誰だって自分が大好きだ。
汝隣人を愛せよと言っても、結局は自分あっての他人である。
それは当たり前で、なにも悪くは無い。
ぼっちの俺でも
リア充の彼氏、彼女達でも
ありとあらゆる人たちがみんなそうだ。
だから人は間違えるし、すれ違う。
それはごく当たり前の共同条理の原理だろう
俺は自分が好きだ。
そこそこのスペックもあるし、可愛い妹もいる。
ぼっちで落ち着いた平穏無垢な日々も愛している。
あー、マジでぼっち最高!
なのだが……。
彼女と接していると
自分が分からなくなる。
ニヒリズムを気取って、
わが身を犠牲にして
理由を他人に求める
それでいて、結局は自分が一番大事。
彼女の眩しさに自分の醜くさが嫌でも映し出されてしまう。
それは、今まで、俺が認めてきた俺では無い。
もっと、仄暗くて、底が見えない、見てはいけない何か
俺は
俺はこんな自分を、果たしてー
「俺は俺を肯定……できるのか……?」
「はいはい、かっくいー。なんの漫画それ?」
「俺のセリフ全部漫画なのかよ」
「違うの?お兄ちゃん?」
「違わないが……」
リビングから外を見ると薄暗い雲の元、陰鬱な雨が降り注ぐ。
「お兄ちゃんの目みたいな空だね~」
こたつに入りながら小町がしみじみと言う。
「外に出ても良いことは無い。おうち最高って伝えてんだぜ」
「はいはい、よかたねー」
小町に抱かれたカマクラがニャーと暴れている。
と、こたつの上でスマホが揺れる音がする。
着信音がしているとなると小町のだろう。
小町がスマホをいじりだす。カマクラはその隙に抜け出し、
何故か俺にしてやったり顔でリビングを去っていく。
テレビでは与党が野党がといったニュースが流れている。
ぼっち党ってできないかな…。
ぼっちによるぼっちのための政治。
誰も傷つかない素晴らしい世界ができそうだ。
プロぼっちである俺が立ち上げればいいのか?
「お兄ちゃんぼっちだから支持率集められないよ…」
え?口から出てたのか…。お兄ちゃんは野望を聞かれて恥ずかしいよ。
「そんな、下らない妄想よりさ~」
妄想って…、ばっさり切りますね、小町ちゃん…。
「小町なんか無性にポテチ食べたくなったんだよ。お兄ちゃん買ってきて~」
「あん?ポテチ?確か買い置きがあっただろう?」
「ん?それじゃなくて、新発売のやつ、この間お兄ちゃんと行ったロー〇ンで見たやつだよ」
「ああ、あれか。まあ、たまには雨の散歩も悪くないな。一緒に行くか?」
「お兄ちゃん行ってきて~。小町は留守番してるから。近くのロー○ンだよ。間違えないでね」
「はいはい。全く、仕方ねえな…」
××××
しとしとと降る雨を潜り抜けながらコンビニを目指す。
雨は嫌いでない。
傘を差せば周りの人の顔を見なくていいし、自分も見られない。
冬の雨に体は底冷えしながらも日常をほんの忘れさせてくれる雨に少しだけ心が躍る。
そんな小さな冒険も10分程度で終わる。
俺にはこのくらいで丁度良い。
俺は…冒険者では無いのだから。
コンビニで目当てのポテチを購入して、なんとなく雑誌コーナーを見ると。
「奇遇だね~」
立ち読みしていた陽乃さんがそこにいた。
俺が呆然としていると、本を置いて俺の方にやって来る。
「こんにちは、八幡」
そう言って屈託無く笑う陽乃さん。
どうやら雨の日の小さな冒険は大魔境への冒険に変貌したようだ
××××
陽乃さんと冬の雨を行く。
何故か相合い傘で……。
「傘盗まれちゃったー」と言って陽乃さんは俺の傘に入ってきた。
一人用のビニール傘なので必然的に距離が近くなる。
ちなみにコンビニの傘立てに女性ものの傘があったような気がしたのだが…。
陽乃さんが濡れないように傘を持っていると俺の肩が少し濡れるが仕方ない。
「肩濡れてるよ」
と言って陽乃さんが俺の腕に抱き着いてきた。
!!!
