デート・ア・ブレイド   作:白い鴉

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今回、アニメデート・ア・ライブの予告的な事を書いてみます。c.vは三石琴乃さんを想像して聞いていただければ幸いです。



運命。
それは時に非情な真実を、時に残酷な試練を、人間達に与える。
人はそれをただ受け入れ続けるのか、それとも、絶対的な運命に逆らうのか?
少年よ、運命の切り札を掴み取れ!


第二話 運命の歯車が回る時

 五河士道がバットアンデッドと戦い、無事に封印して仕事を完了させた翌日、四月十日。

 士道は自分の胸やら腹やらを踏まれまくる衝撃で目が覚めた。

 昨日はアンデットとの戦いに疲れていたのと、今日から始まる学校に備えて早く寝たのだが、いくらなんでも今日のような目覚め方はあんまりだと思う。

 衝撃が走る胴体に目をやってみると、そこには自分の妹が背を向けた状態で、まるでサンバでも踊るかのようにリズムを踏んでいた。そのようなリズムを踏むのはゲームセンターなどにあるリズムゲームとかにしてくれ、と士道は内心切実に思った。

「……おい。俺の可愛い妹、琴里さんよ」

「おおっ!?」

 士道からの声でようやく士道が起きた事に気付いたのか、妹――――五河琴里が士道に顔を向ける。ツインテールにまとめられた髪が揺れ、どんぐりのような丸い両目が士道の顔を見据える。

 なお、今の士道の位置からはパンツが丸見えであるが、彼女に恥ずかしがる様子などはまったくない。士道はその事でため息をつきそうになるが、当の琴里はそんな事など露知らずに無邪気な笑顔を士道に向けてくる。

「何だ!? 私の可愛いおにーちゃんよ!」

 士道の上に乗ったまま、琴里がそう尋ねてくる。妹から可愛いって言われてもなー……と士道は思いながら琴里に告げる。

「早くそこから降りてくれ。重いんだよ」

 すると、琴里は案外素直にベッドから飛び降りてくれた。

 その代わりと言わんばかりに、士道の腹にボディブローのような強烈な衝撃を残して。

「ぐふっ!」

「あははははっ! ぐふだって! 陸戦用だー! あははははっ!」

「誰がんな事を言えと言った……!」

 士道は呻きながらも布団を被りなおす。時計を見てみると、今はまだ五時半だ。いくらなんでも早すぎる。もう少し寝ていたってバチは当たらないはずだ。

「あー! こらー! 何でまた寝ようとするんだー!」

 声を張り上げながら士道をゆっさゆっさと揺すってくる。士道は眠気に襲われながらも、苦しげに口を開いた。

「に、逃げるんだ琴里……!」

「え?」

「今まで秘密にしていたんだが……、実は俺は『とりあえず、あと十分は眠らないと妹をくすぐりまくって笑い死にさせてしまうウイルス』、略してT-ウイルスに感染しているんだ……」

 もちろんこれは完璧な嘘である。こんな嘘を信じる人間などいないだろうが、どうやら純粋無垢な自分の妹はそんな嘘も信じてしまうらしい。彼女は丸い両目をさらに見開き、

「な、なんだってー!」

 と、そのタイミングを見計らった所で、士道は何となくアンデッドを意識しながら両手を勢いよく上げて布団の中から飛び出す。

「がー!」

「ギャー!!」

 それと同時に、琴里は悲鳴を上げて士道の部屋を飛び出して行った。士道は床に着地すると、再び心地よい眠りにつくために布団を被りなおす。しかしそこで、士道はある事に気が付いた。

 昨日から自分達の両親は仕事の事情で出張に行ってしまっており、家にいない。

 そのため、しばらくは士道が台所に立つ事になったのだが、朝中々起きる事ができない士道は琴里に目覚ましを依頼していたのだった。

「あー……」

 仕事や学校の準備で疲れていたととはいえ、少し悪い事をしてしまったかもしれないと思い、ベッドから体を起こす。それからあくびを噛み殺しながら階段を下りてリビングに入ると、そこには奇妙な景色が広がっていた。

 リビングの真ん中に置かれていたはずのテーブルが倒され、まるでバリケードのようになっている。その後ろでは、琴里のトレードマークのツインテールがプルプルと震えていた。どうやら先ほどの士道の悪ふざけが相当怖かったらしい。

 士道はそれに苦笑すると、琴里に気付かれないように足音を殺してテーブルの横側に回り込む。そこにはやはり、琴里が体育座りの状態で身を震わせていた。士道は先ほどと同じように、琴里の肩を掴んで力のこもっていない声を上げる。

