やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その23 俺と魔王と月夜の告白

 

月夜の下

運河の街で奏でられるオーケストラ

彩られる水の魔法

頬にあたる冷たいしぶき

 

昔やったRPGのゲームのオープニングを思い出す。

あの頃は今から始まる冒険に心躍り、魔王を倒す旅に出る勇者に自分を重ねていた。

 

いつ知ったのだろうか

自分が勇者になれないことを

倒すべき魔王がいないことを

 

しかし、

今俺の目の前に一人の魔王がいる。

 

俺を不安にさせ

俺が得た場所を侵食し

時には惑わし

時には脅し

時には問うて

俺の信念を揺さぶる

 

扇上に広がる水のカーテンを背に陽乃さんの表情は伺い知れない。

 

勇者でもない凡庸の自分が近づくのも気が引けてしまうが…

 

魔王が操る水の魔法はクライマックスを迎え出す。

 

そして俺は一歩踏み出す。

 

「比企谷くんはいつも余計な事を言わないよね」

 

俺は一歩踏み出す。

 

「比企谷くんはいつも怯えているね」

 

俺は一歩踏み出す。

 

「比企谷くんはいつも面白いね」

 

俺は一歩踏み出す。

 

 

「比企谷くんのそんなところが大好き」

 

魔王は世界の半分をくれるような挑発的な笑みを浮かべる。

 

 

俺は立ち止まる。

 

「比企谷くんはいつも本当のことは言わないよね」

 

俺は動けない。

 

「比企谷くんはいつも余計な事知っているよね」

 

俺は動けない。

 

「比企谷くんはいつもー

 

            誰を見ているの?」

 

 

俺はー

 

 

「比企谷くんのそんなところが大嫌い」

 

いつの間にか水の魔法は終わっていた。

辺りはいつもの喧騒を取り戻し、明るい照明の残滓が残る。

 

「初めてだね」

 

「同時なのは」

 

魔王は月夜を見上げ言う。

 

「ねえ、比企谷くん?」

 

魔王が語り掛ける。

 

「どうしたらいいかな?」

 

俺はただ立ち尽くしている。

 

「どうして欲しいかな?」

 

勇者にはなれないから…

 

「どうしてあげようか?」

 

足がすくんで声も出ない。

自分でも理解できない感情が体を縛っている。

 

「とりあえずー」

 

いつの間にかマイクを取り出す陽乃さん。

 

はい?マイク?

 

はーと息を大きく吸うと、

 

「紳士淑女のみなさーーーーん!!!!注目でーーーーす!!!」

 

大音量がイベントスペースに響き渡り、行きかう人々が足を止める。

 

「今から、彼が私に告白してくれまーーす!!」

 

はい?

 

「私からは告白済みで返事待ちでーーーす!!」

 

はい?

 

辺りがガヤガヤしだして人が集まりだす。

あっという間にイベントスペースは見物人に埋め尽くされた。

 

何が起こっているの?

ハチマンわかんない……

 

「ちなみに彼の名前は八幡で、私は陽乃でーす」

 

見物人が騒ぎ出す。

 

「何々?」「なんか告白するって」「あの子可愛いか~」

「彼氏イマイチやね~」「またせんな~」

「はよせんかー!」「男ならシャキッとせんかー」

「はちまん君しっかり」「若いね~」「イベントがなんか?」

「リア充め…うらやましい~」「キスしろ、キス!」

「がんばれ~」「可愛いね」「あの子モデルかなんか?」

 

おいおいおいおいおいおいおい!

なんか逃げ場が無いし、注目されている。

 

「早く返事しろよ~」「なんか彼女さんもったいな~い」

 

上階からも見下ろされている。

なんだよこの公開処刑!!

 

当の魔王は楽しそうに腕を後ろに組んで、いかにも待ってます

アピールをしている。

 

「はい!」

 

とマイクを渡される。

 

急に辺りがシンとなる。

えっ、逆にビビるんで止めて下さいよ。

みなさん何マジになっているのですか?

写メとか取らないで下さい。

 

ものすごい視線と重圧。

 

逃げ出したい!!

 

「比企谷くんならわ・か・るでしょ?」

 

とホテルの方を指さす陽乃さん。

 

 

×××××

 

 

「随分体を張らせる割引サービスなのですね。九州はこういうの流行りなのですか?」

 

「さあ?面白いからいいんじゃない?」

 

「面白いって……」

 

「公衆の面前で告白って、本当の公開処刑ですよ」

 

「演技とはいえ、また俺の黒歴史が増えました」

 

「顔真っ赤で可愛かったよ」

 

「誰だってあの状況では…」

 

「今度は比企谷くんからして欲しいな」

 

俺の口に人差し指を当てながら蠱惑的に陽乃さんは言う。

 

 

 

「練習になったでしょ?」

 

 

 

 

 

 


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