【地上本部内医療施設】
本来は関係者以外立ち入り禁止の区域にそこに似つかわしくない少女がいた。その少女の両脇には女性二人が挟むようにして立っていた。その三人の前には肉体組織がひき肉状態になった、悲惨な死体が横たわっていた。しかし、本来は混乱した少女を落ち着かせるはずの女性二人が顔を悲痛に染めているというのに、少女は表情一つ乱さず、普通の一般人であれば平常心を失って錯乱状態に陥るような惨状体を、冷静時々考え込むような仕草を見せながら淡々と観察していた。
「どうですか」金色の髪の女性フェイト・T・ハラオウンが探るように沈痛な面持で話しかけると、少女カリア・ブロッサムは淡々と観察結果を話し始めた。
「詳しく調べてみないことにははっきりとしたことはいえませんが、ほぼ間違いないと思います。ただ気になる点が二つ。」カリアはいかにも腑に落ちないという顔をして指を二本立てた。
「気になる点というと。」
「まず一つめに被害者の死体の各箇所の効果濃度にばらつきがあるということ。二つ目は体の箇所によって時間差で効果対象にされた痕跡があるということですかね。こうなっているということはやはり、あの予想が当たりなんですかね。」カリアは残念なような、面倒くさそうな複雑な顔をして頷いた。フェイトはそれを見ると即座に反応した。
「予想というと。」
「スキル保有者によるスキル無制御状態(スキルオーバードライブモード)の乱発。」
「何なのそれは。」
「スキルは先天的に手に入れた技能だと、先ほどお話しましたよね。」
「ええ。」
「それゆえにスキル保有者は総じて不安定、特に感情に左右される傾向があります。そして、精神が不安定によって起きる暴走状態のことをスキル無制御状態(スキルオーバードライブモード)と言います。この状態になると簡単にいえば、能力を使って暴れまくるんです。」カリアが用語説明をすると、フェイトは何か気がついたような顔をした。
「そうか、そんな風にスキルを乱発すれば当然、体が限界を迎え、倒れる。だから、毎回殺される数がほぼ一定なんだ。」
「そのとおりです。鋭いですね。」
「せやけど、だったら現場にそのスキル保有者が倒れている筈やない。」はやてはぎもんを投げかけた。
「そこで重要となるのが、偶像です。」
「偶像?。」カリアの言った単語にはやては意味がわからないという風に尋ね返した。
「偶像というのは「偶像魔法」で用いられる用語です。例えば風水というのをご存知でしょうか。」
「地球の陰陽道やなんかにでてくるあの。」
「ええ、あれも一種の偶像魔法なんですよ。家具や出入り口、窓などで回路を、配置や置き方などで術式を組み、魔法陣を形作る。「偶像魔法」というのは意味を成す物、これを「偶像」と言います。そしてこそれらをに配置や置き方等で役割を持たし、それを魔法の術式として利用するというものです。有名所では京都の結界ですね。碁盤の様な道路で力の流れを創り、各所に置いてある神社仏閣などでその流れを制御することによって、一種の結界の役割を果たしているんです。この他にも古い寺院や協会等は神話の英雄や精霊等の像を四方の隅等に配置し、中心に神や神の眷属等の像を置き、結界を創っています。そして、これらの魔法維持させるための魔力は自然に在る魔力を使用します。」
「まさか、その偶像魔法をつかって、倒れた人間を回収してるというんか。」はやてが驚きを隠せない様子で詰め寄り尋ねると、カリアは頷いて答えた。
「その通りです。察しが良くて助かります。スキル保有者を犯行現場に運んでいるのも、同じ術式でしょう。神や神の眷属などが移動などに用いる大地に流れる魔力の流れ、「気脈」を利用した転移魔法と思われます。」カリアが魔法の詳しい内容を説明すると、はやては怪訝そうな顔をして感想をを言った。
「「神や神の眷属」やと。急にオカルトめいた話になってきたなー。そんなの本当にいるんか。」はやての疑問にカリアは手を横に振って否定した。
「いいえ、ちがいます。「神や神の眷属」と言ってもそういうものではなくて、正体不明のエネルギー体(アンノウンイリーガル)などの一部をそう言っているだけに過ぎません。正直いうと、わたしもそいつらについての詳しいことはわからないんですよ。」カリアはそう説明して、しかしと付け足した。
「正体がわからないがそれらが、それらがその魔力の流れを利用して移動しているということはわかるんですよ。例えば、リンカーコア。あれもどういうものなのかは管理局の科学力をもってしてもわかりませんよね。完全には。しかし、本質が分からないからといって、それらを利用したりするのには特に支障はきたしませんよね。そういうものなんですよ。」
