超次次元ゲイム ネプテューヌRe;Birth2 DARK SOULS INSERTION 作:ルーラー
気にしたら負けって事柄が、世の中には割とある。
そして、ゲイムギョウ界には特にそれが多いと、僕は密かに思っている。
たとえばそれは、各国の女神の名前だ。
プラネテューヌの守護女神、『ネプテューヌ』は、まあ、除くとして。
ラステイションの守護女神、『ノワール』は、フランス語で『黒』のこと。
ルウィーの守護女神、『ブラン』は、フランス語で『白』のこと。
そしてリーンボックスの守護女神、『ベール』は、フランス語で『緑』のこと。
女神たちの名前がここまでフランス語で統一されていることに、当然、僕は突っ込んだ。
偶然の一致じゃ済まないだろうと、それはもう、声を大にして突っ込んだ。
でも、彼女たちからしてみれば、これは別におかしなことではないらしくて。
そして、こういうツッコミどころが、ゲイムギョウ界には割とあちこちにあったものだから、僕はもう、ちょっとやそっとのことには突っ込まなくなっていった。
別に大人になったというわけじゃあないけれど、とにかく、受け流せるようになっていった。
だから僕は、『あれから四年も経った』と言うアイエフとコンパの外見的な年齢が、以前に旅したときとまったく同じであっても、あまり気にせずスルーしていたのだけれど……。
「でもやっぱり、おかしいだろ。アイエフもコンパも、どう見たって十六歳ぐらいじゃん。でも一緒に旅した四年前も、同じくらいの見た目だったわけで……。うん、やっぱりおかしい」
割と真面目な表情で指を立てながら『おかしい』を連呼する僕に、コンパが珍しく嘆息した。
「細かいこと気にしすぎですよ、ズッキーさん。それに、わたしはちゃんとこの四年間で成長してるです。看護学生からナースになったです」
「そうなんだ。でも、なぜだろう、コンパの働いてるところが全然想像できない……」
それから、じゃあアイエフはどうなのだろう、と目を向けてみると、
「ん? 私? 私は四年前と同じで
「四年前と同じで諜報員。いまの見た目が十六歳ぐらいなのに、四年前と同じで諜報員。……なんか間違ってる! こんなの絶対おかしいよ!」
「……落ちつきなさいよ、ズッキー。別におかしいところなんてどこにもないじゃない」
ああ、やはりこれもそうなのか。
これも『気にしたら負け』っていう事柄のひとつなのか。
あれから四年も経ったのに、外見的年齢がまったく変わってないっていう明らかに『おかしい』現実も、彼女たちからしてみれば、別におかしなことではないのか……。
うん、やっぱり気にしたら負けだ。
突っ込んだら、突っ込んだだけ疲れる。
そう、僕は割り切ることにしたのだけれど。
そこで、隣に座るネプギアが
「へえ~。アイエフさんって、諜報員だったんですか」
「はい!?」
な、なんで僕よりもアイエフと付き合いが長いはずのネプギアが、アイエフが諜報員やってること知らないの!?
「ああ、そういえばネプギアには話してなかったわね」
「いやいやいやいや! 『話してなかったわね』じゃないだろ、アイエフ!」
「うるさいわね、ズッキー。別にいいじゃない。私にだって、話し忘れてることのひとつやふたつあるわよ」
「いや! だから! 話し忘れてるとか忘れてないとかそういう次元の問題じゃなくて! おかしいよ! この世界、やっぱりなんかおかしいよ!!」
だって、普通に考えてありえないだろ!
日常的にアイエフと接していれば、彼女が諜報員だなんてことは、嫌でもわかっちゃうはずだって!
