没SS集   作:ウルトラ長男

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没作品第一弾。
話数・全3話(エター)


ヴォルデモートと賢者の石 ①

 その日は嵐であった。

 風は吹き荒れ、雨は弾丸のように降り注ぐ。

 そんな日に海の近くを、ましてや崖の上にちょこんと乗ったこの上なくみずぼらしい小屋を訪れる物好きなど普通はいない。

 しかし普通はいないという事は、普通でなければ居るという事だ。

 そして今、小屋の前を訪れているその男は明らかに普通とは言い難い。

 身長は優に2mを越え、もじゃもじゃとした髭はまるで針金のように硬質だ。

 毛むくじゃらの中をよく見れば、黄金虫のような真っ黒な瞳がキラキラ輝いているのが見えるだろう。

 名をルビウス・ハグリッド。魔法界からやってきた魔法使いである。

 

 彼はその日、不慣れなマグルの世界を訪れていた。

 普段ならばマグルの世界など積極的に訪れようとは思わない。

 しかし今日の彼は自ら望んで魔法界を出発し、そして子供のように胸を弾ませていた。

 今、自分はこの上なく栄誉な役割を果たそうとしている。

 きっと今から自分がやろうとしている事を知れば、魔法界の誰もがその羨み、そして大金を積んででも代わりたがるだろう。その確信があった。

 

「おお、ここにいるんだな小さなハリー。

お前がまだ赤ん坊の時、一度だけ会っただけだがちゃんと元気にしちょるだろうか。

いや、元気なはずだ……何たってジェームズとリリーの子で、それにあいつはハリー・ポッターだ」

 

 ハグリッドの役目は一人の少年を出迎える事だった。

 勿論ただの少年ではない。

 魔法界にとってこの上なく重要で、誰もが知っている小さな英雄だ。

 ハリー・ポッターの名を知らぬ魔法使いなど一人だっていない。

 遡る事10年前、『例のあの人』の恐怖に包まれていた魔法界を救ったのは、事もあろうに当時1歳の赤子であった。

 人々は心から歓喜し、死喰い人(例のあの人の部下だ。誰もが彼等を恐れていた)に怯える事なく外を歩ける事に感謝した。

 今の魔法界の平和があるのも全てハリー・ポッターのおかげなのだ。

 そして今、ハリーは11歳。ホグワーツ魔法魔術学校へ入学出来る年齢になった。

 だからこうしてハグリッドが彼を迎えに来たのである。

 

「ああ、いかんいかん。なんだか緊張してきちまった」

 

 ハグリッドはそのでかい図体に似合わぬ繊細さで、何度か深呼吸を繰り返す。

 ハリーはどんな少年に成長しているだろうか。

 少なくともこんな小屋に連れ込まれている辺り、ハリーを預けたダーズリー一家は彼をまともに扱っているとは考え難い。

 何せダンブルドアが出した手紙すら無視するような連中だ。

 

「安心しろよハリー、もう大丈夫だ。今俺が行くからな」

 

 そう呟き、ハグリッドはドアノブに手をかける。

 しかし鍵がかかっているらしく、開ける事は出来ない。

 ならば、とドアをノックするも返事すらなし。

 中に居ないわけではない。事実ハグリッドのノックの音で慌てふためく気配が伝わってくる。

 中でバタバタと走る足音だって聞こえる。

 ハグリッドは再びドアをノックし、中の反応を待った。

 

「誰だそこにいるのは! 言っておくがこちらには銃があるぞ!」

 

 銃……確かマグルが使う棒きれのような武器だったか。

 そんなのはどうでもいいが、どうも不審者か何かと勘違いされているらしい。

 仕方の無い事だ、と思いハグリッドはとうとう強行手段に出る事を決めた。

 すなわち……ドアを、無理矢理吹き飛ばしたのである。

 そうして障害物を無くしたハグリッドはゆっくりと小屋の中へと足を踏み入れ、中の人間を見渡す。

 

