〈警視庁より久留間1〉
「久留間1、どうぞ」
〈一一〇番受理番号6282、第七方面久留間一丁目近くの路上より携帯電話で入電、同公園内にて変死体発見との通報有り。事故・自殺、他殺かは不明。現場に向かい、事態を把握せよ〉
「久留間1、了解」
助手席の巡査部長がマイクに向かって応答するより早く、若い巡査はハンドルを切っていた。
午前十一時十七分。初春の朝は概ね晴れやかなものだが、その日は前日からの曇天で重い湿気が残っていた。
久留間1は、警視庁久留間署所属のパトカーである。警視庁地域部通信指令本部は、位置自動報告装置によって、巡回中のパトカー全ての位置をリアルタイムに把握している。これにより、指令センターは所轄署に連絡すると同時、最も現場に近い車両に指令を出す。
「変死体……また、どんよりですかね」
頭上でサイレンが鳴り響く。強引に左折してから、若い新人らしき巡査が、先輩の巡査部長に言った。
「面倒な話だ」
年かさの巡査部長は嘆息するように、
「グローバルフリーズから半年。まだみんな、あの止まる感覚を恐れている。……そりゃ、恐れもするさ。訳の分からん怪物だかロボットが殺人を犯してるとなりゃ、な」
その声色には、明らかに偏見のニュアンスが混じっていた。
「ですが、まだ相手がその――アレだと決まったわけじゃありませんよ」
「だといいんだけどさ。変死体って言ってたろ。そんな手合は大概アレなんだよ。あるいは、余程の異常殺人者か」
「はあ、そんなものでしょうか」
若い巡査は曖昧に頷いた。
四分後、パトカーは指定の現場に到着した。
閑静な住宅街にある、至って普通の公園。普通なら、誰か一人ぐらいいてもおかしくない時間帯だ。だが、今そこには人の影一つ無い。
「久留間1、十一時二十一分現着。外観に異常は認められず」
若い巡査は、不安そうに言いつつシートベルトを外す。
「変死体って、どんなでしょう」
「さあな。バラバラにされたか、グズグズにされたか。なんだお前、ビビッてんのか」
「ええ、ちょっと……」
「落ち着いて深呼吸しろ。仏さんなんて、これから先いくらでも拝むことになる。すぐに慣れるって。まずは状況の確認。それから応援を待つ。マニュアル通りにやればいい」
巡査部長はシートベルトを外し、車外へ出る。
その時、二人の体に《どんより》とした感覚が走った。
公園の奥に倒れた、一人の男。顔を真赤にした奇妙な死体。その横にを通り過ぎる、鉄の人形。胸元には《029》のナンバープレートらしき物が埋め込まれている。
腰をかがめた格好で現れたそれは、動けない二人をゆっくりと見ながら、立ち上がった。鋼鉄の人型が、四肢を伸ばして屹立する。
……ロイミュードだ。
巡査部長は、心の中で呆然と呟く。
人体を模して作られたであろう、ロイミュード。コブラのような頭部と、爬虫類の革の如き肌を持つソレは、一瞬だけ二人を見とがめてから、そのまま地を蹴り飛んでいった。
空気はどんよりし続けている。
誰も、ソレを追うことなど出来なかった。