追記
挙がっていた矛盾点について修正しました。
「ついに・・・・・・出来たぞ!」
俺がポーション作り用ガーゴイルの調整と完成品の受け渡し、ついでにトレーニングをしてたら奥からエヴァの興奮を押し殺した声が聴こえてきた。
「才人、才人ー!」
「なんだー?」
「血清が、ついに竜の血清が完成した!」
「やったじゃん」
「苦節9年・・・・・・これで忌まわしいこの呪いから開放される!」
エヴァは腰に手を当て試験管の中身を煽ろうとした。
「あ、エヴァ」
「なんだ、この大事な瞬間に」
心なしか不機嫌だ。
「封印を解くのは構わないけど、そのテンションに任せて外に出ないでくれよ。一応偽装薬作っておいてあるから、封印を解いてしばらくしたらそれ飲んでくれ。対で作ってある解除薬で偽装も解けるから」
「む、そうだったな。ナギの息子が来るまでは我慢だった。私としたことがつい勢いに身を任せてしまうところだったよ」
「ならばよし。急がば回れだ。一応大雑把な位置情報は掴んでいるんだが、こちとら
「考えてみれば確かにそうだ。私の期限は6年前に切れている。ずるずると引き延ばすのが「正義の魔法使い」か・・・・・・くくっ」
その線で高畑先生から説得して学園長を経由したんだけどね。
「他にはエヴァの任意で解ける封印も今研究している。エヴァに別口でかかっている封印に関係するものだが、拘束制御術式「クロムウェル」って奴だ。一応あちらも納得させるために0号の封印を解くには俺の承認を必要とする条件を盛り込んだ」
「0号と言うと何号まであるのだ?」
「4号までだな。0が100%だとすると4号が20%だ。それでも並の魔法使いには十分なんだが」
「それでも80%までは解けるのか。直前に聞けて良かったよ。飲んだ後だと印象が変わっていただろう」
「念のため、学園の精霊を騙す魔法陣を書くぞ。その上で飲んでくれ」
「分かった」
俺はカカッと魔法陣を書き上げ、エヴァに偽装薬を持たせた。
「では、いくぞ」
「ああ」
竜の血清を一息で煽るエヴァ。これで外に出ても開放されているだろう。
「ふ、ふははははは! これだ! 素晴らしい!」
「エヴァ、エヴァ! 魔法陣がもたん! 偽装薬を飲むんだ!」
「む、そうだな。ナギの情報を得るまでは我慢しなければ」
続けて偽装薬を飲むエヴァ。
「ふう、後は学園結界を使った封印を解くだけだな」
9年間押さえつけられてたからな。暴走しなくて良かった。
「ひとまず礼を言うぞ才人。後は魔力を戻すだけなのだが、交渉材料はあるか?」
「ああ、さっき学園長と高畑先生は説得済みだと言っただろう? 正義だろうが悪だろうが契約は契約だ。守らない奴は外道だからそこを突けばいい」
「それもそうか」
それじゃ、いつあいつらの説得に行こうかな。
「才人、煩わしいのは好きではない。今夜奴等と
「了解。学園長に報告しておくよ」
警備の前の方が楽になるかな。そう思ってまずは仮眠を取ることにした。
そして現在は夜、世界樹広場前。
「学園長」
「ああ、わかっとるわい。やれやれ、気が重いのう」
「仕方が無いでしょう。本来は6年前にすでに履行済みの契約です」
「それもそうなんじゃがな。では発表しよう」
「学園長、発表とは?」
「
『!!』
一同に衝撃走る。
「実はナギの奴は6年前に呪いを解く予定だったのだがの。この業界では有名だと思うがナギ・スプリングフィールドは死亡しておる。そこをうやむやにしてエヴァンジェリンをシフトに組み込んでいたわけじゃ」
「で、ですがそれも仕方が無いことかと!」
「ナギの呪いを解けなかった。否。解く努力を儂らは怠った。そこを新参故に平賀君が見咎めていたわけじゃ。「義務と権利」じゃよ。儂らはエヴァンジェリンを保護し、光の道へと歩ませる「義務」と共に、共に戦わせる「権利」を得ていた。だが、6年前にそれは履行を終え、ただ、
「皆さん、裏では伝説となっているエヴァンジェリンですが、あの子は一度とて自ら攻めた事はありません。迎撃のみです。むしろ吸血鬼にされた女の子を寄ってたかって「悪」と断じ滅するのが「正義」ですか? それでは暗黒時代の十字軍と変わりません。正義の名の下に略奪や虐殺を散々行い、聖地の奪還を行おうとした十字教の黒歴史と」
俺が周囲の良心を刺激するよう言霊を飛ばしながら説得していた。無意識の魔力開放なんぞ普通にやっているこの麻帆良、大丈夫大丈夫。後シスターシャークティが苦い顔をしているがこの時代、調べれば割と簡単に黒歴史なんぞ出てくる。
「だ、だが
「これだけ言っても分かりませんか?」
こっちが礼儀正しい大人の対応してたらつけ上がりやがって。マジでかなぐりすてンぞ?
