俺は物部悠。
世界でたった一人の男の「D」であり、現在は「ミッドガル学園」という自治教育機関で訓練などを行っている。
学園の生徒会長は、物部深月。
深月は、偶然にも名字が同じな訳ではなく、俺の義理の妹だ。
クラスも一緒で、俺達は「ブリュンヒルデ教室」に所属している生徒である。
……そして、今日はそんな深月の様子が、いつもと違って何やらおかしい。
今回は、一体どうしたものだろうか?
ちなみに、今は演習場に向かう途中である。
「…………」
やっぱり、いつもの深月じゃないな。
いつもより大人しいし、何だか足元がフラついている気がするし……
……ん、待てよ? ということは……
フラーッ
「深月っ‼」
床に倒れ込みそうになった深月を、俺は瞬時に支えることができた。
そうか、やはりそうだったのか。
こいつ、どう見ても熱があるじゃないか…!
「深月さん⁉」
「深月ちゃん‼」
……でも、こうなってしまったものは仕方がない。
「モノノベ! 早く深月ちゃんを……」
「ああ、分かっている。俺が、このまま急いで保健室に連れて行く」
「……物部悠に頼むのは少し癪がありますが、仕方ありませんわね」
「深月ちゃんのこと、よろしくね? モノノベ!」
クラスの仲間達から許可をもらい、俺は深月を抱いて直ちに保健室に向かった。
他のクラスを通る度に、「あの唯一の男子生徒が会長をお姫様抱っこしてる」などと不平が聴こえるが、緊急事態だから仕方ない。
今、大事なのは、妹である深月だから!
保健室に到着すると、俺は深月を空いていたベッドに寝かせた。
起きたら熱を測ってやるか。
「…………」
……やっぱり、会長としての義務や日頃の演習などで疲れちゃったのかもな。
無事に良くなってくれるといいけど。
「……あれ…? ここって……」
すると、深月が目を覚まし、ゆっくりと体を起き上がらせた。
「良かった。起きたか」
「……兄さん……」
「この感じだと覚えていないとは思うが、お前、演習場へ向かう途中の廊下で、急に倒れてしまったんだよ」
「私が…?」
「多分、相当疲れていたんだと思う」
「……兄さんが、私をここまで運んでくれたのですか?」
「元々、倒れそうになったところを支えたのが俺だからな」
「……ほ、本当、相変わらずですね兄さんは/// 女性の体を平気で抱くなんて、破廉恥行為にも程があります……///」
熱があるからといって、いつもの深月と変化はなかった。
「お前のことでそれ所じゃなかったんだ。許してくれ」
「……それなら、仕方がありませんね…… 許してあげます///」
「ありがとう。……それより、起きたところ早速で悪いが、今から熱を測ってくれないか?」
と、俺は深月に体温計を渡した。
確率はかなり低いと思えるが、できれば、「実際には熱がなかった」ということを願っている。
ピピピ、ピピピ……
どうやら測り終わったらしく、深月は、脇の下から体温計を取り出して確認した。
「…………」
「どれどれ…………っておい。深月?」
俺も温度が気になって覗こうとすると、深月はその体温計を瞬時に隠した。
ん、怪しいぞ…?
「べ、別に、これは私自身に関係することなので、兄さんが確認することではないかと……」
「お前まさか…… なあ、いいから見せてくれ」
「それは嫌です!」
「…………」
……そうだ。
こいつは、この調子でも、一応体調を崩している病人だ。
だから、きっと普段よりも動きは鈍いはず。
深月には悪いが、こうなったら……
「ひょいっ」
「あ……!」
俺は、深月の体の後ろから、すんなり隠していた体温計をゲットすることができた。
すなわち、やはり動きが鈍くなっていた。
「……おいっ。これはマジなのか…?」
「だ、だから兄さんには見られたくなかったんです……」
「深月。お前、39度って…………明らかに高熱じゃないか‼」
というか、39度もあるのに、どうしてこんなにいつも通りの自分でいられるんだ……??
