石化治療は夜間まで続き、終わる頃には夜も更けていたので一旦宿を手配してもらい、話を聞くのは明日にした。
「才人、あれは爵位級の悪魔の仕業だったぞ。と、言う事は・・・・・・村を襲ったのは最高爵位級、しかも魔法使いの村だ。1体や2体では無いと言う事だな?」
「斬リ甲斐ガアリソウジャネーカ。最近ノ話ダロ? 勿体ネー」
エヴァの言葉に殺戮人形のチャチャゼロが返す。最近安全だからね。
「最悪公爵級はいたかもしれないね。最も、仮にナギ・スプリングフィールドが出張っていたらそういう目立つのから叩いてただろうけど」
「悪魔の公爵って強いんですか?」
きょとんとした顔でミカンが聞いてくる。
「血を絞るのに使ったバジリスクをペットにする程度には強いと思うよ」
虎を飼う富豪みたいなノリで。
「じゃあ、やはりナギはここに来ていた・・・・・・?」
「それを確かめるために話を聞くんだろう? まあ、急く気持ちは分かるが、明日聞けるから落ち着け」
今にも飛び出しそうなエヴァをなだめつつ、寝る支度をする。患者には仕込みはすでに行っている。もし、メガロメセンブリアの手先が口封じをしようとしても大丈夫なようにだ。
「さて、何事も起きなければそれでよし。起きたら魔法協会に貸し
既に石化の件で1つ貸している。
「チャチャゼロ、こっちに来い。夜襲に備えて点検してやる」
「アイヨー」
備え付けのワインをラッパ飲みしていたチャチャゼロをメンテするらしい。てか飲んだものってどうなるんだ?
「じゃあエヴァ、先に寝てるからな」
「ならミカンが右腕で枕貰いますー」
「お前ら両方とも腕枕すると抜けられなくなるから今日は駄目だ」
「ぶー」
「私も・・・・・・駄目か?」
「今日は駄目だ」
「駄目かー・・・・・・」
「モテル男ハ辛イナー」
チャチャゼロも好きか嫌いかで言えば好きだがな。
その言葉を生暖かい視線にして送ってみた。
「ソノ目ヤメロ」
「才人、そのアルビレオみたいな視線はなんだ」
「気にするな」
冷ややかな言葉を背に横になった。別にフェティシズムとかそんなんじゃないから。
特に襲撃とかも無く、結界にも玄関とベランダに設置した
「結局暇ダッタナー」
酒瓶が転がっている。つまみは全部食い尽くしたらしい。
「平和が一番だ。どうしてもって言うなら中東辺りでも行ってみるか?」
魔法世界は嫌でござる。造物主に目を付けられたくないでござる。メガロメセンブリアの元老院辺りには地球から牽制する方向で。
「何を言っているんだ。めんどくさい」
魔力の供給元はエヴァだからね。流石に国を跨ぐ距離となると供給が途絶えるから付いていかなきゃいけないのか。
「ミカンも鉛で攪拌したミンチとか食べたくないです」
せやな。
「本気にするな。お前らは先に話を聞きに行っていいぞ。俺は患者の様子を念の為見てくる」
万が一症状が残っていたら大変だ。
「爺から先に話を付けてくれば良いんだな?」
「ああ、昨日粗方終わらせてあるから一言断れば良い」
「分かった」
俺だけ結界と地雷を撤去して石になっていた人々の様子を見に行くことにした。
「ありがとうございます。本当に、本当に助かりました・・・・・・」
「いえ、回復して良かったです」
「何かお礼出来る事はありませんか?」
「そうですね・・・・・・では、ネギ君とアーニャちゃん、ネカネちゃんの事でも聞かせてくれませんか? 今回の件でトラウマになっていれば、何かしらのケアが必要だと思いまして」
「そんな・・・・・・そこまで私達に親身になってくれるなんて・・・・・・」
「いえ、お気になさらず。あなたは数ヶ月も石になっていました。今は自分達の事をお考え下さい」
こんな胡散臭い会話を何度も繰り返している。しかも笑顔で。これも、なんの根拠も無く「ネギは幼い頃からたまに来る従姉妹と父の影を追って一人で暮らしていた」とは言えないからだ。それと、先ほどアーニャ・・・・・・もといアンナ・ココロウァちゃんとそのご両親にも会った。なんかキラキラした目を向けられたけど王様スマイルで適当に乗り切った。
「ネギはよくナギの事を言っていました。私達もナギに助けられた身で、あの人柄に惚れて村に移住してきた者もたくさん居ます。よくアーニャちゃんが遊びに誘っていたみたいですが、基本的に一人暮らしで・・・・・・従姉妹のネカネちゃんが魔法学院に通っているのでたまにしか会えないんですよ」
村人は特に疑問に思わず、ナギ・スプリングフィールドを誇らしげに思い出しながら語る。
「ふむ、幼少時・・・・・・今もか。大人が傍に居ないと言うのは不安ですね」
ここであまり積極的に責めるような姿勢を見せてはいけない。
「ネギの面倒は村全体で見ているようなもので、よく悪さをしてネカネちゃんを心配させていましたよ」
「そうですか」
「それでスタンじいさんに雷を落とされていましてね。そこまで言わんでもと思っていましたよ」
「解りました。ありがとうございます」
概ねこんな感じだ。
処置なしなのは、「露ほどにもその環境に疑問を挟んでいない」と言う事だ。村人はナギ・スプリングフィールドの面影をネギ君を通して見る事しかしない。例外はネカネちゃんと同年代のアーニャちゃんくらいか。後スタン氏。ネギ君の祖父は分からない。だが、近右衛門を見ていると、魔法学院の長と言うものはなかなか忙しいようだ。近右衛門は別ベクトルで孫を遠ざけていたが。
アーニャちゃんのご両親に伺った際に同じ質問をしてみたが、その時「ネギ君にはご両親が居ませんがナギさんは少なくともお父様がいらっしゃったのでは?」と聞いてみた。子を持つ親だけあって何か思うところがあったようだ。薄くだが全体の思考誘導をしている最中である。
こうして回診と聞き取りを行った。石化の後遺症も特に無く、村全体の意識調査も完了した。
「さて」
エヴァ達に連絡を取ってみよう。
(エヴァ、今どこに居る?)
