同種♂に対するものではありませんが、♀の配偶戦略で一つ重要なものがありました。
托卵です。
托卵というのは、鳥のカッコウのものが有名で、他の鳥の巣に卵を産むと言うものです。托卵先は同種だったり別種だったりしますが、カッコウの♀は営巣・産卵したばかりのモズやオオヨシキリといった別種の巣が留守になる時を狙って巣の中の卵を1つ減らし、隙を見て素早く巣内の卵に似た色の卵を産み付け、そのまま飛び去ってしまいます。
卵から孵化したカッコウの雛は、巣内の卵を背中に乗せて押し出し、落としてしまいます(もちろん、落とされた卵は孵りません)。カッコウの雛はその巣の両親(仮親)が運んでくる餌を独占して成長し、巣立っていきます。
鳥に限らず子育てには多くのコストがかかりますが、カッコウの♀は子育てにかかるコストを払うことなく、托卵によってすべてのコストを産卵に振り分けることができます。
重要なのは、カッコウの雛は本当の親を知りませんから、♀の托卵習性自体は親に教えられたものではなく、本能的に備わっているものと言うことです。また、鳥は一般的に育ての親と同種に求婚する習性がありますが、カッコウにはこれがありません。あったら大混乱でしょう。
こうしてみると托卵はメリットだけのようですが、托卵によってカッコウは既に育児能力を失っており、自分で雛を育てることはできません(托卵習性が未完成と思われる種では、自分でも育児が可能な種類がある)。そのため、もし托卵先の鳥に卵を見破られてしまったら、子孫を残すことはできなくなります。実際に、記録に依れば100年ほど前まではホオジロの巣に良く托卵していたようですが、ホオジロの識別能力が高くなったらしく今では殆どホオジロに托卵していませんし、托卵されてもホオジロの親はカッコウの卵を選んで捨てることができるようです。
そもそも、見破れない鳥は子孫を残せず消えてしまうので、一定の種への連続的な托卵はいずれ破綻する戦略なのでしょう。
要するに見破られたら托卵先を変えるしかないわけです。カッコウはここ30年ほど、新たにオナガの巣に托卵を始めたという報告があります。
さて、ネットスラングで托卵と呼ばれる行動があります。
妊娠した女性が、本来の父親とは異なる男と生活し、子どもを育てさせることを言います(厳密に言えば託しているのは卵ではないし、♀は子育てに参加することが多い)。
多くは、浮気→妊娠(間男の子ども)→出産→托卵状態、というパターンをとるようで、気づいた、あるいは疑った夫は「子どものDNA鑑定」等という方法に打って出ます。
鳥よりも、少し行動が複雑です。
カッコウの托卵先は、♂が子育てに関わらないという特徴があります。巣を空ける時間が長いのが理由でしょうが、意味深ですね。
また、カッコウ自体は営巣しないので特定の相手と添い遂げることをしません、要するに乱婚(乱交とも言える)です。これまたなかなか興味深い現象です。
ところで、この巧妙な戦略をとるカッコウの♂は、いったい何をしているのでしょうか。
実は殆ど何もしていません、鳴いて♀を呼んでいるだけです。
しかし、一応カッコウ♂のプロポーズは、小枝を♀に差し出して行います。自分で巣も作らないのに、巣材を差し出すとは昔は巣を作る気があったと言うことでしょうか。
一応、ホトトギスとウグイスの区別が付かない人はいても、カッコウの鳴き声は知っていますから、周囲の鳥にとって「おっ、カッコウの♀が托卵にくるぞ」という注意喚起の役割を果たしている可能性だってあります(本当にそんな役割を果たしていたら、種にとって不利になる生態は消えていくことになって鳴かないカッコウ♂ができるはず)。
どうも、目立った声で鳴くことで(托卵先の)鳥の注意を引きつけ、♀が産卵しやすくしているようです。
人の間男による托卵は、サテライト戦略の進化したものとも言えます。モテる♂の周囲で♀が来るのを待ち、♀を獲得して托卵する。そこには♀との生活維持や子育てにコストをかけようとする気概は感じられません。その余ったコストを、♀獲得に費やすことに集中しているように感じられます。
ですから、瞬間値を微分的に見れば、♀は間男にコストをかけられている(=愛されている)と感じるのでしょうが、実態はどうなんでしょうね。
昔は複数の男性とつきあっていた女性が妊娠すると、男の中で最も経済力のありそうな相手を選んで「あなたの子よ」と言うことがありました。それに対抗する男の手段は「本当に俺の子か」だったわけですが、本当に自分の子どもであった場合に家庭内の力関係が決定してしまいますから、泣き寝入りする男も多かったことでしょう。
昭和なんて時代は妊娠何週目の数え方を知らない男がゴロゴロいたわけですし。