クロンの呼応   作:恐竜紳士

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第八話:決着

 クロンと姫利のデュエルは、両者の想像以上に熾烈を極めたものとなっていた。

 一瞬の隙も逃さない姫利に対し、クロンは少ないチャンスを最大限に活かして対抗している。

 互いに手札が尽き、ライフポイントの減少も激しくなったこの状況。決着の時は、迫っていた。

 

 

 

【クロン】 LP:1700

手札:0枚

モンスター:無し

魔法&罠:無し

 

 

【姫利】 LP:4650

手札:0枚

モンスター:春風帝‐ワタル(攻撃表示)、春風姫‐カレン(攻撃表示)、春風姫‐マリエ(攻撃表示)、春風姫‐マモル(攻撃表示)

魔法&罠:無し

 

 

 

(それにしても――…。この短期間で随分成長したわね、この子)

 バトルフェイズを終え、ふぅ、と一度呼吸を整える姫利。正直な所、クロンがここまで戦えるようになっているとは彼女は思っていなかった。

 彼と始めて出会って数日。安定しているとは言えないものの、決して侮れない実力を、彼は確かに身につけていた。自分を見つめる瞳も、以前より力強く感じる。

(…うん。男の子の顔だ)

 彼を見出した自分の目に狂いは無かったと誇る反面、十年以上もある経験の差を、あっさりと追い越されるのではという焦りもある。無論それは今では無い……と信じているが。

(あの子の場にもうカードは無いし、手札も尽きた。この勝負、もらったわ)

 拮抗しているかのように見えるこのデュエルだが、ここに来て二人の実力差が出ていた。

 全てのカードを使い果たしたクロンに対し、姫利の場には四体ものモンスターが残っている。ライフもまだ十分に残しており、その差がそのまま今の二人の実力の違いを表していると言えるだろう。

「…メインフェイズ2。私は春風姫‐カレンと春風姫‐マモルを素材にして、No.39 希望皇ホープをエクシーズ召喚するわ」

 とは言え。

 勝利が見えているとしても、決して油断はしない。姫利はクロンの反撃に備え、新たなモンスターを召喚する。

 白と金の鎧に身を包んだ戦士。エクシーズ素材を取り除く事でモンスターの攻撃を封じる効果を持つ《希望皇ホープ》が、静かに彼女の場に舞い降りた。

(これで次のターン、あの子が逆転のカードを引いてきたとしても、最低限の防御はできる…)

 念には念を、という言葉の意味を噛み締めながら。姫利はターンを終了させた。

 

 

 

 「No.39 希望皇ホープ」 モンスター

 光属性 戦士族 ランク4

 攻撃力2500 守備力2000

 効果:レベル4モンスター×2

 自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にする。

 このカードがエクシーズ素材の無い状態で攻撃対象に選択された時、このカードを破壊する。

 

 

 

「むぅ…」

 念入りに守りを固める姫利を見て、思わず唸るクロン。泣きたいほどに、劣勢だった。

 彼女の場に三体ものモンスターがいるのに対し、クロンの場にはカードも存在せず、手札すら一枚も残っていない。

 即ち、彼が得意とする罠や心理戦が全く機能しない状態なのだ。これだけでもお手上げなのに、姫利は《希望皇ホープ》を出す事で守りを更に強化してきた。

 絵に描いた様な絶望的な状況だが、逆転の可能性が無い訳ではない。クロンはわざと不敵な笑みを浮かべて自分を落ち着かせると、自身のデッキに視線を落とし、右手を伸ばす。

「ボクの…、ターン!」

 これまで以上に力と祈りが込められた指が、一枚のカードを引き抜く。

 そのカードを確認すると、彼は「よし!」と思わず声を漏らした。

「いいタイミングッス! 墓地のサーチライトメンとカタストルをゲームから除外して、カオス・ソルジャー -開闢の使者-を特殊召喚ッ!」

「っ…! そんなカードまで…!」

 クロンの場に時空の歪みが生じ、そこから一人の騎士が出現する。あまりに強力なステータスと効果故に、禁止カードに指定された事もあるモンスターだ。

 制限が緩和された現在もデッキに一枚しか入れる事ができないカードなのだが、ここに来て彼は引いてきた。沈みきっていた心に光が差したかのような、清々しい気分だった。

(カタストルをシンクロ召喚した時から、この展開もあるかなと思ってたけど…。うん、いける)