思わず傘を落としそうになる。
「いや、あの、その……」
「だって、八幡が濡れるの嫌だもん」
そう言ってにんまり笑う陽乃さん。
そんな笑顔されると何も言えませんよ。
陽乃さんの体温を感じながら、しばらく雨音に聞き入る。
「合わせてくれるんだね」
「え?」
「足並み。けっこう難しいんだよね。こうやって一緒に歩くの?」
「まあ、小町とたまに歩きますから」
「ガハマちゃんとじゃなくて?カラオケの帰りとかに?」
止まった思考の間に、仄暗い雲から降り注ぐ雨が入り込む。
「俺が腕を組む相手は小町ぐらいですよ…」
「本当かな~」
そう言って俺の頬を指で付いてくる。
とてもくすぐったい。
「生徒会長ちゃんとかは~?」
「あいつは俺に荷物持ちさせるくらいですよ」
なんか尋問を受けている気分になって来た。
なんとか話題を変えたい。
「そういえば一色の依頼どうしましょうか?」
「え?」
珍しく驚いた顔をしている陽乃さん。
「いや、その、うちの部の一応一員ですから、依頼の内容を相談しようかと…」
「ああ、そうだね~。『在校生が盛り上がるイベント』だったね!」
「そうです。俺はそういうイエーイ的なイベントは苦手なので…」
「う~ん、大学だと多いけどねその手のイベント。でも高校生となると…」
陽乃さんは友だち多いだろうからそういうイベントは慣れているだろうな…。
今回の依頼では、とても助かる存在なのかもしれない。
「みんなで勉強会でもすればいいんじゃないですか?学生らしく」
「八幡の苦手な勉強なら私が教えてあげるよ~」
「それはそれでありがたいですが…」
どうもやりづらい…。
あいつらと違って、俺の意見を否定しない上に普通に返してくれる。普段は否定されるのが前提だから、肯定されることにどうも慣れない。
「大学のキャンパス見学とかどうかな?」
「在校生は進路選択の参考になるし今後の勉強のカンフル剤ですかね。3年生は受験が終わっているから大学生活の下見って所で」
「う~ん、そんなに固く考えなくてもサークル見学だけにして友達と行く気軽なものでいいんじゃないかな?進路に参考にするようなちゃんとしたものなら別に行くでしょうし」
「なるほど」
友達のいない俺には無い発想だ。
確かにそれなら気軽なに参加できそうだな。
「とても良いアイデアだと思いますよ。さっそく今度の部活で雪ノ下に相談しましょう」
「雪乃ちゃんも賛成するかな?」
「まあ、あいつは何だかんだで合理的ですからね」
「そうだね。ちょっと強情だけどね…」
そう言って目を少し伏せる陽乃さん。
「それにしても大学のキャンパスライフってとても自由そうですね…」
特に、深く考えず『大学』のイメージを口に出す。
授業とか自分で決めれて、基本的に単位取れば良いのだから、
ぼっちでも問題無い。まさにフリーダム!
「自由か…」
陽乃さんの声が重くなる。
思わず、顔色を伺ってしまう。
その顔はただまっすぐ前を見据えていた。
「自由ってなんだろうねーー」
そう言った彼女の声はとても遠く、仄暗い空と雨が重くのしかかる。
…。
……。
不安な沈黙がしばし続くがー
「雨の日に傘をささずに踊る人がいてもいい」
果ての見えない空を見上げて俺は言う。
それに対して陽乃さんは目をまん丸にして
「ゲーテか…比企谷くんさすが文系だね」
うっ、元ネタゲーテだったのか…。恥ずかしいよ~。
黒服スーツの交渉人のセリフと思ってました!
