現在やる事は配下のゴーレムに丸投げして、エヴァと人間形態のミカンとで茶を啜っていた。
「あ」
「なんだ?」
「どうしました?」
「思い出した」
そうだよ。ネギの居場所は高畑先生が知っているんだった。すっかり忘れてたぜ。
「高畑先生だ。ナギ・スプリングフィールドの息子の居場所を知っているはずだ」
「何ぃ!?」
エヴァは驚きの声を上げるが、ミカンはのほほんとクッキーを齧っている。まあ奴にはどうでもいいんだろうよ。
しかし参ったな。何年前かは忘れたが、ネギが小さい頃にナギ・スプリングフィールドと接触している。現段階で原作開始の6年前を切っている。悪魔襲撃のどさくさに紛れて接触する事はもはや叶うまい。
「今の状態のエヴァなら登校地獄の呪いを無効化しているから、高畑先生さえ説得すればスプリングフィールドのせがれに会えるだろう。もちろん
現段階のスキルニルではエヴァの魔力をコピーし切る事が出来ず破裂してしまうが、本職のエヴァに任せればなんとかなるだろう。俺の分ならまだスキルニルがコピー出来る。気は使えないけど。ついでに言えば、ミカンは本来の姿だと秘匿性が皆無な為、戦闘には参加していない。普段から放し飼いにしているのでちょっと姿を見せなくなったくらいでは問題無い。
「こうしてはおれん! すぐにタカミチを探すぞ! 準備しろ、才人!」
エヴァは瞬時に着替えると、こないだ俺が作ってやったマントを翻し、玄関へ向かった。
「えー、ミカンはやです。こないだちょっと脅かしてやろうと思って喧嘩売ったら殴られましたし」
「お前何やってんの」
「ミカンはこの辺りのボスなんですよ。マスター達以外に縄張りに入られるのは気に入りませんから」
まあ、麻帆良は熊とか出るからね。
「臆病者は放っておけ! 行くぞ!」
なんか、こう、すごい既視感がする。伝説のスーパーサイヤ人にでも遭遇するのかな?
「あれだ。学園長にばれると説明が面倒だから人形を使えばいいだろう。魔力を辿ってもいいし、エヴァの人形は喋れるだろう? 近くの公衆電話からかけさせてもいい」
夏休みに入って日にちが経っているから、捕まらない可能性もあるし、その場合の徒労感は味わいたくない。
「う、むう・・・・・・分かった」
「俺は出かける準備でもしておくよ。後、千雨ちゃんにもしばらく麻帆良から出るかもって言っておかないと」
あの子は修行以外はラジオ体操くらいしか外に出てこない。夏休みだし。
「とにかく、焦らないこと。出張している可能性が高いから、その時はおとなしく待つように」
高畑先生が居なかったら千雨ちゃんに修行させるよ。手駒の生産は別荘内で勝手に行われているから、逆に俺は動かないことでアリバイをアピールする必要がある。
「致し方あるまい。ただし、タカミチが見つかったらすぐに戻って来い!」
その声に俺は手をヒラヒラさせながら後にした。
「そんな・・・・・・才人お兄さん、どこか行っちゃうんですか?」
絶望的な声がチサメの喉から絞り出る。その胸は平坦であった。
「夏休みだからね。ちょっと旅行に出るかもってだけだよ」
サイトの様子はいつもと変わりない。マホウツカイ蠢くマッポーめいたウェールズの山奥だろうと、その声は変わらないだろう。
「才人お兄さん。そうだ、私、気弾を撃てるようになったんです。もうちょっとでモノになりそうなんですけど・・・・・・本当は才人お兄さんをびっくりさせたかったんですけど、修行を付けてください」
たどたどしい言葉で行って欲しくない。と、言外に告げている。その声は必死であった。
「分かったよ。なら、森まで行こう」
ヒラガサイトはコーヒーを飲み干し、言った。少女を森に連れ込むと聞こえたが、ワイザツな様子は一切無い。
「はい!」
対するチサメは、瞳の奥底に密かな決意と期待をする。おお・・・・・・ブッダよ、寝ているのですか! 年端も行かぬ少女がこのような思いを抱くとは!
