「まさか陽乃さんまでもが小町の義姉さん候補になるとは…」
「ごみぃちゃんが、せめて人間と認識してもらえるように、ファッションコーディネイト頑張るね!」
「やはりおれは遺伝子的に選ばれた存在になるのか…」
「お兄ちゃんの種は腐ってるから弾けないと思うよ」
「守りたい世界があったのに…」
「はいはい、かっくいー」
××××
昨日の夜交わした小町との会話を思い出す。
「比・企・谷・く・ん。デート中に違う女の子のこと考えるとは
お姉さん的にポイント低いかな~~」
魔王(雪ノ下陽乃)の発言により八幡は我に返った。
あなたの場合はポイント制というか地獄へのカウントダウンですね。メラゾーマが5発撃てますよ。
「そもそもデートでないでしょう、これ」
俺は飲みかけのコーヒーをテーブルに置いて言い返す。
「そんなつれないこと言うんだ~、ショックだな~」
テーブルを挟んで向かいに座る陽乃さんがいつもの強化外骨格マスクのまま言う。
いや、メソメソと泣く真似してもだめですよ。声が全く平淡で寒気しかしませんよ。
しかし、魔王さん……
今日は、ミニスカートに黒のニーソックスなのですね。
黒のニーソックスなのですね。
(黒のニーソックスは最高ですね。)
大事なことなんで2回?言いました。
雪ノ下(妹)も普段ニーソックスだが、なんか、こう、うん破壊力が違う……。
陽乃さんはどちらかというとシックな大人しい服装が多かったような気がする。(マスタードーナツの時とか)
薄いピンクのロングセーターでボディラインが分かりやすいというか……、姉妹なのにこんなに違うのか。
特に上半身が……。
陽乃さんは突然立ち上がり、移動しながら、
「言ったそばから、また違う女の子のことを考えてる。」
そう言って、俺と同じソファー(一人用)内に座る。
「ゆきのちゃんとかかな~?もしかして比較してた?ゆきのちゃん私より細いからね~」
いや、もう突っ込みませんよ……。
もう、肩とか、肘とか、腰とか、太ももとかに当たりまくってますから。
柔らかいし、温かいし、いい匂いが電流のように走るし、甘くて、苦くて目が回りそうです。南南西を目指してパーティを続けるの?
というか引っ付いてますよね?ゼロ距離やないですか?とっておきですか?
気のせいか、店内の他の客の視線を集めているような?
視線誘導なんかしていませんよ、課長!!
もはや飲んでいるコーヒーの味が甘いのかどうかすら分からない。
満開したわけでも無いのに……。
魔王は何か満足したようで、鼻歌を歌いながらコーヒを飲んでいる。この状態で?それに結構普通ですね。逃げようにも、ゼロ距離で、俺の足を魔王の足がロックしている。なぜか立ち上がれない。何の体術なのこれ?
仕方ないので、俺は読書を始める。とても内容が頭に入る気がしないが。少しでも意識を他のことに向けたかった。
赤い背表紙の本をカバンから取り出してページを開く。
「で?今日は妹ちゃんとそんなプレイを妄想してるんだ~。いやらしいね~。さすがにここでしてあげるのは難しいかな」
とびっきりの笑顔で俺の本を覗き込む魔王。
そして俺の耳元で囁く、
「後で薬局に買いに行く? 歯・ブ・ラ・シ」
本を閉じる俺。
魔王からは意識すら逃げられない……。