寿命かと思ったら別世界に飛ばされた件   作:スティレット

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 お久しぶりです。


第23話

「お、お兄さま。ふふ、ふひっ」

 

 目の前で月詠が怯えながら必死で笑顔を浮かべている。

 

「や、しばらくは修行しないから」

 

「しゅ、修行!?」

 

 ありゃ、こりゃ地雷になっているのか。

 

「嫌や! もう修行は嫌や!」

 

 がくがくと震えながら後ずさる月詠。

 

「落ち着け」

 

 流石にちょっとやりすぎたかな。

 

 とまあこんな感じで極限の恐怖を知った月詠は俺の気に障らない様に必死で笑顔を浮かべ、ちょっとした事で爆発するPTSD持ちになってしまったのだ。

 

 どうしたものかな。このままだとストックホルム症候群コースだし。

 

「エヴァ、どうすればいいと思う?」

 

「知らん、だがこいつはここで折れて良かったんじゃないか?」

 

 あのままだと行き着く果てが修羅の道だからな。

 

「しゃあない。とりあえず気長にやるか」

 

 カウンセリングとか専門外なんだけどな。

 

 

 

 上手い事矯正出来ればなと思っていたんだが、あの有様だったので千雨ちゃんとは会わせられそうにない。刃物を見ても怯えるので自傷行為に走ることも無いだろう。ちょっと冷却期間が必要だと思ったのでエヴァに任せることにした。あいつはさらなるトラウマで上書きしそうな気がするけど多分なんとかなるだろう・・・・・・うん、多分。

 

 今は千雨ちゃんの様子を見に待ち合わせ中だ。修行さぼっていないだろうか?

 

「すみません、平賀さんですか?」

 

 と、考え事をしながらスタブでコーヒーを飲んでいると童女に声をかけられた。

 

「君は?」

 

「葉加瀬聡美と言います。実は、この写真について聞きたいことがありまして・・・・・・」

 

 そう言って一枚の写真を取り出す童女。その写真には巨大な鬼に向かってグラインドブレードを突き出し、特攻するヴェンジェンスの姿が。

 

「ここではちょっと不味い。あっちに行こうか」

 

 千雨ちゃんにはメールでちょっと遅れると伝え、移動する事にした。この童女に絡まれているのに千雨ちゃんが来るとややこしくなるからね。

 

 

 

「ここなら大丈夫だろう」

 

 現在ゲームセンター内。ここなら騒音が酷いしこの写真もゲームの事だろうと周りも勝手に納得してくれるんじゃないかと思ってのことだ。動揺してとっさに呪を使えなかった。

 

「で、それで俺に聞きたい事とは何かな?」

 

 あの写真は以前警備中に大型の鬼が出て、俺が悪ノリしてヴェンジェンスを作ったのが原因だろう。作ったヴェンジェンスは麻帆良の森の奥にグラインドブレードを突き出した状態で放置していた。どうせ人なんて来ないだろうし、来るとしたら裏の事を知っている関係者とか忍者くらいだろうし、エヴァと反乱を起こす時に既に作ったゴーレムがあったほうが便利だろうと思って残していたのだ。

 

「わたしはこれでも裏の事を知っています。そして大学に研究室を持っています。なのでロボットは見慣れているのですが、この、この凄まじいまでに暴力を体言した機体! これについて聞きたいのです! これは有人操作なのですか? それとも無人? AI式ですか? だとすると人格などは設定されていますか? 人格は男性? 女性?」

 

「落ち着き給え」

 

 どうもこの子はこの手の事になると見境がつかなくなるようだ。

 

「まず、裏と言うのはどこまで知っているんだい?」

 

「この世界には魔法の存在が公にされていないと言うのは知っています」

 

「となると、それを他の人が知っていると言う事は?」

 

「うっ・・・・・・知りません」

 

「ふむ」

 

 どうやら魔法先生とかは知らないらしい。となるとこの写真も盗撮か何かか。まだ超に出会ってないだろうから、まだ単に頭のいい子供と言う扱いなんだろうか?

