クロンの呼応   作:恐竜紳士

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第七話:見えるけど見えない思惑

 姫利とクロンのデュエルが始まってから、まだ二ターンしか経過していない。互いにライフも動かず、攻撃すら行っていない状況だ。

 だが、そんな僅かな時間の中、姫利は自らの弟子の成長を感じとっていた。

(まだまだ未熟とは言え……無闇に攻撃するのは命取りね。確実に、堅実に攻めるとしましょうか。…可能な限り)

 油断していけない。この子は、人の油断を狩り取る事に長けている。

 そう自分に言い聞かせながら、姫利はクロンの出方を待った。

 

 

 

【クロン】 LP:8000

手札:2枚

モンスター:スターダスト・ドラゴン(攻撃表示)、サーチライトメン(裏守備表示)

魔法&罠:伏せカード×2

 

【姫利】 LP:8000

手札:2枚

モンスター:春風姫‐ヨツバ(攻撃表示)

魔法&罠:伏せカード×2

 

 

 

「…ボクのターン、ドロー!」

 続いてクロンのターン。彼は引いたカードを手札に加えると、いつものように思考する。

 今の姫利のターンは戦闘こそ無かったものの、かなりのカードが動き、情報が動いた。この情報を整理して利用する事、それが自分の武器なのだと、クロンはこの数日で学んでいた。

(ボクにとって有利な事は二つ。一つはスターダスト・ドラゴンを出せた事、これは大きい。そしてもう一つは、お姉ちゃんが発動した春一番がデュエル中に一回しか発動できない事。これはもっと大きい)

 伏せカードを多用する彼のデッキにとって、《大嵐》のような除去カードは何より恐ろしいカードだ。その除去カードを一つ、この序盤で潰せた事は幸先が良いと言わざるを得ない。

 だが、良い事ばかりでも無かった。クロンは腕組みをしながら、姫利の場の《春風姫‐ヨツバ》と二枚の伏せカードを睨みつける。

 《春風姫‐ヨツバ》は攻撃力こそ低いものの、場の「春風姫」の数まで相手の場にセットされたカードを確認する効果を持つ。この効果はクロンにとって《大嵐》と同じくらい厄介な能力だ。

 当然姫利は今のターンに《ヨツバ》の効果を使い、クロンの裏守備モンスターを確認した。相手がカードをセットする事を封じる効果を持つリバースモンスター、《サーチライトメン》を。

(サーチライトメンの守備力は1000ポイント、ヨツバの攻撃力なら十分に破壊できる。…なのに、お姉ちゃんは攻撃して来なかった)

 それは何故か。頭から煙が出そうなほど思案を重ね、クロンはいくつかの可能性を見つける。

 一つは、クロンの伏せカードを警戒したという理由だ。《ヨツバ》がクロンにとって都合の悪いカードである事は姫利も気づいている筈。その《ヨツバ》を罠カードで破壊されたくなかったというのが、第一の理由だ。

 そして、姫利が《サーチライトメン》をリバースさせたくなかったという事も理由の一つだろう。《サーチライトメン》を攻撃されては、カードをセットする事ができず、次のターンに《スターダスト》の攻撃を許してしまう。

(つまり…。姫利お姉ちゃんは、ヨツバをフィールドに残し続けるつもりなんだ。そしてその為には、カードをセットする必要があると考えた)

 それが意味する事は一つ。あの伏せカードは、まず間違いなく罠だ。恐らくは《スターダスト》から《ヨツバ》を守る為の。

「うーん…」

 彼女の思惑は読めた。他に可能性も考えられないので、この考えにまず間違いはないだろう。

 問題は、では自分はどうでるべきか、だ。罠を承知で《ヨツバ》を破壊しに行くか、破壊を諦めて身を固めるか。

(虎穴に入らずんば虎子を得ず、君子危うきに近寄らず…。さて、どっちが賢い行動かな)

