俺達一行はネギ姉弟の住居手続きと編入届けの書類を作らないといけなくなった為、急遽麻帆良に戻ることとなった。
「才人、今回手続きで観光が出来なかったからな。夏休みもまだ余っているし手続きが終わったら京都に行くぞ」
「分かった。でもなんで京都なんだ? 鎌倉じゃダメなのか?」
「ちょっと詠春に話を通しにな。アイツとアルビレオから言われればタカミチも迂闊な真似はせんだろう」
「そう言う事か」
隠匿してるのと前線から身を引き子供に魔法の事を秘密にしてる奴とかだとタカミチでも分が悪いか。
「そうと決まればこんな書類さっさと書き終えて
「おー」
俺はエヴァの書き終えた書類にサインと判子押すだけだからまだ楽なんだけどね。俺の分は既に終えた。
その間も高畑先生は麻帆良には帰って来なかった。あの人長期休暇に入るたびに大規模な組織潰しに行っているらしいんだよな。正義の味方は忙しくて大変だね。
手続きを終えた俺達はイギリスからはとんぼ返りだったため京都へ。尚、なんかメガロメセンブリアから「偉大なる魔法使い」認定の為に審査を行うから本国に来いとか通知が来てたがめんどいのでバックれた。どう考えても罠です。本当にありがとうございました。
「そんなわけで俺達は新幹線に乗って京都を目指しているのだ」
「誰に言っているんだ?」
こう、お約束ってこういうのあっただろ?
「お弁当おいしー」
「で、今回はエヴァが日程決めているんだろ? どう行動するんだ?」
「そうだな。ジジイ経由で連絡は送ったから、まずは近衛の実家とやらに挨拶だ。そこに詠春が居るはずだからネギの話をして、後は適当に散策だな。私は一括りにされたくは無いんだが、関東の魔法使いって事で刺客が来るかもしれない。悪名もあることだしな。一応準備はしておけ」
「分かった」
まあ、おたおたする必要も無いだろう。
駅に着いたら一人の女が迷い無く俺達の方へ向かってきた。
「平賀のご一行様やな?」
「石角か」
「せや。顔見知りって事でうちが借り出されたんやえ。ほんま堪忍して欲しいわぁ」
いつぞやミカンに人化の術を教えるために麻帆良に来た陰陽師の女だった。実際修行つけたのはこいつが召喚した妖怪だったけど。
「嬢ちゃんはどうや? 化けててなんか不都合無いか?」
「鱗がなくなるからこの姿だと縄張りの巡回がめんどくさくなります。葉っぱ程度で切り傷できますし」
「完全人化だとせやろなー。ま、その程度ならよかったわ」
ミカンは頑張れば人間大の大きさでドラゴニュートモードになれるらしい。部分変化と違って顔も竜になるのに体つきは人間に近いから美的感覚的にやりたくないらしいけど。
「ほな、長はんが厄介ごと押し付けたそうにしながら待っとったわ。ちゃっちゃと行こか」
エヴァを囲っているって事はメリットだけではない。こういう時デメリットが発生するわけだ。それに加え今回はお願いしに行く立場だからな・・・・・・めんどくせぇ。
「顔に出てるで。けどこれ以上面倒な事になるからおとなしくしといてや」
「分かっている」
原作はフェイト一派が居なかったらイージーモードだったからね。普段はそんなもんだろう。
特に問題は無く総本山前までは通された。前まではな。
「おにーさんが長はんの言ってはった人?」
「なあエヴァ、目の前に刃物持った幼女が居るんだが。おまけに石角が居なくなった途端にこれだよ」
「多分神鳴流の門下生だろ」
「幼女に声をかけられる事案とかそういうのは別にいいんだが」
「なーなー」
空気が読めない幼女だ。年齢的に読めないのも無理は無いかもしれないけど。
「ウチ、大人の人にお願いして妖怪退治に連れて行ってもらったんや。せやけど、妖怪って斬ってもあんまりしっくり来なくて・・・・・・つい、大人の人を斬っちゃってな。こないだまでお外に出してもらえんかってん。でもなー。
「ああ、そう言う事か」
合点が言った。
「やる事がせこいな」
これにはエヴァも思わず失笑。
「~♪」
そして待ち時間が長かったせいかまどろんでいるミカン。
つまりこの子供は鉄砲玉だが、傷つけたら傷つけたで難癖付けられるわけだ。大人の人って言っても誰と言及されなきゃ反関東派にとってはどうでもいいことで。
「よーし、お兄さんが相手しちゃうぞ。俺もなんか持ったほうがいいかな?」
「なんも抵抗してくれへん相手は斬っても面白ないんよ。でも、せやなー。剣がええな。剣で斬られそうって感じながら斬るのがええんよ」
・・・・・・君小学校低学年くらいだよね? なんでメスの顔してんの? エヴァじゃないんだから。見た目通りの年齢でそんな顔されると流石の俺も引くわ。
「まあいいか」
影から刀を一本出す。
「相手してあげるけどその前に一つ言っておく。抜かせてみろ」
鞘に入れたまま刀を地面に立て、咸卦法を使う。
「あはー」
顔を紅潮させながら白目と黒目を反転させ、刀を振りかぶり跳びかかってくる幼女。
そして俺はそれを
「!?」
岩をも叩き斬る神鳴流の剣士が気が使えない普通の剣士の如く、剣で岩を叩いたかのように硬質な音が響き渡る。幼女の刀は俺の目の前で障壁によって阻まれた。だが、それも1つや2つでは無い。鱗が何層も重なったかのような障壁が剣で叩く度に浮き上がる。