「がー」

「ギャァァアアア!!」

 すると琴里はまるでゾンビ映画でゾンビに出くわしたような一般人Aのような絶叫を上げながら手足をばたつかせた。どんだけ怖かったんだよ、と内心思いながら琴里に言う。

「落ち着け落ち着け。いつものおにーちゃんだ」

「ぎゃー! ぎゃー……あ? お、おにーちゃん? 本当におにーちゃん?」

「本当本当」

「こ、怖くない?」

「怖くない怖くない。俺、琴里トモダーチ」

「お、おー」

 士道がどこかの星の宇宙人みたいに片言で言うと、琴里の顔から緊張が抜けていく。士道はそんな琴里の頭をくしゃくしゃと撫でてやりながら言った。

「悪い悪い。すぐ朝飯準備するからな」

 そして琴里の手を取って立ち上がらせ、テーブルの元に位置に戻すと士道はエプロンをかけて台所へと向かう。

 士道と琴里の両親は大手のエレクトロニクス企業に勤めており、一緒に家を空ける事がしばしばある。

 その際の食事当番は士道が担当しているので、もうすっかり手慣れたものである。士道自身、母よりも調理器具の扱いには自信があるほどである。

 なお、士道がブレイドとしてアンデッドと戦っている事は琴里も両親も知らない。アンデッド及びBOARDの事はトップシークレット扱いになっているので、ブレイドとしてアンデッドと戦っている士道でも家族にBOARD関連の事について話す事は許されていない。時々士道の口座に振り込まれている給料については、アルバイトの給料と誤魔化している。とは言ってもアルバイトの給料と言う割には少々高めに設定されているので、それを両親にいつか指摘されてしまう事が不安と言えば不安だが。

 士道が朝ごはんの準備をしていると、背後からテレビの音が聞こえてきた。どうやら先ほどの騒動から落ち着いた琴里が電源を入れたらしい。

 彼女の日課は毎朝星座占いと血液型占いを見る事なのだが、そういうコーナーは大体は番組の最後に放送されている。彼女は一通りチャンネルを変えると、仕方なくニュース番組を見始めた。

 そんな時だった。

『今日未明、天宮市近郊の……』

「ん?」

 アナウンサーの口から発せられた自分達の街の名前に、士道がカウンターテーブルに身を乗り出すようにして画面に視線を放ると、そこには滅茶苦茶に破壊された街の様子が映し出されていた。 

「ああ……空間震か」

 士道は呟きながら、うんざりと首を振った。昨日も確か起こったはずなのに、どうやらあれからまた起こったらしい。あまりの空間震の多さにため息をつきながら、士道は琴里に言った。

「一時は全然起こらなかったのに。どうしてまた増え始めたんだろうな」

「どうしてだろねー」

 琴里はテレビに視線をやったまま首をかしげる。琴里に言っても理由は分からない事は重々承知の上だったが、それでも言わずにはいられない。何せ昨日に続いて今日再び起こったのだ。いくらなんでも回数が多すぎる。下手をすると、アンデッドが発見される回数よりも多いのかもしれない。

「何か、ここら辺一帯って妙に空間震多くないか? 去年くらいから特に」

「んー、そーだねー。ちょっと予定より早いかなー」

「早い? 何がだよ」

「んー、あんでもあーい」

 その声に、士道は準備の手を止めた。

 琴里の言葉の内容も気になったが、何よりも彼女が発した声が後半から少しくぐもったからだ。士道は無言でカウンターテーブルを迂回すると、ソファにもたれかかった状態でテレビを見ている琴里のそばに歩いて行く。

 彼女もそれに気付いたのか、士道が近づくに合わせるかのように徐々に顔を背けていく。まるで、士道に顔を見られるのを恐れているかのように。

「おい琴里、ちょっとこっち向け」

「………」

 いつまでも黙った状態なので、士道は実力行使に出る事にした。妹の頭に手を置いて、無理矢理彼女の顔を自分の顔の正面に持ってこさせる。

 すると士道の予想通り、彼女の口元にはあるものが咥えられていた。

 それは、琴里の大好物であるチュッパチャプスだった。士道はやれやれを言うようにため息をついてから、少し怒ったような表情で言う。

「こら、飯の前にお菓子を食べるなって言っただろ」

「んー! んー!」

 雨を取り上げようと棒を引っ張るが、琴里は唇をすぼめて抵抗してくる。凄まじい間でのチュッパチャプスへの執着だった。士道はこれ以上続けても無駄という事を悟ると、チュッパチャプスの棒から手を放した。

「……ったく、ちゃんと飯も食うんだぞ?」

 そう言って琴里の頭をぐりぐりやってから、再び料理の準備をするために台所に戻る。

「おー! 愛しているぞおにーちゃん!」

 妹からの愛の言葉を、しかし士道は適当に手を振って流すと作業に再び入る。

「そう言えば、今日は中学校も始業式だったよな?」

「ん、そうだよー」

「じゃあ昼時には戻ってくるよな……。昼飯に何かリクエストはあるか?」

 その言葉を聞くなり、琴里は目を輝かせて士道に半ば叫ぶように言った。

「デラックスキッズプレート!」

「当店ではご用意できかねます。またのご来店をお待ちしております」

「即答!?」

 ガーン、と効果音が出そうなぐらい驚いた琴里は不満そうにキャンディの棒をピコピコと上下に動かす。それを見て士道ははぁと嘆息し、肩をすくめた。

「ったく、仕方ないな。折角だから昼は外で食うか」

「本当!?」

「おう。んじゃ、学校終ったらいつものファミレスで待ち合わせな」

 すると、琴里は興奮した様子で手をぶんぶんと振り始めた。

「絶対だぞ! 絶対約束だぞ! 地震が起きても火事が起きても空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!」

