新訳 東方紅魔記   作:ぐれにゃん

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龍の意地

・・・・。

 

・・・ハァ、ハァ、ハァ・・・。

 

疲労困憊。血塗れの咲夜とパチュリーとは対象的に、妃は息も切らさず、一滴の血も出てなかった。

それどころかあれから何一つ変化はなかった。衣服すら・・

 

理由は1つ・・。

 

あれから1度も被弾すらしてないのだ。レミリア助勢の為に早期決戦を求める二人は最初から全力。

にも関わらず、当たらない。・・・焦りと疲労がパチュリーの心を折ろうとする。

 

『これだけ打って、当たらないの?あのスピード、捕えるのは不可能よ。・・どんな系統の魔法でも当たらないと意味を成さない・・』

 

彼女は賢い分、普通の者より見切りや諦めも早い。冷静な判断力が強みである彼女の弱点とも言えるだろう。

 

『パチュリー様!まだです!チャンスはあるはずです!諦めてはお嬢様を裏切る事になります!』

 

咲夜も馬鹿ではない。内心このままでは何年経っても攻撃を与えるのは無理だと解っている。

・・・しかし咲夜は、レミリアに対しての忠誠心からか、レミリアに頼まれたことを絶対に成し遂げようという強い意志が感じられる。

・・例えそれが不可能だとしても。レミリアの為ならどんな事にでも折れない心・・・それを持っている。自身を省みない危うい心ではあるが、今はそれがパチュリーを支えている。

 

そして、冷静な判断力のパチュリーによる的確な指示での連携。正に理想的な形。

 

・・・しかし。

 

今回は相手が悪かった。

 

咲夜の意志まで、もぎ取ろうとする力の差。

 

パチュリーの策略を上回る、先読み。

 

智力、戦闘力、共に妃の方が上だった。

 

そんな中、美鈴・・・。

彼女にも限界という終末が近づいていた。

 

・・ハァ、ハァ。

 

(咲夜さんやパチュリーさんが、苦戦している・・・。クソ!この体さえ、まともに動けば!私が足止めを!)

(あの二人には命を救われた借りもある・・なんとか返す為にも。なにか方法は?・・。駄目だ。今の私では、何の役にも。それに小悪魔さんが、この兵の数を一人で相手するには僅かな時間しか持たない。)

(・・・考えて見れば、私は何回死んでるのだろうか?その度に救われて……フラン様を守る?…馬鹿か?守られてるのは私じゃないのか?)

(そんなのは、ごめんだ。それにまだフラン様に、格好良いとこも見せてない!どうせ、死んだ命だ。)

 

バッ!

 

急に美鈴が妃に向かいダッシュした。

 

咲夜とパチュリーに気を獲られていた妃は気付くのに一瞬遅れ美鈴に羽交い締めにされた。

 

!?

 

妃だけでなく、咲夜とパチュリーも驚いた。

 

『くっ、死にぞこないが!』

 

妃は振り払おうとするが、美鈴は最後の力を込め、離れない。

 

『咲夜さん!パチュリー様!今です!私もろとも!』

 

・・ッ!?

・・ッ!?

 

『美鈴!貴女!何言ってるの!?・・そんなこと!?』

 

咲夜が慌てて、美鈴をやめさせようとしている。

その咲夜を尻目にパチュリーは素早く詠唱を始め、咲夜のナイフに魔法を込めた。

 

『パチュリー様!?』

 

咲夜がパチュリーに気付き、振り返った。

 

『馬鹿が!』

 

その隙に妃がコウモリになって、美鈴から離れようとする。

 

・・・・・!??