サイトとチサメは連れ立って公園から歩いて行った。その様子は歳の離れた兄妹に見える。だが、そのニューロンの方向性は反対であった。
「イヤーッ!」
チサメの声が森に響く。拳から発射された光弾は用意された的に突き刺さり、激しく吹き飛ばした。
「よし、威力は十分なようだね。次はこれの相手をしてもらう」
サイトは錬金の呪文を唱えると、ゴーレムが一体現れた。
「ザッケンナコラー!」
黒のスーツ、サングラス、角刈り。一般的なモータルが見たら即座に道を譲るであろう。まごう事なきヤクザであった。
「・・・・・・」
しかしチサメは動じない。サイトからのインストラクション、加えて様々な経験をしてきたチサメは、この程度の恫喝では怯まない心を得ていた。
「スッゾコラー!」
ゴーレムヤクザは懐から拳銃を取り出し、発砲、発砲、発砲。それをチサメが軽やかなフットワークでかわし、無理なものは気を集中した両腕で弾く。
「イヤーッ!」
速やかに射程圏内にゴーレムヤクザを収めたチサメは、気弾を放った。
「グワーッ!」
気弾を受けたゴーレムヤクザは損傷。拳銃を取り落とす。
即座にドス・ダガーを抜いたゴーレムヤクザはチサメに突きを放つ。
チサメは余裕を持ってそれを躱す。銃弾より遅い突きがチサメに当たる道理が無い。
「イヤーッ!」
チサメは突きによって腕の伸びきったゴーレムヤクザの懐に入ると、輝く拳でゴーレムヤクザのわき腹を殴りつけた。
「グワーッ!」
ゴーレムヤクザは爆発四散。このような威力でモータルを殴ったら大惨事となったであろう。
「ふーっ」
チサメは残心し、もうゴーレムヤクザが向かってこないことを確認し、構えを解いた。
「素晴らしい」
サイトは拍手をし、チサメを称賛する。しかし、当然の結果だった。時には野生生物の群れにすら立ち向かったのだ。恋とは盲目である。
「後は気の量を増やすか、ペース配分で効率を高くすればいいと思うよ。少なくとも、並の魔法使い一人だったら十分かな」
複数のマホウツカイ相手はちょっと難しいとサイトは言葉を続けた。
「後の話は・・・・・・ここに近付いてくる相手を何とかしてから続けよう」
サイトは手で顔を覆い、錬金を唱える。顔が「忍殺」と言う禍々しい文字の彫られたメンポに覆われる。
次に、影から赤い忍装束を取り出し、ばさりと上着を脱ぐと、次の瞬間には忍装束に身を包んでいた。エヴァンジェリン監修によるハヤキガエ=ジツである。
「Wasshoi!」
完璧な偽装に身を包んだサイトは木々の間を跳びまわって行った。
カエデは困惑していた。今まで感じられた気配が一つ途絶え、代わりにその方向から猛烈に嫌な気配が漂っているのだ。
逃げよう。そう思ったときには遅かった。
「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」
さらに困惑する。自分の正体は建前上ばらす事は出来ないが、明らかに目の前の人物は自分の事を忍者と認識している。中忍になってから編入しようと学園の下見に来ただけなのだが、どうしてこうなった。
「長瀬楓でござる」
対応を間違えれば即、死に繋がる。直感がそう囁く。好奇心は猫を殺す。今更後悔していた。
「貴様レッサーニンジャだな。だが、関係ない。ニンジャは殺す」
急激に剣呑な空気が漂う。次の瞬間、錬金によってサイトの両手には所持して投げられる限界量のスリケンが挟まれていた。
「イヤーッ!」
多分袖に隠し持っていたのだろう。そう考えながらもカエデは逃走する。ニンジャであればあれだけの速度でスリケンを消費していればいずれ尽きる。その隙に逃げればいいのだ。
中学生になったら通う為に、修行スポットの探索に来たのだが、興味が惹かれる物を見つけてふらふらと近寄ったのが運の尽きであった。4人までは分身出来るので、3人を足止め、とにかく逃げに徹する。
そこでゾッとした。明らかにニンジャスレイヤーの投げるスリケンの数が増えている。トラウマを植えつけるには十分であった。
それでも全力を逃げることに費やしたカエデはなんとか逃げ切った。せめて最低レベルでも中忍、それ以上になってからじゃないと麻帆良では生きていけないと間違った認識を抱えながら。
これ以降、この森では稀に謎の人物が現れる。それは、ニンジャだったり、一切姿を見せないスナイパーだったり、いつの間にか獣の群れの縄張りに誘導されていたり。幸い肉体的には深刻な怪我は無いが、全員口を揃えて、あの森には二度と行きたくないと言った。
この世界にニンジャソウルに取り憑かれた奴は居ないので、本気で殺そうとは考えていません。ただし、楓ちゃんには少なからずのトラウマを与えてしまったかもしれません。