寿命かと思ったら別世界に飛ばされた件   作:スティレット

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 前回のあらすじ

 幼女に喰われた。


第26話

 気が付いたら白髪の雑魚が白目向いて全裸で痙攣してた。べとべとで。

 

 落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない。

 

 最近読んだ漫画のとあるバスケットマンの言葉を思い浮かべ現実逃避したり―――、

 

 でぇじょうぶだ。ドラゴンボールが……ねぇよそんなもん!

 

 と、ひとしきり混乱した後深呼吸を数度行いなんとか冷静になった。

 

 ……まぁいい。良くはないが構わん。流石の俺も年齢一桁の幼女に逆レされるとは思わなかったが、あくまで「まさかそこまではしないだろう」と言う油断もあった。不幸中の幸いにして犯人は失神中だ。だがこんな男女の匂いが充満していて、尚且つ一晩ドッタンバッタンの大騒ぎ(意味深)だ。一応壁や床は籠城も想定した錬金により分厚く、防音性能があるがこの家にはネカネちゃんが一緒に住んでいる。まさかあの表情は何か感づいていた? 十分にあり得る話だ。……女性は匂いに敏感だ。まずはそこから何とかしよう。

 

 

「イル・アース・デル」

 

 錬金によって匂いを消し、そこら辺に飛び散っているものも全て隠滅する。月詠はどうするか。何故リアルポンキッキを思い出す。石角がダウンタウンとか好きだったのがいけないんだ。落ち着き給え。

 

 まあいい。まあいいと次に進まないと駄目だ。思考がループしている。兎に角、月詠も今は意識が朦朧としている。暗示でもかけておこう。内容はそうだな―――。

 

「お前はこの部屋で一晩平賀才人に添い寝して貰い、夜中に襲おうと思ったが返り討ちに遭い、失神していた。と言う建前か秘密と言う内容しか人前では言えない」

 

 まあ実際は成功していて一晩搾り取られていたみたいなんですけどね。エヴァはまだいいけどこの娘は人前でも正直に言いそうだからなぁ。これって俺が悪いのか? なんか伊藤さんちのまこと君の事を責められないんじゃないか? 逆に考えるんだ。どっちが上か教えてやれば良い。

 

 

 

 月詠の部屋から出て階下へ降りていくとネカネちゃんとネギ君が朝ごはんを取っていた。

 

「おはようございますヒラガさん」

 

「おはよーお兄ちゃん」

 

「おはようネカネちゃん」

 

 なんか刺々しい。なんか小さな息子が居るから事務的な話だけはしておこうみたいな空気を感じる。

 

「月詠ちゃんはまだ起きてきていないんですか?」

 

 内心ドキッとしたが、よく考えてみたら別に疚しい事?は無い。ネカネちゃんとの間に恋愛感情など無いのだから。まあ居心地は悪いけど。

 

「縛って転がしてあるよ。お仕置きが必要だから夜まで放っておいてあげてね」

 

 実際のところは施錠して錬金したマッサージ器具を取り付けた状態でベッドに縛って放置してある。ハルケギニア基準でスクウェアオーバーのロックと錬金、そして固定化だ。流石に部屋を異界化はしていないがそう易々と破れまい。

 

「そ、そうですか。でもそこまでしなくても……」

 

 想定よりかなりハードな内容にドン引きのネカネちゃん。ごめんね。でも実際のところどっちもどっちだったから仕方がないんだ。

 

「まあネギ君の前で話すような内容でも無いしね。裏稼業の人間は色々と過激なところもあるってだけ分かってくれればいいよ」

 

「はい……」

 

「ねーねー月詠お姉ちゃんどうしたの?」

 

 ここでネギ君が空気を読まずにキラーパス。幼児に空気読めとか酷すぎるが。

 

「月詠ちゃんは風邪移しちゃってね。今はお部屋で寝てるけど、ネギ君も移るといけないから元気になってから会おうね」

 

「おねーちゃんかわいそう。いつ治るの?」

 

「多分明日には治るよ。お兄さんが看病するから大丈夫さ!」

 

 欺瞞!

