父はそれからずっと寝たきりだった。
長い寿命もいつかは尽きる。その時を迎えようとしていた。
・・私は、毎日身の回りの世話をしていた。声も出すのに精一杯な父は、用があるときは、私を呼び鈴で呼ぶようになっていた。
そんな時、あいつが来た。
外の兵が、ドンドン倒されている。間違いない、十六夜だ。
私が向かおうとした時、それより先に相手がドアを蹴り飛ばしてきた。
ガシャーーン!!
『静かにしてもらえませんか?病人がいます。天寿を全うしようとしてるんです。今日はお引き取り願いたい』
私は十六夜を睨み付けた。十六夜は寝ている父を見て
『忘れたのか?これは仕事だ。相手が生きてる限り、俺は標的を殺す!』
ッ・・・・!
怒りを堪えるのに必死だった。しかし、ここで戦えば父に危害が。
・・・!??
父に腕を掴まれた。そして・・
『か・・て・・・』
あのとても底の深い器量を持ち。まるで暗闇の中での月の様な威厳のある。そして誰もが恐れた父が。
・・・とても弱々しい、か細い声で、私に言った。
私は・・・・大事なことを忘れていた・・私は勝利を誓ったんだった・・・最後の最後まで父に世話になった。
ここで返させてもらう。
『かしこまりました。必ずや』
そう言い、私は十六夜と対峙した。
『今回は力を温存する必要もなさそうだな?全力でいくぞ?くれぐれも死なないようにな?』
十六夜が両手にナイフを構えた。前回とは違い、明らかに殺気立っている。間違いなく殺すつもりだ。
・・・しかし、私は恐怖を感じなかった。
『遠慮なく。どうぞ?』
ダッ・・・・・
私は常に先手しか、考えてなかった。単純に倒せば倒されない。だが、その先手を読まれて、先の先を取られ、以前はやられた。
父とは受け流し、つまり防御術の訓練を主体にして来た。
『おぬしは、攻撃力、反射神経、動体視力、全てに置いて抜きん出ておる、じゃが守りが弱すぎる。確かにタフじゃが、一撃で致命傷を受けるような格上が相手だと終わりじゃ。川の流れのように流すのじゃ。流れに逆らわずにそのまま攻撃すればよい。』
・・・ふふふ。お陰様で、今。こいつの攻撃がまったく当たる気しませんよ。
・・・・・。
・・・・・。
ことごとく、相手のナイフを躱す。
躱すついでに一撃ずつ入れていく。
・・・全力の一撃よりは与えるダメージは落ちるけど、確実に与える。
・・・・・そして、当たらない。手を出せばやられるという相手の精神力も減らしていく。
攻守一体とはこの事なのか?面白い様に思い通りになる。
はあ、はあ、はあ。
十六夜が、疲れ果ててる。腕も上がらなくなっているようだ。
『そろそろやめますか?』
『・・・まだだ!』
十六夜が、こちらに向かってくる。
冷静さも失っている・・・。
では、ここで得意の先手必勝ですね、死なないでくださいよ!
パキャン!!!
・・ドン!
七割くらいの力で殴り、十六夜を吹き飛ばした。
・・・十六夜は気を失った。
私は十六夜に一礼をし、父の元へ向かった。
『申し訳ございません。壁に穴が・・』
父は微笑み
『よく、やった、ほうびを、あた、える』
・・・無理に話す父を見るのが、辛かった。なによりその言葉だけで充分だった。
『いいですからしゃべらないで下さい!』
そんな私を遮り、父は続けた。・・なにか急いでいる様にも見えた。
『おぬしに、名を与える』
心配している私に気を遣ったのか、さっきより力強くいった。その心遣いに私は涙した。
『そうか、そんなに名が、嬉しいか?』
主は勘違いしているようだが、主の嬉しそうな顔を見て、私は黙った。
すると主は突然手元の呼び鈴を鳴らした。
『この紅魔館では、呼び鈴をならすと、美しい者が現れる・・・それは・・』
『・・・おぬしのことだ・・・紅魔館の紅。呼び鈴の鈴。美しいの美』
『性は紅。名は美鈴。と言うのじゃ、どうじゃ?』
ホン・メイリン・・・・私は何度も頭で復唱した。
『・・ありがとうございます!紅・美鈴!!生涯、この名を使い続けると誓います!』
そう言い、中国式の挨拶で礼をした。
・・・・しかし、父からは、何の返事もなかった。
父は・・・・すでに息を引き取っていた。
私は自分の名を何度も呼び。泣いた。そして、最後に最高の褒美をくれた父に感謝した。
そして、父が死に。次のスカーレット伯爵が誕生した。
・・・私は、こいつが嫌いだった。
理由は単純、十六夜が来た時に一目散で、父を見捨て逃げていたのだ。
そんな新しい主に、私は一般兵への降格を命ぜられた。
それはいい、こちとら、あいつの側近なんて願い下げだ。問題はここからだった。
・・・一般兵になると云う事は、名前の剥奪。忘却が行われる、父の死に際にもらった大事な名前、失うわけにはいかない。
失いたくない。
・・しかし、紅魔館を捨てるわけにも・・・。
私は悩み続けた。
・・・結果。
・・・私は紅魔館を捨て逃げ出した。どうしてもこの名前だけは失いたくなかった。
・・・・。
それから、暫らく気儘に生きていた。
腕自慢達と戦ったり、賞金首を狩ったりして生計を立てていた。
そういう生活を続けていたら帽子に書いてる[龍]の文字のせいか、[龍]と呼ぶ奴まで、出てきた。
はた迷惑な話だ。私には[紅・美鈴]という名前がある。
何百年か経った頃に、風の噂で、紅魔館の主が吸血鬼を統一した、という話を聞いた。
父以外そんなこと出来る奴はいない。そう思ってた私は、そいつを見る為、再び紅魔館に行くことにした。
そして。・・・・紅魔館。そこで二度目の運命的な出会いをする事になる。