「いや、占拠されてたら飯食えねえだろ」

 まぁ、テロリストに占拠されている最中にアンデッドが乱入でもしてきたら、美味しくいただかれるのはテロリストの方かもしれないけど……と士道は小声で呟いてから、我ながら笑えないジョークだと内心思う。アンデッドが人間を食べたという事例は聞いた事が無いが、まだアンデッド達に関しては分からない事があるのでそういうアンデッドが例えいたとしてもおかしくはない。そんな士道の内心など知るはずもなく、琴里が声を上げてくる。

「絶対だぞー!」

「はいはい。分かった分かったから」

 そう言うと、琴里はおー! と手を上げた。

 少し甘いかもしれないなぁと思わなくもないが、今日は特別という事にしておこう。

 今晩からしばらくは台所に立たねばならないし、何よりは今日は二人共始業式だ。アンデッドと戦って貯めたお金もあるし、今日ぐらいは贅沢をしても良いだろう。

 とは言っても、七百八十円のお子様ランチが贅沢に当たるかどうかは微妙な所だが。

「……」

 士道は台所の子窓を開けて、晴れ渡っている空を見上げる。

 今日ぐらいはアンデッドが出てきませんように、と士道は心の中で本当にいるか分からない神様に拝んだ。

 

 

 

 

 士道は学校に着くと、廊下に張り出されているクラス表を確認してから一年間お世話になる教室へと向かった。ちなみに士道の新しいクラスは二年四組だった。

 三十年前の空間震が起こってから、空間震で更地になってしまった一帯は様々な最新技術のテスト都市として再開発が進められてきた。現在士道が通っている都立来禅高校もその例の一つである。

 都立高とは思えない充実した設備の上、数年前にできたばかりのため学校そのものの損傷もほとんどない。しかも旧被災地の高校のため、地下シェルターも最新のものだ。

 ちなみにそのためからか入試倍率は低くなく、ただ単に家が近いからという単純な理由で受験を決めた士道は少々苦労する事になった。

 士道は教室に入ると、何となく教室を見回してみた。

 まだホームルームまで少し時間があるが、結構な人数が揃っている。しかし、士道の知った顔はあまりいなかった。退屈なので士道が黒板に張り付けられている座席表の紙を確認しようとしたその時。

「五河士道」

 士道の後ろから、と唐突に静かな声がかけられた。

 ん? と聞き覚えのない声に士道が振り返ると、そこには細身の少女が一人立っていた。

 肩に触れるか触れないかくらいのショートカットの髪の毛に、人形のような顔が特徴的だ。

 人形のような、という形容はやや失礼かもしれないが、それ以外に少女の容姿を最もうまく言い表せる言葉が無いのも事実だった。

 美少女、と言える顔立ちであると同時に、彼女の顔には感情と呼べるものがまったく窺えないからだ。

「えっと……俺……だよな?」

 士道は自分を指さしながら恐る恐る尋ねる。

「そう」

 そんな馬鹿な行動にもまったく表情を変えず、少女は小さく頷いた。

「な、何で俺の名前を知ってるんだ……?」 

 目の前の少女とはまったく面識がない。なのにどうして自分の名前を知っているのか士道が怪訝に思っていると、何故か少女は不思議そうに首を傾げてきた。

「覚えてないの?」

「う……」

 士道は思わず黙り込んでしまった。この少女の口ぶりからすると、どうやら自分はこの少女と前にどこかで会った事があるらしい。しかし、それでも士道はまったく思いだす事ができなかった。するとその士道の反応を肯定とみなしたらしい。少女は特に落胆らしいものも見せずにそう、と短く言うと窓際の席に歩いて行った。

「……何なんだろう、あの子」

 士道が眉をひそめると、突然背中に衝撃が走った。士道はそれに驚きながら、振り返って背中を叩いた犯人を睨み付ける。

「ってぇ、何しやがる殿町!」

 こちらの犯人はすぐに分かった。士道の友人、殿町宏人だ。彼は何故かにやにやと笑いながら、

「おう、元気そうだなセクシャルビースト五河」

「誰が淫獣だよ」

 士道が言うと、殿町は肩をすくめて、

「お前だよお前。いつの間に鳶一と仲良くなったんだよ、ええ?」

 そう言いながら殿町が士道の首に腕を回し、ニヤニヤしながら聞いてきた。士道はその名前に心当たりはなかったが、ある事に気づいて友人に言う。

「鳶一……? あ、もしかしてさっきの女の子か?」

「正解だ」

 殿町はそう言って、窓際の席を示した。

 そこには先ほどの少女が座って、何やら分厚い技術書のような本を読んでいた。

 と、士道の視線に気づいたのか少女が目を本から外して、士道に目を向けてくる。士道は思わず息を詰まらせて、気まずそうに目を背ける。

 それに対して、殿町は馴れ馴れしく笑って手を振った。

「………」

 しかし少女は特に何も反応を示さず、手元の本に視線を戻した。

「ほら見ろ、あの調子だ。うちの女子の中でも最高難度。永久凍土とか米ソ連とかマヒャデドスとまで呼ばれてんだぞ。お前、一体どうやって取り入ったんだよ」

「はぁ……? 一体、何の話だよ」

「……え、もしかしてお前本当に知らないのか?」

「ん……。確か前のクラスにはいなかった気がするし……」

 すると、殿町は信じられないといった具合に両手を広げて驚いたような顔を作った。いちいち動作がオーバーな少年である。

「鳶一だよ、鳶一折紙。ウチの高校が誇る天才。知らないのか?」

「ああ、初めて聞くけど……すごいのか?」

「すごいなんてもんじゃねえよ。成績は常に学年主席、この前の模試にいたっちゃ全国トップとかいう頭のおかしい数字だ。クラス順位は常に一個下がる事を覚悟しといた方が良いぜ」