「自由ってそんなもんでしょ?」
動揺を悟られまいと強気に俺は言う。
「あはは、君はいつだって面白いね」
「それなら俺はクラスの人気者にー
俺が言い終わる前に陽乃さんは傘を空中に放り投げる。
「踊ろうか?」
そう言っていったん距離を取り、恭しく手を差し伸べてくる。
冬の雨粒の冷たさを感じながらも目の間の出来事から目が離せない。
雨の中、傘を差さず微笑む彼女はとてもーー
××××
「隊長!シャーって言ってますよ!突撃しますか?」
「いや、シャワー浴びているだけだろ?身内から犯罪者出したいのか?」
「お兄ちゃん、テンション低いね~、普通ならこの辺りでラッキースケベが発動するはずなんだけどな~。お兄ちゃんレベルが低いんじゃないのかな?」
「それは違うお兄ちゃんだからね?それに俺のお兄ちゃんレベルは小町にしか向いてないからな」
「そんな、ドヤ顔で言われても…。それはそれでポイント高いけど、マイナスポイントも付いちゃってるよ」
「マイナスか…俺もついに13組に…」
「お兄ちゃんはマイナスでもスペシャルでも普通でも無くてぼっちなだけでしょう?」
「スキルはオールぼっちだな」
「それただのぼっちだから…」
「とりあえず小町は陽乃さんに着替えを持って行くよ」
「頼んだ」
冬の雨は容赦無く俺たちの体温を奪い、俺の家で暖を取ることになった。帰るなり、小町は陽乃さんにシャワーを案内し、俺は着替えで済ます。
手持ぶさたになった俺は、マッカンで体を暖めながら
何となくテレビを見る。
『今どきのステキ女子大生特集!!』
何人かの女子大生が取材を受け、ファッションやグルメ、恋バナの
取材で盛り上がっている。ぼっちには関係無い遠い世界の出来事だ。
しかし、出てきた何人かの女子大よりも、彼女の方がはるかにー
「シャワーありがとう~」
陽乃さんがリビングに入ってくる。
が、その姿は
ワ イ シ ャ ツ のみ!!
「な、なんて格好ですか!」
「ん~?小町ちゃんが用意してくれたんだよ~」
小町……それはやり過ぎだろ…。例えそれが男子の憧れでも
いや、それよりも
その下は、はいてるんですか?
それとも、はいてないんですか?
……それが問題だ!
「いや、その寒いでしょうから。他の服取ってきますよ」
そう言って立ち上がろうとすると
「大丈夫だよ、こたつ入るから」
と俺の隣ぴったりに座る。
冬炬燵 ワイシャツ1枚 魔王危険!(字余り)
おかしいな?俺の自宅のリビングが亜空間になっている。
そういえば小町はどこにー
と俺のスマホが振動する。
『小町、立ち読みしたい雑誌があったのでコンビニ行きます。その雑誌は駅前のコンビニしか無いからちょっと時間かかるかもです。ちなみに陽乃さんの服は乾燥中!乾くまでちゃんとくつろいでもらってね!』
なんで?
なんだか急に熱くなるのを感じる。小町が暖房を強くしてくれたのだろう。
「あの…、寒くありませんか…」
おずおずと陽乃さんに質問する。
「大丈夫だよ。十分に温かいから…」
そういって俺の肩に頭を預けてくる陽乃さん。
思わず体が硬直してしまう。
シャワー上がりで湿り気を帯びた艶のある髪。
細い首からキレイな鎖骨のライン。
窮屈そうなシャツの胸元には視線は合わせられない。
思わず唾を飲む。
肩にのしかかる重みを感じながら、リビングにはテレビの音だけが静かに続いている。
自分の心音が聞こえそうなくらい動悸が激しいことに気が付く。
視線はテレビの画面を見ても内容が全く認識できない。
だめだ、このままでは八幡のHPが無くなってしまう!というかもうレッドです!
が、
気が付くと、隣から微かな寝息が聞こえる。
ま お う は ね む っ て い る
なぜかほっとする俺ガイル!
が、
逆に、寄りかかられた状態で全く動けない。
俺は、そのまま悟りを開けるぐらい心を無にして
小町の帰りをひたすら待つこととなった。