ーサラ・ヒューイットー
ヂリリリリリン、ヂリリリリリン、ガチャン。
『はい。義肢装具のロックベルでございます』
「あ、ウィンリィさんですか?私です、サラ・ヒューイットです」
『こんにちは、サラ。どうかしたの?』
「実はエド君に伝言を頼まれまして、出張整備をやってほしいそうです」
『出張整備って、どこか不具合でもあったの?』
「はい。指は動くのに腕が上がらないそうで、肩が外れたみたいだと言ってましたよ」
『あー、やっぱダメだったかぁ』
「何がダメだったんですか?」
『ううん、こっちの話。そういえば、エドはどうしたの?出張してほしいなら本人が電話するべきでしょ』
「こっちに来て貰えばわかる話なので言いますが、実は怪我をして入院中なんですよ」
『え⁈怪我をしたって大丈夫なの⁉︎』
「怪我は切り傷が少しで問題なかったんですが、心配したアームストロング少佐がエド君を抱き締めたせいで入院期間が延びてしまいまして…」
『…あはは』
「容易に想像できたかと思いますが、それでセントラルを動けないエド君が出張をお願いしたいということなんです」
『わかったわ。なるべく早くそっちに向かうようにするから。セントラルの駅に着いたらどうしたらいい?』
「『これ以上ないほどわかりやすい迎えの人を送るから、心配無用』だそうですよ」
『何よそれ?まぁ、いいわ。そっちに向かう準備にかかるから』
「ええ、お待ちしております」
『エドが無茶しないよう、ちゃんと見てあげてて』
「わかってますよ。では」
『うん、またね』
そう言って、電話を切ります。
元第五研究所に忍び込んだ時、エド君の右腕が突然動かなくなってしまったので、リゼンブールのウィンリィちゃんにセントラルまで来てもらうようお願いしました。
エド君は少佐の抱擁を受けたせいで、予定より大幅に入院期間が延び、移動もままならないので仕方なくこちらに来てもらうんだとか。
出張してもらうとお金もかかるらしいので、本当は呼びたくないと愚痴ってました。
エド君が寝てる病室にノックして入り、
「ウィンリィさんに電話してきましたよ。こっちに来てくれるそうです」
と報告します。
その瞬間、バシンと何かを叩く音が聞こえました。
「あれほどアームストロング少佐が勝手な行動をするなと言ったのに、それをあなた達は‼︎」
部屋の中ではロス少尉がエド君を叱っています。
「今回の件はあなた達に危険だと判断したから、宿で大人しくしていろと言ったのに‼︎少佐の好意を無視した上に、下手したら命を落とすところだったのよ⁈まず、自分はまだ子供なんだって事を認識しなさい!」
少尉が大声を出す横では、ブロッシュ軍曹もウンウンと頷いています。
少尉の肩越しに覗くと、エド君は右頬を赤くして驚いた表情を浮かべてました。
「そして何でも自分達だけでやろうとせずに、周りを頼りなさい…もっと大人を信用してくれてもいいじゃない」
少尉の言葉からは護衛としてだけでなく、一人の大人としてエド君達の事を心配していたというのがヒシヒシと伝わります。
「以上!下官にあるまじき暴力と暴言、お許し下さい‼︎」
さっきの大人が子供を叱る口調から打って変わって、部下が上司に対する口調になりました。
「…あ、いや…オレの方が…悪かったです」
エド君も2人に心配かけたことを素直に謝ります。
「…ビンタのお咎めは?」
「そんなもんナイナイ!」
恐る恐るという感じで2人は伺いますが、エド君は否定します。
その途端、大きく息を吐く2人。
余程エド君を叱ったことは軍人的によろしくなかったんでしょう。
エド君はその辺がまだ分かってないのか、
「なんでそんなに気ぃ使うんだよ?」
と2人に尋ねました。
「一般軍人でないとは言え、国家錬金術師は少佐相当官の地位にありますから。あなたの一言で我々の首が飛ぶ事もあるんですよ」
と少尉が返事しました。
少佐と言うと、アームストロング少佐と一緒じゃないですか⁉︎
国家錬金術師ってスゴいんですねぇ。
「そんなにピリピリしなくていいよ。オレは軍の地位が欲しくて国家資格を取った訳じゃないし…。それに敬語を使う事もないじゃん、こんな子供にさ」
遠慮しなくていいというエド君の言葉に
「あらそう?」
「いやー、実は年下に敬語使うのがえらいしんどくてさー‼︎」
と態度が急変した少尉と軍曹。
変わり身早すぎですよ。
まぁ、エド君がそれでいいなら私はいいんですけど。
「そういやアルは?」
「アルフォンス君はさっきオレがゲンコツかまして同じ様に説教した!おかげで手がこのザマだけどね」
部屋にいないアル君の事を尋ねたエド君に、軍曹が赤く腫れた手を振りながら答えました。
っていうか、あの絶対固いであろう鎧をゲンコツで殴ったんですか…。
それは痛かったでしょうねぇ。
ではなくて、
「私もここに戻る前に廊下で見かけたんですが、何か考え込んでいたのか、呼びかけても反応が鈍かったんですよね」
とアル君の様子を教えます。
ウィンリィちゃんに電話した後、ベンチで動かないアル君に声をかけたんですが、心ここに在らずという雰囲気でした。
昨夜宿を抜け出す前まではいつも通りだったので、元第五研究所で何かあったんでしょうか?
「んー…、まあ何かあったら自分から言うだろうから大丈夫だろ」
ということで、アル君のことは本人のアクション待ちとなりました。
「そういえば…、サラさんも何をやってるの⁉︎」
急に少尉が私にも怒りのベクトルを向けてきました。
はて、少尉を怒らせるようなことをしましたかね?
「すみません、何の話でしょうか?」
「何の話じゃありません!エドワード君達を追いかける時、窓から飛び降りたでしょう⁈それに第五研究所跡から逃げる時にも空から降りて来て!あれはどういうことですか⁉︎」
「飛び降りた時、少尉もオレも慌てて窓から下を見たんだけど、既に姿は見えなくなってたから、仕方なくエドワード君達を捜すことにしたけど。あの時は心臓が止まるかと思ったよ」
ああ、影の
確かに説明があろうがなかろうが、目の前で人が飛び降りたら驚きますよね。
さて、どう言い訳したものでしょうか…?
「あれは糸を使って私を浮かせてたんですよ。操糸術というものなんですが、こういう風に物を固定したり浮かべたりできるんですよ」
そう言って、病室にあった花瓶を浮かべます。
それを見て固まる少尉と軍曹。
エド君は納得してない表情ですが、ここで魔法ですなんて言っても頭がおかしい人なんて思われかねませんからね。
「ということで、窓から飛び降りても問題なかったということですよ」
「…わかりました。でも、あのように周りを心配させるような行動はやめてちょうだい」
「すみませんでした。私もエド君達が部屋からいなくなってたことで、動揺してたのかもしれません」
少尉から注意を受けましたが、何とかまほうについては誤魔化せたみたいです。
誤魔化しついでに、エド君へ罪をなすりつけておきます。
「え?オレのせい⁈」
「確かにエドワード君達が抜け出すことがなければ…」
それからは私に向いてた少尉の怒りのベクトルが、再度エド君に向かいました。
少尉のお小言が続く中、恨めしそうにエド君が私を見てました。
いやぁ、申し訳ない。