やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その44 俺と魔王と名もなきゲーム

「なんか最近お兄ちゃん外出多いよね?」

 

「ん~、まあいろいろあってな」

 

「雪乃さんや結衣さんとの付き合い?」

 

「まあそんなところだ。まったく人使いが荒い。本当に働きたくないもんだ」

 

「はいはいー。なんだかんだでお兄ちゃけっこう働きものだよね~」

 

「まあなんだ、最近は周りがいろいろうるさいからな」

 

「お兄ちゃんもかなりデレてきたかな~」

 

「なんにだよ」

 

「小町は楽しみだよ」

 

ららぽでの出来事の翌日であった。

 

いい加減休日が欲しいという俺の要求をなんとか応えてもらった。頼まないと休みすらもらえないとかどこのブラック企業だよ。俺のボッチのフリーダムは幻想だったのか?男女平等な説教パンチで壊されてしまったのだろうか?

 

小町は俺のお下がりのジャージの上にフリースを着ており、リビングのソファーで寝ころびながら足をバタバタさせている。

 

ちなみに小町は総武高に合格した。

兄として俺も肩の荷が下りた感じだ。素直に嬉しい。

 

あいつらも気にしていたみたいで合格をメールで知らせると身内の事のように喜んでくれた。小町だし何かお祝いをしようかと思ったら「お兄ちゃん達はもうすぐ期末テストだし、それが終わってからね。小町は友達といろいろ忙しいから」で、終いには「それよりお兄ちゃんはもうすぐホワイトデーでしょ?ちゃんと準備しないと!」と言われる始末である。

 

俺はホットマッカンを飲みながらテレビをただ眺め、チャンネルを適当に変えている。

 

芸能、政治、社会、経済ニュース、いつかやったドラマの再放送、バラエティ。どれも視覚には入るものの知覚には届かず、どうも調子が出ない。撮り溜めたアニメでも見ようとHDDレコーダーを起動させる。

 

「お兄ちゃんまたアニメ見るの?」

 

「ああ、小町も一緒に見るか?」

 

「ええ~お兄ちゃんの見るやつって獣耳の女の子か制服の女の子かロボットが出てくるやつでしょう?小町興味無いよ」

 

その3つで大半のアニメが分類されてしまうではないか…って、小町からそんなアニメばっかり見てると思われてんの俺。違うよ、お兄ちゃんはもっとワールドワイドに見てるよ。心がぴょんぴょんしてばかりではないんだよ?

 

 

「この間撮ったやつあったでしょう?あれにしようよ」

 

前に金曜ロー○ショーでやってたジ○リの新作のやつか。なんか日本で女の子で百合っぽいやつだったかな。個人的には紅○豚がいいんだか。かっこいいんじゃん!飛ぶんだぜ豚が!俺も見習おう。

 

飛べないぼっちはただの…どっちみちぼっちか。

 

 

そうしていると来客を伝える音が聞こえる。

 

 

「あれ?お兄ちゃん誰か来たみたいだよ?」

 

「配達かな?何か頼んでたっけ?」

 

 

 

 

××××

 

 

 

 

「小町は今日発売のどうしても読みたい雑誌があったので駅前の本屋さんまで行ってきます。ついでに買い物をしたいから夕方まで帰ってこないからね~。お兄ちゃんはお客様をちゃんとおもてなしするんだよ。来客用のお菓子は台所の棚の上の方。飲み物のカップはちゃんとしたのを出してね」

 

と言って玄関のドアが閉まる音がする。そんなに慌てて出ていかなくてもいいだろうに。なんか前にもこんなことがあったようななかったような…。

 

 

 

「えーと、コーヒーでいいですか?陽乃さん」

 

 

「うん、ありがとう」

 

陽乃さんはタートルネックにロングスカートと大人しめの恰好だった。

斜め向かいのソファーに座っている彼女を見る。会話は特に始まらずお互いにコーヒを飲む。心無しか今までと違い沈黙がほんの少し息苦しい。

 

 

そういえばテレビが付けっぱなしだったので消そうとチャンネルを取ると

 

「いいよ。八幡何か見てたんでしょ?一緒に見ようか」

 

「え、まあ、でもアニメですけど。この間テレビでやってたやつですが」

 

「いいよ」

 

そう言ってやさしい笑顔で俺に向き合う陽乃さん。

 

まあこの一般向けのアニメで良かった。

これが小町の言う通りのアニメだったら羞恥心でCDデビューできるまである。

 

こうして何故か魔王とのアニメ鑑賞会が始まった。

 

 

××××

 

 

小町とたまにドラマを見ると「この俳優が~」という小町ぺディアが始まり、それに俺が突っ込むと「またゴミぃ兄ちゃんはー」というやり取りが始まるものだ。

 

陽乃さんは食事の時もそうだがこういう時は喋らない畑の人のようなので鑑賞会は静かに過ぎる。

 

 

話は終盤に差し掛かる。

誰だよ百合アニメっぽいなんて言ったやつ!材木座だったけな?今度ぶっとばす!

