『もうらめぇ』
「こんなもんか」
俺はミカンを郊外の森で竜の姿へと戻し、血液を採取していた。ミカンは最初こそ平気だったものの、次第に溜まっていく己の血液を見て気分が悪くなったようだ。
「それじゃ、俺はこれを届けてくる。血液補給用にレバーを出しておくから後で気分がよくなったら食べるんだぞ」
『マスターはもうちょっとミカンのことを気に掛けてくれてもいいんですよ・・・・・・?』
「それくらい元気なら平気だな。行って来る」
『そんなーマスタ~』
俺はミカンを置いてエヴァンジェリンの家へと向かった。
コンコンコンコンと4度ドアノッカーを叩き、扉の前で待つ。現在俺が居るのはエヴァンジェリンの自宅であるログハウス前である。
しばらく待っていたらドアからガチャリと言う音。入れと言う事か。
「お邪魔します」
一応挨拶しておく。挨拶は大事だ。
「ようこそ、平賀才人。約束のものは持ってきているな?」
「こちらに」
「ふむ、よかろう」
渡したらエヴァンジェリンは影のゲートにペットボトル2本分の竜の血を収納した。
「掛けて待っているが良い。茶を淹れて来る」
「分かった」
ちなみに今のエヴァンジェリンはアダルトモードだ。部屋着なのか太ももがまぶしい。
「苦手なものは無かったな? 有っても食わせるが」
「無いよ」
アレルギーとは無縁だ。
そして待つこと数分、紅茶とスコーンを持ってエヴァンジェリンは出てきた。
「まずは余計な言葉はいらん。貴様は客なのだから遠慮なくもてなされろ」
「ああ、遠慮なくいただくよ。だが、どうしてそんな薄着なんだ?」
「ふふ、気になるか?」
「目のやりどころには困るな」
「ふふふ」
エヴァンジェリンはご機嫌だ。
「ともかく、いただく」
「ああ、遠慮するな」
それからは飲食に集中し、美味い紅茶とスコーンを堪能した。
紅茶とスコーンで一息つき、俺達はくつろいでいた。
「なあ、エヴァンジェリン」
ふと気になったので話を切り出す。
「なんだ?」
「不躾かもしれないが、君が一度「光」を受け入れようとしておっかなびっくりなのは昔何かあったか?」
「貴様に何が分かる・・・・・・!」
「分からん。君じゃないからな。だが、少なくとも君は「光の側」に対し抵抗感があるようだ」
「・・・・・・そうだな。貴様には話しても良いかも知れん」
「あれは何年前だったか・・・・・・とある一人の男が私を助けた。それだけではなく、食事を提供し、私の正体を知ってもなんら態度を変えることなく接してきた。私はその男が欲しくなったんだ。だから「私のモノになれ」と言った。だが、男は私をこの学園に封印し、卒業の時期になったら呪いを解いてやると行って去っていった。それが9年前だ」
「となるとその男は行方不明か」
「分からん。死んだとも聞いたが、私は信じていない。だが、4年目が経過し、また私は1学年に戻され、高校に進学した級友は私のことを忘れていった。そんなことが2度訪れ、私には「光に生きること」が枷となった」
「惰性で送る日々、一向に解けない呪い。何しろあの馬鹿が力任せに掛けた呪いだからな。複雑に絡まって相当厄介な代物と化している。だが、そこで貴様が現れた」
「そんな貴様は私のことを、悪を受容した。おまけに「自分は2度死んでいるから化け物程度がなんだ」とな。ここのぬるま湯に浸かった連中とは違う、血の匂い、明らかに戦場を知っている匂いだ。それも相当な修羅場を潜った。それが説得力を持たせた。そして貴様は私に「今からでも光の側に生きていても良い」と示した」
「もう一度言う、貴様はここの連中とは違う。貴様となら同じ道を歩んでいけるだろう。「私のモノになれ」」
