キャンパスライフと聞いて、普通は何を想像するだろうか?
自由?
輝き?
青春?
モラトリアム?
リア充?
社会に出る前の最後の自由時間として設定されているこの期間に人生を謳歌したもの多いはずだ。ほとんどの人は前向きな印象を抱くはずだろう。
中には俺のようにぼっちの人もいるかもしれない。しかし中学や高校といった制限の多い時期よりも多かれ少なかれ「自由」であるはずだろう。
なら彼女はなぜその「自由」に対してあんな目をしたのだろうか
いつか見た遠い遠い
確かなものなど何もないような
俺を不安にさせる目をー
××××
吐いた白い息が空に吸い込まれる快晴のある日、某千葉を代表する大学のキャンパス内を歩く。
休日まで仕事とはまじで社畜根性が付いて来たのかもしれない。やはり俺は両親の遺伝子を引き継いでいるのか…。
「先輩~何ぶつくさ言ってるんですか~キモいですよー」
隣を歩く一色が笑顔で言ってくる。止めて、笑顔の方がダメージ大きいからね?
「確かにヒッキーキモいよ~」
「良い天気だから頭がやられたのかしら?」
由比ヶ浜が雪ノ下に腕に抱き着き、雪ノ下も照れながら一緒に歩いている。
今日もレッツユリユリですね。俺はシャベルで殴られる役かな…。
「いや、キャンパスのリア充酔いをしていたところだ…」
「ヒッキー気分悪いの大丈夫?どこか座った方が!」
「それは、人酔いしたということかしら?」
いやいや、リアルに心配すんなよ。なんか悪い気分になるだろう。二人に大丈夫アピールをするとほっとする顔をされる。
「そんなことより先輩、前見て下さいよ~」
一色が俺らの集団を先導する陽乃さんを指差す。
「はるの~今日コンパ行かない~」
「雪ノ下さん今度も助っ人よろしくお願いします!」
「ところでこの間の件だけどね~」
「後ろの子達は後輩?」
「この間ありがとう!今度お礼するね!」
さっきから大学生数人に囲まれずっと話しかけられている陽乃さん。聖徳太子ですかってレベル。何みんな友達なの?
友人交流の多い一色でもびびっているから相当なレベルなのだろう。ぼっちの俺ではそもそものレベルが違いすぎてその差が今いち分からない。
「陽乃さんなんかすごいね」
「姉さんは相変わらずね。大学にファンクラブあるらしいわ」
「ファンクラブって!それってアイドルだよ!」
なんだよファンクラブって。それまんまス○ールアイドルじゃん!俺はモブとして豪雪の日に雪かきすればいいのか?
「すごいですね、はるさん先輩。みんなに自分をアピールしつつ、公平に接していますし、女性からも人気あるみたいですね。アイドルと言うよりはリーダーや政治家のようなカリスマ性ですよ」
冷静な分析ありがとうございます。
スライムの俺からすると一色と陽乃さんはキラーマシーンとバラモスくらいの差だろうか?
今回のイベントの目玉はサークル見学だ。
本来なら講義見学やカリキュラム説明等がメインになるだろうが、息抜きが趣旨のイベントならこんなもんだろう。いくつかの主なサークルをリストして事前に選んでもらい、各人で見学に行ってもらうようにした。
「この方が雰囲気を体感できるよ」という陽乃さんの鶴の一声に誰も反論は無かった。
しかし、サークルなんかいかにもリア充の巣窟だろうな…。
正直あまり関わりたくない。
「ゆきのんはどのサークル見る?」
「私達は運営側だから、見回りしないと」
「そ、そうか~。」
残念そうにする由比ヶ浜。
「別に、いいんじゃないか?自由行動みたいなもんだし、集合時間決めてるから問題無いだろう。おまえらは好きに見ればいい」
「ヒッキーはどうするの?」
「俺は見たいサークルは無い。というかあんなイエーイ的な雰囲気は無理。なんなら今すぐ帰りたいまでである」
「世の中には帰宅部ってあるらしいからあなたにはぴったりかもね」
「そうだな。部長になれそうだ」
何その素敵な部活。今からでも入りたい!ってか昔からそうでした…。
「それサークル違うから!というかそれ帰ってるだけだからね!」
「先輩~、何サボろうとしているんですか~?ちゃんと働いて下さいよ」
一色さん笑顔が怖いです。
「なら俺は適当に見回りしてるから、おまえらは行ってこい」
「でも、ヒッキーも一緒に…」
「俺はいいから」
由比ヶ浜に向き直って諭すように言う。
「だーめーですよ~、先輩目を離すとすぐさぼりますから」
「今日は私達で監視します」
一色からいつものあざとさも無くただまっすぐな瞳で言われ、思わずたじろいでしまう。
「は、はい…ってか何なんだよ…」
「だってヒッキー最近…」
「そうね。部員の管理も部長の仕事だし」
三人から一斉に見られる。
あれ?俺何か悪いことしたのか?
「隼人くんはどのサークルにすんの?」
少し離れたところから戸部の陽気な声が聞こえる。
「そうだな、サッカー関係とTOEIC勉強会にも興味あるな。ただそれより先にみんなの見たいやつから行こうか。優美子はどれに行きたい?」
「えっ?あっ、あーしテニスサークル見たいんだけど…」
「じゃあ、テニスサークルから行こうか」
「そうすんべ~」
「あ、ありがとう隼人」
あっ、なんかもじもじしているあーしさん。
誰あの可愛い女の子?おらびっくりしたぞ!
しかし、あいつらなんか雰囲気変わったな…。
「なんか、前より仲いいなあいつら…」
独り言のように呟いたのだが、由比ヶ浜が俺に近づいて来て、顔を近づけてこっそり話す。
「そうだね。やっぱりこの間のバレンタインからだと思う…。隼人君が周りに特に優美子に対してなんか前と違うというか、柔らかくなったっていうか…」
くすぐったさを感じるが…、そうか、一色に気を使っているのか。さすがだな。
「そうなんですよね~、最近葉山先輩雰囲気変わったんですよね~。私のチョコもあっさり受け取ってくれましたし。先輩の試食の効果は関係無いかもですね~」
一色がいつの間にか俺らの後ろに回り込んで、話しかけてくる。
効果無くてすいませんね…。
ふと雪ノ下を見ると葉山の方を怪訝な顔で見つめていたが、俺と目が合うと目をそらしてそっぽ向いてしまった。一体何だよ…。
「まあ、仲いいんならそれに越したことはないだろう」
「先輩~どっちの味方なんですか~?私の責任取ってくれないんですか~?」
いや、その言い方はなんかまずいから止めて欲しい。
「八幡は何の責任を取るのかな~?」
いつの間にか陽乃さんが俺の目の前まで来ていた。
しかし陽乃さん今日の服装はなんか、その、あれでですね…。ネットで「モテない男子が女子に着て欲しい憧れの服」みたいな服というか。あざといとかそういう第一位的なベクトルも圧倒的に殺されそうな幻想を秘めていますよ。だめだ自分でも何言っているか訳分からない…。
そんな服装で後ろに手を組んで笑う魔王に
背筋に緊張が走りながらも、目が離せなくなる。