【完結】暗殺教室 ―Twinkling of a star―   作:春風駘蕩

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第6話 疑惑の時間

 市内の比較的大きな病院を訪れた、数人の少年達がいた。焦るような足取りで扉をくぐった彼らは、雑にローブとゴーグルを外し、一纏めにして小脇に抱えると病院の中を見渡した。そして、目的の人物の姿を捉えると、ほっと安堵の表情を浮かべて側に近寄った。

「おーい、渚!」

 集団の先頭にいた少年、杉野がベンチに座った渚の元に駆け寄り、頭に貼られた大きな絆創膏を見て表情を歪ませる。ついで駆け寄ってきた茅野達も、所々についた渚の傷跡を痛々しそうに見つめて眉を寄せた。渚は苦笑し、照れくさそうに頭を掻いた。

「みんな…来てくれたんだ」

「大変だったなー。抗争に巻き込まれるなんてさ」

「渚くんって、意外とトラブル体質なのかもね〜」

 カルマがふざけて言うと、渚は半目で呆れる。だがカルマの言葉も最もで、よその争いごとに巻き込まれるなど、どこの漫画の主人公かと思ってしまったくらいだ。

 男子二人は割と気楽そうだが、茅野や奥田、神崎は不安気に渚を見つめていた。

「でも、怪我で済んで良かったよ。ワームにやられたりしてたら目も当てられないし…」

「ほ、本当に心配しました」

「病院の方からは、なんて?」

「軽い擦り傷と打撲だけだから、心配するなって。むしろ貧弱な方が心配だって」

 力なく笑うと、茅野たちも安心したようで、杉野たちと同じようにほっとした顔で息をついた。カルマと杉野も笑みを浮かべ、渚の方をバシバシと叩いて励ます。渚は痛い痛いと困り顔になりながら、彼らも彼らなりに心配してくれていたのだと気づいて胸を熱くするのだった。

 その時、ふと渚は近づいてくる足音に気づいた。カツカツと革靴の音を響かせ、やや速い速度で近づく難しい顔をしたその人物、烏間の姿を捉え、渚たちは口を閉ざした。

「…烏間、先生…」

 渚は近づいてくる烏間から目をそらし、思わずズボンを握りしめた。国家機密の暗殺に関わっているというのに、下手に騒動に関わって大きく目立ってしまったことに負い目を感じ、渚はいたたまれなくなった。

 烏間は無言で渚の前に立つと、鋭い目で渚をじっと見下ろす。カルマたちも息を呑んで、一言も発さずに佇む烏間と目をそらす渚を見つめ、展開を待つ。

 やがて烏間は唇を噛むと、渚に向かって深々と頭を下げ、口を開いた。

「……すまなかった、渚君」

「え……」

 てっきり叱られるものだとばかり思っていた渚は、拍子抜けした様子で烏間に目を戻した。烏間の表情はいつもより険しく、心の底から後悔しているような複雑なものだった。珍しい姿を晒しながら、烏間はじっと渚に頭を下げ続けた。

「今回の一件は、完全に俺の落ち度だ。…そのせいで君を危険な目に合わせたことを、心から謝罪する。…すまなかった」

「えっ…い、いや‼︎ あの時は僕が勝手に出て行ったせいで……」

「ちょっと待って渚くん。…先生、それはどういうこと?」

 謝罪も何も、危険な場所に行ってけがをしたのは自業自得ではないのかとうろたえる渚を制し、カルマが烏間に尋ねた。その目からはいつもの小馬鹿にした雰囲気は微塵もなく、烏間に対する疑念を孕んでいた。

 烏丸は頭を上げ、渚たちの目を見つめ返した。

「…実は、今回の一件が起こることよりも前から、ZECTからE組に対しての干渉があった。内容は……“潮田渚の身柄の確保と移送”というものだ」

「えっ……⁉︎」

「どういうことですか、烏間先生⁉︎」

 渚は目を見開き、杉野が烏間に食ってかかる。烏間は心苦しそうに眉を寄せ、不信気な表情を浮かべる渚たちを見下ろす。その表情に、激昂していた杉野の勢いも若干落ち着き、ざわついていた茅野たちにもある程度の余裕が生まれた。