 まるで豚のように太ったダーズリーに、鶴のように首が長い彼の妻ペチュニア。

 後ろに隠れている、父よりも尚太っているのは息子のダドリーに違いないだろう。

 しかしハグリッドは彼等からすぐに視線を逸らした。元より眼中にない。

 そんな事よりハリーだ。ハリーはどこだ。

 そう思い、ハグリッドは小屋を見渡し…………その場で石のように固まった。

 

 

「何だ貴様! 俺様を見て黙るとは無礼な男め! お辞儀をするのだ!」

 

 

 ――その少年は、顔がヴォルデモートであった。

 

 

 

 分霊箱という闇の魔法をご存知だろうか。

 詳しい説明は省くが、簡単に言えば己の魂を分割して何かしらの物体、あるいは生物に保管する事で不死身となる禁忌の術だ。

 闇の帝王と恐れられた男、ヴォルデモートはかつてこの術を用いて己を不死へと変え、恐怖を不動のものと変えた事がある。

 だが決してデメリットがないわけではない。

 不死身になるという事は人の道を外れるという事だ。

 魂を分割すればするほどに彼の姿は怪物染みた醜いものへと変貌していき、最後には青白い皮膚と鼻孔だけの鼻という、蛇のような顔へと成ってしまった。

 

 そんな彼が最後に意図せず作ってしまった分霊箱がある。

 10年前、帝王は一人の赤ん坊に対して死の呪文を発動し、跳ね返された事で肉体を失ってしまった。

 そして赤ん坊に魂の一部を与え、彼を分霊箱にしてしまったのだ。

 だが――両者にとって不幸な事に、少しばかりその魂の量が多すぎた。

 与えられた帝王の魂は未熟な赤ん坊の魂を塗りつぶし侵食し、ほとんど乗っ取ったも同然に融合してしまったのだ。

 ここで幸いだったのは帝王の記憶まで継承されなかった事だろう。

 あくまで主人格は赤ん坊のままに、されどその侵食は深刻であった。

 赤ん坊の頃はまだ普通だった容姿も成長するにつれて帝王へと近付き、子供離れを通り越して人間離れし、気付けば顔が帝王の選ばれし少年が誕生してしまっていたのである。

 

 

 

「アイエエエエエ!? 例のあの人!? 例のあの人何で!?」

「ドーモ、ハグリッド=サン。ハリー・ポッターです」

 

 お辞儀終了から0、02秒、ハリー・ポッターは跳んだ。

 後悔は死んでからすればよい。今は目の前の敵を倒さねばならない!

 一方ハグリッドは半狂乱であった。

 それはそうだろう。何せ英雄を迎えにいったら、そこに闇の帝王がいたのだから恐れるなという方が無理な相談だ。

 しかも何か襲いかかってくる。意味がわからない。

 

「ひいいい! お助け、お助けを、ダンブルドア先生!」

「ええい貴様、逃げるとは臆病な! 決闘前のお辞儀を忘れたか!」

 

 ハグリッドは逃げた。カール・ルイスよりも速く逃げた。

 ハリーは駆けた。烈海王よりも速く駆けた。

 強者と出会ったからにはお辞儀せねばならない。

 お辞儀したからには決闘せねばならない。

 そんな意味不明な、本人も実はよく分かって居ない理論に従いハリーはハグリッドを追った。

 ハグリッドは涙と鼻水を流しながら傘を出し、小船に飛び乗って魔法を使った。

 すると小船は風に乗り、素晴らしい速度で海を駆けた。

 ハリーは特に何も考えず海を走った。

 右の足が沈むより速く左の足を! 左の足が沈むよりも速く右の足を!

 問題ないッ! 20キロまでならッッ!!

 するとハグリッドはますます半狂乱になり、泣きながら海を渡った。

 ハリーはそれに追いつくべくますます速度を上げて叫びながら海を渡った。

 

 こうして魔法界の英雄ハリー・ポッターはよく分からないままに、マグルの世界を旅立ったのである。

 

 

 

「……あーあ、だからわざわざこんな小屋に隠れてたのに……可哀想な男だ」

「ねえ貴方、あのでかい男の人大丈夫かしら?」

「……さあ?」

 

 そうして海の彼方へ消えたハグリッドを、ダーズリー一家は同情の眼差しで見送った。

 

 

*

 

 

「俺様こそは偉大なる闇の帝王ハリー・ポッター!