(なんだここの連中は!)
ああ、やっぱりね。
(どうした?)
(どうしたもこうしたもあるか! 私は不幸な境遇の奴は面白いと思うが、率先して作り出してやろうとは思わん! しかも・・・・・・しかも、あいつらは無自覚だ!!)
(患者を診るついでに聞いた。ここの連中はナギの影を追うことしかしていない。例外も居るが)
(私もここに来るまではナギの足がかりにしか思っていなかったが、こんな奴等にナギの息子を任せられるか!)
(OK分かった。まあ、心配している奴はいるんだ。どうにかしてみるさ)
(・・・・・・任せた。私では感情的になってお前ほど上手く運べん)
あの様子では光源氏はしなさそうだな。次はミカンにでも繋いでみるか。
(ミカン、今どうしている?)
(あ、マスター。今ネギ君に変身して欲しいってせがまれているんですが、どうしましょう?)
(周りに許可取ってからな)
(わっかりました!)
まあ、大丈夫だろう。ネギの祖父の説得にでも行くか。
「村人を救ってくださり、本当に感謝しています」
「私からも、ありがとうございました」
俺は今、昼食を取りながらネカネちゃんとその爺さんに感謝されている。本当は俺も爺なんだが。
「いえ、お力になれたのなら幸いです。ところでネカネさん。あなたは大丈夫ですか? 件についてトラウマなどを患っていなければいいのですが・・・・・・」
眉をハの字にしながら尋ねる。
「いえ、私よりネギが心配でして。最近は夜にこっそり居なくなることも多いらしくて・・・・・・」
完全に信頼されている。そして、俺の治癒の腕に憧れを抱いていると聞いた。
「ネギ君が?」
確かにあれだけの量の薬を惜しみなく使えば、人の根を善とする正義の魔法使いは信頼するだろう。尊敬するだろう。
「どうもあの襲撃は自分のせいだと思っているみたいなんです。ピンチになれば・・・・・・ナギさんが助けに来てくれると教えられていて、今回の件は
誰かは覚えていないが言っていた。憧れは理解とは正反対の感情だと。
「つまり、ネギ君は自責の念で最近何かしている、と。長、ご存知でしたか?」
知らないはずが無いと思うが。
「うむ・・・・・・禁呪書庫に出入りしているらしい」
「おじいさま! どうして注意しなかったんですか!」
「ナギもああいう所があったからの・・・・・・事にならぬよう一応見守っていたのだが」
そりゃ子供が「千の雷」とか使えるようになったりとか危険過ぎてヤバイ。いや、中級魔法だけでも十分ヤバイ。初級の魔法の矢だけでロボットを破壊出来るのだ。一般人が頭部に受けたら言わずもがな。
「長。それは信頼とは違う感情です」
良く言って放任? 悪く言ってネグレクト?