「別にそこまで気にしてないけどな……。ってか、なんでそんな奴が公立校にいるんだよ」

「さぁてね。家の都合とかじゃねえの?」

 大仰に肩をすくめながら、殿町がさらに続けてくる。

「しかもそれだけじゃなく、体育の成績もダントツ、ついでに美人ときてやがる。去年の『恋人にしたい女子ランキング・ベスト13』でも第三位だぜ? 見てなかったのか?」

「やってた事すら知らねえよ」

「ったく、お前って奴は……。っと、『恋人にしたい男子ランキング』での第二位は、あいつだ」

 そう言いながら殿町が前の方に顎をしゃくると、士道もその方向に視線を向ける。

 二人の視線の先には、一人の男子生徒が窓際に寄りかかって外を見ていた。同性の士道から見てもイケメンと思うほどの顔立ちだが、どこか冷たい雰囲気を漂わせているためか近づきがたい印象を見る者に与えてくる。こうして見ている今も、少年はつまらなそうな表情を浮かべていた。

相川(あいかわ)(はじめ)。鳶一ほどじゃないけど成績は常に上位にいるし、運動神経も抜群。しかもあの顔だから、女子からの人気はめちゃくちゃ高い」

「へぇ。だけど、どうして二位なんだ? 上にあいつ以上に人気のある奴がいるのか?」

「いや、顔は十分に一位に入ってもおかしくないレベルなんだが、どうもクールっていうか、無愛想な性格をしてるんだよ。前にラブレターを出した女子にも、『興味が無い』ってばっさりだったらしいぜ? まぁそのクールな性格も良いらしいんだけど、そのせいで二位止まりってわけだ」

「なるほどね……」

 しかしそれでも二位に入っているのだから大したものである、と士道は思う。そしてそこまで聞くと、自分が一体何位だったのか少し興味が湧いてくる。すると士道の考えを察したのか、殿町が口を開く。

「ああ、ちなみにお前は匿名希望さんから一票入ったから52位だ。安心しろ」

「微妙な数字だなー……」

「安心しろ。『腐女子が選んだ校内理想のベストカップル』では、その相川始とセットで見事一位だったぞ。何でも、『五河君が受けで相川君が責め』らしい。良かったじゃないか!」

「ふざけんな! どこをどう安心しろっていうんだよ!!」

 あんまりな言いように士道は思わず立ち上がって怒鳴った。

 するとそれと同時に、ホームルームの始まりを告げる予鈴が鳴った。まだ自分の席を確認していなかった士道は黒板に書かれた席順に従い、窓際から数えて二列目の席に鞄を置いた。

 そこである事に気付いた。士道の席は、鳶一折紙の隣だったのだ。なお、相川始の席は士道の左斜め前である。

 折紙は予鈴が鳴り終わる前に本を閉じ、机にしまい込むと視線を前に向けて美しい姿勢を取る。

 始は予鈴が鳴ると同時に自分の席に着くと、退屈そうに頬杖をついて視線を前に向けた。

「………」

 何故か二人を凝視している自分に気付いた士道は慌てて二人と同じように視線を黒板の方にやった。

 それと同時に、教室の扉が開かれると教室に眼鏡をかけた小柄な女性が現れ、教卓につく。士道の周りから、嬉しそうな声が聞こえてきた。

「タマちゃんだ」

「マジだ。やったー」

 生徒からそんな声を受けて、タマちゃんと呼ばれた女性は微笑むとクラスの生徒達に挨拶をする。

「はい、みなさんおはよぉございます。これから一年、皆さんの担任を務めさせていただきます岡峰珠恵です」

 そう言って頭を下げると、サイズが合っていないためか微妙に眼鏡がずり落ち、慌てて両手で押さえた。

 生徒と同年代に見える童顔と小柄な体、さらに口調からも分かる通りののんびりとした性格で生徒の間で絶大な人気を誇る先生である。まだ結婚相手はいないらしいが、士道としてはまだ結婚相手が見つかっていない事が不思議でしょうがなかった。

「………?」

 その時、士道は何故か横から強い視線のようなものを感じて顔を横に向けてみる。

 すると、士道の左隣に座っている折紙とばっちり目が合ってしまった。どうやら先ほどからの強い視線の正体は彼女が送っていたものだったらしい。士道は慌てて目を逸らすが、折紙の視線は変わらず士道の方を向いている。

 一瞬士道の先にあるものを見ているのではないかとも思ったが……違う。これは明らかに士道の顔をガン見している。

 何故自分をそんなに見ているのかと尋ねたかったが、ホームルーム中であるし、勘違いであったら恥ずかしいので、士道は額から汗を一筋垂らしながらホームルームを過ごした。

 

 

 