 

『コウモリになれない??』

 

コウモリに分離出来ない妃。理由はパチュリーにあった。

パチュリーはその広い視界と冷静な判断力で美鈴が走りだしたと同時にまず、束縛系魔法の詠唱。

美鈴が羽交い締めにしたと同時に発動。

美鈴が声を発した瞬間にナイフに強化魔法。

この僅かな間で瞬時に全てに置いて最善の手順を踏んでいた。

並みの魔法使いでは出来ない素早い魔法。常人では判断出来ないソレをパチュリーはやってのけた。

 

『こざかしい真似を!』

 

妃がコウモリ化を諦め、爪を使い、次々と美鈴を刺していく。

 

『ぐっ!』

 

『咲夜さん!・・早く!もう・・持ちません!?』

 

もう美鈴は体中が血で真っ赤だった。

・・・この状態での咲夜の攻撃は当たり損いでも確実な彼女の死を感じさせるには充分だった。

 

『でも・・。貴女が・・。』

 

戸惑う咲夜。

確かに妃へ一撃を与えるチャンス。

しかし、それは美鈴を殺してしまうことに繋がる。自分が目的の為に美鈴を殺す。

・・・咲夜は決断出来ずにいた。

 

『咲夜!レミィの予知を信じるんでしょ!?それにこのままじゃ。彼女、犬死によ!?』

 

!!

 

冷酷ではあるがパチュリーの言葉で決断する咲夜。

レミリアの言う通りなら美鈴は死なないはず。

・・有り得ない、どこかで未来が狂ったのでは?そうも思ったが、咲夜は今はそれに賭けた。

・・いや賭けざる負えなかった。

 

『・・・美鈴!ごめんなさい!』

 

(・・お嬢様。・・・能力を使用します。・・・お許し下さい)

 

カチ

 

咲夜は止まった時間の中、出来るだけのナイフを投げた。

咄嗟に妃が美鈴を盾にして美鈴だけが死に、犬死ににならない様に、後ろからも。

・・・逃げ場のない全方位に。

 

時間が動くと確実に美鈴にも当たる。確実すぎるほどの致死量のナイフが。

止まった時間の中で、咲夜は涙を流し美鈴に謝った。

 

『ごめんなさい。・・貴女は、私の知る中で、一番の勇者よ?・・本当にごめんなさい。・・短い間だけど、もっと優しくしてあげれたら良かったわ。』

 

咲夜は自分の投げたナイフを見つめ、正直美鈴が助かるとは思えなかった。

 

・・・。

 

咲夜の涙が止まる。

 

・・・そして時間が動き出した。

 

・・・ッ!!?

 

妃は初めて見る光景に驚く。慌てて硬化系魔法を唱えるが間に合わない。

 

美鈴は周りの見慣れたナイフを見て、瞬時に咲夜の思惑を理解した。自分が盾にされて失敗しないように。ということも。

 

美鈴は微笑みながら。

 

『ありがとう。咲夜さん・・・。』

 

グサッ!グサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサグサッ!

 

 

バタ!

 

微笑んだまま倒れる美鈴。

 

妃は・・

 

生きていた。美鈴の前に立ち、怒りをあらわにしている。

傷の再生を試みるが、再生が出来ない。

 

『おのれー!虫けらがあ!』

 

妃は倒れている美鈴の顔を踏み潰そうとした。

 

カチ

 

・・その瞬間、妃の目の前に遠くにいたはずの咲夜が現れた。

 

『触るな』

 

咲夜は人とは思えぬ冷たい視線のまま、妃の額の中心にナイフを突き刺した。

 

『ギャアアアアァァ!』

 

叫び、のた打ち廻る妃。咲夜の視線に恐怖を覚え、死を予感した。

 

『アアアアァァ!・・お前達!このままフランを生かしておくと後悔するぞ!?そいつは・・』

『五月蝿い』

 

咲夜が表情を変えずに、一本、また一本と、ナイフの刺さってない所、全てに、ひたすら突き刺していた

 

 

・・・妃はすでに絶命していた。

 

・・・・・。

 

『ワーーー!!』

 

逃げる兵士達。・・・図書館に生きてる敵は誰も居なくなった。

 

それでも咲夜は、妃の体をひっくり返しては、隙間を見つけ、ひたすら刺し続けていた。

 

ザクッ。・・ザクッ。・・・ザクッ。

 

ザクッ・・・・・。

 

『さ、咲夜さん?怖いですよ?』

 

ザクッ・・・。

 

ザッ・・。

 

・・ッ!?