「内容が内容だけに、俺も最初は断った。…だが今度は上層部からの圧力がかかり、そうこうしているうちに今回の一件が起こってしまってな。俺の方から抗議はしているんだが、なしのつぶてといった状況だ」

「……その内容が内容ってさぁ、先生が持ってるソレ(・・)に関係してる?」

 カルマが目を細め、烏間が手に提げているジュラルミン製のアタッシュケースに視線を向ける。茅野たちも視線を集め、黒い艶のあるケースを見つめると、烏間は静かに頷いてそれを持ち上げた。

 片手でケースを下から支え、器用にもう片方の手でロックを外す。パチンと小気味良い音を響かせると、烏間はケースの蓋をゆっくりと開いていった。

 徐々に露わになるケースの中身を目にし、カルマたちは訝しげに首を傾げ、反対に渚はこれ以上ないほどに大きく目を見開いた。渚は、それを見たことがあったからだ。

「…………‼︎ 烏間先生、これって…」

 ケースに収められた、大きな銀色のベルト。夜の闇の中、突如現れZECTとぶつかり合った少女が使用していたものと同じ形状のそれを指差す渚に、烏間は大きく頷いた。

「そうだ。ライダーシステムだ」

 

 暗い教室の中、暗幕で外の光を遮り、明かりを消した空間の中で起動したプロジェクターの光が、垂らされた白い幕に映像を映す。息を潜めてそれを見るE組の生徒たちの視線を受けながら、烏間は映像の前で解説を行なっていた。

「……知っているものもいると思うが、ライダーシステムとはZECTが開発した対ワーム殲滅用の特殊装甲のことだ。クロックアップと呼ばれる空間操作能力を用いることで、同じく加速できるワームに対抗できる兵器だ」

 プロジェクターが画像を切り替え、昆虫を模した装甲を纏った戦士の姿を映し出す。(ハチ)(トンボ)(サソリ)(バッタ)、そしてカブトムシとクワガタを模した形状の鎧をまとった、まるでテレビのヒーローのような戦士が戦う姿が、映し出され、E組の生徒たちの目を惹いていた。

「しかしこのシステムは、誰もが使えるわけではない。適合者…つまりはライダーシステムを使うことのできる資質を持ったものでなければならない。…渚くんは偶然、それに該当したんだ」

「……えっと、それってつまり…」

 烏丸の説明の途中、前原がどこか遠慮がちに手を挙げた。

「渚はその…持ち主を選ぶ伝説の剣に選ばれた…みたいな感じですか?」

「…いや、そんな……」

 渚が前原の言葉に照れたように頭を掻くと、岡島や三村から「それじゃ渚が勇者かよ」「似合わねー!」などというからかいの声が上がる。決して嘲るような声ではないが、それを聞いた渚は居心地悪そうに目をそらし、身を縮めた。もともと自己評価の低い性分であるし、勇者などというたいそうな肩書きは似合わないと自負しているため、気恥ずかしくなったのだ。

 だが烏間は、盛り上がるE組一同に「いや…」と歯切れ悪そうに答え、眉間にしわを寄せて彼らをじっと見つめた。

「適合者という点ならば、このクラスには渚君の他にも数人いる。本校舎の生徒ともなれば、数十人は下らないだろう。…問題なのは適合したかどうかではなく、“何と”適合したかだ」

 烏丸は一旦言葉を切ると、プロジェクターの映像を切り替えさせる。次に映ったのは、金属でできた色とりどりで様々な形状の昆虫たちの画像だ。

「適合者がライダーシステムを起動するには、さらにゼクターと呼ばれる(コア)を操作する必要がある。ゼクターは人工知能を搭載した昆虫型ガジェットで、自立した思考とある程度の人格を有している。こいつに認められなければ、システムは起動しない」

「認められるには、どうしたら?」

 磯貝が尋ねると、今度は烏間に変わって殺せんせーが前に出た。

「ゼクターにも“好み”がありまして……そのお眼鏡にかなった者にしか力を貸してくれません。たとえどんなに優れていても、ゼクターの好みに合わなければシステムは起動しないんです」