 

「おにーさんのまほーで治せないのぉ?」

 

「魔法は頼りすぎると良くないからね。魔法があるからうがいも手洗いもしなくなったらバッチィでしょ?」

 

「うん!」

 

「だから軽い病気は反省させるために頑張って自分で治してもらおう」

 

「そうだね!」

 

 なんとかごまかせたがネカネちゃんがとても複雑な表情をしている。悪いね。一緒に暮らすと言う事は悪い面も多く見る事になる。

 

「よし、二人ともごはんを食べて学校に行こう。ネカネちゃんも何か聞きたい事があったら夕方で良いかい?」

 

「いえ、大丈夫です!」

 

 このくらいの娘はデリケートだからなぁ。まあなるようになるだろう。

 

 その後洗顔と朝食を摂った後、ミカンを叩き起こして日課のジョギングに行く事にした。今日のメニューはネカネちゃん作の多めの野菜とベーコンのコンソメスープにトーストと目玉焼きだ。まとめて切って冷凍しておくと、まとめて何種類も使えるから忙しい朝でも楽だと聞いた。よく気が付く娘だよ。

 

 

 

「さくやはおたのしみでしたね」

 

 開口一番ミカンは抑揚のない声でのたまった。

 

「俺は一晩で完全回復するような宿屋に泊まった覚えは無いんだが」

 

「そんな事はどうでも良いんですよぉ!」

 

 ドラゴン が いきりたってしがみついてきた!!

 

「落ち着け」

 

 サイト は ヒラリとうけながした!!

 

「ぐぺっ」

 

 ドラゴン は ころんだ!!

 

「ううっ……吸血鬼はともかくあんなぽっと出に先を越されるなんて……」

 

「いや、うん、まあ、許せ」

 

「まずだぁひどいぃぃ」

 

 ガン泣きである。

 

「仕方がないとは言わないがまあ、俺も油断していた。ごめんな」

 

 抱き上げて落ち着くまであやしてやる事にした。言うまでも無いと思うが終始子竜形態である。

 

「他の奥方は良いんですぅ……ミカンはまだ子供でしたし、今も子供ですけど」

 

「うん」

 

「でもあの仔も子供じゃないですかぁ……ずるいですよぅ」

 

「うん、ごめんな」

 

「ミカンだって分かってるんです。竜と人間じゃあ子供は作れない事くらい」

 

「ん」

 

「だから頑張って人間になる魔法を覚えたけど……狐のお姉さんは竜はおとぎ話くらいでしか聞いた事無いって……」

 

「うん」

 

 相槌を打ちながら頭を撫でてやる。

 

「マスターがミカンの事子供って見てるのは分かるんです……。でも他の韻竜なんてお姉さまくらいしか見たこと無いし身体が大きくなってそこら辺のがちょっかいかけてきたり求愛してきたりしたんですけどなんか嫌で……」

 

「うん」

 

「お姉さまも種族が違うから気にしないで良いって言ってましたけど、そんな事言ったらマスターとも違いますし」

 

「うん」

 

「もうミカンどうしたらいいかわからないですぅ……」

 

「そっか」

 

「……教えてくださいマスター。ミカンどうしたらいいんですか?」

 

 こいつはここまで悩んでいたのか。それもそうだな。こいつから見たら火竜や風竜なんて人間と猿くらい違う認識みたいだし。

 

「……分かった。だけど俺も今すぐ答えは出せない。必ず答えるから時間を貰えるか?」

 

「ほんとぉですかぁ?」

 

 縋るような目で見てくる。

 

「ああ、本当だ」

 

「……」

 

「信じてくれるか?」

 

「……はい。約束ですよ?」

 

 子供子供と思っていたがまさかここまで成長しているとはな。竜だと思って油断していたか。俺って奴は……。昔自分の子供にも似たような事を言われたか。もう三度目の生で心まで若くなったつもりが内面まで退化しなくて良いんだよ、全く。

 

 自己嫌悪に陥っても顔には出さない。ミカンを不安にさせてしまう。少なくとも立ち直るまではこのままで居よう。

 