「私はエヴァと勝負し、主従の契約を結んでいます。エヴァ本人に任せると喧嘩腰になるのでここに居ますが、善意で実力行使ではなく
「うっ・・・・・・!」
「私は構いませんよ? それでも。嫌なら止めてもいいんですよ?」
挑発的に煽る。あっちから手を出してきたら正当防衛だ。
「あまりいじめないでくれるかな」
「おや、高畑先生」
これまで沈黙していた高畑先生が出てきた。
「周囲のみんなはエヴァに怯えているだけなんだ。小さい頃から伝わっている悪評にね」
「聞いていますよ。貴方はエヴァの友人でしょう? 友人のためになんとかしようと思わなかったんですか?」
「僕では力不足でね」
肩をすくめて答えられる。魔法詠唱が出来ないのは知っているけど、スパゲッティコードの解析くらい図書館島に潜んでいる奴にでも出来るだろうに。
「まあいいです。そう言う事にしておきます。それで良いと思うか? エヴァ」
「ああ、構わん。どうせ力無き者共の戯言だ。捨て置け」
俺の影からエヴァが姿を現す。
『!!』
「エヴァはとある方法である程度の魔力を取り戻しています。その戦闘経験から、普通の魔法先生レベルの魔力量でも十分に戦いづらい相手でしょう」
「なんと言う事を・・・・・・」
魔法使いの一人が呻く。
「さて、どうしますか? 学園結界の封印、これを解いてもらうのも契約の内です」
とどめと行こうか。
『ミカン、来られるか?』
『いつでも行けます。マスター』
世界樹広場にバッサバッサとミカンが降りてくる。
「クルルルァァァァアアア!」
咆哮。幼生とは言え、規格外の速度で育っているミカンの迫力は満点だ。
『マスターと敵対しますか? ならばこのミカンが殲滅してみせましょう』
「さて、どうします?」
「平賀君! 君に正義は無いのかね!?」
「正義の対義語もまた正義です」
「双方静まれい!」
「学園長・・・・・・」
「平賀君の言うとおり、契約は既に済んでおる。これ以上引き伸ばすのはこちらの義に反するのじゃ。ならば迷う必要はあるまい」
「ですが!」
「くどい!」
学園長の一喝。
「若いのが失礼した。改めて平賀君、エヴァンジェリン、力を貸してくれまいか?」
「そちらがどうしてもと言うなら考えてやっても良い」
「エヴァ、茶化すな。了承しました。受けましょう」
「皆のもの! この世に絶対の悪と言うものは無い。今日はそのことも考えて行動してくれい」
この場での空気は決した。後は流れを作っていくだけだ。
こちらを敵対的な視線で睨むものも多い中、俺達はそれをむしろ心地よさげに受け流すのであった。
とうとう解けたエヴァンジェリンの封印。さて、今後どうなることやら。