「なんや、巧く纏めこまれた気がするけど、まあそんなのはどうでもええ。問題はそれにどう対処するかやけど。何か考えがあるんか。」はやてが試すような口調でカリアに話しかけると、カリアは掌を押し出して言葉を遮った。
「それについてお話する前に偶像魔法についてもう少しレクチャーしておいたほうが良いですね。まず偶像魔法の欠点というか、短所からお話しておきましょう。偶像魔法の効果というのは極めて小さいです。自然に在る魔力、たとえば空気中に存在する魔力素などをかきあつめて、使用するのですから当然と言えます。」カリアが話していると、そこにフェイトが疑問を投げかけてきた。
「あれ、でもそれだと集束魔法(ブレイカー)と同じなんじゃ。それに人一人を運べるような力なのに小さいって。」
「かき集めるというのは語弊がありましたね。そういう意味を成す存在となったものが集める魔力はとても微弱で、在っても無くても同じようなもので、魔力を集めると言うよりも魔力のほうから寄ってくると言った方が正しいですね。それに、人一人を運べると言っても、そんな力を創りだすには意味を成すものをそれこそ何千個も、1㎝以上の狂いが無い状態で設置しなくてはならないんです。一つ一つの力は微弱でも、それらを何千個も設置すれば力が合成され、相乗効果も生まれ、人一人を運ぶ位の結果は出せるんですよ。まあ、と言っても単に転移を行うというだけなら、ベルカ式魔法やミッドチルダ式魔法の方が遥かに効率もいいし、効果もでかいんですけどね。なんとなく、察しがついていると思うんですけど、個人転移を行うのに必要な時間はベルカ式やミッド式なら個人差もありますか、大体一分以内です。それに対して偶像魔法はどうやったて最低でも三時間以上かかります。あまりに効率が悪すぎるんですよ。」カリアのの説明を聞くと、はやては得心がいかないというような顔で疑問を投げかけてきた。
「せやったらなんで偶像魔法を使うんや。現場に直接出向いて運んだほうがええように思えるんやけど。」はやての当然と言える疑問を聞くと、カリア何か考える所が在るというような顔で返答した。
「それについては偶像魔法の利点、いえ長所をお話ししてからお答えしましょう。偶像魔法の長所それは隠密性と持続性の高さです。普通魔法というものは発動していれば、当然魔法陣や魔力光がでますから、素人でも発動しているのが判ります。しかし偶像魔法は私の様なその道の専門家でなければ、どんなものなのかはおろか、発動していることに気づくことも不可能です。そして、二つ目ですが、魔法とういうものは魔力をどこからか意図的に補給し続けなければ、すぐに消滅しています。しかし、偶像魔法はこの世に魔力が存在し続ける限り燃料の心配はいりません。そして精密組まれた術式ではないので、ある程度壊れたとしても、すぐにバックアップで代用可能です。京都の結界が1200年以上維持され続けているのが良い証拠です。このことから推測するに、スキル保有者を暴れさせている主犯格の人間は、絶対に正体をばれる訳にはいかず長期に渡って犯行を続けるつもりということが判ります。そして、対応策ですが、「術式混乱」を利用して炙りだそうと思います。」カリアが押し黙るようにして、口から言い放った。そんなカリアの様子にはやては疑問を持ちながらも聞き返した。
「なんやのそれは。」
「偶像魔法はちゃんとした理論の上で組まれたものではありません。ですから、私の様な専門家が少し細工をすれば、誤作動を起こすことが可能なんですよ。その誤作動によって起こる術式の暴走を「術式混乱」といいます。ただし、これを行うには術式発動区域内の交通規制など色々と管理局の協力が必要という訳です。そこで私は管理局を訪れ、貴方達に協力を要請しているという訳です。どうです悪い話ではないでしょう。私としてもこれ以上スキルを使って暴れまくるのはゆるせませんし、貴方達だっていまだに手掛かり一つ見つからず、停滞状態に陥った凶悪事件を、これ以上放っておくというのは得策ではないことくらい解るでしょう。それにフェイトさん、貴女はこの事件に個人的に思い入れが有るようだ。どうです、ここはひとつ手を組みましょうよ。お互いの利害が一致していることですし。」
「……わかった、その話乗ろうやないか。フェイトちゃん、なにか異存はあるか。」
「ううん、ないよ。これ以上死なせたくない…。それに…他に打つ手が無い以上、もうこれしか。」はやての確認に重くフェイトは答えた。
「では、契約成立ということでよろしいですか。」
「はい。」
「はい。」
「では、詳しい話は後日ということで、連絡は私の端末かけてください。では、see you again。」カリアはすたすたと部屋を出て行った。
申し訳ありません。また長くなってしまいました。