雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第20話

ーサラ・ヒューイットー

 

アメストリス国のトップであるブラッドレイ大総統のお見舞いという珍事が発生した直後、ウィンリィちゃんが病室へと戻ってきました。

 

「あれ、みんなどうしたの?外の2人も固まってたし」

 

私は笑いをかみ殺しながら返事します。

 

「ウィンリィさんももう少し早く戻ってきていたら、面白いものが見れたんですよ」

 

「いや…、嵐が通過していった……。あー、びっくりした」

 

大総統が去っていった窓を見ていたエド君が振り返って答えました。

確かに嵐みたいな感じでしたね。

ウィンリィちゃんはさっぱりわからないという感じです。

一国の主が見舞いに来ていたなんて、普通は予想できないですよね。

 

「頼まれた汽車の切符買って来たわよ」

 

「おっ⁉︎サンキュー」

 

というように、ウィンリィちゃんが部屋にいなかった理由は、汽車のチケットをおつかいしてもらってたからです。

行き先は私も聞いてません。

エド君の体調が心配なのか、正気に戻ったアームストロング少佐が声をかけます。

 

「なんだ、忙しないな」

 

「いつまでもこんな消毒液臭い所にいられるか!明日には中央(ここ)を出るぞ!」

 

ヒューズ中佐はというと、ウィンリィちゃんが持ってるチケットを見ながら尋ねました。

 

「今度はどこに行くんだ?ダブリス?」

 

「どこそれ?」

 

チケットを買って来たウィンリィちゃんも場所は知らなかったみたいです。

アル君が説明のために地図を取り出して、ダブリスという場所を指差しました。

 

「南部の真ん中あたり」

 

距離的にはイーストシティと変わりないくらいでしょうか?

そんなことを考えながら地図を眺めていると、ウィンリィちゃんが急に大声を上げました。

 

「あーっ‼︎ここ!ダブリスの手前‼︎」

 

そしてウィンリィちゃんも地図の一点を指差します。

 

「ラッシュバレー?何があるの?」

 

アル君もウィンリィちゃんの大声に驚きつつ質問します。

その質問に対してまるで女優のように腕を広げて、嬉しそうにウィンリィちゃんが答えました。

 

機械鎧(オートメイル)技師の聖地(メッカ)ラッシュバレー‼︎一度行ってみたかったの〜♡連れてって、連れてって、連れてって、連れてけ!」

 

最後はワガママな子供のように手をバタつかせながら言いました。

と言いますか、「連れてけ」はないでしょうに…。

それに対するエド君の答えはというと、

 

「1人で行け、そんなとこ!」

 

と吐き捨てるような素っ気ないものです。

ウィンリィちゃんはそんなの関係ないみたいで、さらに強気な発言をしました。

 

「誰が旅の費用を払うのよ⁉︎」

 

「オレに集る気か⁈」

 

「私はちゃんと自分の分は払うので大丈夫ですよ」

 

「サラはまだ付いて来る気かよ⁈」

 

ウィンリィちゃんに集る気かと言ったので、私は自分のチケット代くらいは払うと言ったんですが、エド君のツッコミが入ってしまいました。

 

「ウィンリィはついでだしいいんじゃない?サラさんがどこに行くかなんてボク達には決められない事だし…」

 

アル君には了承を頂けたみたいです。

エド君も諦めたのか、ウィンリィちゃんを睨みながらも

 

「しょーがねぇなぁ」

 

と渋々ながらOKを出しました。

 

「やったー♡リゼンブールにすぐ帰るつもりだったけど、予定変更!ばっちゃんに電話してくるね!」

 

と言って、入ってきたばかりの部屋からウィンリィちゃんは出て行ってしまいました。

廊下からは「きゃっほー」なんて声も聞こえます。

よほど、ラッシュバレーという所に行けるのが嬉しかったんでしょうね。

あんな姿のウィンリィちゃんをあまり見た事がないのか、

 

「元気だなぁ、はっはっは」

 

とアル君は呟き、中佐は

 

「うん、いい嫁さんになるぞ。うちの嫁さんほどじゃないがな」

 

なんてエド君に告げました。

 

「オレに言うな‼︎そしてしれっと惚気んな‼︎」

 

確かに、惚気をさり気なく挟んでほしくないですね。

 

 

 

翌日、私はエルリック兄弟、ウィンリィちゃんと共にラッシュバレーに向かう汽車に乗りました。

見送りには少佐とロス少尉、ブロッシュ軍曹、それにウィンリィちゃんの見送りのために中佐の奥さんと3歳の娘さんが来てくれました。

中佐は仕事で来れないんだとか。

中佐の家族は初めてお見かけしたんですが、奥さんは美人で娘さんも可愛かったです。

娘さんはウィンリィちゃんに懐いてたみたいで、見送りの時は目に涙を溜めて手を振っていて、奥さんは困ったように娘さんをあやしてました。

少佐もいつも通り、滂沱のごとき涙を流していて、軍曹が呆れた顔をしていました。

 

「ダブリスには何しに行くの?」

 

出発した汽車の中で、ウィンリィちゃんがエド君達の目的地に行く理由を尋ねました。

そう言えば、私もそれは訊いてなかったですね。

「兄さんと色々話し合ったんだけど、師匠(せんせい)の所に行こうかと思って」

 

「なんでその師匠の所へ行こうと思ったんです?」

 

「理由は二つ。ここ最近負けるかサラに助けてもらいっぱなしでよ。とにかく強くなりたいのが一つ」

 

でも、私の知る限り最初の戦いは傷の男(スカー)でしたね。

右腕が壊されて危ない所を助けました。

その次に戦ったのは一つの鎧に2人の魂が定着していた「スライサー」と呼ばれる兄弟でしたね。

鎧に定着してるのは魂一つだと思って油断し、刀で刺されそうになった所を助けました。

その次のウロボロスの少年に至っては、私が前面に立ったので戦ってすらいませんね。

ちょっと過保護になっていたでしょうか?

