やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その51 俺と魔王と千葉を吹く風

 

「僕ね…八幡のことずっと見てたんだよ…」

 

目の前の戸塚彩加は顔を赤らめながらそう言う。

 

 

昼間の大空の下、いつものベストプレイスに吹く潮風が俺の髪を乱す。

 

 

あれ?

いつの間に戸塚ルートに分岐したの?

 

 

 

××××

 

 

 

 

 

翌日からの期末試験は散々だった。

得意の国語はどうにか体裁は保てたものの他の教科は目もあてられない。これ担任から何か言われるし3年生初めの三者面談で親にもばれるな…。今から言い訳考えとかないと…。

 

テスト期間は部活も休みで部室に行くこともなく、テスト勉強のため由比ヶ浜ともあまり話す機会が無かった。

 

そしてあれから陽乃さんとも話していない。

 

テスト勉強に集中しようにもあの日の出来事が何度も思い出されてしまう。

 

訴えかけるような目で俺を見る由比ヶ浜

凛々しい目で俺に退場を促した雪ノ下

 

そしてうつむいたままの彼女の姿

 

いつの間にか暖かさを失ったあの部屋の光景が脳裏に焼き付いて離れない。

 

そこから俺の思考は止まってしまう。

どうにかしないといけないと、このままではだめではないかと

 

その思考はきちんと意識に留まることがない。まるで砂漠に吸い込まれる水の如く。

 

そうしてその先にある

 

 

「何か」に辿り着けないでいる。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

「お兄ちゃん。明日部活休みだって。雪ノ下さんから連絡来てたよ。何か用事があるってさ」

 

 

テスト明けの日、朝食中に小町に雪ノ下からのメール届いていた。

正直ほっとしている。

まだ彼女達と向き合える気がしない。

 

そうしていつも通り学校に行き、いつも通りのぼっちを満喫するため昼休みにベストプレイスに来ていた。頬をなでる潮風はもう暖かみを帯びている。

 

俺は臆病者だ。

現状を、何かを打ち倒す勇者にもなれそうもない。

 

「はちまんは単なる村人ですから…」

 

自嘲気味に自ら呟く。そんな自分に笑ってしまいそうだ。

 

 

 

「八幡が村人なら僕は何になるのかな…?」

 

 

 

突然の返答に顔を上げると

 

マッカンを手にした戸塚彩加が目の前に立っていた。

 

 

 

×××

 

 

 

 

「えーとね。八幡は1年の時クラスで一緒だったからずっと話してみたいと思ってたんだよ。でもなんか話する機会が中々なくて…ね。八幡ほとんど一人でいたのに」

 

 

あれれ?

マジでルート分岐してないこれ?

確か前話までけっこうシリアスな展開だったような?

でもこれ、あれだろう?もう待ったなしだろう。

 

「一人なのは今も変わらんがな…」

 

決め顔で俺はそう言った。

ふっ、思わず自意識がライジングしそうだぜ。

 

「そうかな?今は由比ヶ浜さんもいるし、葉山くんとも時々話している…よね」

 

「葉山はともかく由比ヶ浜は同じ部活だからな」

 

「えっとね、1年の始め、八幡が事故でしばらく休んでた時にクラスで噂になってたんだ。どんな人かって。僕もなんか気になっててさ…」

 

「でもね、学校に出てきた八幡はずっと一人でいたよね。なんかみんな話かけづらいって…」

 

ええぼっちですから。

何とか高校デビューしようとしたのだが見事に玉砕しましたよ。

一応何人には話かけてみたんだが、会話が全然続かなくてそれっきりだった…。

 

あれ、なんで目から汗が?

 

「でも八幡、一人でずっと本を読んでたり音楽聞いてたりして、なんかこう堂々としてた…よね」

 

え?