 クロンは手札を確認して少し考えた後、意を決して手札からカードを一枚選び決闘盤に叩きつける。

「手札からリトル・ウィンガードを召喚!」

 彼はあくまで《ヨツバ》を破壊する事にした。百合との闘いでも活躍した小人の戦士が召喚され、勇ましく剣を構える。

 当然と言えば当然の決断だった。姫利の場に《ヨツバ》がある以上、彼の手の内は彼女に筒抜けだ。二人のの実力差を考えれば、その情報アドバンテージはそのまま勝敗を決すると言っていい。

 多少無茶だとわかっていても、彼は攻めなければならなかった。

「バトル! ウィンガードで、ヨツバに攻撃するッス!」

 主人の命令に軽く頷くと、《ウィンガード》は罠を恐る事もなく《ヨツバ》に向かって突進する。同時に《ヨツバ》も剣を構えるが、二つの刃が触れるより早く、姫利の手が動いた。

「やっぱり、そう来たわね。なら私は罠カード、《春烈風》を発動! リトル・ウィンガードの攻撃を無効にして、手札から《春風姫‐カレン》を特殊召喚するわ!」

 姫利が発動したカードから強風が吹き、《ウィンガード》の小さな体をクロンの場へを押し戻す。花の香りがする、暖かな風だった。

 そして風が止むと、姫利は手札から一枚のカードを選んで決闘盤に叩きつける。現れたのは、《ヨツバ》と同じく美しいドレスで着飾った少女だった。

 歳は《ヨツバ》より少し上だろうか。敵の攻撃を防ぐ為かドレスに銀色の鉄板を取り付け、左腕には円形の小さな盾を付けている。

 その少女《カレン》はスカートを指で摘んで一礼すると、腰に付けた鞘から剣を引き抜く。ドレスに付けた鉄板が装飾と思えるような、優雅な姿だった。

「…さ、どうする?」

「っ…」

 思わず見とれていたクロンの意識が、姫利の呼び掛けによってデュエルに引き戻される。クロンは首を振って落ち着きを取り戻すと、まずは大きく深呼吸する。

 姫利が《ウィンガード》に対して伏せカードを発動したという事は、当然もう一枚の伏せカードは《スターダスト》の攻撃を防ぐ為のものだろう。そうでなければ、《ウィンガード》に対して罠を使わなかった筈だ。

(このまま攻撃して傷口を広げるか、身を守って様子を見るか…)

 罠を多用するが故、クロンには相手の罠カードを強く警戒する傾向があった。ましてやほぼ確実に罠だと分かっているのだ、二度も踏み込むには相応の勇気がいる。

「……」

 攻めるか否か。悩むクロンを、姫利はじっと見つめている。自分はどちらでも構わないと、そう言っているように思えた。

「…バトルフェイズ終了ッ! リトル・ウィンガードを効果で守備表示にして、ターンエンド!」

 考えた末に、クロンは折れた。姫利の伏せカードが持つ威圧の前に、保留こそ最善と考え直した。叫ぶようにバトルフェイズを終え、そのままターンを終了させる。

 だが、その彼の考えは些か甘かった。ターン終了を宣言すると同時、姫利が微笑してもう一枚の伏せカードを発動させる。

「残念でした。罠カード、強制脱出装置を発動。スターダスト・ドラゴンには、エクストラデッキに戻ってもらうわ」

「なっ…」

 しまった。そう思った時には、もう手遅れだった。フィールドに現れた巨大な機械が《スターダスト》を吸い込み、クロンのエクストラデッキに向けて射出する。

 攻撃する、しないの問題では無かった。クロンがどちらの選択をしようと、姫利には関係無かったのだ。その気になれば彼女はいつでも《スターダスト》を除去できたのだ。

 

 

 

 「リトル・ウィンガード」

 風属性 戦士族 ☆4

 攻撃力1400 守備力1800

 効果:このカードは自分のエンドフェイズに1度だけ表示形式を変更する事ができる。

 