 ニヤリと笑みを浮かべるクロンだが、とは言え、手放しで喜べる状況ではなかった。

 《開闢の使者》は高い攻撃力に加えて二回攻撃する事ができる効果を持つが、姫利の場には《希望皇ホープ》がいる。そちらの効果は封じられているようなものだ。

 止むを得ず、クロンはもう一つの能力、相手モンスターを一体除外する効果を使う事にした。

「開闢の使者の効果発動! 姫利お姉ちゃんの春風帝‐ワタルをゲームから除外するッス!」

「くっ…」

 《開闢の使者》が剣先を《ワタル》に向けると、再び時空に歪みが生じ、《ワタル》の体を巻き込んで別次元へと転送させる。

 できれば《ワタル》よりも《希望皇ホープ》の方を除外したかったが、これまでのデュエルから姫利のデッキは《ワタル》がいる事で性能が増すらしいと推測した彼は、こちらを優先して除外する事にした。

 その選択が正しかったのは、姫利の苦々しい表情からも伺える。まずは良し、と言った所だろうか。

「ボクの好みじゃないけど、このままゴリ押しで勝利ってのも悪くないかもですね。と言う訳で、ターンエンドです」

 

 

 

 「カオス・ソルジャー ‐開闢の使者‐」 モンスター

 光属性 戦士族 ☆8

 攻撃力3000 守備力2500

 効果:このカードは通常召喚できない。自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつゲームから除外した場合に特殊召喚できる。

 1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

 ●フィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

 ●このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、もう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 【春風姫‐マリエ】

 攻撃力:1000→500

 

 

 

(危ない危ない…。そう言えばこの子、何気に運もいいのよね)

 内心驚きながら、姫利は新たなカードをドローする。

 彼が《開闢の使者》を出してくるのは予想外だったが、念の為に出した《希望皇ホープ》のおかげで被害は最小限に留まった。もし彼女が油断や何らかの理由で《希望皇ホープ》を出していなかったら、こうも落ち着いてはいられなかっただろう。

(さてと。どうしたものかしら…)

 このまま《開闢の使者》を放置すれば、彼の言葉通り押し切られてしまう。それだけは避けなければならない。

 姫利は引いたカードを確認すると、「うん」と呟いて微笑する。

「私の運の方も捨てたものじゃないわね。魔法カード、『春風一閃』を発動! デッキから春風姫と名のついたモンスターをサーチする!」

「うっ…。このタイミングでサーチカードですか…」

 嫌な表情をするクロンを余所に、姫利はデッキを広げて一枚のカードを抜き取る。

「手札に加えるのは『春風姫‐チカゲ』。もちろん、このまま召喚させてもらうわ」

 現れたのは、十字架の模様が入った黒のドレスを着た少女。手には剣の代わりに木の杖を持ち、姫というよりは魔女のような印象を受ける。

「春風姫‐チカゲは場に出た瞬間にコイントスを行い、その結果によって効果が変わるモンスター。…アルカナ・フォースと同じと言えば、わかりやすいかしら?」

「む…ぅ」

「ちなみに…。表が出た場合は春風帝‐ワタルを、裏が出た場合は春風姫を蘇生する効果を得るわ。さて、今回はどっちの効果になるかしら」

 姫利がくすりと笑うと、《チカゲ》が何処からともなくタロットカードを取り出し、空中にバラ撒く。空に散ったカード達は重力に逆らうように宙を舞い、やがて一枚のカードを残して地面に落ちた。