「ヒラガさーん、ミカンちゃーん? 遅れますよー」

 

 遅くなった俺を訝ってかネカネちゃんが階下から上がって来た。

 

「済まないミカン。学校に連絡入れてからすぐ戻ってくる」

 

「いえ、マスター。わがまま言ってごめんなさい。ミカンはもう大丈夫です」

 

 明らかに無理をしている。今日は休もう。

 

「少しだけ待っていてくれ」

 

「あっ……」

 

 俺はミカンを下ろして頭を撫で、部屋を後にした。

 

「ごめんネカネちゃん」

 

「いえ、ミカンちゃんはどうしたんですか?」

 

 まだ硬さが残るものの、ミカンを心配するネカネちゃん。

 

「焼きもち焼いているみたいだ。結構根が深いみたいだから今日は学校休むよ。放っておいている月詠も様子見ないといけないしね」

 

「ずるいなぁ」

 

 小さな声で聴きとれなかった。

 

「いえ、何でもないです。分かりました」

 

「ああ、なんか色々とごめんね」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 少し無理している感じはする。この娘に深入りするつもりは無いんだけどな。懐かれて悪い気はしないけど。こう、好感度とか稼がないで機嫌治してもらう方法が無いものだろうか。前は嫁同士で淑女協定があったし、私情で国を割るわけにもいかなかったしなぁ。まあそこは追々考えるとして学校に電話、後ミカン、ついでに月詠だな。

 

「じゃあ、私はネギを送っていきます」

 

「玄関まで送るよ」

 

 そうして玄関で待っているネギ君の元へ向かって行った。

 

「お姉ちゃんおそいー」

 

 スモックを着けたネギ君がむくれていた。

 

「ごめんねネギ。行ってきますヒラガさん」

 

「ああ、いってらっしゃい二人とも」

 

「行ってきまーす」

 

 ネカネちゃんは一度こちらに軽くお辞儀し、ネギ君は手をぶんぶん振って居たので軽く手を振り返して見送った。

 

「さて」

 

 玄関に戻り学校への電話番号を押す。

 

「おはようございます。ヒラガです」

 

『おはよう、ヒラガ君。朝からどうしたんだ?』

 

 電話の先は内の担任だ。たまたま取ったらしい。

 

「ちょっと真ん中の子が熱を出しちゃって、今日は休みます」

 

『そうか、まあなんか色々大変そうだが頑張れよ』

 

 一応それとなく学園側から月詠達の事を説明されているものの、ぼかしたものであるため家族の不幸で親戚の子を引き取ったと言った程度の情報しか無いはずだ。

 

「はい、ありがとうございます。それでは失礼致します」

 

『ああ』

 

 そうして電話をかけ終わったので再びミカンの様子を見に行く事に。

 

「きゅぷ~……きゅぴ~……」

 

 ミカンは泣き疲れて寝てしまったらしい。まあ、そうなるか。

 

 さて、まあ今日は一日こいつに付いてやるとして、添い寝する前に月詠の様子でも見に行っておくかな。気力も体力も同年代の子供はおろか普通の大人と比べても軽く凌駕している奴だがゴーレムと化している縄とロックは抜ける事自体が不可能だとは思うが、一応ね。

 

「月詠~起きてるかぁ?」

 

 ドア越しにノックする。ついでに聴覚の強化も忘れない。

 

「ふぐう! うぐぅ!」

 

 元気な様子で返事が返ってきた。

 

「流石に油断した俺も俺だけどお前はやり過ぎた。だから今日は反省してもらうからな」

 

「んぐぅ!」

 

 元気だな。

 

「じゃあ昼頃また様子を見に来るから反省するんだぞー」

 

 俺は返事を待たずにドアを離れると中からドタバタと暴れる音が聞こえてきたが、気にせずミカンと添い寝する事にした。

 

 これで反省してくれると良いんだがな。




 お久しぶりです。諸事情があって執筆から離れておりました。

 そのあたりは諸々を活動報告に記載します。ただし、とてもハードな内容なのでご希望の方だけどうぞ。

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