寿命かと思ったら別世界に飛ばされた件   作:スティレット

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 例によって早朝投稿です。10時ごろにしようかと思ったのですが、7時ごろから読んでくれている方もいらっしゃるようなのでこの時間にあげました。


第2話

 あれから5ヶ月。4月までの1ヶ月は編入に使うのでその5ヶ月が勝負だった。

 

 ひたすら参考書と格闘する日々。むしろ夜間戦闘が憂さ晴らしになっていた。

 

 今は199X年。原作の6年ほど前だ。このまま留年せずに行けば原作開始には教師になる計算か。それか1年教育実習を行い、どこかに回されるか。あのクラスは面倒だなぁ。これも全部ぬらりひょんのせいなんだ。

 

 しかしこの学園は本当に非常識だ。絶えずレジストが行われているし、レジスト自体にも耐性を強化してきたからそれも除々になくなってきているが、中学生がエーススプリンターも真っ青な速度で走るのだ。たまに多脚戦車がどこぞの大学から暴走しているのを見たことがあるし。

 

 一番の非常識は「神木」蟠桃。でかいってレベルじゃねーぞ。これの落ち葉だけでポーションが作れるレベルである。地味にストックしてあるが。

 

 どうもこちらの魔法使いはジェネリックと言う言葉はあまりなじみが無いようだ。いや、頭が固いとも言うべきか。いやいや、俺だけレジストしているから認識阻害で「こうでなければいけない」と言う固定観念が根付いてしまっているのだろうか。でなければただの落ち葉である蟠桃の葉を腐葉土にするより有効活用するだろう。あいつらはこう考えているんじゃないだろうか?「蟠桃には危害を加えてはならない。よって、蟠桃の一部である落ち葉も触れてはならない」と。

 

 しかし俺がこの点を指摘し、落ち葉なんだからいいだろう的なことを言ったらあっさり黙った。どうなっているんだ?

 

 そういえばエヴァンジェリンにも会ったよ。茶々丸はまだ生まれておらず、一人のようだった。一度シフトで一緒になったが取り付く島も無いとはあのことか。俺の使う魔術は興味深そうに見ていたが。

 

 あ、そうそう。世界樹の魔力回復ポーションによる試飲は引き受けてくれたよ。言ってみたらはっとした表情でこちらを見ていた。大なり小なりエヴァンジェリンにも認識阻害が効いていると言う事か?

 

 流石に後は先生くらいしか原作メンバーに会えなかった。高畑先生は相変わらず忙しく飛び回っているし、脱げ女はまだ小学生。残るのはヒゲグラ先生と新田先生くらいで、両方とも参考書選びに大変貴重になるアドバイスをくれた。うん、教育熱心なのはいいことだよ。瀬流彦先生と弐集院先生にはまだ会ってない。前者はまだ学生だろうし、弐集院先生は何故かラジオやってるんだけどな。

 

 そして3月。編入試験の日はやってきた。

 

「それでは始めてください」

 

 がらんとした教室で一人、鉛筆を走らせる俺。試験官は知らない先生だ。

 

 ただ黙々とやる。シャーペンより鉛筆の方が書きやすい。念のため2Bを5本、キャップ付きで持ってきた。

 

 これを全科目、これまで勉強してきた全てをぶつける。こちとら冬期講習にまで顔を出してたんだ。ここで潰れてもらっては困る。

 

 一瞬、「夜のバイトでも十分食っていけるから別によくね?」とも考えたが、最低でも大学を卒業するまでは麻帆良に居なきゃいけないのでその考えを捨てる。せっかく戸籍用意してもらったし。不都合になったら関西か海外に逃げるけど。

 

 そうこうしながら全科目を終える。後は結果を待つのみだ。

 

 

 

 結果だけ言えば合格した。俺は県外の麻帆良と繋がりのある高校からの編入生として受け入れられることになった。

 

 それからは精神年齢が合わなさ過ぎるため、本音を隠しての登校生活だ。なにしろこちとら70そこら。ハルケギニアでは結婚のサイクルが早かったけど、こちらですら孫ほど離れている。それでも上辺は社交界で嫌と言うほど取り繕うことを覚えたため、知人の獲得には成功していた。

 

「才人~飯食いに行こうぜ」

 

