紘子さんへの手紙   作:榎木 昇

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 このように考えると、♂♀間の行動はどんなに突飛に見えても何らかの意味があり、同等または同質の行動が生物界の中に見られることがわかる。すなわち、どんな戦略もDNAのどこかにプログラムされていて、それに従って行動しているに過ぎないと思われるのだ。だから、いくら本人達が自分の考えで行動しているつもりでも、直接的に交尾または繁殖を目的にして行動している以上、DNAの影響からは逃れられない。

 

 

 それでもSさんは極上の女である。しかし困ったことに、最近Sさんといると楽しいのだ。楽しいというのは極めて主観的な感覚であり、客観的に見るべきSさんに対し「極上の女である」、以外のとらえ方をしていることに他ならない。

 いや、楽しいだけであれば、極上の女の行動解析が進み、自己の知識欲が満たされつつあることに対する悦びである、と解釈することも可能かも知れない。

 

 しかしさらに困ったことに、最近のSさんは殊更に可愛い。これまた可愛い等という主観的な感覚は極上の女の評価基準には含まれていないから、可愛いと感じているのは実に厄介なことでもあるのだ。

 

 ということは、良い歳をして若い女に現を抜かしているのだろうか。

 

 Sさんが極上なのは、間違いなく興味深い行動を取ってくれるからで、それは♀による♂獲得行動の謎を解く鍵になる、つまりDNAの束縛内であっても通常思いつかないような、興味深い行動を見せてくれることによる。

 

 そのSさんに♂獲得の補助ならともかく、(要求と異なるとはいえ)代替の♂を与えるようなことをしてしまったらまずいことになる。

 

 早い話が、Sさんにはずっと、♂を獲得しようと行動を続ける状態でいて欲しい。簡単に言い換えれば(身も蓋もない言い方だが)欲求不満でいて欲しいことになるのかもしれない。

 

 彼女が欲求不満を解消しようとしてとる行動が、単純な一般的行動原理では予測が付かず、しかし何らかの指針に基づく理性的行動である限り、その行動指針と結果的に選んだ行動が非常に興味深いものになる。

 

 その枠からはみ出す行動の手助けは、したくない。

 

 彼女はM氏を始め、周囲の反応に対しかなり気を使う。しかし幸いなことに私は彼女の行動に対して干渉することができる、いわば共犯者の立場である。だから私からどう見えようが彼女は殆ど気にしないはずなのだが、私が共犯者ではなく主犯や教唆犯になってしまったら、彼女の行動は彼女自身の思考に基づくものではなくなってしまうのだ。

 

 自己申告に因れば、Sさんは1年前はかなりウブ、というか純情だったらしい。1年前に会ってその考え方の変化や行動の変化を追跡できていたら面白かったとも思ったが、考えてみれば純情なSさんなどただのどこにでもいる少女であり、極上の女ではない。おそらく1年前に会っていても何の興味も持たずにぼーっと眺めていたに違いない。

 

 ま、人生なんてそんなモノである。

 

 

 

 交尾や繁殖関係の行動がプログラムされた行動であると書きましたが、人間は先を予測して行動することができます。

 小惑星探査機MUSES-C(はやぶさ)は数々のトラブルを一見あり得ない対処方法で切り抜けていましたが、最も有名なものは「奇跡のダイオード」でしょう。

 

 エンジンの不正規運用に備えて、通常運用であれば無駄なダイオード(電流の向きを決める部品)を回路に1つつなげていたことによって、奇跡的に地球への帰還が実現したと言っても言い過ぎではないからです。

 

 そこで、紘子さんにはこの言葉を贈ります。

「予想される未来に正しく備えたものにのみ、奇跡は訪れる」

 

 Good Luck.

 

 2番目で良いので捨てないで下さいね。

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