「今回はたまたま、渚君がある特殊なゼクターと適合していると判明したため、ZECTが強硬手段を用いてでも身柄を確保しようとしたわけだ」

 不機嫌さを隠そうともせず、険しい表情の烏間が若干吐き捨てるように語る。その気迫に押されながらも、生徒たちは立場を超えて案じてくれている目の前の教師に感じ入り、安堵した。

 そこでふと、木村が気になっていた疑問をぶつけるため手を挙げた。

「それで先生。その……ZECTが躍起になるほどのゼクターって、一体どんなやつなんですか?」

「…………」

 木村の質問に、烏間も殺せんせーも、さらにはイリーナまでも急に言いづらそうに顔を背けた。そのただならぬ様子に不安がよぎった生徒たちは、互いに顔を見合わせてざわめく。この男たちがここまで表情を変えるとは、どれほど危険な存在がE組の小動物を見出してしまったのかと、皆が皆眼を細める。

 クラス全体に不穏な雰囲気が漂い始めた時、ようやく烏間が重い口を開いた。

「……そのゼクターの名は、“ガタック”。その強大な力により、『戦いの神』とまで称される最強の存在だ」

 ザワッ……‼︎

 と、烏間の言葉にクラス全体にどよめきが広がった。誰もが自分の耳を疑い、空耳か聞き間違いではないかと思いながら、それが他ならぬ烏間が発した台詞であることを思い出し、それでも動揺を隠すことができなかった。それだけ内容が衝撃的だったのだ。

 誰もが他の者と目を見合わせ、ささやき合い、ついで教室の前方の席に座っている渚の方を向いて凝視する。烏間の言った内容と目の前の気弱な少年が、どうしても結びつかなかった。

「…最強? 最強つった?」

「神って…」

「…………渚が?」

 クラスメイト全員の視線を受け、渚がさらにいたたまれなさそうに縮こまる。

 するとそこで、ふんと鼻を鳴らした寺坂が訝しげに烏丸の方を向いた。

「…んで先生よぉ、そいつの何が問題なんだ? 確かに中坊に持たせるにゃ危な過ぎる代物かも知んねーけど……渚がそいつを使って何かするタマじゃねーのは知ってんだろ」

 寺坂のもっともな意見に、クラス中の全員の意見も一致する。確かに渚は暗殺の才能がE組の中でもずば抜けているが、性格に難があるわけではない。むしろ温厚で人畜無害、喧嘩ではカマキリの威嚇すらも避けるほどの草食系男子なのだ。力を手に入れて調子に乗るようなそんな豹変性など持ち合わせているはずもない。

「そ…そうだぜ先生。渚に限ってそんな心配……」

「…問題があるのは、ガタックの方だ」

「確かに性能は素晴らしいのですが、好み、というか性格に少々難がありまして……」

 ヌルヌルと頭をかいた殺せんせーが呟くと、烏間の方が腕を組んで唸る。

「少々どころではない。適合者であろうとなかろうと御構い無しに人間に襲いかかる、正真正銘の暴れん坊だ。被害にあったものはもれなく、再起不能の重傷を負っている」

(聖剣どころか呪いの剣じゃねーか‼︎)

 二人の表情の理由を知ったE組一同は、心の中で叫びながら渚に詫びる。なんか羨ましそうなものに選ばれやがってという気持ちだった織田が、こんな危険なやつに選ばれるのはごめんだ、と激しく後悔する。それと同時に、そんな存在に選ばれるかもしれない渚に大いに同情と憐憫の視線を向けた。

 クラス全体が事の重大性を理解したことを察し、烏間はプロジェクターを切って照明を戻す。真剣な面持ちとなった彼らに、烏間もまっすぐに向き合った。

「当然、そんな危険なことに君たちを巻き込むつもりは毛頭ない。俺は俺で抗議を続けるが、もしかしたら君たちの方へZECTから強引な干渉があるかもしれない。その時は、俺を頼れ」

 烏間の注意に、E組一同は唾を飲んで首肯した。その時の緊張感たるや、初めて殺せんせーと対面して暗殺依頼を受けた時に勝るとも劣らず、自然と背筋が伸ばされる気分だった。

