やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その45 俺と魔王と理性の化物

 

俺は求めていたはずだ

 

形はなく

幻想のようで

手が届かない甘酸っぱい葡萄のような

概念だけの存在を

 

そしてただ望んでいた

 

探し求めることが

手を伸ばすことが

信じ続けることが

 

そこにたどり着く唯一の手掛かりだと

そしてそれを共に求めることができたらと

 

しかし

 

その過程が間違っているとしたら

手段と目的がそもそもお互いを成り立たせてないなら

 

 

求めることを

ただ願い焦がれても

 

求められることに

ただすがることができるだろうか

 

それはー

 

 

 

 

「次は八幡の番だよ」

 

その綺麗な声はただ穏やかに俺を促す。

 

「こ、このゲームは」

 

震えながら辛うじて声を出す。

 

「勝敗は…どうやってつけるんですか?」

 

滑稽なのは分かっている。単なる回り道なのも。でも敢えて確認せざるを得ない。既に勝敗は無いことは分かっていても。

 

「簡単だよ。より相手を納得させた方の勝ち」

 

「そんな曖昧な…」

 

「そんなもんじゃないかな?はっきりする事の方が少ないんだよ」

 

陽乃さんは人差し指を自身の唇に当てそれをそのまま俺の唇にゆっくりと当てる。あまりの自然な動作に全く反応できなかった。

 

「な、なにを…」

 

「聞かせてくれないかな?私の八幡に対する質問を」

 

 

「私が八幡に聞きたがっていることを」

 

 

「私に納得させてくれないかな?」

 

 

頭を痺れさせる柑橘系の香りが強くなる。

彼女の美しい顔は俺のすぐ側にあってもその言質の底への距離は計り知れない。ただその底はとても俺には触れられない気がする。

 

近づいた距離が気が付けば遠くなるのは何故だろう。

 

 

「俺は…」

 

 

雪ノ下陽乃は比企谷八幡を求めているのか?

 

 

それが陽乃さんの俺が陽乃さんに聞きたがっていると思う質問。どうもややこしいが文字の意味だけ捉えれば

 

俺への好意の確認

 

となるがそれはあくまで文字列をなぞっただけの話。

 

言葉は発する人間によって変わり

常に間違いを犯す。

だから

その裏を

その真を

その本質を俺は問いただそうとする。

 

その起点は徹底的な自己の排除。

己という視点を捨て徹底的な他者の、相手の視点に成りきること。

そうすることで得られる並外れた客観性。

かつて彼女からも称された人から外れたモノ。

 

 

 

そうすることで今度こそ間違わないはずだから。

 

 

 

自分の利益を欲望を幸福をプラスを全て排除しろ。

あらゆる望みと期待を捨て、ただ目の前の事象を読み解く。

 

 

そこに俺はいらない、

 

俺の存在はいらない

 

俺の気持ちはー

 

 

 

 

 

ー思い出せー

 

 

かつて彼女は寂しげに言った。

 

 

「本当…妹なら良かったのにね…」

 

 

かつて彼女は遠い目で言った。

 

 

「どれだけ旅をしても自分からは逃げられないんだよ」

 

 

かつて彼女は見失ったように言った。

 

 

「自由ってなんだろうねー」

 

 

かつて彼女は声高々に宣言するように言った。

 

 

「友達になったんだよ」

 

 

 

 

ー考えろー

 

 

 

 

かつて彼女は後悔があるように言った。

 

 

「私には一緒の乗り方が分からないから…」

 

 

かつて彼女は魅力的な提案のように言った。

 

 

「綺麗な月を一緒に眺めることはできるんじゃないかな?」

 

 

かつて彼女は攻めるように言った。

 

 

「比企谷くんはいつも誰を見ているの?」

 

 

 

 

ー彼女の望みはー

 

 

「比企谷くんのそんなところが大嫌い」

 

 

「だって比企谷くんが悪いんだから」

 

 

「一度確かめてみたら?君の憧れを」

 

 

「また違う女の子見てるな~。隣に私がいるのに~」

 

 

「比企谷くんは何でも知っているんだね……」

 

 

「なんか、許せないなー」

 

 

 

「君は、本当に面白いね」

 

 

 

ーいい加減認めたらどうなんだ?ー

俺の中のソレは諭すように語りかける。

 

 

 

「何だかとても懐かしい気分になっちゃった。何でだろう?比企谷くんと一緒にいるからかな?」

 

 

「ゆきのちゃんとかかな~?もしかして比較してた?ゆきのちゃん私より細いからね~」

 

 

 

「比企谷くんと付き合いたいの」

 

 

 

ー彼女はとっくに気がついてるぜー

俺の中のソレはただそう告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はかつて彼女に何気なく言った。

 

 

 

「違いますよ。ただ……、そうして笑っているところが雪ノ下と似ているなと思っただけですよ。まあ姉妹だから当たり前ですが」

その後陽乃さんは目を大きく開けて俺を凝視していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーだからこんな遠回りをー

 

 

 

 

 

 

 

俺はこのゲームの答えを、

陽乃さんの俺に対する質問を、

 

俺が目を逸らしていたことを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『雪ノ下陽乃は比企谷八幡が憧れた雪ノ下雪乃の代わりなのか?』

 

 

 

 

 

 

 


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