「そうです! もしネギが危ない魔法を覚えたら・・・・・・」
ネカネちゃんがくらっと来たようで、隣の長に支えられている。
「ふむ」
内心したりと言った感じで頷く。
「ネギ君は保護者の監督が必要です。ネカネさん、あなたは無理そうですか?」
「私とネギは現在別々に暮らしていまして・・・・・・私は学院の寮暮らしなんです」
「長、あなたはもう少しネギ君に時間を割けませんか? それと叱るべきところはキチンと叱ってもらいませんと」
「む、むう」
禁呪書庫に出入りしていたことを黙認している限り、これは無理そうだ。
「せめてネカネさん。あなたはネギ君と一緒に暮らせませんか?」
「寮が男子禁制なんです・・・・・・」
「ではこうしましょう」
ピッと人差し指を伸ばし、提案する。
「麻帆良の地でネギ君と共に暮らせる家を提供します。今のネギ君の状態は良くない。とても良くない。このまま見過ごすわけにも参りませんし、長も知っている土地です。私達もサポート出来ますし、村の人達に話を聞いてみたのですが、まともに叱る大人がスタン氏くらいしか居ない。せめて叱って褒める大人が居ないと駄目です」
どっちにせよ9歳に放り出す予定の時点でここは駄目だ。
「むう、しかし」
「少なくとも今回のような事件は起こらないでしょう。
「おじいさま。せっかくのヒラガさんのご好意です。受けましょう」
「・・・・・・分かった。ネギとネカネをよろしく頼む」
メガロメセンブリアと家族では、家族に秤が傾いたらしい。
「ミカン、大丈夫か?」
「あ、お兄さんとお姉ちゃん!」
「こんにちは、ネカネお姉ちゃん。ヒラガさん!」
「きゅいー・・・・・・」
「やあ、元気そうだね」
俺はミカンで遊んでいるネギ君達に声をかけた。
「どうだった? 才人」
「ああ、問題ない」
エヴァとチャチャゼロが監督していたらしい。
「最初の内はここの連中が突っかかってきたんだがな。私の事情を知っている奴が居てな・・・・・・うん、まあ大丈夫だった。大丈夫だ。大丈夫・・・・・・」
「お、おう」
封印されていたいきさつでもばれたのだろうか?
「えー、大事なお知らせがあります」
「なーに、お兄さん」
「なになに?」
やだ、この子達可愛い。
「多分アーニャちゃんはネギ君の事を駄目な事は駄目って言っているんだろうけど、もっと大人の人が駄目って言わないから、ちゃんと駄目って言えるネカネさんと一緒に暮らす為に引っ越すことになりました」
『えー!?』
驚愕する。
「アーニャちゃんはネギ君の事を見ててくれていたと思うけど、最近危ないことをしていないかい? 例えばどこかに内緒で入ったり」
『えうっ!』
「でも、スタンおじいさんほどしっかり怒る人は居なかったんじゃないかい?」
「はい・・・・・・」
「・・・・・・」
本当だったらしい。
「で、ネカネさんはとっても心配なんだ。またネギ君が危ない事をしないかって」
「しないよ! 僕もう危ないことなんてしない!」
「内緒の場所は危なくないかい?」
「うっ・・・・・・」
禁呪書庫って名前からしてやばい。
「だからネカネさんが一緒に暮らせるよう、引っ越す事になったんだ」
「お願いがあります」
「ネギッ!?」
何かを決心したようだ。
「もう危ないことはしません。父さんみたいに強くなりたいです!」
「うん、ネギ君の気持ちは分かった。アーニャちゃん。君はお母さん達と会えただろう? だからネギ君とも会えるよ。いつでも」
「でも・・・・・・っ」
「引越し先はネギ君のお爺さんが知っている。お母さん達と一緒に飛行機に乗っておいで。ネギ君もネカネさんがお休みになったら来られるから」
「アーニャちゃん」
ネカネちゃんが何か言いたいらしい。
「大丈夫。ヒラガさんは村のみんなを治してくれた方だもの。悪いようにはならないわ」
「うっ」
「う?」
「うわーん!」
アーニャ は にげだした。
「追って捕まえるのも酷ですし、今はご両親が居ます。そっとしておきましょう」
エヴァ以上に幼女なのだ。いきなり友達が引っ越すと言われたらびっくりするだろう。
「そうですね」
(才人!)
(なんだ?)
エヴァが急に念話を繋げて来た。
(この娘も付いて来るのか?)
(保護者は必要だろうに)
(それはそうだが・・・・・・)
(後はエヴァ、予定通りネギを鍛えてやれ。そうだな、俺が回復魔法中心に育ててみよう。攻撃なんて最悪魔法の矢があれば十分だ)
(私はその程度では満足せんぞ)
(まあ、最悪その程度でも敵は倒せる。百発の手裏剣で倒せなければ千発投げればいい。偉大なるニンジャの言葉だ)
(聞いた事が無いぞ)
(一応この姉と一緒に教える。ネギが攻撃に偏向してたらそれもまた良し。修行の比率を上げてやれ)
(・・・・・・はぁ、仕方が無いな)
(ここを襲った奴はネギを英雄にしたいらしい。だから、必要によっては
(今の小僧では耐え切れんぞ)
(まあ、後々な)
(お前は残酷だな。才人)
(なぁに、土台はつくってやるさ)
表情には出さないものの、真意を見抜いたのかチャチャゼロが嗤った。
只<歓迎の準備をしていたのだが・・・・・・。