やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

14 / 65
その⑭

 

夢を見ていた。

 

 

いつもの部室で、いつもの席に座り本を読んでいる。

 

団子頭の垢抜けた素敵な女の子が

 

柔らかい笑顔の凛とした女の子と

 

楽しそうに話している

 

 

落ち着いていて、満たされた空間

 

そこに、あざとい後輩の女の子がやって来て

 

少し騒がしくなるが、

 

紅茶の香りのする部屋に

 

俺は思わず笑ってしまう

 

 

読んでいる本から顔を上げると

 

いつの間にか俺の隣に、大人びた女性が座っている

 

 

彼女の目はとても暗くて

 

彼女の笑みはとても遠くて

 

その全てが俺をとても不安にさせる

 

 

しかし、その不安こそが

 

俺と彼女の間に唯一無二存在するものなら

 

 

 

俺はー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人と人との間にあるのは不確かなものだけだよ」

 

 

 

 

深い闇を写すその瞳は俺の目と鼻の先。

 

人形と見間違うような無表情で魔王は俺を見つめている。

 

 

 

 

 

 

 

 

..................あれ?

 

 

 

ここ俺の部屋ですよね?

 

 

窓の外は静まり返った深い暗闇

 

今何時?

 

 

何故、陽乃さんがいるのですか?

 

しかも……寝ている俺に股がって。

 

 

 

 

............これ何てエロゲー?

 

 

 

 

 

 

叫び出したい衝動を必死に押さえる。

 

これが、単なる、よくある18歳以上しかしてはいけないゲームならどんなに良かっただろう。

 

布団越しに伝わる重み

広がる、頭が痺れるような香り

聞こえる微かな吐息

 

 

俺の五感が、人としての衝動に突き動かされる

 

しかし、それ以上にこの異常な状況を処理しきれない俺の内なる化け物がかつて彼女に称された理性が圧倒的に恐怖している。

 

 

 

正直、メチャメチャ怖いって!!

恐怖が通れば衝動が引っ込みますよ!!

 

 

「不法侵入は頂けませんが......、今すぐ帰るなら、単なる夜の夢として忘れますよ」

 

「小町ちゃんから『いつでも』遊びに来ていいって言われているからね~」

 

「いえいえ、そんな虚言を言われても。さすがに大声出しますよ」

 

「やってみたら?」

 

 

満面の笑みを受かべる陽乃さん。

その笑顔の下にあるものはあざとい後輩とは比べものにならない。

 

 

→大声で叫ぶ

 

→親や小町が来る

 

→俺のベットに見た目完璧の女性

 

→「彼は悪くないんです……」と涙ぐむ着衣が乱れた魔王

 

→八幡、死亡

 

 

うん、この世の中から冤罪ってなくならないYO!

それでも俺はやっていない!!

 

 

 

「用件は……何ですか?」

 

「さっすが~、比企谷くんは察しが良くて助かるよ」

 

「いえ、早く終らせて寝たいだけですよ。俺一日八時間は寝ないとだめなので」

 

はちまんなだけに。

 

 

 

 

 

「奉仕部への依頼、まだ終わって無いから」

 

 

 

はい?

 

 

 

「付き合って欲しい場所があるの」

 

 

 

はい?

 

 

 

「そう、だから迎えに来ちゃった!」

 

人差し指を上にピンと上げて、得意気に言う陽乃さん。

 

 

 

いやいやいやいやいやいや!!おかしいでしょ!!

思考が全力で逃げ出す方法を模索する。

 

 

 

「何か嫌そうな顔してるな~」

 

その人差し指をそのまま俺に向けて言う。

 

 

「嫌ならいいよ、他の子達に頼むからー」

 

そう言ってその指を1本ずつ挙げていく

 

 

 

「後輩ちゃんとかー」

 

怖じ気付く一色

 

 

 

「ガハマちゃんとかー」

 

気遣う由比ヶ浜

 

 

 

「そしてー」

 

 

「可愛い雪乃ちゃんー」

 

目を伏せる雪ノ下

 

 

 

「比企谷くんは誰に代わって欲しい?」

 

 

そう言って、3本挙げた指を別の手で握りしめる魔王。

 

 

そんな分かりやすい挑発にも、今の俺には為す術が無い。しかしあの部屋から二度と紅茶の香りを消す訳には......

 

 

 

すまない......。

 

 

 

ここにはいない誰かに謝る。

単なる村人である俺には魔王には敵わない。

 

が、俺一人がー

 

 

 

「お望みのまま、お供しますよ、魔王様」

 

 

口から出たのはそんな些細な皮肉

 

 

 

「付いてこれるといいね」

 

 

 

陽乃さんはただ静かに、とても嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。