 『春烈風』 通常罠

 効果:自分フィールド上の「春風姫」と名のついたモンスターが攻撃された時に発動する事ができる。

    その攻撃を無効にし、手札から「春風姫」と名のついたモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。

 

 『春風姫‐カレン』 モンスター

 風属性 戦士族 ☆4

 攻撃力1600 守備力1700

 効果:このカードが召喚・特殊召喚された時、手札から「春風姫」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。

 

 「強制脱出装置」 通常罠

 効果:フィールド上のモンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。

 

 

 

「私のターン、ドロー!」

 姫利は静かな面持ちで、新たなカードを手札に加えた。

 紆余曲折あったが、《スタードラゴン》を排除した事と《ヨツバ》を守りきった事は大きい。二枚のカードを消費したが、それを取り戻す手段も既に用意してある。

 そしてもう一つ。今のクロンの行動から、彼の決闘者としての弱点が、見えたような気がした。

 《サーチライトメン》への攻撃を見送ってセットした二枚のカード、当然クロンはそれが罠である事を見抜いていただろう。

 彼が危険を承知で攻撃を行ったのは《ヨツバ》を何としても破壊したかったからである事は間違いない。彼にとって《ヨツバ》は、それほど厄介な効果を持っているのだ。

 それ故、彼は一度は罠の中に踏み込んできたのだが――。二度は、踏み込んでは来なかった。同じ危険を二度も冒す勇気が、彼には無かったのだ。

(罠の扱いが得意だからこそ、罠を恐る…。一回は思い切れても、二回目は思い切れない、か…)

