やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その⑦

 

「お兄ちゃんそのDVDどうしたの?」

 

「借りて来た。一緒に見るか小町?」

 

「うん。なつかしいね~。昔よく見たねこの映画~。でも急になんで?」

 

「いや、その何だ、見直したくなったんだよ。1と2も気になったし。」

 

「ふ~ん、誰と見たんですかね?3を~?シネコンかな~?」

 

 

八幡は単なるシスコンです。あとはノーコメントで。

 

 

 

××××

 

 

 

 

「で?映画を見た後に解散ですか?」

 

腕組みをしながら俺を見下ろすいろはすさん。

いつものあざとさはどうしたのですか…?

 

 

月曜日の放課後、俺は部室に入るなり、パソコンの前に座らされ、先日のデートの詳細を提出しろと言われた。いやいや、仕事嫌いだし。口頭で軽くすませようとすると。

 

「報告書は大事ですよー、きちんとしましょうねー先輩ー」

と低い声とすごい笑顔で言われる。その反比例がめっちゃ怖いですから。

 

 

「この映画知ってる~。昔パパと見たよ。なんかパパの若いころに流行った映画だって。DVDボックス買ってママに怒られてた」

由比ヶ浜が右隣からパソコンを覗き込む。由比ヶ浜パパいつ聞いても不憫だな。ファブリーズとか。

 

「その映画……、姉さんと昔見たわね。まだかなり小さいころよ」

雪ノ下が左隣から話掛ける。

 

なんかこの陣形、つい最近も敷かれたような気がする。

俺は封印されるの?バーテックスでも無いのに?

 

 

「それに麻雀って、姉さんまだやっていたのね……」

 

 

「強いってもんでは無かったぞ。勝てない、まさに魔王だ」

 

 

「昔父が自宅で接待麻雀してた時の代打ちしてたから……、私や葉山くんもずいぶん練習台にさせられたわ…。そのうちしばらくして、何故か接待麻雀が急に無くなったのだけどね…」

 

魔王さん?あなた何したのですか?

倍プッシュ?狂気の沙汰ほど面白いのですか?

 

 

「お姉さんまだ十代だよね!」

由比ヶ浜が雪ノ下に突っ込みをする。珍しい。

 

 

「しかし、この内容、なんか普通ですね、友達と遊んでるみたいで。それに食事なんかサイゼですし」

一色が正面から画面を覗き込む。

 

 

「おい、一色、サイゼ馬鹿にしたな。屋上に来い。千葉の聖地が何たるか教えてやる」

 

 

「いきなり屋上って、それどんなベタな展開の恋愛ドラマですか。それなりの順序とかタイミングが無いと無理です、すいません、本当に今は無理です、ごめんなさい!」

 

なかなか千葉愛を語るのは難しいな。

しかし、いつかしたい聖地巡礼。千葉のサイゼ制覇を!!

 

 

「もう、いい加減良いだろう。ちゃんとデートに『付き合った』のだし、依頼達成で。すげぇ疲れたんだぞ。ボーナスが欲しいくらいだ」

 

本当に俺のサン値はピンチだったし。

 

 

『デートって認めるん「だ」「ですね」』

 

あー、はいはい。お前らなんか仲良いな‥…。

 

 

いつの間にか眼鏡(ブルーライトカット)をかけた雪ノ下は

画面を見て静かに話す。

 

 

 

「映画見てるとき姉さん何か言わなかった?」

眼鏡にかかった艶のある前髪を払いながらそう問いかける。

 

 

「……、いや別に。それに上映中は話さないだろ、普通は」

 

「そう、まあそうね。ただ……」

右手を口に当てて言葉に詰まる雪ノ下。

 

「ゆきのん?」

 由比ヶ浜がきょとんした顔で問いかける。

 

「採点するとマイナス1,000点くらいのデートだと思いますが、先輩だから仕方無いですね」

なぜ勝ち誇ったかのように言うですか?一色さん。

それに桁おかしくない?お前が採点することになんの意味があんの?

 

「ちなみに私たち以外の女性とデートしていることがマイナス1,000点です」

 

 

 

 

 

「とりあえず仕事は終わったんだ」

 

「マッカンを買いに行く」と告げて部室を出る。

 

 

「先輩!ところで私の手伝いはー」

 

 

聞こえない振りをして慌てて教室を出る。

 

今日は働きたくない。(明日もだが)

 

 

底冷えする廊下に出ると部室の暖かさに後ろ髪を引かれるが、

俺の足取りは決して重いものでは無かった。

 

 

 

××××

 

 

 

はちまん(村人)はMAXコーヒーを手に入れた!!

 

コーヒーは外で飲むに限る。

ベストプレイスに向かうが、

 

 

「何…だと…?」

 

 

ベストプレイスに先客がいる、しかも二人。

 

何やら男子生徒がこちらを背にして、長いポニーテールの女子生徒に何やら話しかけている。どうも気さくな感じでは無いが‥…、もしかして、告白ってやつか。

 

リア充どもめ、爆発しろ

 

とは言わないが、ぼっちの場所を奪わないで欲しい。

 

ステルスモードのままその場を立ち去ろうとすると、迂闊にも女子生徒と目が合ってしまう。

 

その女子生徒はいつも不機嫌な顔をしているクラスメイトであったが、八幡はそのままクールに去るぜ!

 

 

 

×××

 

 

どこも意外に人が多く、校内をぶらつく間に屋上まで来てしまった。

まあ、ここなら間違いなく一人になる。

 

 

 

 

屋上で マッカン美味い ぼっちかな

 

 

一句できてしまった。ちなみに季語はぼっち。

 

 

さすがに外は寒いし、コンクリートの冷たさは上履き越しでも伝わってくる。

しかし日差しは柔らかく暖かい。

 

あの部屋の暖かさに慣れすぎた俺には、丁度良いのかもしれない。

 

 

 

「ちょっとあんた、さっき見てたのでしょ」

 

 

気がついたら、さっき目の合った、

さらに不機嫌そうな顔をしたクラスメイトが立っていた。

えっと名前が…確か川なんとか…。

 

 

「さっきのあれ......、告られたのか?」

 

 

「いや、あれはいきなり呼び出されて、仕方なく行ったらで、

そしたらあんたまでいるし…」

 

 

「あそこは俺のベストプレイスで、たまたま通りかかっただけだ」

 

 

「............」

 

 

あれ?なんか霊圧が重くなってるのですが?

 

 

「あの、そのなんだ、あーいうのはけっこうあるのか?」

 

 

「えっ、いや何突然、べっ別に関係ないしあんたには......」

 

 

「いや、お前美人だから、普通にモテるんだろうな」

 

 

「何、馬鹿言ってんのよ!!」

 

 

と、扉が大きく閉まる音と、勢いよく立ち去る足音が響く。

 

 

××××

 

 

遠いグランドから聞こえる喧騒も

口に広がるマッカンの甘味も

柔らかい日差しも、俺がぼっちだと改めて認識させてくれる。

 

 

そんな他愛もない考えに浸っていると、

 

 

 

「そうやって黄昏る、自分格好いいーって

比企谷くんのキャラじゃないよね」

 

 

 

 

 

ま お う が あ ら わ れ た

 

 

 

 

 


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