 

「サラに守ってもらってるのは確かにどうかと思うけど…、ケンカに強くなりたくて師匠の所に行くって事?あんたらケンカ馬鹿?」

 

「ばっきゃろー!そんな単純なもんじゃねぇやぃ‼︎なんて言うかこう…、ケンカだけじゃなくて中身もって言うか…なあ!」

 

ウィンリィちゃんに小馬鹿にされたエド君は声をあげて否定し、なんとも言えない気持ちでアル君に同意を求めます。

アル君も

 

「そうそう!」

 

と相槌を打ちました。

 

「オレはもっともっと強くなりたい!」

 

「うん!とにかく師匠の所に行けば何か強くなる気がする!」

 

「いいですね、その飽くなき向上心はとても素晴らしいと思います。それでは二つ目の理由というのは?」

 

私はもう少し前面に出るのを控えるべきでしょうか?

そんな事を思ってたらエド君が私の質問にスパッと答えました。

 

「人体錬成について師匠に訊く事!」

 

「ボクら師匠の元で修業はしたけど、賢者の石や人体の錬成については教えてもらってないんですよ」

 

「そう、賢者の石が色々と物騒な事になってるからさ。ここは思いきってストレートに元の身体に戻る方法を訊いてみるつもりだ。もう形振り構ってらんねー。師匠にぶっ殺される覚悟で訊いて…、訊いて…。短い人生だったなぁ、アル〜〜」

 

「せめて彼女だけでも作っておきたかったよ、兄さん…」

 

エド君とアル君の間に悲壮感が漂います。

どんだけ厳しい師匠なんですか…。

以前アル君に訊いた時もガクブルしてましたが、やっぱりエヴァちゃんと似ている所があるのかもしれませんね。

 

「あ、そうだ!元気の出る物!じゃーん、アップルパイだよ♪」

 

「おっ?美味そう。どうしたんだ、これ?」

 

ウィンリィちゃんが脇の袋からアップルパイを取り出しました。

確かに生地がいい具合に焼けていて、美味しそうな匂いが漂います。

 

「『途中で食べなさい』ってヒューズさんの奥さんが作ってくれたの。でも、サラの分が入ってないのかしら?3人分みたい」

 

「ならボクの分はサラさんが食べてください」

 

「いいんですか?それなら遠慮なく、いただきます」

 

アップルパイを一切れもらい、口に運びます。

 

「うん、美味い!」

 

エド君が言った通り、美味しいですね。

 

「ヒューズさんの奥さんね、すっごい料理上手なんだよ。作り方教えてもらったから、アルが元の身体に戻ったら焼いてあげるね」

 

「やったー!」

 

「…こういうのも『おふくろの味』って言うのかねぇ」

 

エド君がしみじみと呟きます。

 

「ヒューズさんも奥さんもエリシアちゃんも、すごくいい人だった」

 

ウィンリィちゃんはニコニコと言いました。

あの小さい女の子はエリシアちゃんって言うんですか。

ウィンリィちゃんが楽しそうに話してるんですから、ヒューズ一家は本当にいい人達なんでしょうね。

 

「ヒューズ中佐って親バカで世話焼きでうっとーしいんだよなぁ」

 

「いっつも病室に兄さんをからかいに来てたよね」

 

確かに、エド君のお見舞いに来てはからかったり、口を開けば娘さんや奥さんの自慢をしてました。

中佐がいい人だというのは十分わかります。

 

「エド君の体調を慮って、ああいう態度をとったのでしょう。人が良すぎますよね」

 

「ほんとに…。『毎日仕事で忙しい』って言いながら、しょっちゅう見舞いに来やがんの。…今度、セントラルに行ったら何かお礼しないとな…」

 

私も超包子(チャオパオズ)特製の肉マンを振舞ってあげn…

 

「すいません、ちょっと席を外しますね」

 

「は?サラ、どこ行くんだよ⁈」

 

「エド君、以前も言いましたが女子に深く尋ねるのはデリカシーに欠けますよ?それに走ってる汽車からどこへも行けるわけないじゃないですか」

 

私の言葉でウィンリィちゃんの顔がみるみる恐ろしいものに変わります。

 

「エド、前にもサラにそんな事言ったの⁈」

 

「ちがっ!急にどっか行くなんて言うから…」

 

「では、私は車内を散策してきます」

 

それだけ言って席を離れました。

そして、列車内の目立たない場所に身を隠し、影の転移魔法(ゲート)を展開します。

ちょっと急いだ方がいいかもしれません。

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