「話は分かった。だが、俺も負けず嫌いでね。よってこうしよう。君が勝ったら俺は君のものとなる。だが、逆に俺が勝ったら、君は俺のものとなれ」
「ふ、ふふ、
「分かった。一度外で準備をさせてもらう」
「分かった。先に待っているぞ」
そうして一度俺とエヴァンジェリンは別れた。
外に出た俺は自分の影から武具を一式取り出した。装備して身体を軽く温める。
準備が出来たらダイオラマ魔法球、通称「別荘」の魔法陣の上に立つ。
「待ったか?」
「いいや、今一度己を見つめなおすことが出来た」
「それは良かった」
戦闘前に軽口を叩き合う。
「貴様の準備は出来ているな?」
「ああ、でもどうせならこのコインが落ちるのを合図にしようか」
「いいだろう」
俺とエヴァンジェリンの距離は20メートル程、だが、この距離も縮地を極めた俺にとっては一瞬の距離だ。逆に他の魔法生徒や魔法先生が使っている瞬動の方が使いにくそうだと思った。空中に足場も作れるからそれにも問題なく対応出来る。
だが、エヴァンジェリンはダイオラマ魔法球である程度魔力が戻っているとは言え近接戦でも合気道の達人だ。うかつに近寄ると関節を極められ即座に終わる。
俺はコインをトスした。
1秒程でコインが乾いた音を立て地面に落ちる。
「リク・ラク ラ・ラック ライラック 闇の精霊 29柱!魔法の射手 連弾 闇の29矢!!」
「ラナ・デル・ウィンデ、エアハンマー!」
俺はエヴァンジェリンの放った魔法の射手の直撃コースのど真ん中にハルケギニアで魔術にエミュレートしたエアハンマーを撃った。同時にリボルバーを引き抜き、十字を切るように右肩、胸、左肩、頭、下腹部に銀の弾丸を叩き込んだ。
「この程度で止まると思うな!」
エアハンマーの余波と拳銃弾を障壁により防がれる。だが、それも読んでいた。俺はもう片方の手でカルバリンを保持し、障壁に一番ダメージを与えていると思われる胸にもう一度弾を叩き込む。
「がっ!?」
流石に20ミリは効いたのか、吹き飛ぶエヴァンジェリン。だが、直前に飛んでダメージを逃がしていた上に相手は吸血鬼だ。これくらいで死んだりしないだろう。
油断無く袋から竜の牙を一掴み取り出し、周囲に撒く。
すると俺特製の竜牙兵が地面から姿を現した。
「錬金」
全ての竜牙兵に銀の鏃の着いた矢筒、弓を錬金する。全金属で重量も張力も並みの人間では引けない代物だ。
「ユキビタス・デル・ウィンデ」
さらに分身を4体作る。
『カッター・トルネード』
全力も全力だ。分身を含め5人でエミュレートしたスクウェアスペルを惜しみなく放出し、瓦礫ごと粉にする勢いで真空を纏った竜巻を発生させる。
竜巻が晴れると、そこには服をボロボロにしながらも笑みを浮かべるエヴァンジェリンの姿があった。
「射れ」
竜牙兵に命じ、弓を一斉に射る。障壁でいなし、回避するエヴァンジェリン。
「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ、ウィンディ・アイシクル」
「ラグーズ・ウォータル・デル・ウィンデ、アイス・ストーム」
「ウル・カーノ・ジエーラ・ティール・ギョーフ」
「ライトニング・クラウド」
「ワレ カミノタテ ナリ 氷の精霊 17柱 集い来たりて 敵を切り裂け 魔法の射手 連弾 氷の17矢」
それに追撃で分身にも魔法を撃たせながら、俺はこちらに来てから覚えた追尾性の高い魔法の射手を撃ちながらカルバリンの照準を合わせる。氷のつぶてによる集中砲火に視界を閉ざし、体温を低下させる氷の嵐、追加に対象を燃やし尽くす炎の蛇に、誘導性の高い雷、それを当てるための牽制に魔法の射手を撃っている。
