、彼のライフを削り切れる程の戦力が無い事も事実だ。

(もし仮に……万が一、次の僕の攻撃を凌いでデュエルが続いたとしても。その場合も、やはり君達に勝利は無い)

 心の内で語りながら、教皇はこのターンに塔が引いたカード――二枚目の《未染色の塔》に目を向ける。

 場に出ている《未染色の塔》はもはや破壊を逃れる術は無いが、第二の異端の札が手札にある以上、デュエルの主導権を手放す事は無い。どちらに転んだとしても、「詰み」は時間の問題だ。

「最後の仕上げだ。僕はケルベロスと神園樹マルクトをそれぞれ守備表示にして、ターンを終了する。そしてこの瞬間、デスマスクの効果によって僕のライフは6400となる」

 用心深く防御を固め、教皇は手番を終える。鉄壁とは呼べないものの、一ターンを凌ぐには十分な戦力がそこにはあった。

「君達の意地(・・)は見せて貰った。けどこの勝負、もう君達の勝利は有り得ないよ。奇跡でも起きない限りはね」

 最後は言葉で圧を掛け、教皇はもう一度にこりと微笑む。打つべき手は全て打ったと、その表情は語っていた。

 

 

 「天罰」 カウンター罠

 効果:手札を1枚捨てて発動する。効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する。

 

 【樹護天使サンダルフォン】

 攻撃力4000→0

 

 【教皇 & 塔】

 LP:8100→9100→7100→5700→6400

 

 

「私の――、ターン!」

 指先に全霊の力を込め、ミランダはカードをドローする。

 《傀儡教皇》を撃破したとは言え、状況は教皇の言葉通りこちらの不利に傾いている。それを覆す猶予がこのターンのみと言うのも、残念ながら事実だ。

 君達の意地は見せて貰った、そう教皇は言った。ここで勝負を決めなければ、これまでの苦労は本当にただ意地を見せただけで終わってしまう。例え石に齧り付いてでも、教皇のライフを削り切らなければならない。

「魔法カード、ハーピィの羽根帚を発動よ! あんたの場の魔法・罠カードを、全て破壊する!」

 再び現れた《羽根帚》が、今度こそ教皇の場のカードを吹き飛ばす。《傀儡教皇》を撃破した影響が早くも現れた形だが、教皇に特に動じる様子は無い。予想通りの流れとばかりに微笑んでいた。

「未染色の塔は効果によって破壊された時、攻撃力3000のモンスターカードとなって僕の場に攻撃表示で特殊召喚される。破壊効果は使えなくなるけど、壁としては十分だ」

 《羽根帚》によって掃き捨てられた生首の群れがモンスターゾーンに移動し、最上級モンスター並の攻撃力を得てミランダ達の前に立ちはだかる。攻撃を止められる事は無くなったが、これで教皇の場のモンスターは四体に増加。いよいよこのターンでの決着は難しくなって来た形だった。

「…魔法カード、サルベージを発動! 私の墓地からオーロラ・ウィングとブリザード・ファルコンを手札に加えるわ!」

 続けてもう一枚の伏せカードを発動させ、これで彼女の手札は三枚。ミランダは自身と教皇の場を見比べながら、たった今引いたばかりのカードに視線を向けた。

 最後の最後、この土壇場で彼女が引き当てたカードは《強欲なウツボ》。手札の水属性モンスター二体をデッキに戻す事で三枚のカードをドローする水属性専用の手札交換魔法である。

 手札には今《サルベージ》で戻した二枚の水属性モンスターがある為、発動条件は問題無い。後はこの三枚のドローで逆転の鍵を引き当てるだけであるが……ここに来て、ミランダの手が止まった。

(このターンで奴のライフを削り切る方法はただ一つ、私の最後の切り札を召喚するしかないわね…。けど、その為に必要なキーカードは三枚、ドローできるカードも三枚……。もし一度でも違うカードを引いてしまったら、その時点で私達の負けが確定する…)

 ミランダのデッキには現在、二十枚以上のカードが眠っている。その中から必要なカードをピンポイントで、それも三度続けて引き当てるのは非常に困難だ。

 それでも、やるしかない。例え僅かな可能性であろうと、それがこのデュエルを制する唯一の道ならば、教皇の言う“奇跡”を起こして見せるしかない。

「…魔法カード、強欲なウツボを発動ッ! 手札に戻した二体のモンスターをデッキに戻して、カードを三枚ドローする!」

「おや…、へえ?」

 勝負に出たミランダは、二枚のカードを戻した後、奇跡を起こすべくデッキに指を掛ける。

 二枚のカードがデッキに戻った事で確率は更に減少したが、もとより現実的な数値では無いのだ。為すか為さないか、それだけの事に過ぎない。

(デッキが主の意思に応えると言うのなら――…わかっているわね、私のデッキ!)