「悪いな鈴木。俺の弁当一人用なんだ」

 

「スネオかよ。なら焼きそばパン買ってくるから待っててくれるくらいの友達甲斐はあるよな?」

 

「5分な」

 

「ちょ!」

 

「ほれ、いーち、にー」

 

「ああもう!」

 

 ダッシュで買いに行った。あいつはいじると面白い奴だ。今回もリアクションが面白かったから10分は待っていてやろう。

 

 そんな感じで学園生活を送っていた。

 

 

 

 一方魔法の習得は難航していた。独学と言うものもあるが、俺の魔力が少ないのだ。俺自身が高効率低燃費型なので、体内の小源(オド)だけではなく大源(マナ)を併用していることにも起因している。

 

「んー、誰かに教えてもらわないといけないかな。まあ、近接戦なら魔術で十分なんだけど。というか無詠唱ってなんだよ。魔術ですら脳内のイメージ補正が無ければ起動しないんだぞ」

 

 ぶつくさ言いながら魔法の参考書を図書館島から手に入れたので部屋で眺めている。つかラテン語必須ってなんだよ。やっぱ関西行きたいわ。

 

「平賀、飯の時間だず」

 

「内藤か。その時代を先取りしすぎたしゃべり方なんとかしたほうがいいと思うぞ」

 

「俺様修正されないね」

 

 ノックの後に扉越しに声がかけられた。コイツはエース三人衆と合わせて変人四天王と呼ばれている内藤。竜さんと餡刻は槍術部の部将と副部将、海燕は剣道部の部将だからエースなのは分かるとして、何故コイツまでカウントされてるのか分からん。こいつらの仲間はなんかこんなしゃべり方が多いし。あ、竜さんは別ね。あの人は紳士なのに何故かぼっちだから変人扱いされているだけで。

 

「まあいいや。俺も勉強に行き詰ってたし、飯食って気分転換するか」

 

「今日は肉、肉と肉を食いまくるぜー」

 

「あーはいはい、通風と墨樽はもう向かってるのか?」

 

「ああ!」

 

 ちなみに通風も墨樽もあだ名だ。○ルティマオンラインでDQNプレイばかりしてたらそう呼ばれ始めたらしい。俺がDQNって呼んだら何故か定着した。最初墨樽は糞樽だったが、食事中に聞きたくないと言う理由から墨樽になった。

 

「で? お前今日臼姫に呼び出し喰らってなかった? またブレインシェイカー喰らうぞ」

 

「大丈夫だ、問題ない!」

 

 いつも根拠不明な自信を持って言っている。根拠が無いためガールフレンドの臼姫に折檻されているが。

 

 毎度毎度見てて死にそうな攻撃を喰らいながらも笑顔を絶やさないこいつらに半ば呆れながら、俺は飯を食いに寮から出た。

 

 

 

 今の時代超包子は無いので適当な近所の屋台で済ませる。自炊の日もあるが、まちまちだ。

 

「肉うまー」

 

「内藤、約束すっぽかしたわね?」

 

「そんなことないよ、マイハニー」

 

「問答無用」

 

 内藤が臼姫に折檻を喰らっている。臼は回復せず攻撃ばかりするヒーラーの蔑称でもある。

 

「今日も平和だなぁ」

 

「あれみて平和って言えるお前がすげーよ」

 

「違いねーな」

 

 通風と墨樽がそういうが、日常風景だしあの中にたまにお前らも含まれるじゃん。

 

「深いことは気にするな」

 

 そう言ってラーメンを食べ終えた後、ギョーザの攻略に移った。

 

 

 

 今日のシフトはエヴァンジェリンか。夜のシフトのせいで放課後どこかで寝て、それから活動する癖がついてきたな。

 

「よう、エヴァンジェリン。こないだのポーションの効きはどうだった?」

 

「悪くは無かった。が、まだまだだな」

 

「そこはこれから学んでいくから要修練だ」

 

 俺は魔力回復の名目でエヴァンジェリンにポーションを試飲してもらっている。まだまだ下級だが、俺のハルケギニアで鍛えたポーション製造技術があればいずれはエヴァの封印を解くのにも役に立つだろう。と、そそのかしてみた。それ以来退屈しのぎに付き合いが続いている。

 

