「これから月詠と千雨ちゃんで模擬戦闘をしてもらう」
現在別荘の中で修行中だ。丁度同じくらいのレベルの相手が出来たからね。これを有効活用しない手は無い。
「いいんですけど、月詠ちゃんってまだ小さいんじゃ・・・・・・?」
「あの表情を見てもそう言えるかな?」
そこには白目を反転させて竹刀を握る月詠の姿が。
「まともな戦闘なんて久しぶりやわぁ。いつもエヴァ様に嬲られて終わりやったから・・・・・・」
「うわぁ」
これには思わず千雨ちゃんもドン引きである。しょうがないね。幼女が白目反転させながら欲情しているからね。
「真剣じゃないのが残念やけど・・・・・・神鳴流は得物を選ばんのやよ」
そう、この世界は気や魔力を通せばたとえハリセンだろうが妖魔や妖怪と渡り合える世界なのだ。
「刃なんて無いから切り口はズタズタになってまうけど・・・・・・堪忍やで?」
「・・・・・・上等!」
やはり千雨ちゃんも大人顔負けの力量になってきたのでどこかで飢えてたんだろう。引いた自分を奮い立たせるように拳を打ち鳴らした。この子パソコン買ってやってからというもの、ネットアイドルしているんだぜ? 信じられるか?
「よし、じゃあ開始はこのコインが落ちたら、降参か戦闘不能で勝敗が決定するけど、簡単に勝敗が着いても面白くないな。よし、勝者には何か一つ言う事を聞いてあげよう」
『マジで!?』
何故ハモる。
「マジで。じゃあ早速始めようか」
10円玉を親指に乗せる。
「(デート、デート、一日デート!)」
「(お兄さま、勝ったらうちのはじめてを貰ってもらうんや)」
両者とも目がぐるぐるしている。何を考えているんだ?
「よし、Get set」
うーん、バーチャロンやりたくなってきたな。もちろんライデンのバイナリー・ロータスで一撃で落ちるバイパーⅡを使いたい。え? サターン版はまだその名称じゃなかったって?
コインが落ちる瞬間、両者は対照的な行動に出た。
「・・・・・・!」
千雨ちゃんはダッキング。
「あははー!」
月詠は初手でフルスイングで決めにかかった。神鳴流の気の通った本気の一撃だ。並みの人間が喰らったら一発でお陀仏だろう。え? 浦島某が斬岩剣喰らっても割りと平気だったって? あいつは実家が謎の古武術やってたからノーカン。
剣道三倍段と言う言葉がある。素手で拳法三段相当と剣道の初段は同じくらいって意味だったっけ。それとも槍の三倍は剣の力量が要るんだっけ? まあそんなニュアンスの奴だ。
それを千雨ちゃんはリーチの差を考えたのか、初手で様子見なのか、まずは下がってから一撃を凌ぐことにしたらしい。ボクシングのスピードは空手の比ではない。どちらに優劣があるかと言う訳ではなく、ベタ足でどっしり構える空手とかかとを上げて細かくステップを刻むボクシングの差だ。構えからして空手が迎撃に向いたものだとしたら、ボクシングは一旦完全に避けるか軽くパリイングしてから攻めにかかる。クロスカウンターは高等技術だ。同じ土俵でも決めるのが難しいのに、相手が長モノを持っていたら言わずもがな。
「ふっ!」
いきなり顎を狙って決めにかかるのでは無く、振りぬいた肩を狙うことにしたらしい。たしかにそこなら無理に戻さないで筋肉の多い肩で防御しようと考えるな。
パァン! と軽い音。気を纏った千雨ちゃんの拳が音速を超えたのだ。マッハで迫る拳を、いくら真剣より軽い竹刀とは言え、防御に使えるだけの時間は無い。月詠はむしろ自分から最高速になる前に当たりに行くように、ショルダータックルの姿勢で突貫した。
ドンッ! と言う鈍い音。千雨ちゃんのやたら重いジャブが月詠の肩に直撃した。
「そのくらいじゃ止まらへんえ!」
神鳴流は太刀使いのイメージが強いが、月詠は違う。原作でも小太刀と打刀の二刀流でネギ一行を圧倒したのだ。
「神鳴流・浮雲旋一閃!」
しびれた利き腕をかばいながらも勢いをバネに投げ技を仕掛ける月詠。派手に三回転しながら千雨ちゃんを地面に叩き付ける。
「ぐ・・・・・・かはっ!」
