リア充が羨ましいAcuです……。
ちょっと希望が持てたと思ったら、すぐに叩き潰すことに定評のある私です(笑)
「メルル、無事だったのだにゃ……これ、おまえたち、そろそろ落ち着きにゃさい。 お客が困っとるじゃろ」
「あっ、長老サマ! ただいま帰りましたニャ!」
自分の家族を思い出してしんみりしていたところに、また別の声がかかる。どうやらこのメラルーたちの長老であるらしく、少ししわがれたその声は妙に耳に馴染むものだった。
「ほっほっほっ、元気そうでにゃによりにゃ。 ……さて、お待たせいたしましたにゃ、迅竜殿」
「…………あ、はい……あっいや、大丈夫です、全然待ってません」
何とも穏やかにゃ竜ですにゃあ、と笑う長老はガーグァの頭を模した杖をつきながら私に近づく。そして恐ろしいだろう私の顔をぺたぺたと触っては時折感心したように「ほぅ」とため息をこぼすものだから、だんだん気恥ずかしくなってくる。
「……ふむ、空色の迅竜とは……わしも初めて見ましたにゃ。 その鋭い目つき、これからもっと強くにゃられるのでしょうにゃあ」
「長老サマ、空色のナルガクルガってそんなに珍しいんですかニャ?」
「おお、メルルは砂原出身じゃから本物は初めてじゃったにゃあ……そうじゃの、原種は黒で亜種は緑色じゃ」
「へぇ~、あんたってそんなに珍しいヤツだったんだニャア? ……中身は変だけど」
「聞こえてるよ、失敬な。 ……まあ、私はたぶん突然変異だと思うし、私以外には空色のナルガクルガなんていないんじゃないかなぁ」
突然変異という言葉の意味が分からなかったのだろうか。長老とメルルくんたちだけでなく、それまで黙って聞いていたセンパイさんや遠巻きに見ていたメラルーたちまで揃って首を傾げている。か、かわいい……。
私が内心で悶えていると、そこに恐る恐る近寄ってくる1匹のメラルー。首に黄色のバンダナを巻いているその子は、かなりビクビクしながら私の目の前で足を止めた。
「あ、あのぅ……迅竜さま」
「あれ、コウハイ? どうしたのニャ」
「お帰りなのニャ、メルル……いや、さっき迅竜さまが言ってたことなんだけどニャ……」
どうしたんだろう、もしかして突然変異について訊きにきたんだろうか。
「えーと、コウハイさん? 何か訊きたいことでもあるんですか?」
「ひぃっ! ……あああああのっ、ぼくっ……あなた以外に
「………………え」
……私は、空色であるが故に捨てられた。その空色が、私の
そのナルガクルガも捨てられたんだろうか、私みたいに孤独に育ったんだろうか。それとも、親に受け入れられて育てられたんだろうか。いずれにしても、そのナルガクルガに会ってみたい。
「えーと……トツゼンヘンイが他にもいるってことニャ? というか、どこで見たのニャ?」
「トツゼンヘンイっていうのはよく分からないんですけど……霊峰と渓流の間の、ギリギリ渓流って言える辺りで見たんですニャ」
「ふむ、しばらく前に黒い迅竜が住み着いた辺りじゃにゃ……迅竜殿、にゃにか心当たりはありませんかの?」
「…………」
原種のナルガクルガ。黒いナルガクルガ。
喜んだのも束の間だった。心臓が、嫌な音をたてて鼓動を刻んでいる。思い出されるのは2ヶ月ほど前のこと……何が何だか分からないうちに捨てられ、そして泥水を啜ってまで生き延びた怒涛の2ヶ月間。元人間としての知恵とゲーム知識がなければ死んでいただろう2ヶ月間。
その、ほとんどの元凶。
「……たぶん、私の母親じゃないかと」
「ニャニャッ!? それってあんたを捨てたっていう……?」
「にゃんじゃと!? 我が子を捨てるにゃんて信じられん……しかし、確かにそれにゃら辻褄は合いますにゃ。 おそらくじゃが、その迅竜がまた空色の子を産んだのかもしれませんにゃ」
そんな……あの母親のことだ、とっくにその子を捨ててしまったに決まっている。私のように何かしらの知識がなければ、もう死んでいるかもしれない。
地面が揺れた気がした。いや、正確には私がふらついたのだろう。メルルくんや長老たちが酷く驚いた顔をしている。
「だ、ダイジョブニャ!? まあ、あんたの親がまた捨ててるかもだし無理もないニャ……コウハイ、その竜はどんな様子だったか覚えてるのニャ?」
「ニャッ!? えっええと……なんか、周りにいたちっちゃい迅竜さま2匹にいじめられてたんですニャ。 あの時は親迅竜さまはいなかったみたいでしたけど……傷だらけでかわいそうでしたのニャ……」
見捨ててしまったんですニャ……と俯いているコウハイさんを尻目に、私はホッと息を吐いた。良かった、まだ生きているかもしれない。今からでも間に合うだろうか、生きているなら助けたい。私の、
私はコウハイさんにお礼を言い、長老に件の場所への行き方を尋ねた。少しコウハイさんに対して適当になってしまったかもしれないけど、それは許してほしい。
「ううむ……教えるのはいいのですがにゃあ……」
「……? 何かあるんですか?」
「うむ、迅竜殿……あにゃたさまは空色で、それほど小さいわけでもにゃい……おそらく隠密に行動するのは無理でしょうにゃ。 それにいくら御母堂とはいえ、縄張りに侵入したのを許すとは思えませにゃんだ……下手したら死ぬやもしれませんにゃ」
「っでも……!」
「分かっとりますにゃ、心配にゃ気持ちは……。 迅竜殿、あにゃたさまは飛べますかにゃ? 戦わずにすぐ逃げられるにゃら大丈夫だと思いますにゃ」
……飛べない。私はまだ飛ぶ練習すらしておらず、私より格上の竜に出会ったら確実に死んでしまうだろう。長老の懸念ももっともだった。
「…………飛べないのニャ?」
「メルルくん……うん、飛べないんだ……」
「呼び捨てでいいニャ。 あんた、よくそれで助けようなんて思ったのニャア……」
「ううっ……メルル、どうしよう」
「はあ? どうもこうもないニャ! 今日は遅いから帰って寝るにしても、明日から飛ぶ練習するに決まってるのニャ!!」
「…………はい、そーですね……」
メルルの正論に返す言葉もなく、挨拶もそこそこに私はメラルー村を後にした。外に出てみればメルルの言っていた通り薄暗く、ゆっくりと沈む太陽と共に私の気持ちも暗い水底に沈んでいくようで。
巣に帰ってからも泣きたいような、怒りだしたいようなはっきりとしない気持ちのまま、結局一睡もできずに夜は更けていったのだった。
あの母親との再会はまだです。
まずは飛べるようにならないと、すぐにバッドエンドが待っているので主人公には頑張ってもらいます。