小鳥が歌い、獣たちが動き出す爽やかな朝。美味しそうに草を食む、ケルビの
「……ぐるるるる……」
野生の性なのか自然と鳴ってしまう喉を不思議に思うが、まずはご飯だ。
どうやら木の上にいる私にはまだ気づいていないようで、のんびりと仲睦まじく過ごしているケルビたち。彼らの命をもらうのは未だに罪悪感を感じるが、私は約20年もの間「生き物を殺すのは罪」と教わって生きてきたのだ。もうこの考えは私の一部と化していてどうしようもないが、食べなければ私が死んでしまうから。だから。
生きるために、私は彼らを殺そう。
私は雌のケルビに狙いを定め、飛び出した。
「!? アナタ逃げ、イヤアアアアッ!!」
「な……っうわあああああ!!」
いつも手入れを欠かさない刃翼で雌の体を引き裂く。雄はケルビステップで逃げようとしていた。ゲームの時はなかなか素早いと思ったものだったが、今ではもう遅すぎるくらいで。
雌が力無く横たわっているのを確認し、もう一度足に力を込めて跳ぶ。うまい具合に雄の目の前に着地した私は、一切の容赦をせず自慢の尻尾を叩きつけた。ダァン!と大きな音をたてて尻尾は雄に直撃。尾棘に突き刺さった雄を軽く尻尾を振ることで地面に落とし、少し背伸びしてキョロキョロと周囲に危険がないか確認する。
「……ふぅ、大丈夫だよね。 おーい、メラルーくーん、終わったよー」
「おおう、見事なモンだニャア……あんた、ほんとにまだ子供なのかニャ? ボクすっごくギモンなのニャー」
「まあ、私って物陰に隠れるの得意じゃないからねぇ……自然と速く動けるようになってたんだ」
「ふぅん……あの速さはそれだけじゃない気がしなくもないんだけどニャア?」
まだぶつぶつとぼやいているメラルーくんを無視して私はケルビの雄を食べ始めた。もちろん「ありがとう、いただきます」と呟いてから。
「うーん、肉以外にも食べてたからかニャア……? うぅん……って、あああああもう食べてるのニャー!? ボクのぶんも残してニャ!」
「あーうん、ちゃんと残してるってばー。 というか、メラルー村へのお土産にするんでしょ? せっかく柔らかい雌のほう残してるんだから手ぇ出さないでよ?」
「ううー……分かってるのニャ。 センパイたちにご心配おかけしましたって言わなきゃニャア……家族みたいなヒトたちだから、きっと心配してくれてるのニャ……」
……うむ、今日もケルビがうまい。本当は最初から美味しかったけど、昨日までの私はそれを認めたくなかった。血と肉の味が美味しく感じることを認めてしまったら、本当にただの獣になってしまう気がしていたから。
ただ殺すのではなく、生きるために命をいただく。そういう考え方の違いだけでこんなにも気持ちが軽くなるのだから、なかなか私も単純なものだ。
「……天気いいなぁ……あ、あの雲、魚に似てる…………ん、食べ終わった?」
「超ウマーだったニャー! ……よし、骨とか使える部分も持ったし、背中にケルビ乗っけるからちょっとしゃがむのニャ!」
「はいはい……うぇ、紐かこれ? ちょっときつい」
「ボクたちはヘビツタって呼んでる草ニャ。 きつくても落とさないためなんだからガマンガマン! さぁ、出発シンコーなのニャー!」
「うぇーい、ってメラルーくんも乗ってくのかよ! きみ元気なんだから歩け!」
「なーにを言ってるニャー……ボクとあんたとじゃ歩く速さが違いすぎるのニャ。 ほれ、ちゃっちゃと歩くニャ!」
「……何か腑に落ちない……」
頭にメラルーを乗せてのしのし歩く私の姿は、さぞかしシュールだったんじゃないだろうか……ああ、私の尻尾よ棘を出しちゃ駄目だよ……。
*****
「ただいま戻りましたニャー!! メルル、生きてましたのニャー!!」
「……めっメルル!? オマエ、生きてたのってニギャアアアアアア!!!」
「チビッコ帰ってきたのかってニャゴオオオオオオオ!!!? ナルガクルガニャアアアアアア!!!?」
……こうなるんじゃないかと思ったよ……。
もう太陽も真上に昇りきった頃、私たちはメラルー村に到着した。ゲームでは私が入れそうな入り口などはなかった気がして不安だったのだが、ガーグァ荷車などを出し入れする入り口が密かに作られており、私たちはそこからお邪魔させてもらったのだった。
「……というか、きみって名前あったんだ?」
「メスみたいな名前だからあんまり教えたくなかったのニャ……みんなー!! このナルガクルガはダイジョブなのニャー!!」
メラルーくん改めメルルくんの一声によって、上から下への大騒ぎは一先ずの終わりを迎えた。とはいえ、物陰からこそこそと疑わしげに観察する視線やひそひそと相談しあう囁き声が聞こえてくる。正直いってナルガクルガの良すぎるくらいの耳はその囁き声を鋭敏に聞き取っているため、何だか気まずい。
「……メルルっ! 無事でよかったのニャッ!! 心配したぞバカヤローッ!!」
何ともいえない雰囲気の中、1匹の赤いバンダナを首に巻いたメラルーが飛び出してきた。
「あっ、センパーイ!! うわああああん、はぐれちゃってゴメンナサイなのニャアアアアッ!!」
「バカ! ほんとにバカなのニャー!! でも、良かった、生きてた、おまえ無事だったんだニャ……」
メルルくんとセンパイメラルーはがっちりと抱き合い、2匹ともわんわんと泣き出している。それにつられて他のメラルーたちもほろほろと涙を流していた。
メルルくんは朝、「家族みたいなヒトたち」と言っていたけど……。
「……ほーんと、兄弟みたい。 家族っていいなぁ……」
白髪が増え始めてきていたお父さんと、シワが増えたと嘆いていたお母さんに、彼女ができたと笑っていた弟。
何だか、無性に家族に会いたくなった。
やっとメラルー村に到着しました。
何だかホームシックな主人公……前世の家族には会わせてあげられないんです、ごめんね。
それにしても、早く大型モンスターと戦わせたいですが……もうちょっと時間がかかります。