 そんな事が起こってから約三時間後。

「おい五河。どうせ暇なんだろ、飯いかね? 最近お前バイトとかで忙しそうだったけど、今日は大丈夫だろ?」

 始業式を終えて、士道が帰り支度を整えていると殿町が話しかけてきた。昼前に学校が終わるなどテスト期間以外ではそうないので、士道達以外にも友人とどこで昼食を食べるかを相談している集団の姿が見る事ができる。

 ちなみに殿町の言う『バイト』とは、もちろんアンデッド封印の仕事である。基本的にBOARDは士道の学校生活を考慮してくれているものの、学校が終わった放課後などにアンデッドが出現した場合は即出動が要請される。それ以外にもブレイドとしてアンデッドと戦うための戦闘訓練やトレーニングなどのために時間を割かれる事があるため、必然的に友人と遊ぶ時間が少なくなってくる。そしてそのトレーニングなどのせいか、最近の士道の体は前よりも鍛えられていた。

「悪い。今日は先約があるんだ」

「何? バイトじゃなくて先約? まさか女か?」

「あー、まぁ一応」

「何だと!」

 殿町はまたもや大げさに驚いた。普通にリアクションする事は出来ないのかお前は、と士道は内心ツッコミを入れる。

「一体昼休みに何があったっていうんだ! 鳶一と仲良くお話しするだけじゃ飽きたらず、女と昼飯の約束だと!? 誰だコノヤロー! まさかバイト先の先輩か!?」

「違う違う。琴里だよ」

 士道は手をひらひらと振りながら否定した。戦闘のサポートなどでお世話になっているものの、少なくとも自分の上司である広瀬とは一緒に食事に行くような関係ではない。それどころか、彼女は彼氏と食事に行く事すらした事が無いのだ。まぁ、それを言ってしまったら自分も琴里以外の女性と食事に言った事などまったくないのだが。

 士道が否定すると、殿町は安堵したように息を吐いた。

「んだよ、驚かすんじゃねえよ」

「お前が勝手に驚いたんだろ。俺のせいにするな」

「でも、琴里ちゃんなら問題ねえだろ。俺も一緒に行って良いか?」

「ん? ああ、別に大丈夫だと思うけど……」

 士道がそう言うと、殿町が士道の机に肘を載せて何故か声をひそめるように言ってくる。

「なあなあ、琴里ちゃんって中二だよな。もう彼氏とかいんの?」

「………多分いないと思うけど、何でだ?」

 一瞬昨日彼女の部屋で発見してしまった怪しげな雑誌の事を思い出してしまい遠い目になる士道だったが、すぐに我を取り戻して逆に問い返す。

「いや、別に他意はねえんだが、琴里ちゃん、三つくらい年上の男ってどうなのかなと」

「……やっぱ却下だ。お前来んな」

 半眼を作りながら、顔を近づけてきていた殿町を頬をぐいと押し返した。

「そんなお義兄様!」

「次お義兄様とか言ったらぶん殴るぞ」

 士道が睨みながら言うと、殿町は肩をすくめた。

「冗談だよ。俺も兄妹団欒をつっつくほど野暮じゃねえよ。条例に引っかかんねえ程度に仲良くしてきな」

「どうしていっつも一言余計なんだよ、お前は」

 士道がため息をつきながら立ち上がりかけたその瞬間。

 

 

 教室の窓ガラスをビリビリと揺らしながら、街中に不快なサイレン音が鳴り響いた。

 

 

「な、何だ?」

 殿町が窓を開けて外を見やる。教室に残っていた生徒達も、サイレンの音に会話をやめて目を丸くしていた。

 そして、サイレンに次いで機械越しの音声が響いてくる。

『――――これは訓練ではありません。これは訓練ではありません。前震が観測されました。空間震の発生が予想されます。近隣住民の皆さんは速やかに、最寄りのシェルターに避難してください』

 その声の内容を理解すると同時、今まで黙っていた生徒達が一斉に息を呑んだ。

 空間震警報。

 クラスに残っていた全員の予想が、確信に変わった。

「おいおい、マジかよ……」

 士道の横で、殿町が渇いた声を発した。

 しかし、士道や殿町を含め、教室にいた生徒達は緊張と不安が入り混じった表情を浮かべているものの、パニックなどにはなっていない。

 天宮市は三十年前の空間震によって深刻な被害を受けているため、士道達は幼稚園にいた時から嫌と言うほど避難訓練を繰り返している。それに加えて、ここは生徒が集まる高校だ。全校生徒を収容できる規模の地下シェルターが備え付けられている。

「シェルターはすぐそこだ。落ち着いて避難すれば問題ない」

「お、おう。そうだな」

 士道は殿町に言いながら、携帯電話を開いて画面をチェックする。

(アンデッドは……さすがに出てないみたいだな)

 アンデッドが出現した場合、反応を探知した広瀬が士道の携帯電話に連絡を入れる手はずになっている。空間震が起きている最中にアンデッドまで現れたら少し厄介な事になっていたが、どうやらアンデッドは出現していないらしい。それにほっとすると、携帯電話をポケットにしまって教室から出る。

