【完結】暗殺教室 ―Twinkling of a star―   作:春風駘蕩

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第21話 輪廻の時間

「ーーーボクが、そばにいる。ずっと、そばにいるーーー」

 草原に寝転がり、手に持った絵本に書かれた文を朗読する一人の女性がいた。艶やかな黒髪(・・)で、もみあげの部分を三つ編みにした特徴的な髪型の、細身ながらグラマーと称するにふさわしい身体つきのその人は、ふっと微笑むと絵本を閉じる。

「よっ、と」

 パンパンと服を叩いて葉っぱを落とし、立ち上がった女性ーーー天道ヒバリは絵本を片手にぐんと背伸びをする。コキコキと肩を鳴らし、その後だらりと脱力する。

 居心地のいい場所だったがもう時間だ、そろそろ行かねば飛行機に間に合わなくなる。久々の休暇でようやく日本に戻ってこれたが、この分では次の休暇はいつになることやら。

「田所さんも加賀美さんも結構人使い荒いもんなぁ……、兄さんも無理してなきゃいいけど」

 いってからヒバリは小さく苦笑する。あの掴み所のない兄が無理をするところなどどうにも想像がつきにくい、きっと同僚達を相手(おもちゃ)にストレスを発散しながら気楽にやっているのだろう。

 ヒバリは容易に想像できるその光景に笑みを浮かべながら、昔からフレーズを好んで持ち歩いている絵本をしまい、荷物を肩に背負って踏み出す。サクサクと枯れ葉を踏み、愛用のバイクが停めてある麓へ向かって進み出した。

「ーーーくぉら、渚ァ‼︎ てめーが校外授業だって連れてきたんだろが‼︎」

「うわっ、と! ごっ、ごめん‼︎」

 すると、前方から学生達の集団が近づいてきていることに気づいた。制服を大きく着崩した高校生らしい青年達が、それぞれで騒ぎながら山道を登ってきている。

 引率しているのはかなり若い、というか小さい教師だった。

 背丈は中学生並みで不良達の間に完全に埋もれていて、中性的な顔立ちは髪が長ければ女性にも見える。どうにも頼りなく気弱な雰囲気を感じさせるが、何やら生徒たちもこの教師には一目置いているようにも見える。言葉では表し難い、確かな絆があるようだ。

 なんとも不思議なクラスだな、とヒバリは内心で苦笑しながら、賑やかな青年達を見送って集団の横を通り過ぎていく。

 

「ーーー?」

 ふと、すれ違いざまに違和感のようなものを覚えた。

 何も相手におかしなところなどはないが、なぜだろうかどこか出会ったことがあるような気がする。それどころかたった一目見ただけで、心の奥底でぽっと暖かい何かが灯ったような、不思議な感覚さえ覚えていた。

「…………?」

 不思議に思ったヒバリが振り返ると、若い教師もまた訝しげな顔でヒバリの方を振り返っていた。一瞬交わった視線は彼の教え子がじゃれついたことで途切れ、再び交わることはなかった。

 そうこうしているうちに、教師は教え子らしい不良たちと遠くまで進んでいってしまっていた。遥かに身長差のある数人に妙に馴れ馴れしく肩を叩かれているところから、クラスにおける彼の立ち位置がよくわかるようだ。

 そんな仲がいいのか舐められているのかよくわからない教師と教え子たちを眺めながら、ヒバリはなぜか安堵の表情を浮かべていることに気がついた。顔もロクに覚えていないのに、どうして彼のことがこんなにも気にかかっているのだろうか。自分はああいう男が趣味だっただろうか。

「…意外と、前世で関わりがあったりしてね」

 自分でもそんな馬鹿なと思える独り言をこぼし、ヒバリは教師に背を向ける。

「…でも、また会えるかな」

 次に日本に戻れるのはいつになるかわからないが、こんな思わぬ出会いがあるのならこの山にはまた立ち寄りたいものだ。おばあちゃんも言っていたように、袖が触れ合っただけでも縁は繋がっていることもあるのだから。

 穏やかな風に包まれながら、ヒバリは軽い足取りでその地を、そして日本を後にしたのだった。

 

 砕け、そして再び丸に戻りつつある三日月は、そんな若い命達の再会をずっと空から見守り続けていた。

 

 

FIN




投稿開始からかなり経ちましたが、ようやくの完結です。
キャラの掴みやら世界観の練度的に読者の皆様にとっては読みづらいものだったかもしれませんが、とにかく完結だけはさせられて何よりです。シナリオ的にはほとんど劇場版仮面ライダーカブト寄りでしたが、暗殺教室の世界観との融合が「ifだとこんな感じかな?」って感じで気に入っていただけたなら幸いです。
今後も精進したいと思います。

反省はこのくらいにして、ヒバリというヒロインについて。
ボクっ娘です。チャイナです。妹です。しかし年上キャラです。
盛りすぎだろと言われるかもしれませんが、いつの間にかこうなっちゃったんです。もともと仮面ライダーは平成2期からしか見てなかったんですが、このシリーズを書き始めてカブトのライダー少女なら名前どうすっかなと考えてカブトの映画をみていると、そこで初めてひよりさんが妹キャラだって知ったんです。
カブトの擬人化はもう忍者とか暗殺者っぽくと考えていたので、あとはもうスルスル降りてきました。その後に渚との関係性をどうしようかと思い、最終的に一個上のお姉さんになりました。

ラストシーンはカブトのあのシーンと暗殺教室の最後の話を混ぜ合わせた感じになっていますが、カブトのあれはどう行った世界観なんですかね?ワームもいない平和な世界線とかあそこからTV版につながるとか色々言われてるようですが、私としては幸せに生きているならそれが一番じゃないかと思います。
ちなみにうちのヒバリさんはラストシーンではある会社に就職しています。ふとし達がのちに立ち上げるであろう会社で荒事専門の役目を帯びています。基本は護衛とかSPとかのような仕事ですね。
この先、渚と関わるかどうかは不明ですが、一つだけ言えるのはヒバリはこの先も元気でやってるってことですかね。

長らくのお付き合い、誠にありがとうございました。

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