「これはね。服の糸一本一本全部が元は呪符なんだよ。その呪符をよじって糸にして、編んで作ったのが俺の着ている服だ。つまり、これを抜かない限り俺を斬る事は出来ない」
子供に言い聞かせるようにネタをばらす。まあ、相手は子供なんだが。
「っ! このっ!」
幼女はムキになって刀を振るう。だが無駄だ。汎用性を高めるために使える属性は全て使った障壁だ。一枚一枚の属性がそれぞれ違い、叩きつける度に熱され、冷やされ、削られたりする。つまり――。
「あ・・・・・・」
折れる。いかに気を用いた斬撃だろうと、刀自体が耐えられる道理が無いのだ。
「さて」
障壁ごしにギチギチ言う刀身の根元を掴み、そこら辺に放る。
「お仕置きの時間だ」
影に俺の刀をしまい、障壁を全て解除し、幼女を小脇に抱え――。
尻を叩く。
「ぴい!?」
叩く。
「びゃあ!」
叩く。
「痛い!」
子供を叱る時、怒りに身を任せてはいけない。あくまで子供の為を想い、叱るのだ。故に、怒りを持ってもいい。だが、慈悲の心を忘れてはいけない。子供が本当に反省しているかも見極め、無慈悲にもならなければならない。
「う、うぅ・・・・・・」
この辺で良いか。
「普通の人は斬られると痛い。そして痛いのは嫌だ。お前は斬り斬られといきたいらしいけど。どうだ、反省したか?」
「ごべんな゛ざい゛ぃぃ」
「よし」
地面に下ろしてやる。
「自分の家まで帰れるかな?」
「・・・・・・・・・・・・」
気まずそうにしている。
「どうした?」
「あの、ウチ、大人の人斬ってから縁を切られてん・・・・・・だから、おうちには帰れんかってん」
「つまり謹慎明けにそのまま刀を持って俺のところまで来た。と」
「きんしんあけ・・・・・・? 多分そうや」
何と言う事だ。
「まあいいや。じゃあちょっと長に会いに行くから一緒に付いて来なさい」
「え、でも・・・・・・」
「長には多分怒られないよ。むしろ長は怒られる立場だと思うよ。それで、歩けるかな?」
「お尻が痛くて無理や・・・・・・」
「はぁ、まあ、うん。しょうがない」
結局抱きかかえていくことにした。
「申し訳ない」
いの一番に近衛詠春――つまり長に頭を下げられた。あの子は別室で待機だ。
「手綱を取るのも一苦労だな。詠春」
くくく・・・・・・とエヴァが笑っている。いかに殺人鬼の素養を秘めていても、あの程度で俺がどうにかなるわけでも無いし、この茶番でいかに弄ってやろうかと言う感情が見て取れる。
「改めて・・・・・・申し訳ない」
詠春の頭は下がったままだ。面倒なので率直に尋ねることにした。
「あの子供は?」
「あの子は・・・・・・理由はあの子自身から聞いていると思いますが、才溢れ、あの歳で既に初陣は済ませたのですが、その際に味方の者を斬りつけまして・・・・・・」
「処理をこちらに求めたわけだ」
エヴァは笑ったままだ。
「エヴァ、話が進まん。舐めた真似してくれたのは確かだが」
「・・・・・・・・・・・・」
関西の長は頭を下げたままだ。武闘派で政がからっきしでも・・・・・・ああ、原作からこんなんだったっけ?
「まあいいや。長よ。話が進まない。頭を上げられよ」
「申し訳ない」
三度目の謝罪と共に頭を上げる近衛詠春。
「色々面倒になったので駆け引きとかは無しだ。ネカネ・スプリングフィールド及びネギ・スプリングフィールドを麻帆良の地に移住させるためにタカミチ・T・高畑の説得を願いたい」
「承りました。ですが・・・・・・一つだけ、いいですか?」
「なんでしょう?」
「あの子・・・・・・月詠の事をお願いしたい。辛うじて神鳴流で寝泊りしているのですが、親に縁を切られ、姓を剥奪されています。
「ただちょっと行き過ぎた子供でしょうに。そちらでなんとかなるのでは?」
「こちらとしてもそうしたいのですが・・・・・・同じ門下の子供達と一緒にするなと言う声を抑えきれないのです」
さて、どうするか。あの衝動はエヴァに地獄の特訓をさせれば制御は出来そうだが。
「説得の件は襲われた事でチャラ。身元引き受けで一つ貸しと言う事でよろしい?」
「はい、よろしくお願いします」
こんなところで月詠を拾うことになるとは。世の中何があるか分からんね。
「お兄さま、ほな、よろしゅう頼んます」
こんなところに泊まれる気分じゃないので、適当な旅館に行こうと言う話になり、長の下を後にしようとしていたら、月詠が居た。
「君はどこまで聞いている?」
「君だなんていけずやなぁ。月詠と呼んでください」
距離が近いんだが?
「では、月詠、どこまで聞いている?」
「これからお兄さんはウチのお兄さまになるからよろしゅう言っといてって」
投げっぱなしか。
「分かった。エヴァ」
「分かっている。才人」
「?」
「よし、これから君は平賀月詠だ。なんか早い内から目覚めたみたいだけど、そんな事がどうでもよくなるくらいこのエヴァンジェリンさんが鍛えてくれるからな」
「泣いたり笑ったり出来なくしてやる」
「えっ」
「いやー、どんな風に成長するか楽しみだな」
「私の下で鍛えるからには生半可にはせんよ」
「えっ? えっ?」
「月詠ちゃん、今から言っておきますね。ご愁傷様です」
なんだか分からないが空気だけ察したミカンが月詠に同情した。
黒目反転はラブひな時代から神鳴流(青山)のお家芸だったと思うんですよ。