流石のエヴァンジェリンも開幕から出し惜しみ無しのトップスピードに攻めあぐねているようだ。本当はもう少し様子を見てから戦いたかったのだろう。いつも俺はそうしているからな。だが、相手が相手だ。手加減していたら負ける。
障壁に穴を空けるために続けてカルバリンを打ち込み、動きを鈍らせる。第二次世界大戦の戦車だったら頭狙われたらこれで落ちてたと思うんだけどな。
魔力回復ポーションを飲み干し、集中砲火が続く中、クリエイトゴーレムを唱える。
もはや全魔力を持っていけ。そんな想いでゴーレムを錬成する。
そうして出来たゴーレムは7メートルほど、背中に発電機と思われる巨大な装置を背負い、畳まれた巨大な砲身を持っていた。名前はハングドマンと言う。
「エヴァンジェリン! 次は戦術核だ! 流石に手加減出来んぞ!」
伯爵時代さまざまな錬金を行っていたこの身に取って、核物質を錬金するなど造作も無いこと。問題は俺自身が被爆に耐えられるかどうかだが、全力でレジストすればなんとかなる。
「いくぞぉ!」
ギューンと発電機が稼動し、砲身がスパークする。その間も絶えず途切れない集中砲火。
「こおるだいち!」
あちらもなんらかの魔法を唱えていたらしい。だが完全ではなく竜牙兵の半分が氷漬けになるに留まった。
「もう遅い!」
21もの風石によって再現された多薬室砲は魔力炉によって励起し、青白い光を放つ。
「錬金!」
俺はとっさにシェルターを作り、発射体勢に備えた。
「発射!」
一瞬音が消えた。直後、轟音。
レジストしながらシェルターの外に出てみると瓦礫しか残っていなかった。
「ぐ、う」
「おお、生きてたか」
エヴァンジェリンは四肢がどこかに行っていたがなんとか生きていた。
「余っていた竜の血だ。飲め」
試験管を差し出すが、飲める気力が無いらしく、口の端からこぼす。
「しょうがないな」
俺は竜の血を含み、口移しでエヴァンジェリンに飲ませる。
「んっ、んっ、んっ」
なんとか飲み込んでくれたか。
さて、転移陣が壊れてないといいんだが、ここで後1日近く過ごすのか。我ながらやりすぎたな。そう思わずにはいられなかった。
「はっ!?」
「起きたか」
俺は抽出で放射性廃棄物を集めて錬金で除染し、大雑把に錬金で城の建て直しを行っていた。
「なんだあの火力は!? 中級程度の魔力しか持っていない貴様が何故核兵器なんぞ作り出せる!?」
「普段は出し惜しみしていると言う事と、俺は周囲の
「そんな奴が出し惜しみで前衛に甘んじているだと? 世も末だな」
「俺達は
「だが、負けは負けか」
「ああ、俺の勝ちだ」
「ならば潔く認めよう。今日からお前は私のマスターだ」
「名前で良い」
「何?」
「マスターだとうちのミカンと被るからな。俺もエヴァと呼ばせてもらう」
「わかったよ。才人」
「さて、大雑把に除染したがまだ心配だ。何度かここに来るぞ」
「お前もお前だ! 自重と言うものを知らんのか! 全く、核弾頭なんぞ使いおって」
「ここの吸血鬼は昼間でも平気で歩くからな。どこまで線引きすればいいのか分からなかったんだ」
「ま、まあ、あの飽和攻撃は見事だった」
「虎の子の竜牙兵まで使ったんだ。しかも即席ではなくきちんとした触媒を使った奴だぞ」
「次は私の従者を出す」
「戦いは決したんだが?」
「模擬戦だ!」
「なんにせよ、これからよろしく。エヴァ」
「あ、ああ・・・・・・・
前作で教えていたハングドマン、もちろん才人君も作れます。あとはヴェンジェンスとか。ちなみに風石などはこちらには無い物質なので貴重品です。