 心の内でデッキに語り掛け、ミランダはデッキから三枚のカードを力強く引き抜く。

 高鳴る心臓の鼓動を感じながら、引いた三枚のカードを確認した時。――ミランダは、奇跡を目撃した。

「――来たわ、天啓! 私は零鳥獣シルフィーネと粋カエルをリリースして、青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)を召喚ッ!」

 全身に鳥肌が立つ感覚を抱きながら、ミランダは頭に描いた行動を開始する。

 二体のモンスターが小さな氷の結晶となって四散し、一つに集束して新たなモンスターを形作る。現れたのは、氷の肉体を持った巨大なドラゴン。何処となく《青眼の白龍》に似たシルエットを持つ、絶対零度の翼竜だった。

 その攻撃力は3000ポイントと高く、優秀な効果を二つも有している。――だが、まだ足りない。このモンスターだけでは、教皇のライフを削り切るには力不足だ。

「更に魔法カード、未来への思いを発動ッ! 私とクリフの墓地からレベルの異なるモンスター三体を蘇生する事が出来る! この効果でコールド・タイガー、悪魂邪苦止、デスガエルの三体を特殊召喚するわ!」

 続いて二枚目のカードを決闘盤に差し込み、ミランダの場に三体ものモンスターが復活する。氷の角を持つ猛虎と大きなオタマジャクシ、そして先程まで戦線を支えていた《デスガエル》の三体だ。

 それぞれモンスター効果は無効にされ、攻撃力も0となっているが、今は数を揃える事に意味がある。一度に三体のモンスターを蘇生する事、それがミランダの狙いだった。

「三体のモンスターを蘇生した…? まさか、君の狙いは…!」

「更に、魔法カード『シフトアップ』を発動ッ!」

 思惑に気付いた教皇の声を無視して、ミランダは最後のカードを発動させる。

「このカードは私のモンスターのレベルを、場の最もレベルの高いモンスターと同じにする事が出来る! 私の場の最大レベルは青氷の白夜龍の8、よって蘇生した三体のモンスターのレベルも8となるわ!」

 氷の翼竜が甲高い咆哮を上げると、蘇ったモンスター達が一斉に奮い立ち、そのレベルが統一される。

 《白夜龍》を含め、レベル8のモンスターが四体。それが意味する事は、たった一つだ。

「見せてあげるわ、私達の切り札! レベル8となったコールド・タイガー、悪魂邪苦止、デスガエルの三体でオーバーレイ!」

 全ての手札(カード)を使い切った後、ミランダはレベルを揃えたモンスター達を使い新たなモンスターの召喚に入る。

 開かれた別次元への扉に三体のモンスターが吸い込まれ、そこから凍てつく冷気と水滴が吹き出す。霧は空中に集結すると冷気によって凝固し、新たな姿を形作った。

 《白夜龍》を上回る巨体と、それを浮遊させる二対の翼。長く伸びた尻尾には氷柱の様な鋭い棘が幾つも生えており、それ自体が一つの武器として成立している。

 氷龍とも言うべきそれはミランダの場に現れると、大地を揺るがす程の咆哮を上げた。もはや敗北は無いと確信していた筈の教皇さえも震え上がらせる、圧倒的な威圧感。その姿を見上げながら、ミランダは叫んだ。

「エクシーズ召喚! 私のデッキの最大火力、『超青氷の(スーパーブルーアイス)白夜竜(ホワイトナイツ・ドラゴン)』!」

 このモンスターこそが、ミランダの最後の切り札だった。

 レベル8モンスター三体という召喚条件こそあるものの、攻撃力は4500とそれに見合う数値を誇る。攻撃力0となった《サンダルフォン》を攻撃すれば、それだけで教皇のライフの大半が吹き飛ぶ火力である。

「くっ…、ランク8のエクシーズモンスターか…。だが、僕の場にはサンダルフォンも含め四体のモンスターが居る! 総攻撃を掛けたところで、僕のライフを削り切る事は出来ない筈だ!」