しかし、そんな僕の思考のほうが、ゲイムギョウ界においては『おかしい』らしく。
「だから、うるさいって。大体ね、こんなことで『おかしいおかしい』言ってたら、そもそもアンタがネプギアのことを知らなかったのだって、おかしいってことになっちゃうでしょうが」
「い、言われてみればそうだ……!」
前回の旅のときに、ネプテューヌから『妹がいる』と聞かされた覚えが、僕にはない。
僕からは、『義理の妹がいる』って話をしたことがあるのに、だ。
え? なに? 一体なにがどうなってるの? この世界。もう、『これが正常なんだ』って受け入れろってこと!?
「……オーケー。了解。受け入れようじゃあないか。ああ、受け入れようじゃあないか。きっと、ネプギアには『主人公補正』みたいなものが働いてるのさ。ネプテューヌの代わりに、『女主人公』の立ち位置が与えられてしまっているのさ。じゃないと、アイエフの仕事を知らなかったことに説明がつかない……」
「また、わけのわからないことを……。ネプ子にも言えることだけど、アンタもアンタで『主人公』にこだわるわよねえ……」
「だって、実際に僕は主人公だし! ネプテューヌとやった『どっちが主人公なのか論争』でも、激しく言い争った末に、なんとか引き分けることができたし!」
言って胸を張る僕に、ネプギアが苦笑した。
「勝ったんじゃなくて、引き分けた、なんですね」
「ああ、それがさ。デルフィナスにとどめを刺したのはネプテューヌで、そうなるように戦況を整えたのが僕だったんだよ。だからつい、論争になっちゃって。結局、ネプテューヌは『女主人公』、僕は『男主人公』ということに落ちついたんだけど」
「ああ、それなら確かに引き分けなのかも……」
「でも、ネプギアも『女主人公』だとなると……
「どんなロマンですか……。主人公の座は迷わずお姉ちゃんに譲りますよ。わたしは主人公なんて器じゃありませんから」
「そう? もったいない。今後の活躍次第では……」
と、さすがにちょっと話を脱線させすぎたか?
いい感じに空気も軽くなってきたし、そろそろ本題に戻してもいい頃合いかも。
そんなわけで僕は、だいぶ温くなってきたミルクティーを口にしつつ。
「それで、アイエフ。ネプテューヌを助け出す方法とか、なんかあるの? お前が手をこまねいてるだけっていうのは、なんか考えにくいんだけど」
「ないわけじゃないわ。でも、ここのところは仕事が多くて、本格的に動けるようになったのは、本当につい最近からなのよね」
「仕事というと?」
「いまはだいぶ回復したけど、一時期はプラネテューヌの治安がとても悪くなってたから。ほら、信仰の対象である女神がいなくなっちゃったわけだからね」
「そっか……。なんて言っていいかわからないけど、その、なんだ、お疲れさま」
「
「それほど、マジェコンは魅力的な『
「ええ、どんなゲームも無料で遊べるようになるわけだからね」
真顔で言われたその言葉に、僕は軽く脱力感を覚えた。
いや、僕もゲームはやるから、その魅力はわからないわけじゃないよ?
