関西の総本山に寄った後、月詠も加えて、一応当初の予定通りに俺達は京都観光をするのだった。
「フハハハハハ!」
「エヴァ姉さま楽しそうやなぁ」
「エヴァは神社仏閣とか好きだからなぁ」
「マスター、そんなことより生八橋食べたいです」
エヴァに付いて行くのが精一杯で、あちこちキョロキョロして足を引っ張るミカン。きつい。
くたくたになりながらも旅館にチェックインし、月詠の事を麻帆良に伝える。詠春たっての頼みとなれば近右衛門も無碍にはできまい。
「ふう」
それも終わり、風呂場で汗と疲れを流す。風呂はいいね。人類の生み出した文化の極みとはよく言ったものだ。古代ローマ人も好きだったらしいし。
だけど女湯の様子とかそう言うお約束は無いから。すまんね。
後は同じようなペースで2泊ほどしてから麻帆良へと戻った。
「あ゛~疲れた」
凹凸がかみ合わない集団の中に居ると磨耗率が高くなる錯覚を覚えながら、月詠を引き取った為、寮を引き払う手続きをするために書類作成していたのだ。今は京都土産の菓子と茶で一息ついている。
家はエヴァの家に住んでもいいのだが、家主が見た目幼女だからなぁ。ちと世間体が辛い。別荘でさらに1日過ごすし、歳を取って死ぬ危険があるため、俺は食事に別荘内で栽培している人間でも食べられるよう品種改良した肉や野菜を食べている。ゆでブレインイーターとかモルボルの漬物など。
引越しは業者に頼むと魔法関係とか面倒な事になる為、最低限の偽装以外は影のゲートに突っ込んで移動した。
「おつかれさんどす~」
月詠がお茶のお代わりを淹れてくれる。割と気配り出来る娘だ。ミカンは縄張りの巡回で出ている。
「おう、ありがとさん」
「ところでお兄さま。お願いがあんねんけど」
「なんだ?」
「まともに
「あー・・・・・・うん、ま、いいか」
もっと理不尽な目に遭わせてみよう。神鳴流は銃は効かないって言うけど、散弾はどうかね? 後は衝撃信管の榴弾とか。
「やったー! お兄さま大好きや~」
これで白目が反転してなきゃ可愛かったんだがな。
「お前はこれから大量に刀をダメにするだろうからしばらくは数打ちな。おまけに耐久重視の
正確には俺が即席で作った奴だ。分厚く作りました。
「そこはしゃあないわ。今のお兄さまと打ち合っても斬れるイメージ浮かばへんし」
でも斬りたいんよとか続けられる。そういや弐の太刀ってどこで習えばいいのかね? 刀子先生は習得しているだろうか? そもそも教えてもらえるかも怪しいな。見て盗むしか無いか?
ま、いいか。その時考えよう。それまでは防御ごと潰せばいい。
「だけど
「・・・・・・お兄さま。ぬか床で繁殖する植物は食べ物やない」
確かに魔界産だからか、皿に盛っても動いているし。だけどちょっと活きがいいだけじゃないか。
「今度エヴァに修行つけてもらおうな。大丈夫。最初は森だから食べ物は豊富だ」
初心者だからカレー粉の携帯を許してやろう。
「ウチ今更森程度でどうこうならへんよ?」
「24日間だと同じ狩場じゃ魚も蛇も取り尽くすだろうし、山菜だけだと遭遇戦の時力が出ないぞ?」
1時間が24時間になるから丸一日使えば24日だ。
「えっ」
「喜べ、俺も一緒に同伴してやる。対戦相手として潜伏する」
「同伴の意味が分からへんけど、お兄さまも一緒なん?」
「俺は虫も平気だからお前よりはるかに楽に飯が食えるぞ」
昔オーク食ったのを思い出すなぁ。人間の子供が好物なだけであまり豚と変わらなかったけど。
「それとも虫の選び方からやるか?」
中まで火を通さないと寄生虫が怖い。
「嫌や! ウチは鹿とか猪でええ!」
「まあ、お前がそう言うならそれでいいけど」
ここら辺はまだ子供か。だけど戦場に動物が近寄ると思っているのかね? 修羅になるには木の根を食んででも生き残る執念が足りてないなぁ。
当日はわざと気配出してプレッシャーかけていこうと思った。