 その性格は、そのまま詰めの甘さと言い換える事ができる。

 守るべきと思ったら守る。攻めるべきと思ったら、とことん攻める。中途半端な決意は必ず仇となる。それが彼女の持論だった。

「…ヨツバの効果を発動! 私の場の春風姫の数、つまり二枚まで相手のセットカードを見る事ができる! 見せてもらうわ、貴方の伏せカードを!」

 再び発動される《ヨツバ》の効果。させじと、クロンが手札から一枚のカードを選び決闘盤に差し込んだ。

「させない! 手札のエフェクト・ヴェーラーを墓地に送る事で、ヨツバの効果をエンドフェイズまで無効にする!」

「っ…!」

 彼が使ってきたのは、手札から効果を発動できる特殊なモンスター《エフェクト・ヴェーラー》。それにより《ヨツバ》の効果は無効化され、伏せカードの確認は封じられた。

 このカードも今までの彼には無かったカードだ。姫利は八つ当たりするように、百合の顔を睨みつける。

「クロぽんのデッキ、華が無かったからさ。アイドルカード、買っちった」

「く…」

 ぺろりと舌を出す百合に苛立ちを感じつつ、姫利は手札から一枚のカードを選び、決闘盤に叩きつけた。

「仕方ないわね…。手札から、『春風姫‐アリア』を召喚!」

 現れたのは、他の春風姫と同じくドレスを身に纏った小柄な少女。戦闘を好まないのか武器を持たず、日傘を指しておどおどしている。

 攻撃力は皆無だが、攻撃表示で出したのは理由あっての事だ。姫利は続けて一枚のカードを手札から発動させる。

「更に魔法カード、『春風の宴』を発動!」

 彼女がそのカードを発動させると、再び暖かな風が吹き、《春風姫》達の髪とドレスを優しく撫でる。風はいつしか小さな光の粒を創り、集め、新たな命を形成する。

「このカードは私の場に春風姫が三体以上いる場合に発動できるカード。その効果により、私はデッキから《春風帝‐ワタル》を特殊召喚し、更にカードを一枚ドローする!」

「春風帝…?」

 クロンが首をかしげて呟いたと同時、一際強く輝いた光の中から、一人の青年が姿を現した。

 性別の違いこそあれ、その容姿は《春風姫》と似た印象を受ける。華奢な体を装飾が施された鎧で包み、手には光を帯びた剣が握られている。

 その攻撃力も2650と高く、三人の姫を守るように立つその姿は、まさに王者の風格と言えた。

「…どうやら、姫利お姉ちゃんのエース登場って所ッスかね?」

「さあ、どうかしらね」

 にやと一笑し、姫利は次の行動に移る。

「春風姫‐アリアの効果を発動! 私の場に春風姫‐ワタルが特殊召喚された時、デッキからカードを二枚ドローできる!」

「っ…!」

 日傘を差した少女《アリア》は《ワタル》の姿を見るや否や、傘をくるくる回して《ワタル》の下に歩み寄った。

 その顔には明るい笑みが浮かんでおり、彼女達が親しい間柄である事が見受けられる。その微笑ましい二人の間から二枚のカードの映像が現れ、姫利の手札に吸い込まれていく。

「そしてもう一つ。春風帝‐ワタルが存在する限り、春風姫の攻撃力は500ポイントアップするわ」

「ぐっ…」

 高攻撃力モンスターの特殊召喚と手札補充に続き、春風姫への全体強化。これにはクロンも苦々しい表情を浮かべた。

 しかし、ここで姫利が一度動きを止める。クロンの場の伏せカードを見つめながら。

「さて、問題はこの後どうするかだけど…」

 口に手を当てながら、姫利は「ふむ」と小さく呟く。

 彼女の場には《ワタル》を含め四体のモンスターがいる。これらで総攻撃を仕掛ければクロンのライフを大きく削る事ができるが、あの伏せカードが黙って通してくれるとは思えない。

「さっきのエフェクト・ヴェーラーが痛いわね…。んー…」

 攻めるか否か。奇しくも弟子を同じ選択を迫られた訳になる。

 彼女は諦めたように溜息をつくと、手札からカードを選んで決闘盤にセットする。

「焦りは禁物、という事にしておきましょうか。カードを一枚セットして、ターンエンドよ」

 彼女は、慎重だった。

 ここで勝負に出る事はない。次のターンに《ヨツバ》の効果を再発動すれば、安全な形で攻める事ができるのだ。

 もちろん、ここで攻撃しない事でクロンに反撃の機会を与える可能性もある。あるのだが――…それはそれで迎え撃つまで。それが彼女の結論だった。

 

 

 

 「エフェクト・ヴェーラー」 モンスター

 光属性 魔法使い族 ☆1 チューナー

 攻撃力0 守備力0

 効果:このカードを手札から墓地へ送り、相手フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。

    選択した相手モンスターの効果をエンドフェイズ時まで無効にする。この効果は相手のメインフェイズ時にのみ発動できる。

 

 『春風姫‐アリア』 モンスター

 風属性 戦士族 ☆2

 攻撃力0 守備力0

 効果:自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードは召喚・特殊召喚する事ができない。

    自分フィールド上に「春風帝‐ワタル」が召喚・特殊召喚された場合、自分はカードを2枚ドローする。「春風姫‐アリア」の効果は1ターンに1度のみ使用できる。

 

 『春風の宴』 通常魔法

 効果:自分フィールド上に「春風姫」と名のついたモンスターが3体以上存在する場合に発動できる。

    デッキまたは手札から「春風帝‐ワタル」を1体特殊召喚し、その後デッキからカードを1枚ドローする。

 

 『春風帝‐ワタル』 モンスター

 風属性 戦士族 ☆6

 攻撃力2650 守備力2100

 効果:自分フィールド上に「春風姫」と名のついたモンスターが存在する場合、このカードはリリースなしで召喚できる。

    このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールドに表側表示で存在する「春風姫」と名のついたモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。

    自分のドローフェイズに通常のドローを行う代わりに、デッキから「春風姫」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える事ができる。

 

 

 【春風姫‐ヨツバ】

 攻撃力:1200→1700

 

 【春風姫‐カレン】

 攻撃力:1600→2100

 

 【春風姫‐アリア】

 攻撃力:0→500

 