 

普通にいい話じゃないか!!不覚にも最後の方で涙ぐんでしまった。これが青春系の実写映画だと人気イケメン俳優の顔が他のテレビ番組等でチラついてついリア充め!と感情移入ができなくなってしまう。素直に見入ることができるのがアニメのいいところだ。

 

まったく二次元は最高だぜ!!

 

主人公がぼっちというところに共感できるな。まあ最後はそうでもなさそうだが…。しかしこれ日本だけどどう見ても日本じゃないような。

 

エンドロールを流れ出したのでコーヒーのお代わりでも出そうかと陽乃さんの方を伺うと

 

 

 

 

「いいなこの子は、かまってもらってるだけで…」

 

 

 

いつかのドーナツ屋で聞いたような底冷えするゾッとした声で陽乃さんはつぶやく。そしてその顔は全くの無表情だった。

 

そのまま声もかけられず茫然としていると

 

「う~ん、終わったね~」

 

陽乃さん伸びをしながらいつもの笑顔で何事も無かったかのように話しかけてくる。前なら伸びをしたときに誘導される視線も今は反応しない。

 

「八幡はどうだった?」

 

「ええ、まあ普通に面白かったですよ」

 

「獣耳の女の子や制服姿の女の子やロボットが出てくるアニメじゃなくても?」

 

蠱惑的な微笑みを受かべてそう言う。

 

 

小町ーーーーーーーーーーーーーーー!!!

思いっきりしゃべってやがるなーーー!!!

 

その場で転げ回りたい衝動を必死に抑える俺ガイル!!!

 

「他のやつでもいいよ~」

 

と陽乃さんはレコーダーのリモコンを操作し始める。

録画内容は八幡のデリケートな所なのであまり見ないでいただきたい…。そういえばBPO(放送倫理・番組向上機構)に真っ向から喧嘩をふっかけたあの伝説のアニメはさすがにやばかったのですぐに消しといて良かった。ガガガ文庫のラノベは尖った作品が多いからな。ツインテールとか…。

 

 

「これ八幡が読んでた本の続きでしょ?」

 

 

真っ黒な瞳の袖の長い制服姿の後輩女子と単なるリア充と化した元ぼっちの主人公が謎解きをする話が映し出される。

 

「まあ、そうですね」

 

「これ見ようよ。私も見てみたいし」

 

「別にかまいませんが…」

 

 

休日の自宅のリビングに年上の綺麗なお姉さんとアニメ鑑賞会って驚きの展開のためか、微妙な違和感を俺はただ受け流していた。仮にそれにはっきり気が付いていたとして俺に何ができたのだろうか。

 

 

視覚しているアニメの内容が全く知覚できない。

相手の裏を、物事の裏を読み表を信じない俺でも彼女といるとどうも調子が出ない。

 

何が表で何が裏で

そもそも表や裏があるのか。

その行動にそもそも意味があるのだろうか。

 

考えた末に出る答えもなく。ただ今までの出来事が頭を過るだけ。

 

多分、考えても分からない。

きっと正解はないのだろう。

 

でも俺はー

 

 

「八幡、ひとつゲームをしようか?」

 

 

いつの間にか隣に移動してきた陽乃さんが俺を指さして言う。

テレビ画面では瞳が真っ黒の後輩女子が主人公に何かを言っている。

 

 

「ゲーム?ですか」

 

まさか闇のゲームですか?ずっと俺のターンだって展開は勘弁ですよ。

 

「そう。簡単なやつ」

 

その綺麗な唇が告げる。

 

 

 

「お互いにに質問するんだよ。

 

 『今相手が自分に聞きたがっていると思うこと』をね」

 

 

 

陽乃さんはその大きな瞳でじっと俺を見つめる。

口元はすでに笑ってない。

 

「き、聞きたがっていることって…」

 

鼻腔をくすぐる柑橘系の香りは俺の頭に靄のように広がる。

 

たがかすかに残った俺の中の理性の何かかが告げている。

 

 

 

ーその先はー

 

 

 

 

「まず私からね」

 

 

 

 

とても静かで澄んだ声で

 

 

 

 

ー聞いてはいけないー

 

 

 

 

泣いているような笑顔で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『雪ノ下陽乃は比企谷八幡を……求めているのか?』

 

 

 

 

 

彼女はそう言った。

 

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