「で、どうだ? あの娘は」
「甘々だな。鬼に逢っては鬼を斬り、仏に逢っては仏を斬ると言うような感じの覚悟が足りてない。更生の余地は十分ある。悪堕ちするなら地獄で泥水すするくらいの意気込みが欲しいな」
今はエヴァと別荘でお茶会だ。ここでの1日は外で1時間しか経たない為、雑談するには勿体無いくらいの場所である。
「お前はなんでも食うからな・・・・・・修行中なのに食って寝るだけだし」
「毎日風呂に入れるのは贅沢以外の何者でもない。宮本武蔵も似たようなことしていただろう」
「お前は本当に現代人なのか・・・・・・?」
「前世は遠征中血脂や死臭を浴びても風呂に入れなかった時もあった」
「・・・・・・・・・・・・」
エヴァはもはや何も言うまいと言う顔をしている。普通は前世の事なんて覚えていないし。大体俺が出張って逃げない盗賊や傭兵は俺本人ではなく近くの村人か弱そうな奴を狙うんだよ。村には風呂なんて無かった場所もあったし、兵で守らせると警備を薄くせざるを得ない場所が出てくるからな。そこまでの手練が出てくると、ゴーレムやガーゴイル程度、どうにでもなった。相手も魔術使えるのが一番辛かったな。
大隆起を止めるための対処療法がまさか自分に仇となって返って来るとは思ってなかったとしみじみ感じる。俺が出ない時は対応が大雑把すぎだったんだよ。相手がゲリラ戦をしてくるなら木々や建造物ごとなぎ払う脳筋ばかりだった。1や2までなら許したけど、10や100になってきたら被害半端無いし、後から真似しだす馬鹿が出ないためにそういう奴等が沸いてきたら率先して潰さなければならなかったってのもあったっけ。
「ごほんっ! ・・・・・・あの娘の事だったな。私に何かして欲しいことはあるか?」
「別荘に森を追加しておいてくれ」
「分かった・・・・・・労働には対価が必要だと思うんだが」
向かい合ってたエヴァがにじり寄ってくる。どうしたもんかな。
「ほれ、いい子いい子」
頭を撫でてみる。
「足りん」
「足りんか。どうして欲しい?」
無言でぽすんと俺の膝の上に乗ってきた。
「抱きしめろ」
「了解」
腹と首元に手を回し、苦しくない程度に抱きしめる。
「ふふ・・・・・・」
「あだっ」
エヴァの首元に回した腕に噛み付かれた。そのまま血を吸われる。
「しょうがない奴め」
腹に回した腕を頭に乗せ、撫でる。なんとも緩い空気だ。
こいつは保護者側になるんだけどな。見た目に精神が引っ張られている節があるからなぁ。新しい娘が来て、嫉妬でもしているのかね?
保父にでもなった気分だ。どうしたもんかな。
翌日、別荘に追加してもらった森で月詠と対峙していた。これから修行をつけるのだ。
「では修行を始める。才人には影のゲートで食料を持ち込ませないため、ここで荷物を出してもらう」
エヴァが見届け人だ。一応俺の修行も兼ねているからな。
「ほれ」
影から武器を出す。それと材料も出す。俺の錬金は自身の魔力消耗を抑えるため、一から作るのではなく、錬金する際に材料を出しているのである。鋼材、燃料、薬品・・・・・・総合した重さは大体、50トンちょいくらいか? ハングドマン1機組み上げると後は自力で生成しなければならなくなる。これでも足りない材料を現場で生成しているのだ。実際のアーマードコアはパーツによって重量が上下するためあまり気にする必要は無い。ハルケギニアのメイジがトライアングルで30メートルクラスのゴーレムを作ってもピンピンしているのがいかに規格外か分かる。あっちは土だが土故に再生可能ではあるし。
影からせり出してくるので派手な土煙などは立たない。だけど木々が鋼材に押し出されて倒壊している。
「ひゃー」
月詠の目が点になっている。「ウチこんなのと
「ここでナパームでも作られて焼かれたら修行にならんのでこれは没収だ」
燃料が没収された。まあしょうがないか。鋼鉄のゴーレムは燃料じゃなくても動く。今回作らないけど。