 

 

 奇妙なデュエルだった。

 デュエル開始から現在まで、二人のライフは少しも削られていない。モンスターによる攻撃も、一度しか行われていない。

 クロンと姫利。二人の激しい読み合いが、二人から「攻撃」という選択肢を取り上げているのだ。動かない(・・・・)事が、このデュエルの厳しさを物語っていた。

「…ボクのターン」

 弱気な表情でカードを引くクロン。勝負は拮抗しているようにも見えるが、実際はややクロンの不利に傾いていた。

 手札の《エフェクト・ヴェーラー》は尽きた。このターンで《ヨツバ》を破壊しなければ、今度こそ自分の伏せカードを見られてしまう。その瞬間から、デュエルは大きく動くだろう。クロンの圧倒的不利という形で。

(それだけは、避けなきゃいけない…)

 互いに動くに動けない状況で、彼はどうしても動かなければ(・・・・・・)ならなかった。クロンは引いたカードを確認すると、どうするのが最善か、藁にも縋る思いで思案する。

(幸い姫利お姉ちゃんの伏せカードは一枚しかない…。今なら――)

 今ならやれる。そう考えた時、クロンは「あ!」と思わず声を出した。

(しまった…。ヨツバの攻撃力は今、ワタルの効果で1700になってるんだった…)

 思いながら、クロンは自分の場の二体のモンスターを見る。《サーチライトメン》と、《リトル・ウィンガード》。この二体の攻撃力では、そもそも《ヨツバ》を破壊する事ができないのだ。