 すると、その中で一人、おずおずといった様子で渚が手を挙げた。

「…あの、烏間先生。僕から一つ聞きたいことがあるんですけど……」

 烏丸は渚の言いたいことを察し、厳しい表情のまま頷いた。

「そのことについても、君たちに伝えておかねばならない。先日、ZECTとその反抗勢力…通称NEO-ZECT(ネオ・ゼクト)の抗争に介入し、宣戦布告したはぐれライダーのことだ」

 烏間は懐から一枚の写真ーーーカブトの鎧を纏うヒバリの写真を取り出し、黒板にバンと乱暴に貼り付けて生徒たちに見えるようにした。ピントは若干ボケてはいるが顔立ちはどうにかわかり、彼女の持つ鋭い碧の瞳と銀糸の髪はしっかりと映っていて、男子たちの視線が一気に集まった。女子は半目になった。

「先日の参戦で、ようやく腰を上げたZECTが少しだけ情報を集めた。天道ヒバリ、16歳。父母と兄がいたがすでに故人で、数年前に取り壊された孤児院で育ったらしい。その後数年間行方知れずとなっていたが、ZECTの研究施設に押し入ってカブトゼクターと呼ばれる機体を盗み出し、ZECTに対するテロ活動を行うようになったそうだ」

「渚から……少しだけ聞きました。なんか、『ボクは世界を壊しに来たんだ』って言ってたって……」

 前原がいい、渚の方へ視線を向けると、渚も間違いないと言うように頷く。他の生徒たちも少女の発したと言う物騒なセリフにざわめき、顔を見合わせる。

 しかしそこで、妙にメガネを光らせた竹林がメガネをクイっと押し上げ、口を開いた。

「ボクっ娘か…趣深いね」

「そこ⁉︎」

「て言うか竹林‼︎ それお前の初ゼリフだぞ、いいのか⁉︎」

 着眼点が若干ずれているクラスメイトの発言により、他の男子たちが戦慄する。幸か不幸か、そのせいで肩肘の張る重苦しい緊張感は吹っ飛び、E組一同に落ち着きが戻ったため、烏間も頬を痙攣させながら黙認する。

 その流れに感化されたのか、他の男子たちも緊張を解き、写真に写る美少女の容姿に興味を抱き始め、小声で盛り上がり始めた。

「いやでも…、こんな可愛い子がテロって想像もつかないよな」

「パイオツはすでに凶器レベルだけどな!」

 岡島がそう言って締まりのない笑みを浮かべた瞬間、クラスの女子全員から吹雪のごとき冷たい目が向けられ、岡島はブルリと体を震わせた。命が惜しくば、それ以上言うべきではないと気づいたらしい。特に、渚の隣に座っている少女からの眼光が恐ろしすぎた。だが。

「みなさん、侮ってはいけませんよ」

 盛り上がる男子たちに、妙に真剣な殺せんせーから注意が飛んだ。

「確かに見た目は可憐ですが、綺麗な薔薇には棘があるものです。彼女はZECTの精鋭をたった一人で圧倒しただけではなく、生身でも大人数人を鎮圧できると言う軍人格闘術の達人(プロ)です。甘く見て安易に近づくともぎとられます(・・・・・・・)よ‼︎ ブドウのように‼︎」

「何を⁉︎」

 一瞬、なぜか絶叫する水色リーゼントの男の姿を幻視した男子たちは、自分でも気づかぬうちに机の下で足を内股にして戦慄していた。薔薇は薔薇でも、有刺鉄線のような殺傷能力のある棘が並んだ薔薇だとでも言うのだろうか。女子たちの呆れた目を受けながら男子たちがガタガタと震えるなか、烏間は態とらしく咳払いをして空気を変えさせる。

「……世界を壊すと言う言葉の真意は不明だが、彼女も危険人物には違いない。現に彼女はZECTにテロリストとして指名手配され、厳戒態勢が取られている。警戒するに越したことはない。十分に注意してくれ」

「は…はい」

「おう……」

 烏間の真剣な表情に気圧されながら、生徒たちはかろうじて頷きを返す。自体がかなりおおごとになってきたため、実感はまだわいてはいないのだが、とりあえずは頭に入れておいた。

 そんな中、渚は一人深く考え込んでいた。烏間の情報は断片的で、天道ヒバリという少女がどれほど危険なのかということぐらいしか伝わってこなかった。おそらく他のクラスメイトたちも、彼女をテロリストという認識以外には捉えていないのだろう。

