『H』 STORY   作:クロカタ

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このタイトルの適当感よ……。


ワンサマーのSOSが一段落ついたので、惰性的に書けるSSをもう一つ作ろうかなと思い書きました。後は、こういう主人公ってあまりいないなぁと思って。

不定期更新の各キャラに視点を当てた一話完結でお送りするギャグ小説です。




アリサ・バニングスの場合

お主の望みは?

 

ワンパンマンのサイタマ!

 

 何千、何万と行われている転生の最中。

 今までのように繰り返される筈だった輪廻の中で―――異変が起きる。

 

 それは万の願いの中での些細な……ほんの小さな異変。おおよそ天上を生きる超常の存在達には微かすぎるもの……。願いの漂流。ごく一部の人の願いが不幸にも本来与えられるはずだった者からはぐれ、流れ、固有の形を成し転生する魂の中を飛ぶ―――。

 

 その願いは最強の拳を持つ戦士のものだった。

 

 その願いは徐々に力を失いながらも魂の合間を漂いその力に見合った魂を探す。何時しか強大だったその力は削りに削れ、残りカスに等しいほどにまで削れていったその時、濁流の如く押し寄せて来る魂の中から一つの魂を見つけた。

 自らの力が入いり籠める願望を持つ欲が果てしなく少ない人間の魂。

 

 そして偶然にも【彼】はある一柱の神に拾われ、転生者としての権利を得た。

 拾われた【彼】が願うのはささやかな願い。決して傲慢でも欲望にまみれないただのちっぽけな願い。

 

 

 彼は願う、切実な程―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「毛根を……ください」

 

『…………え?』

 

 

 

 

 

 

 ―――髪が欲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が目覚めたのはほんの数日前。齢25という若さで急死してしまった彼が、死後よく分からないふわふわとした契約のようなものをボヤっとした煙のような何かと契約したその後、9歳児の体で目覚めた。自分を取り巻く状況はこの肉体に残された記憶でしか理解できない。

 後は、学校にいかなくてはいけないという本能的な目的意識。そして生前の時とは違う名前、、何原行方(いずはらゆくえ)という名前。

 

「(……神は嘘吐きだ)」

 

 彼は神を憎む。果てしない程に憎んだ。二度目の生に文句があるわけでもない。目覚めた家に家族という温もりがあったことでもない。ただ、己が願いすら満足に叶えてくれない事について怒り狂っていた。

 何故9歳児でまた学校に行かなくちゃいけないとか、この際どうでもいい。

 

 彼がここまで怒る理由を知れば最もと言える。

 彼は生前、20代半ばにしてあるコンプレックスを抱えていたからだ。高校生の時から兆候があった、だがそれを見てみぬふりしていた。だが大学在学時、『それ』が浮き彫りになってきたのだ。だが焦っても既に遅し、病に似た様に侵食していく異変と同じように彼の心は焦燥していった。

 

 大学の友人からはネタにされ。

 同僚からもネタにされ。

 両親からは隔世遺伝と言われ、チョイ笑され。

 祖父の若かりし頃の写真を見て絶望した。

 

 彼の生前の悩み、だがそれは神によって解消されるはずだった。

 ―――はず、だった。

 

 転生後、彼の毛根は綺麗さっぱりなくなった。

 しかし傍目から見ると髪はある。ハゲなのに髪があるという謎の事態が起こってしまうだろうが、そんな事はなく、彼は正真正銘のハゲであり、彼の頭の上の物体も本物の髪ではない。転生してベッドから起きたら頭の上にある筈の草原が焼け野原に変わってしまっていたのだ。

 側らにはなくなった髪の代わりに別のものが置いてあった。

 

「(何故、俺の頭髪がオープンゲットしているのだろうか?)」

 

 それはヅラだった。頭に被せるアレである。それを齢9歳の小学生が無表情で被り、フッサフサの小学生達に混ざって授業を受けている。中身25歳の良い年した大人がヅラを被って小学生の授業を受けている。

 

 

「………ッ」

 

 

 社会的に死んだら、神マジ殺す。頭皮に血管を浮き上がらせるほどに激昂した彼は手に持った鉛筆をバキリとへし折り怒りに燃える。どうやって間違えたら、『毛根をくれ』が元からあった髪からリサイクルして高級桂にしろって言った?