頭部と背部をしたたかに打ち付けた千雨ちゃんは空気を全て吐き出した。その身体は死に体だ。
「これで・・・・・・仕舞いや!」
ここで月詠がダーティプレイ。痺れた腕で強引に竹刀を持ち上げると、ガッガッガッ! と柄を振り下ろし始めたのだ。
「ぐっうっぎっ」
呼吸を全て吐き出し、死に体となった千雨ちゃんに抗う術は無かった。現実はゲームのように行かないものだ。一度勢いを持った者に勝利の女神は微笑む。
「うっ・・・・・・」
千雨ちゃんが気絶した。まあ、一度実戦を経験した月詠に軍杯が上がるのは仕方が無い。ここまでだな。
「勝負あり!」
「やったー!」
無邪気に見えるだろう? 敵を見たら欲情するんだぜ? この幼女。
「はいはい、ちょっと失礼、まずは千雨ちゃんを診ないとね」
「ぶー」
ぶーたれてる月詠を放っておいて、まずは千雨ちゃんを診る。内出血で青タンだらけだな。
「イル・ウォータル・デル」
まずは軽く治す。骨とかが折れていたらポーションを飲んでもらおう。
続いて軽く触診。うん、気の防御が間に合ったのか、脳震盪程度で済んでいるな。魔法は脳出血にも対応出来るので気絶していびきをかいていても問題は無い。
「よし、次、月詠」
「はいなー」
半袖にスパッツと言った格好の月詠の肩を診る。千雨ちゃんも似たようなものだ。いつでも一張羅じゃないのだ。修行でエヴァがアスナに着せていたゴスロリなんてものは俺の修行には無かった。
「ワレ カミノタテ ナリ・トゥイ・グラーティアー・ヨウイス・グラーティア・シット・クーラ」
「ほわぁ」
こっちの魔法は詠唱が長いので好きでは無いんだが、使える手札は多い方がいい。忘れないように定期的に使っている。
「癒されるわぁ」
疲労回復の効果なんてなかったはずだけどな。まあいいか。
「この子を寝室まで運んでくれ」
「畏まりました」
エヴァの人形達にそう命令し、千雨ちゃんを運ばせる。勝負は非情だ。何かが懸かっているときに下手に慰めようとするものでもないだろう。
「さて、月詠。願いを聞こうか」
「えへへー、お兄さま、あんなぁ?」
はにかみながら応答する月詠。こうしていると可愛いんだけどな。
「うちの寝室に今夜来ておくれやす」
「なんだ、そんなことか」
大方添い寝か何かだろう。やっぱり親元を離れると元外道でも寂しいのかね?
「絶対や。絶対やからな!」
なんでそんなに念を押されるんですかねぇ。
「ああ、分かった分かった」
最近千雨ちゃんも天狗になっていたし、これはこれで実りのあるものだったかな。そう考えながら千雨ちゃんの今後のフォローを想定するのであった。
「ああ、もううちは昔に戻れへんのやな」
「何を藪から棒に」
修行が終わって月詠と格ゲーをしていたら唐突にそう切り出された。
「うんとな、エヴァ様に「お稽古」付けてもろうてから互角の相手程度やと感じられなくなってん。絶望的な戦力差でようやく昔とおんなじ感じやえ。そう考えると千雨姉さまともあんまり楽しめなかってんねや」
「贅沢な悩みだな」
俺が昔絶望的な戦力差で挑んだとかあれだぞ。101で7万相手にしたときとかだぞ。
しかしこうして変な悩みを持つとはね。魔法世界に修行に行かせるか? 理想はネギが味方の状態でフェイト一派と渡りを付けること。うーん、リスキーだ。
「よし、今度中東の紛争に顔を出してみようか。泥沼の混戦でそんなこと言っていられない状態を味あわせてやる」
「お兄様太っ腹やわぁ!」
「ははは、こやつめ」
笑顔の月詠が抱きついてくる。壊れた倫理感を治すにはどうすればいいのかね? わからん。
「・・・・・・今夜は寝かさへんえ。お兄さま」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもないどすー」
こんなにもほのぼのしていたのにあんなことになるなんて、今の俺は思ってもみなかったのだ。
まさかこの流れになるとは。このままだとR-18に書くことになりそうなんですけど、皆さん、需要あります?