いや、やることないからさ…。

休み時間とか人と話さないとけっこう時間余るんだよ。

それに本とか読んで防御しとかないと、うっかり隣の奴から「それでさー」とか話しかけられても応えられずに、「あ、いや、その」とか慌ててしまうだけだからな。ぼっちの必須テクニックと言える。

 

「僕さ…男の友達が中々できなくてね。女の子達には話しかけてもらったりしたけど、なんかこう他の子達みたいな「友達」とはちょっと違うかなって思ってた…」

 

「それに部活のテニスもちっとも上手くならなくて落ち込んでたんだ」

 

「そんな時ね八幡の一人でもこう堂々としている姿を見てね。僕はなんて格好悪いのかなって。男らしくないなって思ったんだよ」

 

 

「戸塚…」

 

「八幡みたいに寄るべきものがなくても一人で立っているそんな姿に憧れていたんだと思う」

 

「俺は別に…」

 

それは違う。

望んでそうした訳ではなく取捨選択の中で仕方なくそうなっただけ。それは別に誇れるものでも何でもない。

 

 

「そうして由比ヶ浜さんが話しかけてくれて、いろいろ話を聞いてくれたんだ…」

 

「それから2年のときテニスのことを相談したら奉仕部のことを、そこに八幡もいることを教えてくれてね」

 

「だから依頼することにしたんだよ」

 

とても清々しい表情で戸塚を俺を見据える。

 

戸塚の依頼。

テニスが上手くなりたい。

それから戸塚は朝練も欠かさず部活のない日はテニススクールにも通っている。そうやって前に進んでいる戸塚を眩しく思う。

 

 

それに比べて俺は。

ただ同じところをぐるぐる回って、何も踏み出せないでいる。

 

「でもね今は八幡には憧れて…ないよ」

 

あれ?

選択肢ミスったのか?

 

もうだめだ、このルート。

リバイバルで小学生からやり直そう。

したっけ!現在!

 

 

「奉仕部に依頼してからいろいろあったよね。千葉村の件とか文化祭とか」

 

「そしてこの間の選挙の件とか…ね」

 

「僕は思ったんだよ。憧れているだけじゃだめなんだって。僕もそうならないとって」

 

「だから今は八幡の力になりたいと思っているよ」

 

「時々よく分からないこと言うし、思ってたより孤高って感じじゃない…けど」

 

「より身近で見て。八幡もいろいろ苦しんで…頑張っているって知ったから」

 

「憧れていた…前の八幡より、今の八幡の方が…僕は好きだよ」

 

 

「結婚しよう戸塚」

 

 

俺は迷わずそう言った。

 

もう戸塚ルートでいいだろう。

性別は男、女、戸塚だ。それでいい。

一緒になれる国を後でググろう。

ついでにタグも変えよう。

 

 

すると戸塚は手を目の前で合わせて

 

 

「ほら。いつもの八幡に戻った!」

 

 

とても嬉しそうにそう言った。

 

 

はい?

はいい?

 

 

「戸塚…?」

 

「八幡、ここ数日ずっと落ち込んでいるようだったから…」

 

「ねえ?この間みたいにまた僕達を頼ってよ。約束だよ」

 

いつも通りの笑顔で俺を見つめながら戸塚彩加はそう言う。

まいったな、これは予想外だった。

 

「戸塚…おまえすごいな…」

 

「もー八幡ったら。照れるよー」

 

 

本当にそう思う。

間違ってもそこから何かを学んで前に進む。

そんな当たり前だがとても難しいことをちゃんと実践している。

 

間違えることから逃げていた俺とは大違いだ。

 

俺なんかよりも遥かに男らしいよ戸塚は。

 

…でも声を大にして言おう。

 

 

 

とつかーわーいーいー!!

 

 

 

俺の心の叫びは千葉の青空へ吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訪れる春を告げる風が戸塚の髪をもてあそんでいる。

 

「あとね」

 

戸塚は前髪を直しながら微笑んだ。

 

 

「八幡はね、一人でいる時より奉仕部にいる時の方がずっといい顔しているよ」

 

「そ、そうか…」

 

「でも最近…今まで見せなかった顔してるときがあるんだよ」

 

そして少し小悪魔的な、俺をドキリとさせる顔で言う。

 

 

 

 

「雪ノ下さんのお姉さんと居るときとかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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