 廊下にはすでに生徒達がシェルターに向かって列を作っていた。

 しかし、士道はある事に気付いた。

 一人だけ、列と逆方向……昇降口の方に走っている生徒がいたからだ。

「鳶一……」

 その人物は、士道の隣に座っていた少女、鳶一折紙だった。

「お、おい! 何してんだ! そっちには……」

「大丈夫」

 折紙は一瞬足を止めると、士道にそれだけ言ってから再び駆け出していく。

「大丈夫って、何がだよ……」

 首をひねりながらそう呟くと、士道は再び生徒の列に並ぶ。彼女の事は心配だが、もしかしたらただ単に忘れ物でもしたのかもしれない。警報が発令されたからと言ってもその後すぐ空間震が起こるというわけでもない。すぐに戻ってくれば大丈夫なはずである。

 士道は列に並びながら、ある事を思い出してさっき取り出した携帯電話を再び開く。

「ん、どうした?」

「いや、ちょっとな」

 言葉をかけてきた殿町に返しながら、士道は電話帳の中から『五河琴里』の名前を選んで電話をかける。

 だが、繋がらない。何回か試してみても、結果は同じだった。

「……駄目か」

 士道は繋がらない携帯電話の画面を見つめながら、小さく呟く。彼女がまだ中学校にいるならば安全のはずだ。しかし、すでに学校を出てファミレスに向かっていたら話は別になってくる。

 いや、と士道は首を横に振る。ファミレスの近くにもシェルターはあるし、普通に考えれば問題はないはずだ。

 だが……士道の胸から不安が消え去る事はなかった。警報が鳴っても、ずっと士道を待っている妹の姿が想像できてしまっていて。

「い、いや。あいつもさすがにそこまで馬鹿じゃないし……。そうだ。GPS……」

 琴里の携帯電話はGPS機能を用いた位置確認サービスに対応している。携帯電話を操作すると、街の地図と琴里の位置を指し示す赤いアイコンが表示された。

「……っ!!」

 その赤いアイコンを見て、士道は思わず息を呑む。

 そのアイコンは、約束のファミレスの前で停止していた。

「あの……馬鹿!!」

 毒づきながら携帯を閉じて、士道は生徒の列から飛び出して昇降口に向かう。

「お、おい! どこにいくんだ五河!」

「忘れものだ!」

 適当に言いながら、士道は全速力で走って行った。

 その士道の姿を、じっと見つめる人間がいた。

「………」

 それは、さっき士道と殿町の間で話題になっていた少年、相川始だった。

 彼は士道から視線を外すと、右手をポケットに突っ込みながら他の生徒達と同じようにシェルターに向かう。

 その右手には。

 アンデッドが封印されたカード――――ラウズカードが握られていた。

 

 

 

 

 学校を出た士道は学校前の坂道を全速力で駆け下りていた。ブルースペイダーを使えばもっと早く行けたのかもしれないが、残念ながらブルースペイダーは現在士道の家に置いてある。バイクが無い以上、走っていくしかない。

「こんな事になったら、普通避難するだろうが……!」

 士道の視界には不気味な光景が広がっていた。

 道路には車が通っておらず、街並には人影がまったくない。

 どんな時間帯でも誰か一人は必ずいるはずのコンビニでさえも、人はいなかった。

 大空災以来、神経質なほど空間震に対して敏感に再開発されたのがこの天宮市だ。公共施設の地下だけでなく、一般家庭のシェルター普及率も全国一位だという話をどこかで聞いた事がある。

 それに最近の空間震の頻発もあるのか、避難は迅速だった。

 なのに。

「何で馬鹿正直に残ってやがんだよ……!」

 全速力で走りながら、携帯を開いて現在の琴里の位置を確かめる。

 アイコンは、やはりファミレスの前から動いていない。

 士道は携帯電話をしまいながら、走り続ける。この時ほどBOARDが作成した、アンデッドとの戦いに備えてのトレーニングをしていた事を感謝した事はない。

 そうして走り続け、もうすぐファミレスに辿りつくと思われた時だった。

「……? 何だ、あれ?」

 視界の端に何か動く見えたものが見えた気がして、士道は思わず空を見上げる。

 数は三つか四つ。空に何やら人影のようなものが浮いている。

 まさか、アンデッドか……? と士道が懐に常備しているブレイバックルに手を伸ばしかけた瞬間。

 衝撃が、士道を襲った。

「うわっ!?」

 何が起こったのかよく分からなかった。ただ、突然進行方向の街並みが光に包まれた事だけは、何とか知覚する事が出来た。さらにそれに続いて、鼓膜を破るんじゃないかと思ってしまうほどの爆音と凄まじい衝撃波が士道を襲う。

 士道は吹き飛ばされ、地面に叩き付けられながら何とか受け身をとって衝撃を軽減する。それからゆっくりと立ち上がると、目の前の光景に思わず間抜けな声を発してしまっていた。

「はっ……?」

 街並みが、無くなっていた。

 比喩でもなんでもない。まるで地面が丸ごと消し飛ばされたかのように、街の風景が浅いすり鉢状に削り取られていたのだ。初めて目の前で見る空間震の力に、士道は自分の手が震えるのを感じる。