 どうやら《チカゲ》の効果を決定する際の演出らしい。地面に落ちずに残ったカードは、逆位置の「星」。これにより、《チカゲ》は春風姫を蘇生させる逆位置の効果を得た。

「OK、いい方の目が出た。春風姫‐チカゲの効果を発動して、墓地の春風姫‐ヨツバを蘇生するわ!」

 すかさず効果を発動させる姫利。命令を受けた《チカゲ》が杖をちろちろと振ると、姫利の場に赤い魔法陣が出現し、淡い光と共に墓地に送られた《ヨツバ》が現れた。

 これで彼女の場に再び四体のモンスターが揃った訳だが、それらのモンスターは何れも《開闢の使者》よりも攻撃力が低い。撃破するには、まだ足りない。

「……まさか、そのモンスター…っ」

 何か気付いたらしいクロンが、絞り出すように声を出す。姫利は先程の彼を真似て不敵に笑うと、「そういう事」と言葉を返した。

「春風姫‐チカゲはチューナーなの。そして私の場には春風姫‐マリエと蘇生した春風姫‐ヨツバがいる。その意味、わかるわよね?」

「ッ…! レベル9の…、シンクロモンスター…!」

 クロンの顔が青ざめると当時、姫利の場の《チカゲ》が光輝くリングへと変わり、残る二体のモンスターがその輪の中を通り抜ける。

「レベル3のマリエとヨツバに、春風姫‐チカゲをチューニング! シンクロ召喚、現れろ、《春風神竜‐ゼクシズ》!」

 一際強い光がフィールドを包み、現れたのは白い体表を持つ大型のドラゴンモンスターだった。

 その体は仄かな光を帯び、その口から放たれる咆哮は容赦なく鼓膜を打つ。手には西洋風の竜には珍しく、緑色の宝珠を一つ握っていた。

 姫利が始めて出した非人型モンスターと言う事もあって、その外見のインパクトは大きい。しかもその攻撃力は3450と、《開闢の使者》すら上回る数値だった。

「このモンスターを出すのも久しぶりね…。さて、今出したゼクシズにはシンクロ召喚に成功した時に相手の魔法・罠カードを全て破壊する効果があるんだけど…、今は関係ない話ね」

「……あっ」

 その迫力に圧倒されていたクロンが、姫利の声で我に返る。

 彼の場には、もう伏せカードが残っていない。それは即ち《ゼクシズ》の攻撃を止める手段が無い事を意味していた。

「バトル! 春風神竜‐ゼクシズで、カオス・ソルジャーに攻撃よ!」

 姫利の攻撃宣言が下される。《ゼクシズ》は背に生えた二枚の翼で飛翔すると、クロンの場の《開闢の使者》に突進。口からの炎のブレスを浴びせた後、鋭い爪でその胸を鎧ごと貫いた。

 如何に制限カードと言えど、無敵ではない。致命傷を受けた《開闢の使者》は光の粒子となり――、《ゼクシズ》が持つ宝珠に、取り込まれていった。

「この瞬間、ゼクシズの効果が発動するわ。戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを、そのまま相手に与える!」

「なっ…!」

 《開闢の使者》の残骸を取り込んだ宝珠が、禍々しい光を帯びる。《ゼクシズ》はその宝珠を、クロンの鼻先へと突きつけた。

 それが、このデュエルで彼が見た最後の光景だった。

「……やっぱり、強いや」

 力なく笑ったらしいクロンの顔が、宝珠から放たれた光の渦に呑み込まれる。それは同時に、このデュエルの終焉を意味していた。

 

 

 

 『春風一閃』 通常魔法

 効果:デッキから「春風姫」と名のついたモンスター1体を手札に加える。「春風一閃」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 『春風姫‐チカゲ』 モンスター

 風属性 戦士族 ☆3 チューナー

 攻撃力0 守備力1900

 効果:このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い、その裏表によって以下の効果を得る。

 ●表:1ターンに1度、自分の墓地の「春風帝‐ワタル」を自分フィールド上に攻撃表示で特殊召喚できる。

 ●裏:1ターンに1度、自分の墓地の「春風姫‐チカゲ」以外の「春風姫」と名のついたモンスターを自分フィールド上に攻撃表示で特殊召喚できる。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