「それはどうかしらね? ――超青氷の白夜竜のエクシーズ素材を一つ取り除いて、効果発動! 一ターンに一度、相手の守備表示モンスター一体を攻撃表示に出来る!」

 ミランダが《デスガエル》のカードを取り除いて宣言すると、《超青氷の白夜竜》の口から針の様に細い氷柱が放たれ、《ケルベロス》の足元に突き刺さる。

 氷柱は砕け散ると同時に《ケルベロス》の脚と周囲の水溜り氷結させ、一切の身動きを封じた。

「何っ…!?」

「これで無頭のケルベロスは攻撃表示になったわ。壁としては厄介なカードだったけど、所詮は攻撃力1000程度のモンスター。壁にもならないわ」

 《サンダルフォン》、《ケルベロス》、そしてモンスター化した《未染色の塔》。教皇を守る壁のうち三体が攻撃表示となり、教皇にダメージを与える準備が整う。

 ミランダの場には高火力モンスターが三体。これならば、このターンでの決着も十分に可能だ。

「むぅ…。マズいな、この攻撃を全て許したら…!」

「そういう事ね。…バトルフェイズ!」

 全ての展開を整えた後、ミランダは最後の総攻撃に突入する。

 奇跡をも味方に付けて揃えた最大戦力だ、これ以上は望めない。勝利を掴むか、玉砕するか。泣いても笑っても、全てはこの一瞬で決まる。

「覚悟はいいわね! 青氷の白夜龍で、樹護天使サンダルフォンを攻撃よ!」

 放たれた第一の矢。命令を受けた《白夜龍》は口から氷のブレスを吐き、氷漬けのまま固まっていた《サンダルフォン》を粉砕する。

 この一撃だけで、教皇に3000ポイントものダメージが入った。手応えを感じたミランダは、勢いを殺さず攻撃を続行する。

「次はアビス・スプラッシュよ! 攻撃力を倍にして、無頭のケルベロスを攻撃するわ!」

 デュエル序盤からミランダ達を支えてきた守護神が、杖の先端から雷を放って地獄の番犬を消滅させる。

 この連撃で、教皇のライフは残り1500ポイントにまで減少した。そしてミランダの場にはまだ、《超青氷の白夜竜》が攻撃を残している。

「そ、そんな……こんな事が…! 僕が……僕のライフが、追い込まれている…!?」

 苦衷の表情を浮かべた教皇の下、《未染色の塔》の生首達が集まり死肉の盾となる。

 あくまで教皇を庇おうとする生首達の姿に一瞬、持ち主である塔の姿を幻視したミランダは、その忌々しい光景に思わず舌打ちした。

「これで終わりよ! 超青氷の白夜竜で、未染色の塔に攻撃ッ!」

 命令を受けた《白夜竜》が大きく息を吸い込み、絶対零度の息吹を教皇に向けて吐き出す。

 ミランダ達の全ての想いを込めた必殺の一撃。その威力は絶大で、壁となった《未染色の塔》を残らず消滅させる。息吹は勢いを殺さず、むしろより威力を増して教皇に直撃し――…彼のライフを、呑み込んだ。

「うわああぁー!」

 永遠の命を謳った彼のライフが徐々に低下し、遂に0を表示する。それは即ち、このデュエルの決着を意味していた。

「奇跡は起きたようね、教皇。私達の勝ちよ!」

 右腕を教皇に向けて突き出し、高らかに宣言する。敗れた教皇は膝を折り、唖然とした表情でミランダを見つめた。

「ば……馬鹿なっ…。僕と塔が……異端の札が……負ける、なんて…!」

 絞り出すように呟き、ミランダ達に向けて手を伸ばした後。教皇の体は崩れ落ちるようにその場に倒れる。それに続くように塔もまた糸が切れたように地面に倒れ――…デュエルは、決着を迎えた。

 

 

 「青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)」 モンスター

 水属性 ドラゴン族 ☆8

 攻撃力3000 守備力2500

 効果:①:このカードを対象とする魔法・罠カードが発動した時に発動する。その発動を無効にし破壊する。

 ②:このカード以外の自分の表側表示モンスターが攻撃対象に選択された時、自分フィールドの魔法・罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。攻撃対象をこのカードに移し替える。

 

 「未来への思い」 通常魔法

 効果:自分の墓地のレベルが異なるモンスター3体を選択して発動できる。選択したモンスター3体を特殊召喚する。

 この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は0になり、効果は無効化される。その後、自分がエクシーズ召喚を行っていない場合、このターンのエンドフェイズ時に自分は4000ライフポイントを失う。

 また、このカードを発動するターン、自分はエクシーズ召喚以外の特殊召喚ができない。

 

 『シフトアップ』 通常魔法(遊戯王ZEXALより)

 効果:自分フィールド上の最もレベルの高いモンスター1体を選択して発動できる。

 このターンのエンドフェイズ時まで、自分フィールド上の全てのモンスターのレベルは選択したモンスターのレベルと同じになる。

 

 『超青氷の白夜竜』 エクシーズ

 水属性 ドラゴン族 ランク8

 攻撃力4500 守備力2800

 効果:レベル8モンスター×3

 ①:「青氷の白夜龍」をX素材としてこのカードがX召喚に成功したターン、このカードを対象とする魔法・罠・モンスター効果の発動を無効にし破壊する。

 ②:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。相手フィールドのモンスター1体の表示形式を変更し、その効果を無効にする。

 ③:このカードの攻撃力はフィールドに存在するアイスカウンターの数×300ポイントアップする。

 

 【No.73 激瀧神アビス・スプラッシュ】

 攻撃力2400→4800

 

 

「やった! やった! ミラおねえちゃんが勝ったぁ!」

 教皇のライフが尽き、彼らが倒れたのを見て、クリフがぴょんぴょんと飛び跳ねて声を張り上げる。

 二枚の異端の札を相手にしたこのデュエル、クリフも勝てるかどうかは半信半疑だったのだろう。ミランダはそんな彼に微笑みかけながら、「私だけじゃないでしょ」と優しく言葉を返した。

「私一人の力じゃ、とてもこいつらには勝てなかったわ。クリフが居てくれたからこその勝利よ。…よく頑張ったわね、クリフ」

「うんっ! ほんとはボク、いっぱい怖かったんだけど、でもおねえちゃんを助けなきゃって思ったから、いっぱい頑張ったよっ!」

 声を弾ませながら、クリフは勢いよくミランダに飛び付く。その微笑ましい光景に、彼女達の勝利に貢献した《アビス・スプラッシュ》や《白夜龍》は暖かな視線を送っていた。

 苦しい戦いではあったものの、最後は姉弟の絆とカードの想いが教皇達の戦術を上回った。もし相棒がクリフで無かったなら、デュエルは違う結果となっていたかも知れない。そんな事を考えながら、ミランダは甘えて来る弟を抱擁した。

「…何にしても、これで敵のトップを潰した事になるわね」

 クリフの頭を撫でながら、ミランダは百合と亮助に視線を向ける。

「ボスが倒れた以上、後は雑魚しか残っていない筈よ。一度メイや姫達と合流しましょう。向こうの状況も知りたいし」

「お、そりゃ賛成だよミラるん。強敵を倒してなお負けん気たっぷりなその姿勢、百合ちゃん乙女心がツンツン刺激されちゃうよ」

 持ち前の陽気さで百合が答え、四人の中にどっと笑みが零れた時だった。

 視界の隅で何かが光ったかと思うと、目が眩む程の眩い光が四人の目を奪い、緊張が緩んでいた彼女達の心を戦慄させた。まるでスポットライトを正面から浴びたかのような、圧倒的な光。思わず手で影を作って光の出所を探ってみると、すぐに光源を特定できた。