 

美鈴の声だった。咲夜は手を止め、我が耳を疑った。

 

(そんな馬鹿な!?あの状態で、あのナイフの量。生きてるはずが!?空耳?いや、でも。)

 

咲夜は慌てて美鈴に駆け寄り、心臓に耳をやった。

 

・・・ドクン、

 

・・ドクン。

 

(・・!?生きてる!)

 

『美鈴!生きてる!?』

『・・はい。なぜかは、分かりませんが。・・えへへ。』

 

笑いながら申し訳なさそうに応えた美鈴を見て、咲夜の目に生気が戻った。

 

『パチュリー様!?』

 

咲夜は急ぎパチュリーを呼ぶ。

 

『フフ、知ってるわよ?』

 

・・・ッ!??

 

パチュリーが微笑みながら、美鈴と咲夜に近づく。

 

(・・え?)

 

『実はあのナイフには妖怪を回復?というか、妖力を回復する魔法も懸けておいたのよ。吸血鬼が回復しないのは、昔レミィのおかげで実証済みよ?・・どう?魔法て便利でしょ?貴女達のチート能力にも負けないわよ?』

 

唖然とする咲夜と美鈴。

 

『パチュリー様!それなら早く咲夜さん止めて下さいよ!怖かったんですから!おかげで、なかなか生きてるの言えなかったんですよ!?』

 

美鈴が咲夜をチラチラ見ながらパチュリーに言った。

 

『あら?私も怒ってたから、見てて気持ちよかったのよ?』

 

・・・。

 

唖然とする美鈴。二人には逆らわないでいようと肝に命じた。

 

『はあー。結局また、助けられましたね。・・・私はいつになれば二人に借りを返せるんですかねー?』

 

美鈴は悔しそうに嘆いた。

・・・・嘆いている美鈴を咲夜がそっとを抱き寄せた。

 

『充分すぎるほど、もう返してもらってるわ?』

 

パチュリーも、頷いていた。

美鈴がいなければどうにもならなかった。

仮に時間を止めたとしても、動けるのは自分だけ。拘束魔法は掛けれない。コウモリになり、躱されるのがオチ。

この戦いのポイントは美鈴の決断だったのだ。咲夜は心底、〔紅・美鈴〕という女を認めた。

 

(あの土壇場での美鈴の覚悟、勇気。そして、それに冷静に素早く対応するパチュリー様・・・私も、まだまだね。)

 

・・・。

 

『とはいっても、美鈴が大怪我には変わりないわ。こあ?治療お願い。フラン様も、美鈴に付き添ってあげてください。多分、美鈴にはそれが一番ですから。咲夜?私達はレミィの加勢に急ぐわよ?』

 

!?

 

『そうだっ!お嬢様!』

 

急ぎ、屋上へ向かい走る咲夜。

 

『ちょ、置いていかないで!』

 

慌てて追い掛けるパチュリー。

 

・・・。

 

『あんなに傷だらけなのに・・あの二人には適いませんね。』

 

美鈴は動けなくて、少し残念そうにする。

 

『そんなことないよ!?美鈴、格好良かったよ!』

 

言葉を遮るように美鈴に抱きつくフラン。

 

『・・本当ですか?・・ハハハ・・・・』

 

『ほんとだよ!・・美鈴?泣いてる?痛いの?こら!小悪魔!ちゃんと治癒しなさい!』

 

ポカンと小悪魔の頭をフランが叩いた。

 

『いた!…もー!…全力ですよー?』

 

小悪魔がふてくされてる。

 

『ハハハ、違いますよ?フラン様。・・ただ、フラン様にそう言ってもらえるのが嬉しくて・・・。それが聞きたくて・・・。』

 

『あー!また泣いてる!?小悪魔!!』

 

『えー!?』

 

『ハハハッ』

 

『フラン様。・・私は、幸せ者です。ずっと貴女に仕えたいです。』

 

(・・・レミリア様、パチュリー様、咲夜さん。残念ですが、私はここでリタイアです。・・・御武運を。)

 

この幸せが、これからも続くように。美鈴は天に祈り、レミリア達の勝利を願った。

 

 

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