 手札を見ても、攻撃力1700以上のモンスターは無い。また一つ、選択肢を奪われた形だ。

「む、うぅ…」

  苦しげに唸りながら、クロンは自分の場に伏せられた二枚のカードに視線を落とす。

 《墓荒らし》と、《炸裂装甲》。それが彼が仕掛けた罠の正体(なかみ)だ。

 だが、これらの罠を用いても、このターン中に《ヨツバ》を破壊する事はできない。クロンは悩んだ末、「仕方ない」と呟いて決断する。

「ここで使うのは勿体無いけど…。魔法カード、死者蘇生を発動! ボクの墓地から、エフェクト・ヴェーラーを特殊召喚するよ!」

 クロンは強引に仕掛ける事にした。彼の墓地から半透明の翼を持つ女性が蘇り、《ウィンガード》の隣に舞い降りる。

「エフェクト・ヴェーラーはチューナーモンスター! いくよ、レベル4のリトル・ウィンガードにレベル1のエフェクト・ヴェーラーをチューニング!」

「…へぇ」

 得意げに笑う姫利をよそに、二体のモンスターはそれぞれ光の玉とリングに形を変え、新たなモンスターへと変貌する。

「シンクロ召喚! 出ろ、A・O・J カタストル!」

 現れたのは、生物のようなデザインの機械族シンクロモンスター。

 攻撃力は2200ポイントと心許ないが、闇属性以外のモンスターと戦闘を行った場合にそのモンスターを破壊する効果を持ち、戦闘面では心強いカードと言える。

 しかも、これまで姫利が召喚したモンスターは全て風属性。攻撃さえ通れば、攻撃力2650の《春風帝‐ワタル》さえも破壊可能だ。

「バトル! カタストルで、ヨツバに攻撃するッス!」

 だが今彼が破壊したいのは、あくまで《ヨツバ》だ。彼が力強く攻撃を宣言すると、それに応えるように《カタストル》から起動音が鳴り、《ヨツバ》への攻撃態勢になる。

 この攻撃が通れば。そう心で呟くクロンの思いとは裏腹に、姫利の伏せカードが翻った。

「速攻魔法、エネミーコントローラーを発動! 気の毒だけど、カタストルを守備表示にさせてもらうわ」

「ぐっ…」

 予想はしていたが、やはり彼女は攻撃に備えていた。カードイラストから実体化されたコントローラーが《カタストル》を操作し、攻撃を中断させる。

 これでこのターン、《ヨツバ》を破壊する手段は完全に無くなった。思わず項垂れるクロン。だが、その目はまだ諦めてはいなかった。

「いや、まだ! まだ終わらない! 罠カード、墓荒らしを発動!」

「えっ!? ま、まさか…」

 この展開は読めなかったのだろう、姫利が驚愕の表情を見せる。

「んふふ…、そのまさかッス。今お姉ちゃんが発動したエネミーコントローラーを、ボクの手札に加える!」

 すると、姫利の墓地から汚らしい身なりの小人が現れ、笑いながらクロンの元へと飛んでいく。その手にはたった今墓地に送られたばかりの《エネミーコントローラー》のカードがあった。

 クロンは小人からそのカードを受け取ると、にやりと一笑する。

「いいカードですね、これ。ありがたく使わせてもらいますよ」

「…ええ、どうぞ」

 姫利はくすりと微笑する。その笑みが何を意味するのかは、考えても仕方がない。今はただ、行動するのみだ。

「エネミーコントローラー発動! カタストルをコストにして、エンドフェイズまでヨツバのコントロールを頂くッス!」

 発動と同時に《墓荒らし》の効果でクロンのライフが2000ポイント削られる。このデュエルが始まって初めてのダメージだが、それだけの価値がこのカードにはあった。

 実体化したコントローラーが《ヨツバ》の背中に装着され、その体の自由を奪う。

「よし、これで…。バトルフェイズ続行! ヨツバで、アリアを攻撃ッス!」

 続けて攻撃を宣言するクロン。姫利の場を離れた時点で《ヨツバ》の攻撃力は1200ポイントに戻っていたが、もともと攻撃力の低い《アリア》を戦闘破壊する事は可能だ。

 《ヨツバ》はコントローラーの支配に何とか抗おうとしたが、ルールという見えない力に逆らえる訳もなく、悲痛な表情で仲間である《アリア》を切り捨てた。

 この戦闘によって、姫利も僅かながらダメージを受ける。1000ポイントにも満たない数値だが、このデュエルで初めての戦闘ダメージだ。

「やってくれるわね…。でも、ここからどうするつもり? このままだと、ヨツバは私の場に戻ってくるけれど」

「残念だけど、一度貰ったものは返さない主義なんですよね。ボク」

 にぃ、と意地悪く笑うと、クロンはバトルフェイズを終了させてメインフェイズ2に移る。

「いきますよー。サーチライトメンを反転召喚します!」

「…まあ、そう来るわよね。当然」

 長い間伏していた《サーチライトメン》が漸くその姿を見せる。先程《エネミーコントローラー》を発動した時、このカードではなく《カタストル》をリリースしたのは、このカードがヨツバと同じレベル3のモンスターだったからだ。

 同じレベルのモンスターが二体。それが意味する事は、ただ一つ。

「サーチライトメンと春風姫‐ヨツバをエクシーズ素材にして、先史遺産クリスタル・エイリアンをエクシーズ召喚!」

 二体のモンスターを一つに束ね、現れたのはその名の通りクリスタルの体を持つモンスター。手や脚の形状など人間に近い部分もあるが、基本的には人と異なる部位の方が多い。

 細く壊れやすそうな体に似合わず、攻撃力は2100ポイントと下級アタッカーの平均を上回り、条件付きではあるが破壊耐性効果をも持っていた。

「これで、ヨツバはいなくなったッスね。予定とは少し違いましたけど。…カードを一枚伏せて、ターンエンドです」

 得意げに笑い、クロンはターンを終了する。

 目的は果たし、次のターンの備えも用意できた。紙一重だったとは言え、このターン、彼は師匠を一歩出し抜いたのだ。

 

 

 

 「墓荒らし」 通常罠

 効果:相手の墓地にある魔法カード1枚を選択し、ターン終了時まで自分の手札として使用する事ができる。

    その魔法カードを使用した場合、2000ポイントのダメージを受ける。

 