 倒れた教皇の頭上に、一糸纏わぬ姿の美しい少女が浮かんでおり、その清らかな体から暖かな光を発している。

 先程の教皇のターンに発動され、彼のライフを回復させた魔法カード《グレートヒェンの祈り》。あの時に出現した少女だとミランダが気付くと同時、少女の体は光の粒子となって教皇の体へと吸収される。命の息吹を吹き込むかのように。

「――永遠の命は、人類の夢だ」

 眩い光が収まり、周囲が再び薄暗くなった時。命を吹き込まれた教皇の手が、ピクリと動く。

「不老不死、輪廻転生…。あらゆる夢が人々の間で描かれた」

 ゆっくりと、笑っているような声で呟きながら。力尽きた筈の教皇がその身を起こし、

「その中でも、僕が最も心惹かれるのは――、死者の復活だ」

 まるで何事も無かったかのように、微笑を浮かべて立ち上がった。

「なっ…!?」

 確かにライフを削り切った筈。動揺を隠す余裕さえ無くし、ミランダは教皇の左腕に装着された決闘盤のライフカウンターに目を向ける。

 一度は0を表示したライフカウンター、今はどういう訳か100ポイントを表示していており、教皇のライフが残っている事を示していた。――まだ終わっていない。即座に直感したミランダは、心臓を鷲掴みにされた感覚を味わった。

「ライフがまだ、残っているですって!?」

「残念ながら、ね…。さっき発動したグレートヒェンの祈りには、僕のライフが尽きる時に一度だけ、ライフを100ポイント残してくれる効果がある。もしもの時に備えての保険だったんだけど……いやはや、活きたね」

 悪戯っぽく笑いながら、教皇は狡猾な光を帯びた双眸でミランダ達を見据える。

 たった一度だけ敗北()の定めを回避できる保険。ミランダ達が奇跡を起こした場合に備えた、小さな用心。その僅かな心掛けが、教皇のライフを残した。…ならば、デュエルはまだ終わっていない。

「くっ…! 何処までもしぶとい(・・・・)…!」

 毒づきながら再度決闘盤を構えるミランダだが、全力を出し切った彼女にはもはや打つ手は残されていなかった。

 モンスターは全て攻撃を終えていたし、手札も使い果たした。追撃の手段などあろう筈も無く、ただ教皇を睨む事しか出来なかった。

「……ターン、エンド…」

 結局、ミランダは何一つ対策を取れないまま手番を終えるしかない。

 たかが100ポイント程度のライフとは言え、この100ポイントがあまりに遠い。ましてや教皇にターンを明け渡してしまっては、何が起きるとも知れないのだ。

「け、けど……けど! 教皇の場にはもう異端の札は無いし、手札だって使い果たしてる! ライフが100ポイント残ったところで、勝負はもう…!」

 勝負はもう着いている。そう言おうとした亮助の声は途中で弱々しくなり、最後まで続かなかった。

 どんなに優位な状況を築こうとも、どんなに敵を追い込もうとも。この教皇と言う男に限っては、決して安心は出来ない。その事を、亮助はデュエルを通じて嫌と言う程知っているのだ。

「心外だな。君達に出来る奇跡(こと)が、僕には出来ないとでも?」

 穏やかな声で教皇は答え、デッキから新たなカードを引き抜く。

 正真正銘、このデュエルの行く末を決める最後のカード。教皇は澄んだ瞳でそのカードを確認すると、にこりと笑みを浮かべてそのカードをミランダ達に提示した。

「魔法カード、『ピケルの回復魔法』を引いたよ。このカードは一ターンに一度だけ発動する事ができ、僕のライフを2000ポイント回復する効果を持っている!」

「ッ…!」

 教皇がそのカードを決闘盤に差し込むと、場に白い魔導士衣装を着た少女が四匹の仔羊を連れて現れ、教皇のライフを大幅に回復させる。

 《生命力の果実》の回復効果を含め、教皇のライフは一瞬にして3000ポイントも回復した。その意味をミランダ達が理解するよりも早く、「有言実行だ」と一声呟いた教皇が次の手を打った。

「墓地の神園樹の種をゲームから除外して、効果発動! デッキから『神園樹イェソド』を手札に加え、そのまま場に召喚する!」

 全てが失われた教皇の場に新たな命が芽吹き、瞬く間に成長して大樹となる。3000ポイントのライフ回復に、新たな《神園樹》。教皇の狙いが何であるかは、明らかだった。

「回復したライフを全て注ぎ込み、神園樹イェソドの効果発動! 現れろ、『樹護天使ガブリエル』!」

 育ち切った《神園樹イェソド》は教皇から生命力を吸収し、紫色の果実を枝に実らせる。その実は枝から外れると教皇の足元に落ち、噴き出した粒子が新たな天使の姿を形作った。

 中性的な顔立ちをした、鮮やかな長髪の天使。《ガブリエル》の名を与えられたその天使は大きな翼で飛翔すると、《神園樹》と教皇を護るかのように両手を広げてミランダ達の前に対峙した。

 その攻撃力はこれまでの樹護天使と同様4000ポイントと高く、《超青氷の白夜竜》を除いた全てのモンスターを上回る。だが、ミランダは落ち着いた表情のまま「甘い!」と一喝して返した。

「青氷の白夜龍は、相手モンスターの攻撃を自分に移し替える効果を持っているわ! 樹護天使の攻撃力は4000、白夜龍は3000! 例え攻撃されたとしても私達のライフは――、」