「じゃあいつも通り俺が前衛でエヴァンジェリンが後衛でいいか?」

 

「誰にものを言っている」

 

「最弱状態で幼女と化している吸血鬼」

 

「ぐっ!」

 

「まあまあ、今夜の分のポーション渡しておくから、後で感想を聞かせてくれ」

 

「しかたあるまい。お前には暇つぶしも兼ねて世話になっている。なんなら後で別荘で鍛えてやってもいいぞ?」

 

「そのときはデルフリンガー(レプリカ)を使うが構わんか?」

 

「あの厄介な魔剣か。まあいいだろう」

 

 最初は袖にされたが、なんだかんだで暇な上、認識阻害をレジストしてエヴァのことを忘れない俺のことを気にかけてくれているらしい。

 

「では魔術師(・・・)、迎撃の時間だ」

 

「了解」

 

 俺は近右衛門に用意してもらった太刀と木に鉄を巻きつけてあるこしらえの鞘を持って、関西弁をしゃべる妖怪どもに突っ込んでいった。

 

「なんや兄ちゃん。遊んでくれるんかいな?」

 

「そうだ、よ!」

 

 まずは抜刀一閃。あえて渦中に入ることにより、戦場をかき回す。

 

「三郎がやられたで! 本気でかかれや!」

 

「メガトンパンチ」

 

「ぐわー!」

 

 何かわめいている鬼に身体強化を全力で行ったパンチを繰り出す。

 

「もうそいつは無視せい! とにかく乗り込むんや!」

 

「クリエイトゴーレム」

 

 俺は過去、友だった奴の得意な魔法を魔術によってエミュレートしたものを唱える。槍、剣、斧を持ったマネキンのような人形が3体手を着いた地面から生えてくる。

 

「行け」

 

 俺の命令により、ゴーレム達はこちらに背を向ける妖怪たちに容赦なく得物を突き刺し、振り抜き、叩き付ける。

 

「ギイイ!」

 

「ぎゃああ!」

 

「うぐぇ!」

 

 程ほどの間引きは済んでいるな。一度退避だ。ここで消耗品は使いたくない。

 

「ふん、いいところに誘導したな。離れていろ。リク・ラク ラ・ラック ライラック 来れ氷精 爆ぜよ風精 弾けよ凍れる息吹 氷爆!」

 

 うん、これ聞いてると遠距離砲台でも無い限り習得する気がしない。せめて魔法の射手くらいは覚えたいと思うんだけど。

 

 そんな俺の考えはさておき、エヴァンジェリンによる魔法で敵の大部分が壊滅した。

 

「引け! 撤退や!」

 

「思ったより今日は早かったな」

 

「気を抜くなよ。と、言ってもお前には釈迦に説法のようなものか」

 

「まあね」

 

 残心の心は忘れない。敵意の感知も常時働いている。

 

「それじゃ、寝ない程度に警戒しておきますか。あ、暇なら魔法の射手でも教えてくれよ」

 

「貴様、初心者の域は脱したのか?」

 

「ああ、プラクテ・ビギ・ナル・アールデスカット」

 

 俺には杖が必要無いので指先から火を灯す。

 

「ふん、魔法薬では世話になっているし、たまの憂さ晴らしも付き合ってもらっている。それくらいはいいだろう」

 

 結論。エヴァの教え方はスパルタなものの、独学よりずっと覚えやすかった。

 

 シフトも終了し、寮へ帰る時間になった。定時って訳じゃないけど、敵が粗方引いたらお呼びがかかる。

 

「じゃあな。夜道には気をつけろよ」

 

「私をなんだと思っている!」

 

「傍目から見るととても可愛い女の子」

 

「馬鹿にするな!」

 

 馬鹿にしたつもりは無いんだけどな。可愛いのは事実だし。

 

「まあ、この時間変態が出ても残りの魔法薬と体術で何とかなるだろうし、言うほど心配はしてないよ」

 

「ふん!」

 

 ありゃ、ご機嫌を損ねてしまったようだ。今度お詫びに何か茶菓子でも持っていってあげよう。

 

 そろそろ空が白み始めそうだ。帰って仮眠を取ろう。そう思い帰路に着くのであった。




 日常と戦闘回。エヴァちゃんとの掛け合いはいつもこんな感じです。

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