 転生直後の両親にも言えねぇよこんな事。どうしてくれるんだ、この秘密を最悪自立できる20歳まで守らなければいけなくなってしまったではないか。

 

「ねえ」

 

 お金とかその辺は用意良いのにそこらへん何でしっかりしないのよ。本当に訳分からない。このまま一生このヅラで頭部を守っていかなければならないと思うと悲しくなってくる。ともかくこの砂上の楼閣を守りきるかが不安だ。

 

「ねえ……ッ」

 

 しかし、今いるこの場所は好奇心旺盛な刺客(小学生)達が蔓延る小学校。校名は忘れたがここは俺にとって、守るべきもの(ヅラ)が危険に晒される敵勢力のど真ん中。

 意思に反して学校に来てしまうこの強制力が恨めしい。

 

「ねえってば!」

 

 ピキーンッ!と頭の中にニュータイプ的な何かが流れ咄嗟に頭を防御し身を沈める。次の瞬間、肩の横を何かが横ぎる。とても軽くささいな風圧。だが彼にとってそれは危険なもの。危機に対する回避に常軌を逸した反応を見せた彼は、安堵の表情を浮かべ、手を空ぶらせている少女に視線を向け、ごめん、と一言謝る。

 

「あ……いえ、こちらこそごめん……本当にごめん」

 

 何故か引き気味に謝られる。この体になってから何度目かの登校からかこの少女の名はうろ覚えだが覚えている。確か、バニングス、という名前だった筈、とにかく面倒見が良く悪い子ではない、という印象があったので取り敢えず頭から手を離し、安堵の息を吐きながら金髪の少女の話に耳を傾ける。

 

―――どうやら、今日は彼女と彼が日直の日らしいので日誌を書かなくてはいけないらしい。なんとも小学生の体は難儀だな、と思いながら若干、引き気味のバニングスから日誌を受け取り書ける部分を書き込んでいく。

 

「(全く、悪い子じゃないのは分かるが、さっきのは危なかった)」

 

 小学生と言えどもヅラを揺らすくらいのそよ風は起こせる。もし先程の張り手が直撃していたらヅラがフライアウェイしてしまっていただろう。

 

 ハゲにとって日常的な危険が多すぎる。

 彼は日誌に鉛筆を走らせながらこれからの学校生活を想いを巡らせ、ため息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリサ・バニングスはクラスメート、何原行方(いずはらゆくえ)に気まずい気持ちを抱いている。

 それが恋とか嫉妬といった感情だったならどれだけ良かっただろうと彼女は時々思う。気まずい気持ちというのは、授業を受けている時や日直の仕事を一緒にしている時にユクエを見るとどうにも胸の奥底がムカムカするような気持ちになるのだ。アリサはハッキリ言えるだろう、これは恋などではない、と。

 

 そしてそのムカムカの理由は分かっている。そしてそれが自分が悪い事もちゃんと理解している。

 

 話は変わるが、アリサ・バニングスは目敏い少女である。良く言えば人を見る目がある、と言えるが逆を言えば気にしすぎているともいえる。そんな彼女が席替えで偶然一緒になったユクエの事を無意識的に見てしまうのは無理のない話だろう。

 

 時間は数日前までに遡る。

 小学三年生になって少し経った頃、席替えが行われた。出席番号順で並べられた席からクジによって別の席に座る事になった彼女は、彼、ユクエの右隣の席に移動することになった。ユクエの席は窓際の一番奥、必然的に彼の隣はアリサだけという事になる。

 隣同士になったなら仲良くしようかな、等と思っていたアリサだが、ユクエの隣に移動したその瞬間、微かな違和感を感じとった。

 

 それがなんなのか一瞬分からなかった彼女は、席替えが行われたその時限をユクエの観察につぎ込んだ。

 小学生らしいあどけない顔、妙に達観した瞳。それだけではおかしいとは思わなかった。彼女とて大人っぽいとか時々言われているからだ。

 30分ほど横目で観察してようやく突き止めた違和感の正体は顔ではなくそこより少し上の場所、髪の毛。

 

 何処からどう見ても普通の髪の毛。

 真っ黒い髪の毛。男の子らしい髪型。

 