「樹護天使ガブリエルの効果発動! このカードが特殊召喚された時、場のカードを二枚選択し、それ以外のカードを全て破壊する!」

「っ! まさか、全体破壊効果!?」 

「選択するカードはガブリエル自身と神園樹イェソド! よってそれ以外の、君のカードは全て消滅する!」

 《ガブリエル》が両腕を天に掲げて祈りを捧げると、《湿地草原》に降り注いでいた雨が突如として光り輝き始める。光の雨とも言うべきそれはミランダ達のモンスターの頭上に降り注ぎ、氷で造られた二体の《白夜龍》の体を溶かし、《アビス・スプラッシュ》を粒子化させて土に還す。

 雨はモンスターだけでなく《湿地草原》そのものも消滅させ、ミランダ達のカードを悉く消滅させた。

「これで君達の場は壊滅だ。そしてガブリエルは、破壊したカード一枚につき300ポイントのライフを僕に与えてくれる」

「……これ、は…!」

 思いがけない事態にさしものミランダも青ざめ、揺れる双眸を《樹護天使》に向ける。

 攻撃力4000のモンスターを前にして、全てのカードを失う。それが何を意味するのは火を見るより明らかで、この時には誰もがデュエルの行く末を察知していた。

「お…、おねえちゃん…?」

「ミラるん…!? 大丈夫だよね、まだ手はあるんだよね!? ミラるん!?」

 仲間の呼び掛けに対して、ミランダは何も答えなかった。

 決闘者はカードを武器に戦うもの。そのカードを全て失っては、何も出来ないのが道理。それでも何とか活路を見出そうと思考と巡らせるが、答えが見つかる筈も無い。

「君達の行動と戦いぶりには純粋に敬意を表するよ。けど僕達は、今を生きる全ての人々と未来の為に戦っている。それは仲間一人の為に戦う君達よりも苦難で、長い道のりだった。…悪いけど、譲れないな」

 初めて真面目な表情を浮かべた教皇が、最後の一撃を与えるべくバトルフェイズに突入する。それを止める術も、今のミランダには無かった。

「君達の負けだ。樹護天使ガブリエルで、直接攻撃!」

 教皇が命じると同時、《神園樹イェソド》から樹皮の弾丸が放たれ、ミランダ達の全身を容赦なく刺し貫く。4000ポイントものダメージがミランダ達の《ライフ》を奪い、勝利をもぎ取り。未来さえを奪っていった。

「ぼ、ぼく達の……負け…? ぼく達、負けちゃったの…?」

 0となったライフを見つめながら、怯えた視線を姉に向けるクリフ。

 その恐怖を払拭させようとミランダは言葉を探すが、それさえも見つからない。顔を俯かせ、「ごめんね……クリフ」と一言返すのがやっとだった。

(百合……亮助…。姫……メイ…。後は、頼んだわよ…!)

 心の中で仲間に拝みながら、ミランダは拳を強く握り占める。それと同時、ミランダとクリフのの決闘盤から電流が放たれ、彼女達の意識を奪っていった。

 

 

 『グレートヒェンの祈り』 通常魔法

 効果:「グレートヒェンの祈り」の②の効果はデュエル中に1度のみ使用できる。

 ①:手札を1枚捨てる事で発動できる。自分は1000LP回復し、このカードをゲームから除外する。

 ②:相手からのダメージによって自分のLPが0になる場合、代わりに①の効果で除外されているこのカードを墓地に戻す事ができる。その後、自分のLPは100となる

 

 『ピケルの回復魔法』 通常魔法

 効果:このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 ①:自分は2000LP回復する。

 ②:このカードが墓地に存在する場合、手札を1枚捨てる事で発動できる。このカードを墓地から手札に加える。

 

 『神園樹イェソド』 モンスター

 地属性 植物族 ☆2

 攻撃力600 守備力600

 効果:①:このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、3000LPを払う事で発動できる。EXデッキから「樹護天使ガブリエル」1体を特殊召喚する。

 ②:このカードの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

 

 『樹護天使ガブリエル』 融合モンスター

 光属性 天使族 ☆10

 攻撃力4000 守備力3000

 効果:このカードは「神園樹イェソド」の効果でのみ特殊召喚できる。自分フィールドに「神園樹イェソド」が表側表示で存在しない場合、このカードを破壊する。

 ①:このカードの特殊召喚に成功した場合に発動する。自分はフィールドのカードを二枚まで選択し、それ以外のフィールドのカードを全て破壊する。その後、自分はこの効果で破壊したカード1枚につき300LP回復する。

 ②:このカードが効果によって破壊され墓地へ送られた場合に発動する。自分は1000LPを回復する。

 

 

 【教皇 & 塔】

 LP:6400→3400→1500→100→1100→3100→100→1600

 

 【ミランダ & クリフ】

 LP:1400→0

 

 

――――――

 

―――――

 