 

「君は裏の血生臭いところに立つ気はあるのか? それは勇気とかそんな類のものじゃないよ」

 

「知識の探求に犠牲は付き物です!」

 

「君自身が死んでも?」

 

「私は科学に魂を売りました。故に志半ばで亡き者にされても文句は言いません!」

 

「・・・・・・いいだろう」

 

 たまにこういうのが居るから面白い。ただルールに乗っかっているだけだとつまらないし、何よりルールとは弱者が守り弱者はルールに守られる為に存在するのだ。今の俺とエヴァは「付き合ってやっている」と言うのが正しい。

 

「君の熱意は分かった。質問に答えよう」

 

「ッ!!」

 

 唾を飲む音が聞こえる。

 

「結論を言うとあれはロボットではない。魔力も使って動いているゴーレムと言うものだ」

 

「ロボットじゃない・・・・・・? ゴーレム? それって石とかで出来ているアレですか? でもこれはかなりメカっぽいんですが・・・・・・」

 

「趣味だよ」

 

「趣味ですか」

 

 文句あっか?

 

「でもいい趣味だと思います! どうでしょう。ビデオにも写しているんですが、あの機動力! あの攻撃力! わたしに魔力を使わないロボットとして再現させてもらえませんか?」

 

 なんか話がややこしいことになってきたぞ。こいつが後に超と組むとしたらデメリットがでかいんだが・・・・・・。

 

「お願いします!」

 

 そうだ、UNACを作ってしまえばいい。

 

「いいだろう」

 

「ほんとにっ!?」

 

「ただし、俺も開発に携わらせてもらおうか。そうすれば色々と都合がいいだろう」

 

 もし田中さんみたいに麻帆良地下で大量生産されるのなら、それがそっくりそのまま俺の戦力となるわけだ。

 

「やったー! ありがとうございます平賀さん!」

 

「いやいや、礼には及ばないよ」

 

「あ、これ研究室の電話番号です! それと私の携帯番号も!」

 

「うん、都合がいい日に電話をかけるから。実は待ち合わせをしていたんだ。そろそろお暇させてもらうよ」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

 予想外の収穫があったな。これで超が魔法バレ事件を起こしても有利に進められる。悪いけど移民とか俺のシマじゃノーカンだから。

 

 

 

「遅いですー!」

 

「はは、ごめんごめん」

 

 スタブに戻ってきた。千雨ちゃんはやたら長い呪文のようなコーヒーを飲んでいる。

 

「ちょっと裏の事について聞かれたからそれの対処をしていたんだ」

 

「それならしょうがないですね・・・・・・」

 

 しょうがないと口では言いながらもどこか納得しきれていないようだ。まあそんなもんだろう。

 

「で、だ。修行の方はどうかな?」

 

「もちろん続けています! 気が使えるようになってから大人にも勝てるようになってきたんですよ!」

 

 千雨ちゃんの中ではそれが異常だと気がついていないらしい。麻帆良ではふつー(白目)

 

「なら成果を見せてもらおうかな」

 

「はい! どこでやりますか?」

 

「いつもの場所でいいと思うよ」

 

「分かりました! 行きましょう!」

 

 千雨ちゃんはコーヒーを一気に飲んで俺の手を引く。

 

「よーしお兄さん張り切っちゃうぞ」

 

 俺の空手はもはやカラテになっているが、実は素手でも戦える。いつでも武器が持てるとは限らない。備えよう。

 

「お兄さんに一撃入れられたら何かご褒美とかありませんか?」

 

「それなら冬に向けてマフラーでも編んであげよう」

 

「頑張ります!」

 

 俺の服と同じように呪符でも織り込もうかな。呪いの抵抗とか教えてないし。千雨ちゃんを「知らないうちに要塞化」計画でも立ててみよう。




 葉加瀬登場。ファンタズマビーイング?さて、どうでしょう?

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