 そして士道は、ある事に気付いた。

 クレーターのようになった町の一角の中心地。

 そこに、何か金属の塊のようなものがそびえていたのだ。

「何だ……?」

 細かい形状までは読み取る事は出来ないが、その金属の塊がまるで玉座のような形をしているのはどうにか視認する事が出来た。

 しかし、重要なのは玉座ではない。

 その玉座の肘掛けの部分に足をかけるようにして、奇妙なドレスを纏った少女が立っていたのだ。

「あの子、どうしてあんな所に……」

 士道が怪訝な表情を浮かべながら呟くと、少女の視線が自分に向けられるのを感じた。

 すると、少女はゆらりとした動作で玉座の背もたれから生えた柄のようなものを握ると、それをゆっくりと引き抜いた。

 それは幅広の刃を持ち、不思議な光を放つ巨大な剣だった。

 その光は、士道が使うブレイラウザーの刃が放つような金属特有の冷たいものではない。虹のような、星のような幻想的な輝きだった。

 少女が剣を振りかぶり、その軌跡をぼんやりとした輝きが描いた次の瞬間。

 ゾワッ!!

「っ!?」

 士道の背中を突如寒気がはしり、士道は思わず頭を下げる。直後、少女が士道の方に向かって剣を横薙ぎに振るったのがかろうじて見えた。

 今まで士道の頭があった位置を、刃の軌跡が通り抜ける。当たり前のことだが、剣が直接届くような距離ではない。士道自身も、今の攻撃は空振りだと思った。

 だが、実際は違った。

「……嘘……だろ……!?」

 振り返って街の光景を見た士道は、かすれた声を喉から出していた。

 後方にあった家屋や店舗、さらには街路樹や道路標識などが一瞬のうちに全て同じ高さに切り揃えられていたからだ。遅れて、遠雷のような崩落の音が聞こえてくる。

 それを見ても、士道の頭の中は真っ白のままだった。 

 それからようやく理解できたのは――――さっきとっさに頭を下げていなければ、自分の頭は今頃輪切りにされていたという事だった。

「ま、ずい……!」

 士道自身、アンデッドとの戦闘経験はあるものの、これはいくらなんでも次元が違いすぎる。士道が何とか足を動かして逃げようとした時だった。

「お前も、か……」

「っ!?」

 ひどく疲れたような声が、頭の上から響いてくる。

 気が付くと、目の前にはさっきまで遠く離れていたはずの少女が立っていた。

「あ……」

 意図すらしていないのに、声が漏れる。

 年齢は大体士道と同じぐらいだろう。

 膝まであるのではないかと思うほどの黒い髪に、愛らしさと凛々しさの両方を備えた容姿。

 その中心には、まるで水晶のような瞳がある。

 彼女が身に纏っているのは、これまた奇妙な物だ。士道のブレイドアーマーが機械的な鎧ならば、ドレスのようなフォルムの彼女の鎧は布なのか金属なのかよく分からない素材で作られている、神秘的な鎧だ。その継ぎ目やインナー部分、スカードなどは不思議な光の膜で構成されている。

 さらにその手には、身の丈ほどはあろうかという巨大な剣。

 それらの衣装や現在の状況などは、どれも士道の目を引くには十分なものだった。

 だが士道の目は、ただ少女のみに引きつけられていた。

 それほどまでに、少女は暴力的なほどに――――美しかった。

「……君、は……」

 呆然と士道が声を発すると、少女がゆっくりと視線を下ろしてくる。

「……名、か」

 とても静かで、とても美しい声が士道の鼓膜を震わせる。

 だが少女は悲しげに、こう言った。

「そんなものは、ない」

 その時、士道と少女の目が初めて合った。

 すると少女が憂鬱そうにも、今にも泣きだしてしまいそうにも見える表情を浮かべながら、剣を握る。

「ま、待ってくれ!」

 さっきの攻撃の破壊力を思い出した士道は、必死で声を上げた。そんな士道の様子を不思議そうに見ながら、少女は士道に尋ねる。

「……何だ?」

「ど、どうする気だよ……!」

「……? もちろん、早めに殺しておこうと」

 当然だろう? と言いたそうな表情を浮かべている少女に、士道は顔を青くする。

 しかし……士道は何故か、自分の鎧と剣を呼び出す道具――――ブレイバックルに手を伸ばす気にはなれなかった。顔を青くしながらも、士道は必死に少女に語りかける。

「な、何でだよ……!」

「何で……? 当然ではないか」

 物憂げな顔を作りながら、少女はさらに続けてくる。

「だってお前も、私を殺しに来たんだろう?」

「え……?」

 あまりに予想外すぎる答えに、士道はぽかんと口を開けてしまう。

「……っ、そんなわけ、ないだろ」

「……何?」

 少女が士道に様々な感情が入り混じった目を向けてくる。

 が、少女はすぐに眉をひそめると、何故か士道から視線を外し空中に目を向けた。

 士道もつられて上を目をやると、そこには奇妙な格好をした人間が数名飛んでいた。

(何だ、あれ? ライダーシステム……じゃないよな?)