――――

「……え?」

 意識を失ったミランダとクリフが、どさり、どさりと軽い音を立てて倒れていく。その様子を、亮助は唖然として見つめていた。

 二人が負けた。頭ではわかっていても、心がその事実を受け入れられなかった。目の前の光景が果たして現実なのかも、すぐには理解できなかった。

「ミラるんとクリふんが……負けた…?」

 亮助の隣で立ち尽くす百合が、信じられないといった様子で声を漏らす。二人の実力については亮助以上に知っている彼女だ、その驚きも亮助以上だっただろう。

「ほえー…、(つっか)れたぁ…。手札が一枚でも違ってたら危なかったなー、これ」

 一方の教皇は、緊張感の抜けきった顔で息を吐く。その双眸が自分達に向けられ、「さてと」と声を掛けられた瞬間、亮助は背筋が凍るような感覚を味わった。

「何にしても、僕達の勝ちだね。まずは二人撃破だ。次は君達の番…、かな?」

 ミランダ達を倒した事で、教皇の悪意の矛先が亮助達に向けられる。倒れていた塔も再び《傀儡教皇》によって立ち上がり、次は自分達にデュエルを挑むつもりなのは明らかだった。

 二人が倒れた以上、この場で戦えるのは自分と百合だけ。否応なく理解した亮助は、震える足を強引に動かし、一歩教皇へと歩み寄った。

「くそッ…! こうなったら、俺が相手だ!」

 己を鼓舞して奮い立たせながら、亮助は背後に居る百合にちらりと目をやり、

「百合の姉ちゃん! こいつらは俺が引き受ける! 姉ちゃんはその間に姫利の姉ちゃん達と合流して、こいつらの事を皆に伝えてくれ!」

 自分でも何を言っているのか理解できないまま、感情の限りを叫ぶ。驚いた百合は「え!?」と声を荒げ、亮助に反論した。

「な、なに言ってんのさ亮ちん! 亮ちん一人で勝てる相手じゃないのは見てわかったでしょ!? ここは私と一緒に戦うしか――、」

「ここで俺達までやられたら、姫利の姉ちゃん達は何の情報も無くこいつらと戦う事になる! そんな事になるよりは、姫利の姉ちゃん達にこいつらの事伝えた方が絶対にいい! 俺が少しでも時間を稼ぐから、今は!」

 そう言って亮助は決闘盤を構え、単身教皇と塔に対峙する。ミランダとクリフの姉弟タッグが敗れた時点で、もはや自分達はこの二人には勝てない。そう彼は判断していた。

 勝ち目がないのならば、今はミランダと同等の実力を持つ決闘者(仲間)に希望を繋ぐしか無い。今もこの廃墟の何処かで戦っているであろう姫利とメイ、あの二人に教皇達のデッキと異端の札の情報を伝えれば、この異常なタッグにも勝てる筈だ。

(その為なら、俺がここで犠牲になったって構わない…!)

 決死の覚悟で決闘盤を起動し、教皇にデュエルに挑もうとした時。亮助は、背後に何かが落下したような轟音を耳にした。

「――忍びない覚悟だが、些か遅かったな。そなた達の忠告を聞く者は、もはや一人も残ってはおらぬ」

 高所から岩が落ちてきたような凄まじい音を背後に聞いた後、同じ場所から聞こえた低い声が、亮助の脳髄を震わせる。

 振り返ると、そこには真赤な鎧を身に着けた老人――…教皇の仲間の一人である“正義”が、腕組みをして立っていた。

「新しい敵…!?」

 いつからそこに居たのかと考えるよりも先、亮助は決闘盤を構えて正義を威嚇する。正義はそんな彼の姿を鬼の面越しに見つめた後、その奥に居る教皇に双眸を向けた。

「やあ正義、早かったね。ここに来るという事は、上の方はもう?」

「うむ。愚者を含めた幼子が三人と、春風姫使いと水精鱗使いの娘を二人、今し方上階にて片付けた所だ。…こちらは四人か。ならば、残るはこの二人だけと言う事だな」

「っ――!」

 幼子三人と娘二人。さらりと言ってのけた正義の言葉に、姫利達の顔が脳裏を過ぎり、亮助と百合は戦慄する。

(まさか、姫利の姉ちゃん達ももう…!)

 自分達が教皇と戦っている内にやられたのか。幼子三人とはソール達の事か? 悪い連想が次から次へと浮かんでは消え、金縛りに遭ったように亮助の体を硬直させる。

(それに、この鎧のじいさんは見覚えがあるぞ…!? まさか、まさかプロ決闘者の…!)

「教皇よ、この者達の相手は余が引き受けよう。塔はもう休ませてやるが良い。そなたとて、塔を酷使するのは本意では無かろう」

 亮助達の動揺を余所に、正義は鎧の左腕に仕込まれた決闘盤を展開し、戦闘態勢に入る。それを見た教皇は、にこりと微笑を浮かべて「優しいなぁ正義は」と陽気に答えた。

「でも、一人で全部背負おうとするのは君の悪い癖だな。仲間じゃないか、手伝うよ」

 正面には教皇、背後には正義。二人の強敵に挟まれた亮助と百合は互いに背中をくっつけながら、少しずつ歩み寄って来る二人の敵に目を向ける。

 退路など無い。援軍が来る事も無い。敵う相手で無い事は明らかだ。絶望が二人の心に忍び寄り、後悔の念が心を包んでいく。

「さて、どうしようか坊や達。僕と戦うか、それともそこのご老人が相手をするか。君達が決めて構わないよ。僕が正義とタッグを組むっていうのもありだね」

 宥めるような優しい声が、耳朶を叩いた時。亮助は、自分達の未来が潰えた事を悟った。

 