漏れ鍋の魔法使いども、俺様の帰還を歓迎せよ!」

 

 その日、魔法使いのパブ『漏れ鍋』はかつてない大混乱に飲み込まれた。

 そうはそうだ。昼時のティータイムを楽しんでいたらいきなり闇の帝王が入ってきたのだから怯えるなというのが無理な相談である。

 あっという間に漏れ鍋は阿鼻叫喚の坩堝となり、人々は我先にと逃げ出した。

 ハリーを見るべくそこでスタンバってたクィレル先生は思わず茶を吹き出して慌ててハリーの前に膝をつく。

 

「ご、ご主人様! い、いつ元の身体へ戻られたので!?」

「む? 何だ貴様、俺様がご主人様だと!?」

 

 ハリーは不可思議なものを見るように足元のクィレルを見る。

 ぶっちゃけ見知らぬ男だ。

 しかし自ら跪き、ご主人様と呼ばれたのは悪い気がしない。

 後はこれが美少女だったなら最高だったのだが、まあ贅沢は言えないだろう。

 

「いい心がけだ! 特別にお前を俺様の部下にしてやろう!」

「え? いや、もうとっくに部下なんですが……」

「なにィ!?」

「ひ、ひい! 申し訳ありません、光栄でございますうう!」

 

 この時、クィレルは混乱し切っていたが、彼以上に混乱している男がこの場には存在していた。

 それはクィレルの後頭部に寄生しているヴォルデモート(本物)である。

 あれ? 何で俺様があそこにいるの?

 俺様ここにいるのに、何であそこに俺様が立ってるの?

 まるで意味がわからんぞ!

 

 そんな大混乱の二人を置き、ハリーはその後も魔法界を大混乱に陥れた。

 グリンゴッツに乗り込んではゴブリン達を恐怖に戦慄かせ、洋服店に行けばマダム・マルキンが泡を吹いて卒倒し、金髪の少年がフォイフォイ泣きながら逃げた。

 オリバンダーの店に行けばオリバンダーが逃げてしまったので、仕方なく自分で杖を選ぶしかなかった。

 とりあえずレイジングハートとかいう白くて固くて強そうな杖があったのでそれにし、ハリーは次の店へ向かった。

 尚、ハリーが手にして以降レイジングハートはひたすら「Fuck」、「Fuck」繰り返しており、どうやらあまりハリーは御気に召さなかったようだ。

 まあ、可愛い魔法少女と蛇顔の男なら誰だって前者がいい。至極当たり前の事である。

 

「準備を終えたぞハグリッド。さあ次に俺様は何をすればいい?」

「あ、あの、もう何もせず大人しくしてて下せえ……皆大混乱です」

 

 ハリーが近付くとハグリッドはひっ、と小さな悲鳴をあげるが、これでも大分慣れてきたのだろう。

 少なくとも最初のように泣きながら逃げる事はなくなったのだから大した物だ。

 しかしやはりハリーと一緒に歩くのは耐えられないのか、結局全ての買い物をハリーが行う事になってしまった。

 一番いいのはハグリッドが買い物をしてハリーが大人しくする事だったのだが、本人が好奇心旺盛であった為それは叶わなかった。

 とにかく、魔法界に余計な混乱を齎してしまった気がしないでもないが、これで買い物は終了だ。

 ならば後はこれ以上騒ぎを起こす前に速やかに帰るべきだろう。

 そう考えたハグリッドの考えは、しかし、遅すぎた。

 

「貴様等動くな! 私は闇払いのキングスリーだ、ヴォルデモート、貴様を逮捕する!」

 

 

 

 その声と同時に一斉に転移し、自分達を囲む闇払いを見てハグリッドは頭を抱える。

 そうか……そりゃこうなるよな。

 あまりにも当たり前すぎる出来事に、ただハグリッドは項垂れるしかなかった。

 

 

 




 _人人 人人 人人 人人_
 > お辞儀をするのだ!<
  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^^Y ̄


没理由:流石にこんな一発ネタでハリポタみたいな長いSSを書くのは無理があった。
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