やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その58 俺と魔王とはるの季節

人との繋がりは麻薬と同じでいつの間にか依存してしまい

一人では何もできなくなってしまう。

 

彼女とてそれは例外ではなく

ましてやぼっちでカースト的に弱者である俺ならどうだろうか。

 

求めるばかりで一人で立ち上がることもできない。

そうなるのが恐ろしい。だからぼっちでいいんだ。

 

でも、ずっとぼっちでいられないことも分かっている。

ならどうすればいいかって?

 

だから専業主夫になりたかったんだ。

 

別に主夫を馬鹿にしている訳ではない。

今まで他人であったものと家族になるという

一見、摩訶不思議な関係に敢えて挑もうとしているのだから。

 

どうせこの世の中、人と関わらないと生きていけない。

どうせ本気で関わらないといけない人間が必要であるというなら

訳のわからん大勢よりたった一人でいいんじゃないか?

 

その関係が他の人間と違うものならそれを糧にしていけるのではと

 

少なくとも俺はそう思っている。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

「親父、社長って!」

 

「あー。しまった。内緒だったな。今はオフなの。仕事の話はしないの。これ常識」

 

「それよりも今度の月曜日の憂鬱を乗り切るために電車で女子高校生のボディーガードをしたいんだが」

 

「あほか。電車で女子高校生に近づいたら社会的に死ぬだけだぞ。つーかあれは幻想だろ」

 

サラリーマンの幻想たわわ。そのふざけた幻想をぶち壊すのは忍びないが…。

 

「どうせ、むっつりすけべの八幡のことだからその内、陽乃ちゃんにたわわチャレンジさせるつもりだろ。あーやだやだ。死ねばいいのに」

 

「おめー、本当に大人か?3次元に生きてんだろ!」

 

「馬鹿かお前!2次元の癒しは社会に奉仕する俺らのような奴隷にこそ与えられるべきものだ」

 

「お前らのような自由な10代は3次元でリアルにラブコメしてろ!バーカバーカ!」

 

そう言いながら北海道の脱獄王みたいに足をV字に上げて屁をこく中年がそこにいた。

 

殴りたい、その笑顔。

 

平塚先生。今だけアルター能力借ります。

俺は右手を真っ直ぐ突き出し人差し指から順に折り曲げて行く。

 

「衝撃のー」

 

「お兄ちゃん電話だよ」

 

かまくらを抱いた小町がリビングのドアを開ける。

親父は小町が現れた瞬間に新聞を片手に「明日の株価は…」とかカッコつけてやがる。

 

 

「雪ノ下さんから」

 

かまくらがニャーと小町に続いて声を出す。

 

 

 

 

××××

 

 

 

 

「夜分申し訳ないわね」

 

「なんか騒がしいようだけど大丈夫なのかしら」

 

「いや、問題ない。もう仕留めた」

 

「…まあいいわ」

 

「……」

 

「……どうした?」

 

「明日、修了式の後、部室に来てもらえるかしら?」

 

「部活か?もう休みだったはずだか?」

 

「話があるの」

 

「……分かった」

 

雪ノ下の声は有無を言わせない、そんな力強いものだった。

 

 

「待っているわ。必ず来てね…」

 

 

 

俺は小町のスマホを枕元に投げ出しそのまま自分のベットに転がる。

 

……。

 

雪ノ下は行動しようとしている。

この何かが停滞している状況をあいつなりにどうにかしようとしている。

 

俺はもう逃げることはできないのだろう。

それだけは、はっきり分かった。

 

 

…。

 

……。

 

………。

 

 

気が付いたら朝が明けていた。

窓から射す光がどうも目に強くかかる。

 

 

雲一つない春を思わせる快晴が俺には眩しすぎた。

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

「小町は知ってたよ。お母さんがお兄ちゃんには『教えない。あてにしてさぼられたら嫌だから』ってさ」

 

リビングで朝食を食べながらの会話であった。

ちなみに親父も母さんもまだ寝ているのでいつものように小町と二人での朝食。

 

「ちなみに社長がお父さんで副社長がお母さん。何の会社かまでは知らない」

 

「そうなのか…」

 

それはまあ別にどうでもいい。それで俺の小遣いが増える訳でも無いからな。ただなんかあのクソ親父に見透かされたような気がするのがどうも気にくわない。

 

 

玄関で靴を履きドアを開けようとすると、

 

「お兄ちゃんいってらっしゃいー」

 

「ああ」

 

「ところで小町?お前高校に入ったら…」

 

そう言いかけてなぜか言いよどむ。

 

「何?どしたのお兄ちゃん?」

 

「いや。何でもない」

 

「奉仕部なら小町は入部しないよ?」

 

「そ、そうなのか?」

 

「小町は生徒会の方に興味あるから」

 

やだこの子もしかしてどこかのあざとい子のように1年生から生徒会長を狙っている…。

我が妹ながら恐ろしい子…。

 

 

 

「だってあそこはお兄ちゃんの場所でしょ?」

 

 

 

 

××××

 

 

 

 

「人はその周囲の人との関係性で作られます。ある意味本当の自分なんて無いのかもしれません」

 

「相手を見極めたい、理解したいなら、一旦その周囲に目を向けてみてもよいでしょう」

 

そんな修了式の校長の話が耳に入ったのか俺はぼんやりと思考の渦に入っていた。

 

彼女はー

雪ノ下陽乃はどんな人物だったのだろうか?

 

 

 

……。

 

 

 

例えばー

 

 

折本かおりは彼女と対面して

綺麗な人と感嘆した。

 

 

城廻めぐりは彼女を慕い

共に活動した日々を偲んだ。

 

 

戸塚彩加は彼女を見かけ

あの部室で楽しそうにしていると言った。

 

 

平塚静は彼女を懐かしみ

違った意味で問題児だったと回想した。

 

 

比企谷小町は彼女と通じて

彼女の企てに共謀した。

 

 

一色いろはは彼女と応対して

その人望はカリスマだと称した。

 

 

葉山隼人は彼女を遠望して

周囲から求められる王様だと評した。

 

 

材木座義輝は彼女を模して

星々を眺める理由を探していると記した。

 

 

由比ヶ浜結衣は彼女の妹と共にいて

その姉妹の関係を悲しんだ。

 

 

 

雪ノ下雪乃は彼女と共に生きて

憧れているとも

憧れていたとも語った。

 

 

「その人自身はもしかしたら変わらないのかもしれません」

「でもその人の周囲との関わりは時と共に必ず変わって行きます」

 

 

 

 

そして

比企谷八幡はー。

 

 

 

 




次回 最終前話 「俺と魔王と三度目の正直」

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