 『春風神竜‐ゼクシズ』 モンスター

 光属性 ドラゴン族 ☆10 シンクロ

 攻撃力3450 守備力1200

 効果:「春風姫」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター2体以上

 このカードのシンクロ召喚に成功した場合、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

 このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

 

 【クロン】

 LP:1700→1250→0

 

 

 

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 

 

 デュエルは終わった。二人の決闘盤は機能を停止し、全ての立体映像は光の粒子となって消えていく。

 時には危ない場面もあったが、結果的には姫利の勝利で終わった。だが彼女は勝利の余韻に浸らず、じっとクロンの方を見ていた。

 今回のデュエルで彼が見せた成長ぶりは、彼女の予想を遥かに越えたものだった。まだまだ未熟で弱点もあるが、初めて会った時に感じた才気が、僅かな時間で確実に伸びている。

 次に戦う時は危ないかも知れない。そう心で呟きながら、姫利はようやく口を開く。

「いかがだったかしら、私の春風姫デッキは?」

「むー…。正直、相性が悪かった……かもッスねぇ。伏せカード対策も多いわで、相手してて辛かったです」

 頬を掻きながらぶー垂れるクロン。負け惜しみに聞こえなくもないが、その分析は正しかった。

 春風姫デッキは相手の伏せカードを除去しつつモンスターを大量展開し殴ると言う、シンプルなビートダウンを得意としている。伏せカードが肝のクロンにとっては厳しいデュエルだったのは確かだろう。

 だが、一方的なデュエルにならなかったのは紛れもない彼の実力によるものだ。姫利は言葉には出さないものの、頭を撫でてその実力を賞賛する。

 クロンはやや顔を赤らめながら、「次は頑張りますよ」と、彼女の無言の賞賛に応えた。

 

 

 

――――――

 

―――――

 

――――

 

 

 

 

 

 その日の夜。自宅に帰った姫利は夕食を終えると、シャワーを浴びて今日の出来事について振り返った。

 僅か数日の間にめきめきと力を付けるクロンの成長ぶりは、彼女の予想を大きく上回るものだ。天賦の才という、目に見えないものの力を感じたのも一度や二度ではない。

「…この様子じゃ、本当に追い抜かれかねないわね。私も、百合も」

 その独り言は、シャワーの音にかき消された。姫利は石鹸で一日の汚れを落としながら、「けど」と心で小さく呟いた。

(才能面はともかく、決闘者としてのあの子はまだまだ未完成もいいとこ…。まだ早いと思ってたけど、そろそろ私達以外の人とも戦わせて、経験を積ませた方がいいかも知れないわね)

 クロンを弟子に取ってからの数日間、少なくとも姫利が知る限り、彼は彼女達以外の決闘者と戦った事はない。デュエルに慣れていたとは言え、対人経験が殆ど無いのだ。

 カードの扱い方を覚えても、場数を踏んでいなければ強さに繋がるとは言えない。まして彼は心理戦を好む決闘者だ、自分達とばかり戦っていては、いつか成長に限界が来る。

「……」

 白い泡が、彼女の肌を包んでいく。

 身を清めるこの瞬間は、本来誰にも邪魔されたくない自分だけの時間だったのだが、こんな所にまであの小さな笑顔が目に浮かんでくる。この数日間、まるで恋焦がれているように、彼の事ばかりを考えていた。

「ふぅ…」

 シャワーの音が止まる。姫利は濡れた髪を指で軽くかき上げると、湯船の中にその身を沈めた。

 あの子も、今頃お風呂に入っているのだろうか。ふと想像した姫利は、微笑して何も無い天井を見上げる。

(…うん。いいお湯)

 あの子は、これから何処まで強くなるのだろう。面白おかしく考えながら、ふぅ、ともう一度長い息を吐いた。

 

 

 

 

 