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 闇の中に、ちらりと光の線が見えた気がした。

 二度。三度。ほんの刹那の光の瞬きが暗闇の中で浮かんでは消え、眠っていた意識を揺り起こそうとする。

「う…」

 無意識の内に漏れた自分の声を、自分の声だと認識するにも時間が掛かった。

 少年はうっすらと目を覚まし、体が痺れるような感覚を覚えながら、ゆっくりと瞼を開いた。

 少しずつ広がっていく視界に最初に映ったのは、自分より遥か高い場所にある、亀裂の入った天井だった。気品漂う装飾が施された、見覚えの無い天の障壁――。

「はっ…!」

 微睡みを彷徨う事数秒、不意にはっきりと意識を目覚めさせたクロンは、冷たい床に横たわっていた体を強引に跳ね起こす。

 ここが異空間の廃墟である事。自分がそこに閉じ込められた事。助けに来たソール達と共に、敵である“正義”と戦った事。覚醒した意識の中に次から次へと情報が入り込み、ようやく彼は現実に引き戻される。

 そうして全てを思い出したクロンの目に飛び込んで来たのは、体を縄で縛られ、床に座らせられている仲間達の姿だった。

 意識を失う前まで一緒だったソールとフロムに、姫利やメイ。ミランダやクリフに、亮助と百合まで。良く知った仲間がそれぞれ表情を曇らせながら、処刑寸前の囚人の様に座らされている。

「みんなっ!」

 思わず駆け寄って彼らの縄を解こうとしたクロンだが、彼の体は同じように両腕と両足を縛られており、立ち上がる事すら出来ずに転んでしまう。

 みんな、捕まってしまったのか。ボクの為に。ボクのせいで。あふれる感情が涙となってクロンの頬を伝った時、一番近くに居たソールが「よぉ…」と苦しげに声を掛けてきた。

「どうやら、どいつもこいつも捕まったみてーだぜ…。春川も居ながら、情けねーもんだ。なぁ…?」

 自嘲するように笑いながら、ソールは諦めを含んだ溜め息を吐く。

「ま…。負けたもんは仕方ねぇ。連中が俺様達をどうする気かは知らねーが……なるようになるだろーさ」

 普段の彼女らしくない諦めた物言いが、そのまま今の彼らの状況を物語っていた。

 自分達の命運は、完全に敵に握られた。逃げる事さえ出来ない以上、生かすも殺すも敵の心次第という事になる。

(ボクが…、皆を巻き込んでしまったから…!)

 声にならない嗚咽が、慟哭となって空間に木霊する。それに釣られて無く声も、一つか二つ聞こえて来た。

 己の無力さをこれほど憎く思った事は無い。自分に今少し力があれば、こんな事には。悔やんでも仕方がないとは思いながらも、考えずには居られない。

 自分はどうなってもいい、せめて皆だけでも。そう心から願った時。クロンは、小さな黒い塊が自分の傍に歩み寄って来る事に気付いた。

「警告はしたのですよ。貴方を助けようとしても命を落とすだけだ、だからやめた方がいい。…そう進言はしたのです」

 抑揚の無い少年の声が耳朶を叩き、クロンはその黒い塊――…。一匹の黒猫に目を向ける。

 その黒猫、デスはクロンと目が合うと、逃げるように金色の双眸を逸らし……すぐに視線を戻して、申し訳なさそうに口を開いた。

「残念な事です。教皇はともかく、“審判”が貴方達を許す事は決してありません。僕には貴方達の救う手はありませんが……せめて、貴方達の最期が安らかなものである事を祈りましょう」

 遠回しな物言いの後、デスは踵を返してとことことクロンの傍から離れていく。

 彼の行く先には、彼らのボスである教皇が壁に凭れる形で立っており、複雑な表情をクロン達に向けながら、寄って来たデスを拾い上げていた。

 彼らだけでは無い。教皇の傍には拗ねるように頬を膨らませた塔と、にやにやと笑みを浮かべるリリオン、そして圧倒的な実力で自分達を倒した正義が立っており、それぞれ憐れむような目をクロン達に向けている。言葉こそ無かったものの、それだけでこれから何が起きるのかは容易に推察できた。

(みんな、殺されるんだ――…)

 これから起きる()の恐怖に、クロンが身を震わせた時。何もない空間に突如として発生した青色の火炎が暗闇を照らし、そこから数人の男女が姿を現した。

 血で汚れた黒いコートを着た強面の男を先頭に、ピンク色のシャツを着た大男、黒いモーニングコートを着こなす老紳士に、あどけない笑みを浮かべた幼い少女。恐らくは教皇の仲間であろうその者達は、教皇にそれぞれ一言声を掛けると、拘束されているクロン達に目を向ける。

「どうやら片付いたようだな」

 新たに現れた男女の一人。黒いコートを着た強面の男“審判”が、氷の様に冷たい眼差しをクロン達に向ける。

「時間を掛けるのも面倒だ、さっさと決めるとしようか。こいつらの殺す順番と、方法をな…」

 不愛想な表情を一切動かさず、審判は教皇の肩に手を置いて話し掛ける。戦いに敗れたクロン達の最後の審判が今、始まろうとしていた。

 

 

――――

【デッキ紹介】

 

No.18

デッキ名:

使用者:教皇

切り札:二心抱きし傀儡教皇、《樹護天使》シリーズ。

コンセプト:ライフ回復に特化した高性能なボス仕様デッキ。モンスターはほぼ植物族で占められているが、《樹護天使》のみ天使族で統一されている。

手札一枚から特殊召喚できる高火力モンスター《樹護天使》を主力としており、基本コンセプトはむしろビートダウンに近い。《樹護天使》がEXデッキから特殊召喚される事から手札事故を起こす可能性も少なく、変わったデッキながらバランスは安定している。

