ーサラ・ヒューイットー
エド君とアル君が仲直りをし、アル君もいつもの様子に戻ったので、第五研究所跡で得た手掛かりを整理する事となりました。
この場にはエルリック兄弟と私、ヒューズ中佐にアームストロング少佐がいて、ロス少尉とブロッシュ軍曹は部屋の外で護衛です。
というか、いざ話を始めようとしたらそそくさと退室したところを見ると、これ以上深入りしたくないというのが本音かもしれません。
まあ、軍の暗部に関わるかもしれない話をするのに、軍人としては聞いていたくないでしょう。
知ってしまえば自分にも危険が降りかかるかもしれませんから。
「で、こいつが現れたんだけど、サラが追っ払ってくれた。そのあとは建物自体を壊されたから、それ以上の手掛かりはない」
そう言いながら、エド君は自分が描いた第五研究所の男の子を指差します。
似顔絵にしてはかなり適当で、人を小馬鹿にしてるような感じを受けるんですが、私もちゃんとした似顔絵なんて描けないので何も言いません。
あの場に少佐がいれば、その特技でそっくりな似顔絵を描いてもらえたかもしれないんですけどねぇ。
「魂のみの守護者…、貴重な人柱…、第五研究所に現れた少年…。マルコー氏曰く、東部内乱でも石が使われていた…。ウロボロスの入れ墨に賢者の石の錬成陣…。石の実験にしては謎が多いですな」
「これ以上は調べようにも、研究所が瓦礫の山だからな。証拠隠滅とエド達の追っ払いを兼ねてたなら、敵は最上の手を打った訳だ」
少佐の言葉に中佐は顎へ手を当てながら答えます。
それからはみんな考え込むようにウンウン唸りますが、何の考えも浮かんできません。
「軍法会議所で犯罪リストでも漁れば、何かでてくるかもしれねーな」
尻尾を咥えた竜「ウロボロス」の入れ墨の絵が描かれた紙を手に、中佐が呟くと
「我輩は、マルコー氏の下で石の研究に携わっていたと思われる者達を調べてみましょう」
と少佐が返事をしたところで、「コンコン」と部屋の扉を叩く音が響きました。
そして部屋に入ってきたのは左眼に眼帯をし、腰に剣を提げた初老の男性でした。
服装から軍人だというのはわかるんですが、この人が入って来た瞬間、みんなが驚いた顔をして固まりました。
「「「「キング・ブラッドレイ大総統‼︎」」」」
「ああ、静かに。そのままでよろしい」
そう言って柔かな笑顔でみんなに返す大総統と呼ばれた人。
みんなの驚きようから察するに、軍でもかなり偉い人なんでしょう。
「はっ…」
「大総統閣下、何故このような所に…?」
そのままでいいと言われたのに、中佐と少佐が敬礼して質問します。
それに対して、左手に持っていたメロンをエド君に渡し、
「何故って…お見舞い。メロンは嫌いかね?」
「あ、ども。じゃなくて‼︎」
思わずメロンを受け取ったエド君は、ツッコミを入れます。
大総統は随分ユーモアがある人なんですね。
「アル君、あの人はどういう人なんですか?みんなの反応から偉い人だというのはわかるんですが…」
「あの人はキング・ブラッドレイという人で、軍のトップであると同時にこの国のトップでもある人です」
なるほど、そんな偉い人がここを訪れたとなれば、みんなが驚くのも当然ですね。
「ところで、こちらのお嬢さんはどなたかな?」
おっと…、まさか国のトップから誰かと訊かれるなんて思いませんでした。
私以外この場にいるのは軍の関係者なのに、一般人の私が混じってるのは変だったでしょうか?