 「炸裂装甲」 通常罠

 効果:相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。その攻撃モンスター1体を破壊する。

 

 「死者蘇生」 通常魔法

 効果:自分または相手の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。

 選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

 

 「A・O・J カタストル」 シンクロモンスター

 闇属性 機械族 ☆5

 攻撃力2200 守備力1200

 効果:チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

    このカードが闇属性以外のフィールド上に表側表示で存在するモンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。

 

 「エネミーコントローラー」 速攻魔法

 効果:以下の効果から1つを選択して発動できる。

    ●相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、表示形式を変更する。

    ●自分フィールド上のモンスター1体をリリースして発動できる。相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、エンドフェイズ時までコントロールを得る。

 

 「先史遺産クリスタル・エイリアン」 エクシーズモンスター

 光属性 サイキック族 ランク3

 攻撃力2100 守備力1000

 効果:レベル3モンスター×2

    1ターンに1度、このカードが攻撃対象に選択された時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

    このターン、このカードは戦闘及びカードの効果では破壊されず、このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは代わりに相手が受ける。

 

 

 【クロン】

 LP:8000→6000

 

 【姫利】

 LP:8000→7300

 

 

 

(…今のは、してやられたわ。流石は私が見込んだ子、一筋縄じゃいかないわね)

 期待以上のプレイを見せる相手に複雑なものを感じながら、姫利はカードをドローする。

 これで彼女の手札は三枚。今引いたカードも、この状況ではありがたいカードだった。

「速攻魔法、サイクロンを発動。貴方の伏せカードを一枚破壊させてもらうわ」

「うっ…。ここでそれを引いてきますか」

 フィールドに現れた乱暴な風が、クロンの場にセットされたカードを一枚粉砕する。一ターン目から伏せられていた、《炸裂装甲》のカードだ。

 だが彼の場にはもう一枚、たった今伏せたばかりのカードが残っている。姫利は少し考えた後、手札から更にカードを発動させる。

「まだよ。魔法カード、地砕きを発動! その効果で、クリスタル・エイリアンを破壊する!」

「ぐ…」

 先程のクロンのプレイで火が着いたのだろうか。彼女はこれまでの沈黙を破るように、カードの連打でクロンの場を削っていく。

 これで彼の場には一枚の伏せカードが残るのみ。それでも、姫利は手を緩めない。

「手札から『春風姫‐マリエ』を召喚して、効果発動! 私の場にマリエ以外の春風姫と春風帝‐ワタルがいる場合、デッキからマリエ以外の春風姫を一枚手札に加える事ができる! …ただしこの効果を使ったターン、このカードは攻撃できないけどね」

 姫利の場に新たに召喚されたのは、ドレス姿の三つ編み少女。手に分厚い本を持ち、メガネをかけた姿からは知的な印象を受ける。

 手に武器を持っていない所を見ると戦闘は得意ではないようだが、このモンスターの真価はデッキから「春風姫」をサーチする事にある。

「手札に加えるのは『春風姫‐マモル』! このカードは場に春風帝‐ワタルがいる場合、手札から特殊召喚できる!」

 デッキから持ってきたそのカードを、姫利は迷い無く決闘盤に叩きつける。

 現れたのは、ローラースケートを履いたボーイッシュヘアーの少女。他の春風姫同様ドレス姿だが、身軽さを重視しているのか、装甲や装飾品は付けられていない。

 その少女、《マモル》はローラースケートを使ったパフォーマンスをした後、クロンに向かって一礼した。

 これで彼女の場には再び四体のモンスターが並んだ。対し、クロンの場にはさっきのターン伏せカードが一枚のみ。姫利が総攻撃を仕掛けるつもりなのは、一目瞭然だった。

「へぇ…、攻めてくるんですか?」

 攻撃の気配を察したのか、クロンが心持ち顔を上げる。その表情にはまだ、笑みが浮かんでいた。

 しかし、笑っている余裕は無い筈だ、と姫利は見ていた。《炸裂装甲》を破壊され、《クリスタル・エイリアン》を破壊され、彼を守るカードは一枚しか残っていない。

 その残る一枚のカードも、彼女は然程驚異には感じていなかった。

 もしあのカードが《ミラーフォース》や《激流葬》のような、複数のモンスターを一度に破壊できるカードなら、彼が今まで伏せなかった筈がない。ここで攻撃を仕掛けても、致命的な被害を被る可能性は極めて低いという計算だ。