《樹護天使》は召喚にライフコストを要求するものの回復効果を持ち、払った分のライフは即座に回収できる。一方で効果耐性を一切持たず、それどころか対応する《神園樹》が存在しなければ自壊してしまうので場持ちは左程良くない。《神園樹》を除去される事はもちろん、《月の書》で裏守備表示にされたりコントロール奪取されても破壊されてしまう。

もっとも後者は《樹護天使》が相手に奪われる危険が無いと解釈できる為、一概に弱点とは言い切れない。《樹護天使》の攻撃力の高さを思えばむしろメリットと言える気もする。

そもそも多少耐性が無かろうと攻撃力4000を手札一枚で特殊召喚できるデッキが弱い筈が無く、また相手からすれば《樹護天使》を破壊するには適当なモンスターで《神園樹》を攻撃するか除去カードを使用する必要がある為、次の《樹護天使》を特殊召喚する準備さえ整っていれば耐性の無さはそこまで気にならないだろう。

また、永遠の命を謳うだけの事はあって純粋なライフ回復力も通常のデッキを遥かに凌駕する。ライフ回復特化という時点で苦戦を強いられるデッキも少なくなく、バーンデッキは無論の事、ビートダウン型デッキが相手だったとしても殴り合いながら回復できるこのデッキの方が有利である。(ちなみに今回のデュエルで教皇自身のカードによって回復したライフ量は31450ポイント。初期ライフも加えれば決闘者五人分である)

結論としては、弱点が必ずしも弱点とは言い切れない、かなりのハイスペックデッキと評価できる。《樹護天使》がEXデッキを圧迫している為シンクロ・エクシーズモンスターをあまり採用できない欠点はあるものの、この性能ならそこまで苦にはならないだろう。

むしろシンクロやエクシーズ召喚用の下級モンスターを用意する必要が無い分、空いたデッキスペースに除去カードやドローソースを投入できるとも言える。天敵である【シモッチバーン】もそこまで怖く無い。

ちなみに察しの通りデッキはかの《時械神》と同じく生命の樹をモチーフにしており、《樹護天使》も十体存在する。全ての《樹護天使》を特殊召喚する事で初めて召喚が可能な隠された切り札も存在するが、大抵は召喚する前に勝負がついてしまう為、仲間内ですらその存在を知る者は限られている。登場する日は来るのだろうか(他人事)。

余談だが、このデッキは一対一のデュエルは無論の事、タッグデュエルも得意としている。圧倒的なライフ回復量と安定した火力供給はパートナーとしても非常に頼もしく、塔に限らず誰とでも息を合わせる事が出来る。何処かの黒猫(デス)には是非とも見習って欲しい所である。

 

――――

【異端の札紹介】

 

カード名:二心抱きし傀儡教皇(ディプライブ・パペット・ハイエロファント)

所有者:教皇

カードタイプ:モンスター

詳細:教皇が異端の札に触れる事で発現するカード。半身の無い人骨を背負った人形と言う、極めて不気味なデザインが特徴。教皇の仲間曰く「最強の異端の札」。

方向性の異なる四つの効果を持つが、その中でもメインとなるのは相手の魔法・罠の発動を無効にすると言うもの。2000ポイントのライフコストを要求するがターン回数等の制限は無く、また同一チェーン上で発動したカードも無効に出来る。

無効にしたカードは持ち主の手札に戻ってしまうので再発動される恐れがあるが、相手カードの発動を四回阻止する事で発動する特殊勝利効果がある為、むしろ乱発してくれた方が都合が良く、まさに相手を掌の上で踊らせている形となる。

守備力も並のモンスターでは戦闘破壊が困難な数値である為、ライフコストさえ用意できれば場に存在するだけで相手を苦しめる事が出来る。もっとも特殊召喚には三体のリリースを必要とし、劣勢を覆す程の性能は持っていない為、サポート用としての運用が基本となる。

このカードの最も凶悪な点は、塔の異端の札《未染色の塔》が発動する事で手軽に召喚できてしまう点である。《未染色の塔》はフリーチェーンの永続罠である為発動は容易く、しかも《傀儡教皇》とは互いの弱点を補う関係である為に速攻性とコンボ性に優れる。塔とのタッグデュエル限定とは言え、二枚の異端の札による連携は突破が困難である。

弱点としては、先述の通り単体では劣勢を覆す性能は持たない事と、攻撃力は下級モンスターレベルである為に戦闘での活躍が見込めない事くらいだろうか。どちらかと言えば防御寄りのカードと言える。

また、まず有り得ない事ではあるが、相手が《未染色の塔》を発動した場合も特殊召喚効果を発動できる。ただしその場合は《未染色の塔》が発動した後であるため効果を無効に出来ず、罠カードによる破壊に耐性を持たない為一方的に破壊される。

最良のパートナーである《未染色の塔》が同時に天敵でもあるというのは、なかなか興味深いものがある。




と言う訳で、敵拠点突入からの五連デュエルが終了いたしました。ヒャッハー!
デュエルシーン書くのは好きだけど今回は流石に疲れたぞー。冒頭の細胞分裂云々も聞きかじった知識で書いてるから間違えてたらどうしようー。まあいいやー。

あ、そうだ(唐突)
今回ミランダさんが使用した《コールド・タイガー》および《超青氷の氷河竜》は彼女のキャラ提供者様から頂いたカードです。この場を借りて感謝!

そしてこの小説を読んで下さる全ての皆様に最大級の感謝を込めて、また次回をお楽しみですー。
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