倒れる前までもよく我慢が出来たなと、逆に感心してしまう。
「どうして見せたくなかったんだ?」
「だって、この温度が兄さんに気づかれてしまったら、無理矢理でも早退されてしまうじゃないですか…… 授業も、私自身は受ける気でいたのですから……」
……やっぱり、深月は真面目なんだな。
いや、「馬鹿真面目」と言っても過言ではないかもな。
「いくら俺に気づかれなくても、この状態で参加したらまずいだろ。今日と明日だけは、安静にして休みな?」
「明日もですか⁉」
「当たり前だろ? 演習のことはこれ以上考えるな。今は自分の体を大事にしろ」
「……分かりました……」
「ひとまず、今日のところは早退した方がいいだろうから、まずは部屋に戻る支度を済ませるか」
「はい」
……そうだ。
よく考えれば、この体温だと、さすがにこいつを一人にさせておくのはまずいよな……?
「……兄さん?」
「わかった。今日は、俺が一日お前の側についてやるよ」
「……えっ…?///」
おっと。用件を説明しないと、さすがに驚くか。
「こんな状態で、お前一人にさせておくわけにはいかないだろ? だから、今日は俺が一日付き添いをして、深月のそばにいてやるよ」
男子が女子の部屋に来て一日付き添いをすることは、普通では滅多に有り得ない。
でも、このような状況になってしまったからには、深月のためにも側にいてあげた方がいいと俺は感じたのだ。
「……と、特別ですよ?///」
「ありがとう。それなら、教室に置いてある荷物は俺が取りに行ってやるよ」
「いえ。兄さんに女性の荷物を運ばせるわけにはいかないので、私が取りに…………っ‼」
そう言って立ち上がろうとした瞬間、深月は頭痛を感じたのか、左手で頭部を押さえながらその場にしゃがみ込んでしまった。
「すみません。やっぱり、兄さんにお願いできないでしょうか? 今の私じゃ、立つのが精一杯です……」
「……だから言っただろ? ちょっと待ってろ」
そう言うと、深月を保健室に置いて、代わりに俺が用具を取りに教室まで向かった。
何分か経ち、俺は深月と自分の用具を持って保健室に到着。
「持ってきたぞ。ついでに、篠宮先生に早退することも伝えてきた」
「ありがとうございます。もしかして、兄さんも早退するのですか?」
「何を言っているんだ。付き添うんだから当たり前だろ?」
「……そっか。兄さん、私のために……」
「今、何か言ったか?」
「独り言です。それより行きましょう?」
「そうだな。ただ、お前、立つのがやっとなんだろ? 部屋まで歩けるか?」
「私も、それについて悩んでいたところです」
……何か、良い手段は無いのか……?
「……こうなったら、俺がまた深月を抱いて部屋まで連れて行くしかないか?」
「そ、それはっ。さすがの私でも、羞恥心が耐えられなくなるのでやめてください……///」
「俺だって恥ずかしいけど…………なら、抱くんじゃなくて、俺が深月を負ぶうっていう方法は? それ以外には思いつかないんだ」
「……そちらも恥ずかしい気にはなりますが、まあ、仕方ありませんね……///」
「ああ。許してくれ」
ようやく同意してくれたところで、俺は深月を負ぶって保健室を出た。
「見て? あの唯一男の人が会長を……」
「うわぁ……」
やっぱり、他のクラスを通る度に不平なとが聴こえてしまう。
仕方ないんだ。緊急事態なんだから!
「兄さん。やっぱり、負ぶわれていても羞恥心を感じてしまいます……///」
「だから許してくれって……」
後ろで負ぶわれている妹からも不満を言われてしまう。
まあ、それは仕方ない。とにかく、今は一刻も早く回復してくれれば、それで……
2話へ続きます。お楽しみに!