「それと、弾薬に鉛は使うな。鉛害が面倒だ」
大雑把に分けてある弾薬も持っていかれる。散弾とか作り直さないと。
「では、確認だ。ABC兵器の使用は禁止。後は火は使っても構わんが、積極的に火計は使うな。修行にならん。他にも色々あるが、判断は才人に任せる」
様子を見て、大丈夫そうだったらUAVを飛ばして狙撃でもしてみるか。しかしやりすぎないようにしないといけない。俺の加虐心を満足させるためにここに居るのではなく、修行なのだ。ガーゴイルに弾と魔力を充填して数10キロメートル先から延々と攻撃し続けるわけには行かない。何より俺の修行にならない。
こう考えると制約が多いな。迫撃砲も煙幕以外は止めておこう。
「ABCへいきってなんどすかー?」
うん、まあ小学生がそんなこと知らんだろう。
「核兵器、生物兵器、化学兵器の略だ。以前私と戦った際に戦術核を使われてな・・・・・・再生する身体に放射性物質が混じって面倒だったのだ」
エヴァが嘆息して説明する。
「正直やりすぎたと思っている。面倒だからもうやらない」
「破壊力だけなら魔法世界の方が上だし、私からこいつに言えることは無い」
投げたな。
「では、今から1時間後に開始だ。それまで交戦は避けろ」
「はいなー」
「OK」
「では、24日後にな」
その言葉を残し、エヴァは転移した。
「じゃあ月詠」
「なぁに、お兄さま?」
「1時間後にな」
そう言って俺も影を使って転移した。瞬動と違って気配を追うのは難しいだろう。
日の高い内に飯の準備もしないといけないからな。
以下、ダイジェストでお送りします。
「お兄さま、わざと気配出しとるな」
全ては、夜の闇の中から始まった。
「ああっお兄さまのせいで動物がみんな逃げてもうたー」
人は生まれ、人は死ぬ。
「キノコはあかん・・・・・・せめて山菜探さな」
天に軌道があれば、人には運命がある。
「おなか減ったわぁ・・・・・・眠いわぁ・・・・・・」
才人に追われ、幻覚に導かれ、辿りゆく果ては何処。
「そんなじらさんといてぇ。奇襲する以外気配だけ感じさせてまともに戦ってないやんかぁ」
だが、この命、求めるべきは何。
「うふふ、みぃつけた」
目指すべきは何。
「そんな、武器を折るためにわざと・・・・・・?」
打つべきは何。
「ひっ! ・・・・・・お、お兄さま?」
そして、我は何。
「嫌やあ! もうウチおうちかえるぅ!」
猜疑に歪んだ暗い瞳をせせら嗤う。
「せめて火ぃ通させてぇ・・・・・・」
誰が仕組んだ地獄やら。
「ひもじぃ・・・・・・」
お前も!
「ウチがこんなところで・・・・・・」
お前も!
「まさか・・・・・・ウチ獣ごときにも狙われとるん・・・・・・?」
お前も!
「あはは、はは、はははははは!」
私の為に、死んで!
24日経過。
「やあ」
「ひっ!」
月詠は酷く怯えていた。頬はこけ、目の下はくぼみ、顔色は土気色に近く、折れた刀を手放せなかった。
「修行は終わりだ」
エヴァの宣言。
「ウチ・・・・・・生きとるん?」
どうにも信じられないようだ。
「うん、終わり。帰ってご飯を食べよう」
幼子に言い聞かせるように、優しく迎え入れる。
「うそ・・・・・・うそ・・・・・・?」
「嘘じゃないって」
まあ、こうしたのも俺なんだが(嗤)
「お兄さま、お兄さまぁ!」
折れた刀を捨て、月詠がよろよろと近付いてくる。
「おーよしよし」
だが――。
「死ねぇ!」
「甘い」
それもフェイントだったらしい。
「はい、とん、と」
一撃喰らわせ、気絶させる。やっぱ限界だったか。
「これはもうしばらく続けないと駄目かな」
「駄目そうだな」
これを聴いていたら月詠は多分廃人になっていたかもしれない。
だが、最後の一撃を喰らった時点で月詠の心は折れていたようだ。
別荘はウドではありません。アストラギウス銀河でもありません。