やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その36 俺と魔王と妹違い

「その特徴的な天を突く御髪はもしや八幡ではないか?」

 

 

その声に我に帰る。

 

 

「もしかして材木座か…?」

 

「確かに我だ!!よかった~八幡で。他人だったらへこむところだった~」

 

俺は立ち上がり、扉の上に顔を少しだして材木座の姿を確認する。

気のせいか学校と同じような服装だが。

 

 

「勇気あるのか、無いのかどっちだよ…」

 

「うむ?しかしここは忌まわしきカップル席ではないか?」

 

しまったな。

何となく今の状況を他のやつに見られたくない。

よりによってこいつとは…。

 

「さては八幡よ、あの妹君とおるのだな!」

 

材木座は特に意味も無く俺を「異議あり!」的に指差す。

いいから近寄らないでくれ…。

 

「…ああ、そうだよ。妹が読みたい漫画があるっていうから付き合ってんだよ」

 

自然と話を合わせることができた。

違和感は無いはずだ。

 

 

「ほお~、良き兄をしているではないか八幡よ!ちなみにこの漫画なんかおすすめだぞ!」

 

羽のついたリュックを背負ったネコ耳帽子でピンク髪の女の子が表紙の漫画を掲げ上げる材木座。

 

「今すぐゾン○に食われろ」

 

「すまん、児戯が過ぎたな」

 

本当だよ!笑えない冗談だ!!

めぐ姉は俺らの心の中にいるんだよ!

 

「まあ家族水入らずを邪魔しては無粋と言うもの。よってさらばだ!」

 

意外に律儀なところがあるな…、いつも面倒なのに。

まあいい、おかげで思考が一旦リセットできた。

 

「また今度な」

 

 

「約束の地で再開するのだ!八幡よ!」

 

そう言って颯爽と立ち去る材木座。

どこのカナンの地だよ。

 

 

とにかく勝手に勘違いしてくれたことにほっとする。

まあ、確かに俺がカップル席にいるとすれば小町とだろうな。

自分でもそう思う。

 

しかし今は

 

と陽乃さんを見返す。

 

「すいません、顔見知りがいたようで」

 

いろいろ気まずい。

なんか、その、あれだ。

冷静になるとそういう雰囲気だった。

 

陽乃さんは無言のままじっと俺を見つめて、ニコっと笑いながら、

 

 

「あの声は材木座くんだよね?お兄ちゃん!」

 

 

「は?」

 

「いつか打ち上げで一緒だったでしょ?八幡お兄ちゃんのお友達の」

 

「いや、別にあいつは友達という訳では…というか陽乃さん?」

 

「何?八幡お兄ちゃん?」

 

「いや、その、『お兄ちゃん』て…」

 

 

「だって八幡は今『妹』と一緒にいるんでしょ?材木座君にはそう言ったよね?」

 

 

……そう来たか。

 

何とも返答し難い問いを問われる。

別に回答は難しくない。

「余計な詮索をされたくないので嘘を付いた」で10人が10人言う回答になる。

 

が、それは誘導で、

「何が余計なのか?」と問われると10人の半分は返答に窮するだろう。

 

「一緒にいるところを見られて誤解をされたくなかった」

 

「一緒にいるところをを邪魔されたくなくなかったから」

 

「一緒にいるところを見られるのが照れくさかったから」

 

そんな回答の選択肢が思い浮かぶ。

 

別にこれは必ず選ばなくてはらないものでも無い。

当然頭痛に苛まれることも無く、空から女の子が降ってくることも無い。

 

選択には「選ばない」という選択肢もあるからだ。

 

なぜ唐突にこんなことを考えているかというと

陽乃さんの「お兄ちゃん」という時の目がいつかのハンターの目になっているからだ。

 

 

もしかして怒ってます?-

 

と口に出そうになるのを何とか抑える。

直接聞いてはいけない。きっといけない、ハチマンソレワカル…。

 

俺にとって『妹』は小町

唯一無二のアイデンティティとも言える。

当然「千葉の兄貴を舐めてるんですか?」

と言わなければならないところであるが…

 

相手は雪ノ下陽乃。

 

当然俺の返答も、さらにそれに対する返答と

追い詰め方もすでに構築済みだろう。

だってそういう顔してるんだもん。

ならばー

 

「そうだな陽乃。お前は妹だったな、よしよし」

 

そう言って陽乃さんの頭を撫でてみる。

半ばヤケである。

火中の栗を拾うようなものだ。

 

自分でも馬鹿なの?死ぬの?と言いたくなるが

中途半端に怒らすくらいなら、

いっそ思いっきりー

感情の燻りは後に引くからな。

 

調子にのらないでね~、とそう怒るはずだ。

ヘイト集めは十八番のはずだ。

 

 

 

 

が、

 

 

陽乃さんはぼんやり俺を見つめた後に

撫でている俺の手を取り自身の頬に当てる。

 

そしてそのまま目をつむり、

頬で俺の手にすりすりしてくる。

 

まるで人に甘える猫のように。

ゴロゴロという猫なで声が聞こえそうだ。

 

手には陽乃さんの僅かに熱い体温。

柔らかく吸い付きそうな肌の感触。

触れる髪がくすぐったい。

 

茫然とその姿を見る。

 

このまま撫でていたいー

ずっと、触っていたいー

そんな衝動が背中を駆ける。

 

こんな反撃は予想外で思考が追い付かない。

 

「あっ、あにょ」

 

言葉がまともに口から出やしない。

空調は効いているのか?なんだか息苦しい。

 

 

陽乃さんはゆっくりまぶたを開けて

甘える猫のような目で俺を見つめる。

 

人になつかない気高い猫が

選んだ人にだけ見せるような

そんな目をして、

 

 

「本当…妹なら良かったのにね…」

 

 

僅かに聞き取れる声でそう呟いた。

 

 

 

 

 

××××

 

 

 

 

 

「なあ、小町?お前妹で良かったことってあるか?」

 

「は?どったのお兄ちゃん?自分の生き様が恥ずかしくなったの?」

 

「おいおい、俺は生きざまを恥じてはいない。むしろ至高のぼっちなだけだ。つーか、なんでそうなる?」

 

「こんなゴミぃちゃんを抱えている小町を憐れんでいるのかと思って」

 

妹さえいればいい!と思っている時期が僕にもありました。

きっと「いい青春だった!」と言えたはずなのに。

 

「うーん、いろいろ面倒でゴミぃで鈍感でダメダメで面倒な兄がいる以外は別に普通かな~」

 

面倒が多くないですか小町さん?

 

「でも仮に姉でも変わらないんだろうね。ダメな弟ってだけで」

 

「そういうもんなのか?」

 

「でも」

 

「弟よりお兄ちゃんの方が小町はいいな」

 

「なんでだ?面倒なのは一緒だろ?」

 

「面倒なの認めるんだ…まあいいけど」

 

「小町的にポイント高い解答と思うけど」

 

 

「お兄ちゃんの方が甘えやすいでしょ?」

 

 

 


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