 一方、その頃。姫利の予想に反し、クロンは夕食を食べている所だった。

 彼の好き嫌いに合わせて作られた豪勢な食事が、彼の目の前に並んでいる。にも関わらず、彼の食事の手はあまり進んでいなかった。

 彼もまた姫利同様、今日のデュエルについて考えていた。もっとも彼の場合は、次のデュエルに向けて敗因と失敗を分析しているのだが。

「あそこで攻撃を見送ってれば…。ん、でもその場合お姉ちゃんはああするか……じゃあ、ああすれば…」

「え? クロちゃん、何か言った?」

「あ…。ううん、何でもないよママ」

 不思議そうに首を傾げる母親に笑って誤魔化し、クロンは料理に手を伸ばす。

 何にしても、今のデッキではまだ姫利に届かない。まだまだ改造を施さなければ、この実力差が埋まる事は決して無いだろう。

 姫利がそうであるように、クロンもここの所、彼女の事ばかりを考えていた。始めは憧れの存在であった彼女が、この数日の間に、追いつくべき目標に変わって彼の中で輝いている。

 今はまだ無理だが、いつか勝って見せる。それが彼を動かすエネルギーであり、野心だった。

「今のままじゃだめだ、もっと考えないと。どうすれば……もぐ、今より強くなれるか、アイデアを出さないと…」

 ハムスターのように頬を膨らませながら、クロンは目に炎を宿らせる。今の彼は強さに貪欲だった。

 姫利や百合に負ける度、その思いは強くなる。敗北を糧にデッキと戦術を進化させる事が、彼の成長の秘訣と言えた。

「ごちそうさまっ!」

 食事を終え、立ち上がる。食べた物の味は、正直なところ覚えていなかった。

 クロンは食器を片付けると、いそいそと風呂場に向かう。食事の間にお風呂を沸かして、食べ終わった順に入る。それが彼の家の習慣だった。

 脱衣場で服を脱ぎ捨て、幼い裸体が露わになる。クロンは揚々と風呂場に入った。

 まずはシャワーで体を濡らし、スポンジに石鹸を擦りつけて、体を洗っていく。

 誰にも邪魔される事のない、自分だけの時間。一人でゆっくり入浴しながら、デッキの強化案を考えるのが、最近の彼の日課だった。

「うーん…。やっぱり、攻撃力に難ありかな。ボクのデッキ」

 思わず漏れた独り言は、シャワーの音に流されて消える。

 彼のデッキは防御を重視する構成上、モンスターの攻撃力が低くなりがちという弱点がある。

 今日のデュエルではその弱点を《スターダスト》や《開闢の使者》で補ってみたのだが、どちらも手軽に出せるモンスターでは無く弱点を克服できたとは言い難い。下級モンスターの攻撃力が低いままなのも問題と言える。

「罠でモンスターを除去するって言っても、破壊耐性があるモンスターには無力だし…」

 どうしたものか。目の前の鏡で自分の体を見つめながら、自問する。

 《スフィア・ボム》といったモンスターを攻撃力の高いモンスターに替えれば話は早いのだが、自分から積極的に攻撃するスタイルを彼の性格は苦手としている。

 したがって彼が望むのは、今のスタイルを変える事なく攻撃力不足を解消する方法。…なのだが、そんな都合のいい方法がそうそうある訳も無く、悩む一方だ。

「んー…」

 体を洗い、髪も洗い終えたクロンは、湯船に浸かって思いを馳せる。

(相手モンスターの除去と、攻撃力の高いモンスターの召喚を同時にできればベストなんだけどなー。何かいい手はないものか…)

 頭の中で様々なカードとコンボが浮かび、没案となって消えていく。

 クロンは時には湯船から半身を出しながら、時には息を止めて湯の中に潜り遊びながら考え抜くが、答えはいつまでも出なかった。




この小説、序盤は初心者のクロンを鍛えるというコンセプトなので、もうしばらくクロンのデュエルが続きますです。
代わりと言っては何ですが、次回で新しいヒロインが出ますです。
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