 ーーー本当に、そうなのだろうか。

 けれど、渚は思い出す。

 思い浮かべるのは、最初に会った時の会話。人をお人好しといいつけ、自らZECTの抗争が起こる場へと向かった胆力と厚顔不遜さからは、テロリストのような危険性は感じられず、むしろZECTの諍いの邪魔をしていた印象があった。

 そして、戦場に迷い込んだ渚を救ってくれた時に零した、あの言葉。

 ーーー……巻き込んで、ゴメン。

 あの言葉は、少女の本心からのものに思えた。少なくとも、悪い子には見えなかった。

 難しい表情で渚が思案していると、そこへ何やら冷や汗を顔面中に垂らした担任教師が、身を乗り出すようにして顔を寄せてきていた。

「……ものは相談なんですが渚君。…もしガタックゼクターに適合してライダーになっても……、先生相手には使わないでいただけませんかね」

「…………」

 割とガチな顔で戦々恐々となる殺せんせーを思わずじっと見つめていると、ドスッとその顔面に向かって対先生用ナイフが突き立てられた。一瞬で躱した殺せんせーが消えると、渚の前には額に血管を浮き立たせ、目を釣り上げた烏間が立っていた。

「そうだな渚くん……もしそれが実現したなら……真っ先に奴の首を落としてくれ」

「にゅやーーーー‼︎ 勘弁してくださいよ烏間先生‼︎ クロックアップなんて裏技使われて速さでタメ張られたら私ガチでやばいんですけど⁉︎」

「いいぞ渚! やってやれ‼︎」

「俺たちの希望を託したぞ‼︎」

「アレ⁉︎ まさか私の方がアウェイ⁉︎ みなさんどうか御慈悲をっ……御慈悲をーーーー‼︎」

 本気で慌てて、生徒たちに向かって土下座まで敢行する超生物教師を見下ろして渚は、ああこれもう楽にしてあげた方が本人のためになるんじゃないかな、などと割と本気で思い始めていた。

 

     †     †     †

 

 鬱蒼と茂る木々の枝が、砂を含んだ風を受けて揺れる。世界のほとんどが砂漠と化した世界であっても、自然が全て失われたわけではなく、わずかな水源を栄養源としてまるでオアシスのように森や林は生きていた。

 E組の旧校舎が立つ裏山もそうで、生徒たちは生い茂る木々の下で鍛錬に励むこともあり、残された資源を様々なことに活用していた。しかしこのときその森の中にいたのは、E組の誰かではなく、初めて訪れる客人だった。

 一際太い木の根元で、黒いローブをまとった人物が目を細めた。幹に背を預け、根と根の間に腰を下ろした、フードを被った人物ーーヒバリは、耳につけたイヤホンから指を外し、深いため息をついた。同時に、多少のノイズが走る音源から聞こえた生徒たちのざわめきと喧騒に苦笑する。クソ真面目で義理堅い防衛省の教師の懇切丁寧な説明に、あの男は優秀だが苦労を重ねる生き方をしそうだ、と呆れると同時に感心も抱いた。

 だが、問題は説明の内容の方だ。教室に仕掛けておいた盗聴器が捉えた事実に、ヒバリの顔に険しさが混じりっていく。

「……ふーん、そういうことか」

 呟いたヒバリが、立ち上がろうとした時、イヤホンからガリガリという嫌なノイズが走り、ヒバリは「ぐっ⁉︎」と呻いてよろめく。咄嗟に外そうとした時、イヤホンから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

『……天道さん、ですね? 盗聴とはあまりいい趣味とは言えませんねぇ』

「…………!」

 目を見開くヒバリに、殺せんせーはイヤホン越しに笑って告げた。

『君が何を目的としているのかは知りませんが……、できれば私は仲良くしたいと思っていますよ?』

 ヒバリはその言葉に数秒固まり、次いでフンと不機嫌そうに鼻で笑う。

 乱暴にイヤホンを外すと、機器の電源をブツッと切って一纏めにし、懐にしまいこんで歩き出す。お節介な超生物教師のいるE組の校舎に背を向け、形容しがたい表情になったヒバリはその場から姿を消した。

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