やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その24 俺と魔王と夜の戯れ

 

「それはそうと当たり前のようにいらっしゃいますがここ俺の部屋ですよね?」

 

「部屋代は私が出してるよ」

 

「くっ、割引には協力しましたよ」

 

「私のお膳立てでね」

 

「……」

 

「なんか、私たちに続いて何組か告白してたようだね~」

 

 

「割引目的の演技だって告白したいですね」

 

「ホテルのイベントとして盛り上がってたから良いんじゃない?担当の人から感謝されたし」

 

「まあ、筋は通るようですが」

 

「こうでもしないとね~」

 

ニヤ~とした笑顔で俺を見る陽乃さん。だ

から怖いですって。

 

「ところで今何時か知ってる?」

 

「22時すぎですね。心労で疲れましたから早く寝たいです。」

 

「私はまだ眠くないんだよね~」

 

なぜか距離を詰める陽乃さん。

 

「ねえ、お姉さんとスッキリすることしようか?」

 

ハンターの目で俺を下から見上げる。

 

部屋のベットに二人で並んで腰かけている。

思わず唾を呑み込んでしまう。

 

「ス、スッキリ…って」

 

ベットのシーツを思わず握ってしまう。

生地はとても滑らかだ。

 

「身体も疲れた方が良く寝れるよ~」

 

「……」

 

ゴォーと部屋の空調の音が響く。

 

 

「しようか?」

 

 

「……何をですか?」

 

「何だと思う?」

 

魔王は何やら不穏な気配を発している。

 

まずい。

ともかくまずい!

落ち着け、落ち着け八幡!

ビークール!野蛮になるな!

 

魔王はまんまるな目で俺の顔を見上げている。

獲物を仕留めたハンターのように。

 

 

 

「そうですね…、やはりー」

 

 

 

××××

 

 

 

「気ーがー狂いそう~♪」

 

マイクを持って絶叫している陽乃さん。選曲が青春系ロックとは以外ですね。

男性ボーカルだったが、この間バイクで旅する女の子達も歌っていたような…。

 

ホテルの前にあるカラオケで魔王のオンステージに聞き入る。

 

 

スッキリすることってカラオケですよ。魔王の戯れ言に激しく同様して真っ赤になった自分、バーカ、バーカ!うわぁぁぁ!ハチマンだって10代の健全な男の子だから仕方ないんだ!こんなキレイなお姉さんにあんなセリフ言われたら、うわぁぁぁ!

 

「どうしたの?頭抱えて?」

 

「いえ、大丈夫です。間違っていますが問題ありません」

 

「ふーん、いつも面白いね君は」

 

 

面白い、と俺を評した陽乃さん。その後につづいた言葉を思い出す。

 

ー大好き

 

目の前のウーロン茶を飲み干す。

割引のための演技だと、勘違いするなと自分を戒める。

 

中々顔の火照りが直らない…。空調が効いてないのだろうか?

 

「比企谷くん、歌わないの?」

 

歌い終わった陽乃さんが隣に座って言う。このカラオケルームはなぜかステージ付きの所謂パーティールームだ。30人くらい入るやつ。

 

そこになぜか俺と陽乃さん二人で利用している。

 

カラオケの受付の際、パーティールーム利用予定の団体客が直前でキャンセルしたらしく、揉めていたところを陽乃さんが上手く入り込み、なぜか格安でこの部屋を利用できるようになった。交渉上手すぎでしょう、この人。

 

 

「えーと、考え中なのでお先どうぞ」

 

ぼっちスキルを発動する。

 

「なら私が入れてあげるね~」

 

つ、通じない…だと…?

 

なんか冬なのに夏っぽいイントロが流れ出す。

 

「お姉さんと一緒に歌おう~」

 

リア充の曲は苦手なのですが、さすがにこれは知っている。

 

「まあ…、いいですけど…」

 

駐車場の猫があくびをする映像を見ながら思い切って歌ってみる。しかし、なんかこう、陽乃さんは乗せるのが上手いな…。

 

カラオケで誰かと歌おうとして選曲したのに結局一人で歌ったことを思い出す。皆の冷たい視線が今でも目に浮かぶ。

 

あの頃の俺が今の俺を見たらどう思うだろうか?

 

 

歌い終わって喉が乾いたので目の前のウーロン茶を半分ほど飲む。陽乃さんが再度注文してくれていたようだ。

 

「良かったよ~、上手いじゃない」

 

「お世辞はけっこうですよ」

 

しかし、パーティールームなのに、なぜすぐ隣に座っているのですか魔王さん?

 

すごく近いです……。

 

「私はお世辞は言わないよ」

 

目の前でいつもの不敵な顔でそう言う。気恥ずかしくて目のまえのコップを飲み干す。

 

「次は私が歌うね~」

 

なんだかとても落ち着かない。

 

デネブ、アルタイル、ベガ、夏の大三角形を指さす映像が流れる。ひとりぼっちの織姫様が寂しそうだ。

 

オンステージの陽乃さんを見てお団子頭の彼女の真剣な眼差しが重なる。

 

曲が終わり、俺は呆然と陽乃さんを見つめていた。

 

「どうしたの?おかしかった?」

 

「いえ…、とても上手でした、聞き入ってましたよ。好きな曲でしたから」

 

「知ってるよ」

 

「え?」

 

「いつも読んでた本のアニメの主題歌でしょ?」

 

「…そうですね」

 

「だから知ってるよ」

 

そう言ってあざとく微笑みかける陽乃さん。

 

不覚にも顔が赤くなる。目の前のウーロン茶を飲んでもどういう訳か喉の渇きが癒えない。

 

「おかわり頼んどくね~」

 

それから何曲か陽乃さんと一緒に歌う。昔流行った新世紀ものとか、あきらかに俺に選曲を合わせつつも、ポップスで俺にも歌えそうな曲を選んでくれている。

 

案外面倒見が良い人なのでは?と思ってしまう。

 

歌い終わってシートに座る。

 

さすがに疲れたようで眠くなってきた…。

あたまが…重い。

さっきから思考…が…とぎ…れて。

 

陽乃さんが…歌っているが…

 

 

 

そこまでは覚えていた。

 

 


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