「バトル! まずは春風姫‐マモルで、直接攻撃!」

 姫利は迷い無く攻撃を宣言する。《マモル》は腰に付けた鞘から剣を引き抜くとローラースケートで地面を滑り、擦れ違い様にクロンを切りつける。

「にぃぃ…っ」

「…次! 春風姫‐カレンで直接攻撃!」

 思った通り、クロンは伏せカードを使わなかった。この好機を逃すまいと、姫利は声高に叫んだ。

 いつの間にか《マモル》の後ろに続いていた《カレン》が剣を引き抜き、クロンの胸を貫く。この時も伏せカードは動かず、彼のライフは大きく削られた。

(発動はしない、か。後はワタルの攻撃が通れば私の勝ちだけど――)

 思いながら、姫利はクロンの目を見る。彼の瞳はまだ、これっぽっちも、諦めてはいなかった。

「……受けて立つわ。春風帝‐ワタルで、止めの一撃!」

 構わず姫利が攻撃を命じると、命令を受けた《ワタル》が剣を構えて突進する。その背中は、突如吹いた風に後押しされていた。

 このゲームの幕を下ろしかねない一撃がクロンに迫る。しかし、ここでクロンが動いた。

「罠カード、魔法の筒を発動! ワタルの攻撃を無効にして、その攻撃力分のダメージをお姉ちゃんに与える!」

「っ!」

 最後の最後で、彼は仕掛けてきた。

 彼の場に現れた二つの筒。そのうちの一つが《ワタル》の攻撃を受け止め、そのエネルギーはそのままもう一つの筒から姫利に向け発射される。

「…やるわね」

 《ワタル》の攻撃は防がれ、それどころかライフを大きく削られてしまった。流石はという言葉が再び脳裏に浮かび、姫利は微笑する。

「――…バトルフェイズ、終了…」

 デュエルはまだ、終わらない。

 

 

 

 「サイクロン」 速攻魔法

 効果:フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

 

 「地砕き」 通常魔法

 効果:相手フィールド上に表側表示で存在する守備力が一番高いモンスター1体を破壊する。

 

 『春風姫‐マリエ』 モンスター

 風属性 戦士族 ☆3

 攻撃力500 守備力1700

 効果:自分フィールド上にこのカード以外の「春風姫」と名のついたモンスターと「春風帝‐ワタル」が存在する場合、1ターンに1度だけデッキから「春風姫‐マリエ」以外の「春風姫」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。

    この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

 

 『春風姫‐マモル』 モンスター

 風属性 戦士族 ☆4

 攻撃力1700 守備力1200

 効果:自分フィールド上に「春風帝‐ワタル」が存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

 

 「魔法の筒」 通常罠

 効果:相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

    攻撃モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 【春風姫‐マリエ】

 攻撃力:500→1000

 

 【春風姫‐マモル】

 攻撃力1700→2200

 

 

 【クロン】

 LP:6000→3800→1700

 

 【姫利】

 LP:7300→4650

 

 

【クロン】 LP:1700

手札:0枚

モンスター:無し

魔法&罠:無し

 

【姫利】 LP:4650

手札:0枚

モンスター:春風帝‐ワタル(攻撃表示)、春風姫‐カレン(攻撃表示)、春風姫‐マリエ(攻撃表示)、春風姫‐マモル(攻撃表示)

魔法&罠:無し

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