でもさあ、その魅力に八割以上の人間が取り
「あのさ、アイエフ。一応、念のために訊いておきたいんだけど。この世界の人たちは、それが犯罪神の復活に繋がるってわかっていて、マジェコンを求めてるわけじゃ、ないんだよな?」
「もちろん。マジェコンは便利なツール、くらいにしか思われてないでしょうね」
「そっか、よかった。……でも、普及率八割超えかあ」
「それも、ただ八割を超えちゃってるってだけじゃないわ。相対的に、女神に対する信仰が減っちゃってるわけだから。あと、別に犯罪組織が人々を洗脳してるわけじゃないっていうのも、厄介なところね」
「つまり、人々には自主的に、信仰の対象を女神に戻してもらわなきゃいけないってこと?」
「そういうこと。そして、現段階で人々の信仰――シェアを集められるのは、ネプギアのような女神候補生だけ。
犯罪組織からシェアを取り戻せば、犯罪組織――ひいてはギョウカイ墓場で出会ったやつらを弱体化させることにも繋がるしね」
なるほど、とうなずき、僕はこの作戦の流れをまとめにかかる。
「まず、シェアを全部取り戻して、犯罪組織の規模を縮小させる。そして弱体化した組織の幹部たちを全員倒して、ネプテューヌを助ける、と。簡単に言っちゃえば、こんな感じなのか」
「そうね。で、今日は手始めにプラネテューヌのシェアを取り戻すために、スライヌの討伐に乗り出してみてたってわけ。もちろん、それで取り戻せるシェアなんて
「それでも、モンスターを討伐した以上、こっちには『女神候補生』っていう、犯罪組織よりも頼りになる存在がまだちゃんといるんだぞっていうアピールにはなるわけか。
あ、でもさ、女神化して戦わないと、アピールにはならないんじゃない?」
そう口にしてから、『女神化』という単語は使うべきじゃなかったか? と隣の様子をうかがってしまう僕。
しかし、ネプギアは特に表情を
「そのあたりは大丈夫です。女神化後のわたしたちの姿って、知ってる人のほうが少ないですから」
だったら、『女神がいなくなった』という事実を教会が隠しておけば、『女神の不在』が知られるなんてことにもならなかったのでは?
しかし、そういう細かいところを突っ込み始めるとキリがないのは、以前の旅を通じてよく理解している。
なので僕は、細かい疑問点をつつくのはやめ、この『シェア
「じゃあさ、シェアを取り戻すのはいいとして、それには一体どれぐらいかかりそう? それに、こっちが奪還できるってことは、向こうだってまたシェアを奪い返しに動いてくるんじゃない?」
その指摘はすでに受けたことがあったのだろう。
ネプギアは「はい、そのとおりです」とうなずいて。
「それに、奪い返されることがなかったとしても、
む、抜け目ないな、アイエフ。
そう思いながらアイエフに目を向けると、彼女は『私だって頭脳労働は得意なほうなのよ』とでも言いたげな表情を浮かべて、空になったカップをテーブルに置いた。
「そんなわけでね、私たちの目的は大きく分けて二つあるの。ひとつ目はもちろん、シェアの回復。そしてもうひとつは、各国にいる『ゲイムキャラ』を探しだして協力を仰ぎ、力を貸してもらうこと」
「ゲイム、キャラ……?」
「イストワールさまが言うには、『
アイエフのそんな説明を、ネプギアが継ぐ。
「ゲイムキャラは各国に、昔から
助けとなれる力を、有してもいる?
……なんだろう、嫌な感じだ。
その言い回しは、なんか、僕にはものすごく引っかかる。
「あの、和樹さん? どうしたんですか? 急に黙り込んで……」
「なあ、ネプギア。それは『その時代の女神たちを助ける義務がある』と言い間違えた、とかいうことはない?」
「言い間違え、ですか? いえ、そんなことは……。アイエフさん、コンパさん、ちゃんと合ってましたよね?」
「もちろん。確かにイストワールさまはそう仰っていたわ」
「ですです。ギアちゃんは間違えてなんかないですよ」
そっか。言い間違えたわけじゃあ、ないのか……。
「だとすると、ちょっとマズいな……」
「なにがですか? 和樹さん」
「これは僕の勝手な推測だけど……たぶん、そのゲイムキャラたちに協力してもらうのは難しいと思う。もちろん、簡単にいく可能性もないわけじゃないけど」
「な、なんでそう思うんですか?」
「アイエフには『ネガティブ思考すぎる』って言われるかもだけど、話を聞いた限り、ゲイムキャラが協力してくれるか否かは、そのゲイムキャラたちの判断に委ねられてるんだ。つまり、協力を断られても文句は言えない。『協力する義務があるわけじゃない』っていうのは、そういうことなんだから」
「ほ、本当にネガティブ思考すぎるわね、アンタ……」
「なんとでも言ってくれ」
こういうときは、常に最悪の展開を考えておくべきなんだ。
そうしないと、対策なんて絶対に
それに、希望が破れたあとほど惨めなものもない。
それは、四女神たちが敗れるのを見たネプギアなら、わかるはずだ。
「……まあ、とりあえず一度イストワールさまのところに戻りましょうか。クエストもこなしたし、ズッキーっていう戦力も増えたわけだし」
そう言って伸びをするアイエフ。
それにコンパ、ネプギアも同調した。
「ですね。なんだかんだ言っても、ズッキーさんは頼りになるですし」
「あのエンシェントドラゴンを、ほとんど一撃で倒しちゃってましたもんね!」
けど、ちょっと待ってほしい。
僕はまだ、『三人に同行する』なんて言ってないぞ?