「初めまして、キング・ブラッドレイ大総統。私はサラ・ヒューイットと言います。炭鉱の町ユースウェルでエルリック兄弟と出会って、この世界を知りたいと思って2人と一緒に旅をしている者です」
「ほう、エルリック兄弟と旅をするというのは若い女性には大変ではないかな?2人の活躍は私の耳にも入るくらい派手だからな」
大総統の目が一瞬鋭いものに変わります。
さすが、一国の指導者。
その表情はさっき見せたユーモラスな好々爺と同一人物には見えません。
ですが、エヴァちゃんと比べたらどうということはないですからね。
気付かなかった振りをして、しれっとしておきます。
「そうですね、初めてイーストシティに行った時にも私達が乗っていた列車が襲われたりと、あり得ない経験をしましたが、そういうトラブルも含めて旅ということなんでしょう」
「なかなか肝の座ったお嬢さんではないか。この場にいるということは、ある程度の事情も知っているということだな。アームストロング少佐、軍上層部を色々調べているだろう?」
「はっ⁈あ…、いやその…。何故それを…?」
矛先を急に向けられた少佐は慌てますが、大総統に言い訳できないと考えたのか、素直に答えました。
「私の情報網を甘くみるな。そして、エドワード・エルリック君。『賢者の石』だね?」
今度はエド君がびくりと反応します。
「どこまで知った?場合によっては…」
大総統の言葉で部屋の中に緊張が走ります。
重苦しい雰囲気の中、急にニヤリと笑った大総統。
「冗談だ!そう構えずともよい!」
そう言いながら大総統は「はっはっは」と大笑いをします。
重い雰囲気と大笑いしているそのギャップに、みんなポカーンと口を開けて固まりました。
「軍内部で不穏な動きがある事は私も知っていてな。どうにかしたいと思っている。だが…」
そう言って大総統はテーブルに置いてあったレポートを手に取ります。
少佐が思わず
「あ…、それは…。」
と呟きますが、それを無視して大総統が告げました。
「ほう…。賢者の石の研究をしていた者の名簿だな。よく調べたものだ。この者達、全員行方不明になっておるぞ」
その言葉で少佐の目が大きく見開かれました。
これから調べようとした人間が既に行方不明になっているとなれば、敵の方が一枚上手だという事がわかりますからね。
「第五研究所が崩壊する数日前にな。敵は常に我々の先を行っておる。そして、私の情報網を以ってしても、その大きさや目的、どこまで敵の手が及んでいるのかも掴めていないのが現状だ」
国のトップでも全容が見えない程敵は強大ということですか…。
「つまり、探りを入れるのはかなり危険である…と?」
中佐が大総統の言葉に敵の危険性を確認します。
それに対する大総統の答えは
「うむ。ヒューズ中佐、アームストロング少佐、エルリック兄弟。それにサラ・ヒューイット君。君達は信用に足る人物だと判断した。そして君達の身の安全のために命令する。これ以上、この件に首を突っ込む事もこれを口外する事も許さん‼︎誰が敵か味方かもわからぬこの状況で何人も信用してはならん!軍内部全て敵と思い、慎んで行動せよ!」
というもので、その表情は厳しいものです。
しかし、最後にはにっと笑って、こう付け足しました。
「だが‼︎時が来たら君達には存分に働いてもらうので、覚悟しておくように」
「「は…、はっ‼︎」」
国の指導者なだけあって、人心掌握術も見事ですね。
雰囲気に飲まれていた中佐と少佐が再びビシッと敬礼しました。
その時、
「閣下ーっ‼︎」
「大総統閣下はいずこーっ‼︎」
病院内にも関わらず廊下からそんな大声が聞こえます。
「む⁈いかん!うるさい部下が追って来たか!仕事をこっそり抜け出して来たのでな!私は帰る!また会う事もあろう。ではさらば!」
そう言って、大総統は「わはははは」という笑い声を残して、部屋の窓から出て行きました。
仕事中にこっそり抜けて来たなんて、本当に面白いおじさんですね。
私は笑いをこらえてましたが、他の4人はまたポカンとした表情で、窓の外を眺める事となりました。