 授業が退屈なのか、目を瞑り小さな寝息を立てている彼に合わせて、僅かに揺れ動いている髪の毛を見て、自分でも何がおかしいのか思わず首を傾げてしまった。というより、何で自分は隣の男の子の顔を30分以上凝視してしまっているのだろうか。

 少し恥ずかしくなったアリサは若干羞恥に頬を赤く染めながら前を向こうとした、が。先程まで観察していた肘を支えにして居眠りをしていた彼の肘が倒れ、支えを失った頭がガクンとやや勢いをつけて下がった事でアリサの意識は再びユクエにへと向けられた。

 

「え」

 

 まず見えたのは太陽の光。

 バカな、今は昼時で太陽は真上に上がって居る筈、意外と冷静に判断したアリサが、突然照り付けられた太陽に光に目を瞬かせながら手を影にして、ユクエの方を見る。

 

「…………ぶほっ!!!!?」

 

 乙女らしからぬ声が彼女の口から吐き出された。

 ユクエの頭は玉のような光沢を放っていた。何を言っているか分からないかもしれないが、とにかく太陽に反射して輝いていた。「じゃ、じゃぱにーずまるこめぼーい……」と自分でも訳の分からない言葉を吐き出しながら、机に突っ伏しながら床に落ちた物体を見る。

 

―――先程、ユクエの頭に乗っていた桂がそこにあった。

 

「くほっ、げほっ…………ひ、ひぃ……」

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、内心、ひらすらに謝ってしまった。笑ってはいけないと分かっているはずなのにお腹が笑う事を強要しているかのように、笑いたい衝動をひっこめてくれない。

 

「バニングス、大丈夫か?」

「はひ!?」

 

 机に突っ伏しながら体を震わせていた彼女を不審に思ったのか、担任の先生が声を掛けてくる。彼女は瞬時にこの事態のヤバさを理解した。このままでは、ユクエのハゲが周知となってしまう、と。

 当の彼はこの状況に気付いていないのか、呑気に居眠りをしている。こんな時に何で寝ているんだッと思わず言葉を吐き出しそうになってしまうも、先生に注目されてしまうという事態を引き起こしてしまったのはあくまで自分なので、必死に言葉を飲み込みながら、咄嗟に机に開いていたノートをユクエの頭に被せる様に叩き付け、先生に愛想笑いを浮かべる。

 

「な、なんでもないです……」

「……そうか?」

 

 先生と一部のクラスメートの視線が別の方へ向かったその瞬間に、雷の如き速さで床に落ちる桂を掴みノートでカモフラージュされているユクエの頭にソレを叩きつける。

 ファサァという滑らかな音と共に本来あるべき場所に戻った桂を見て、アリサはすごく気まずい気持ちになった。

 

「ち、力になってあげなきゃ……」

 

 この秘密を知っている者は自分しかいない。

 妙な使命感が彼女を突き動かした。ほとんど知らない子だが、クラスメートで隣同士ならできるだけ力になってあげたい。

 

 アリサ・バニングスは目敏い子であり、それでもってどうしようもなく親切な子であった。

 

 

 

 

 

 時間は戻り、ユクエに日誌を渡した彼女は、頬杖をつきながら日誌を書いているユクエを何となしに眺めていた。一目じゃ判別がつかないほどに精巧なヅラ、自分でなければ分かる人はいないだろうな、と自画自賛しながら先程の光景を思い出していた。

 

 声を掛けているのに無反応だったユクエの肩を軽く叩こうとしたら、頭を凄まじい挙動で抑え睨み付けられてしまった。あの時の本気で恐怖したような眼が少し忘れられなかった。

 

「―――かみ」

「っ!?」

「は、どこかしらー」

 

 「かみ」という言葉に過敏なほどの反応をするユクエにアリサは何処とない嗜虐心を抱く。彼の反応はいちいち面白い、というより楽しいのだ。

 先程までは怖がらせて申し訳ない、程度には思ってはいたが、案外こういうのもいいかもしれない。この秘密を知っているのは自分だけというのは、中々の優越感だ。

 

 アリサの方を戦々恐々とした目で見た彼に、首を傾げながら彼女は罪悪感と嗜虐心の間で揺れる。

 




こんな感じで各キャラに視点を当てて展開していくスタイルです。
短編形式のようなものなので、話が飛びます。
そしてワンサマーのSOSのようなものなので、気長に書いて更新していくつもりです。



後一話更新致します。



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