 人間達はみんな士道と同じように機械の鎧を身に纏っていたが、士道のブレイドアーマーとは異なる点がある。

 ブレイドアーマーが顔まで覆う全身鎧ならば、彼女達が身に纏っているのは体の各所を覆う軽鎧(けいがい)のようなものだ。その分防御力は低そうだが、機動力などは明らかにブレイドよりも上だろう。

 その人間達は手に持っていた武器を少女に向けると、士道と少女目掛けてミサイルをいくつも発射してきた。

「なっ……!」

 さすがに士道も本気で命の危機を感じ、ブレイバックルに手を伸ばす。

 しかしそのミサイルは、何故か少女の数メートル上空で突然制止した。

「……こんな物は無駄だと、何故学習しない」

 気だるげに息を吐きながら少女は呟くと、剣を握る手とは反対側の手を上にやってからぐっと握る。

 すると、何発ものミサイルが圧縮されるようにひしゃげて、その場で爆発する。爆発の規模も小さく、せいぜい爆風が彼女の髪を軽く揺らした程度だった。

 空を舞っている人間達は狼狽するものの、再びミサイルを次々と撃ち込んでくる。

「……ふん」

 少女は小さく息を吐くと、さっき士道に剣を向けようとした時と同じ表情を作った。

 まるで今にも泣きだしてしまいそうな、そんな顔を。

「――――――――」

 彼女が作ったその表情に、士道は自分の心臓が大きく鼓動を打つのを感じた。

 それは、普段アンデッドと戦っている士道から見ても、あまりに奇妙すぎる光景だった。

 少女が何者なのかは分からないし、上空にいる人間達が何者なのかも分からない。

 理解できるのは一つだけ。この少女が、上空に浮かぶ人間達よりも、アンデッドよりも、自分よりも強大な力を有している事だけだ。

 だが、だからこそ気になってしまう。

 どうして、それほどの最強者が。

 こんなに、悲しそうな顔をしているのだろう。

「……消えろ、消えろ。一切合財……消えてしまえ……っ!」

 その言葉と同時に、不思議な輝きを放つ剣が空に向けられる。

 凄まじい間での衝撃波が荒れ狂い、太刀筋の延長線上の空に斬撃が飛んで行く。

 上空を飛行していた人間達は慌てたように攻撃を回避してその場を離脱していくが、突然別の方向から少女目掛けて凄まじい出力の光線が放たれた。しかしその光線でも少女の体に傷をつける事は出来ず、上空で見えない壁にでも当たったかのように掻き消され、美しく弾け飛ぶ。

 さらにその光線に続くように、士道の後ろに何者かが舞い降りた。

「今度は何だよ……!」

 先ほどから続く異常事態に、士道はうんざりとした声を出しながら自分の背後に降りてきた人間を見る。

 その瞬間、士道は身体を硬直させた。

 降りてきた人間は、先ほど空に浮かんでいた人間達のように、体に機械の鎧とボディスーツを身に纏っている。

 背中には機動力を司る大きなスラスターがついており、手には剣の柄のようなものが握られている。

 士道が体を硬直させた理由は単純だった。その人間の……少女の顔に、見覚えがあったからだ。

「鳶一……折紙?」

 今朝、殿町から教えてもらった名前を呟く。

 機械の鎧を身に纏った少女――――――鳶一折紙は、ちらりと士道を一瞥した。

「五河士道……?」

 士道に対する返答のように折紙は士道の名前を呼ぶ。その声には、わずかに怪訝そうな色があった。

「お前、その格好は一体……」

 士道が問いかけるも、彼女はその問いに答えずドレスの少女に向き直る。同時に、少女がが折紙目掛けて剣を振り抜いた。折紙は地面を蹴って剣の太刀筋の延長線上から攻撃をかわすと、弾丸のような速度で少女に接近する。

 折紙の手にしていた剣の柄のような物体の先端には、いつの間にか光で構成された刃が出現していた。折紙はそれを少女目掛けて振りおろし、少女は微かに眉根を寄せながらも大剣で攻撃を受け止める。

 刹那。

 少女と折紙の剣がぶつかり合った箇所から凄まじい衝撃波が発せられ、士道は危うく吹き飛ばされそうになるもどうにかこらえる事に成功する。

 折紙が弾かれる形で二人は一旦距離を離し、武器を構えて互いを睨み合う。その眼には、互いに対する殺気しか存在しない。士道はそれにはさまれる形で立っているのだから、たまったものではない。

 士道は今すぐにでもここから早く離脱したかったが、こんな緊張感が満ちる戦場で動ける人間はそういないだろう。彼の足が微かに動き、じゃりっと音を鳴らす。

 その時、急にポケットの中の携帯電話が軽快な着信音を響かせた。

「「………っ!!」」

 それを合図にし、少女と折紙が同時に地面を蹴り、士道の真ん中で激突する。

(やっべ……!!)

 士道は先ほどと同じように衝撃をこらえようとするが時すでに遅く、圧倒的な風圧で吹き飛ばされ、彼は塀に強かに体を打ちつけて気を失った

    

 

 

 

 

 

 

 同時刻。BOARDの基地が存在する地下に、奇妙な物体があった。

 それは一見すると、何かの卵のようだった。てらてらと不気味に光り、今にも中から何かが飛び出してきそうである。

 そしてピシリッ、という何かが割れる音が地下に響き渡った。

 まるで、これから何か良くない事が起こる事を伝えるかのように。

 これから何か巨大な何かが動き出す事を、宣告するかのように。

 

 




仮面ライダー剣のblu-rayが欲しいけど中々高め。七月はデート・ア・ライブのゲームが出るし、中々厳しい事になりそうです……。
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