「さあ、そうと決まれば、さっそく行くですよ、ズッキーさん」
「いやいや、ちょい待ち! もうちょっとだけ時間をくれ! 考えをまとめたい!」
僕のその言葉に、三人がそれぞれ驚きの表情になる。
「ちょっと! アンタ、まさかひとりで旅するつもりでいるの!?」
「ズッキーさんがいるといないとじゃ、戦力的にかなり違ってくるですよ~……」
「和樹さん、どうして……」
「いや、待ってってば! どっちにするか、まだ考えてるところなんだから!」
実際、ここは悩みどころなのだ。
四人で行動するとなると、自分以外の誰かが怪我をしたり、命を落とす危険性が高まる。
それは正直、僕にとってはかなりの苦痛だ。
それに、だ。
僕が世界を移動するために使った『
つまり、ネプテューヌたちが囚われる前の時間に行くこともできる、ということだ。
でも、僕の戦闘能力は、二ヶ月前のデルフィナス戦からそう上がってはいない。
そんな僕がひとり加わることに、果たして意味はあるんだろうか?
……ない、よな。敵の正体がわからないんだから、作戦を立てることも難しい。
下手をすれば、ネプテューヌたちの足を引っ張ることにさえなりかねないし。
だから、過去に行ってネプテューヌたちと共に戦う、という案は却下。
残る選択肢は、僕ひとりで旅するか、この三人と一緒に行動するかのどちらかだ。
そして、前者を選んでネプテューヌを助け出したとき、もしもこの三人が命を落としていたりなんかしたら、ネプテューヌは一体どうなるだろうか?
決まってる。
絶対に悲しむ。
三人に同行しなかった僕を責めることは、しないだろうけど。
それでも、僕の心はやっぱり痛むことになる。
なら、僕に選べる行動なんて、ひとつしかないじゃないか。
三人に同行して、四人で無事にネプテューヌを助け出す。
それしか、ない。
僕は、自分の見えないところでなら、誰がどう不幸になろうとかまわないって思ってるけど。
そう思いながら生きていくんだって、決めたんだけれど。
でもやっぱり、『友達』が悲しむ可能性は、ほんのわずかなものであっても、潰しておきたいから。
――僕が、三人を守ればいいんだ。
ネプテューヌを、悲しませないために。
僕の心が、苦痛に押し潰されないように。
そう、決めて。
僕は、どこか不安そうな表情をしているアイエフに、気楽なふうを装って声をかけた。
「まあ、考えてみれば、行く先行く先でクエスト受けてお金稼ぐのも、手間ではあるんだよな。……というわけで、僕もアイエフたちに同行させてもらえると嬉しいかなあ、なんて」
「うわ、まさかの
「なるほど、そういう考え方もありか。ともあれ、じゃあまずはイストワールさんに会いに、プラネタワーに行く?」
「そうね。――さて、コンパもネプギアも行きましょうか」
「はいですっ!」
「わかりました!」
そうして僕たちは席を立ち、喫茶店をあとにした。
ちなみにネプギアは、僕が考え事をしている間、ずっと探るような目を向けてきてて、僕は、それが妙に気になっていたんだけど……。
でもまあ、本人は気づかれてないと思ってるみたいだし、いまのところは放置でいいか。