雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第21話

ーサラ・ヒューイットー

 

エルリック兄弟、ウィンリィちゃんと共にラッシュバレーへ向かう汽車に乗っていたんですが、私だけ影の転移魔法(ゲート)でセントラルに戻りました。

ゲートの転移先はどこかの倉庫みたいです。

本棚には沢山の資料が並び、部屋の端にも横積みになった資料やそれを収めている箱が置いてあります。

そして、私の視線の先ではヒューズ中佐とロス少尉らしき人物が睨み合っていました。

少尉らしきといったのは、確かに見た目は少尉なんですが、中から感じる気配が第五研究所跡で対峙した少年と同じものだからです。

その少尉はというと、拳銃を中佐に向けています。

 

「その資料を置いていただけますか、中佐」

 

「ロス少尉…じゃねぇな。誰だ、あんた?」

 

気配が感じられたからこそ私はわかったんですが、中佐はどうして気付いたんでしょう?

 

「誰って…、マリア・ロス少尉ですよ。病院で何度も会ってるでs「いいや違う」…」

 

「ロス少尉はな、左目の下に泣きボクロがあるんだよ!」

 

そういえば、ここにいる少尉には泣きボクロがありません。

 

「ああ、そうだっけ?うっかりしてたよ。これでいいかな?」

 

そう言って少尉が手をかざすと、放電のような光が発し、泣きボクロが左目の下にできてました。

なるほど、あの少年は見た目を自在に変えることができるんでしょう。

ひょっとしたらあの少年の姿ですら本当の姿ではないのかもしれませんね。

泣きボクロが急に顔にできたことで、中佐は混乱しています。

 

「な…⁈なんだってんだ畜生。夢でも見てるみたいだ…」

 

「そうだね、最高の悪夢を見てもらおうかな。頭の回転が早いばっかりに、とんだ災難だったね。ヒューズ中佐」

 

まあ、拳銃を向けてるくらいですから中佐を撃つ気満々なんでしょうけど、私が来たからにはそんなことさせませんよ。

 

「いえいえ、そこまで災難ではありませんよ」

 

私がそう言いながら本棚の影から姿を現わすと、2人ともこちらを見てとても驚きました。

 

「お前は鋼のおチビさんと一緒にいた…⁈」

 

「おいおい、今度はサラの嬢ちゃんかよ⁉︎ここは軍の施設内なのにどっから入ってきたんだ?それに汽車に乗ったはずだろ?」

 

「こんばんは、ヒューズ中佐。それから第五研究所にいたウロボロスの人。どうやらヒューズ中佐を殺したかったみたいですが、私がここに来た時点で失敗したようなものなので、撤退してはどうですか?」

 

「そんなの…やってみないとわからないだろ⁉︎」

 

そう言って、少尉の姿のウロボロスの少年は中佐に向けていた拳銃を私に向け、発砲しました。

ちゃんと頭を狙ったみたいですが、残念ながら魔法障壁に防がれます。

 

「っな⁈」

 

拳銃の弾が掠りもしなかったことに驚く少年。

その隙に瞬動で中佐の正面に立ち、少年に対する盾になります。

 

「では、ヒューズ中佐。ここから逃げるとしましょう」

 

「あいつはどうするんだ?それにどうやって逃げるんだよ?」

 

ウロボロスの少年は扉を背に拳銃を向けて、こちらの隙を伺っています。

私に銃が通用しないとわかって無駄弾を撃つマネはしませんが、中佐は狙っているみたいです。

それから部屋の外が慌しくなってきてるんですよね。

さっきの銃声が原因でしょう。

 

「あの人をどうにかしないといけないのもわかるんですが、先程の銃声で部屋の外が騒がしくなってきてます。私は不法侵入者なので早々にここから去らねばなりません。ということで、こういう方法で逃げようと思います」

 

そう言って中佐の服を掴んで影の転移魔法を展開し、一緒にズブズブと潜っていきました。

 

「うわっ⁉︎何だこれ!」

 

中佐は驚いてジタバタ暴れますが、私ががっしり服を掴んでるので逃げることができず、影に沈んでいきます。

少年は拳銃を撃ちながら、私達を逃すまいと近付きますが

 

「では、ごきげんよう」

 

こちらの潜る方が早く、私の挨拶を残して少年の姿は見えなくなりました。

次に私達が姿を現したのは、どこかの公園みたいです。

ベンチや街灯、整えられた草木がありますが、夜のため人の姿は見えません。

 

「ヒューズ中佐、外に出ましたよ。ヒューズ中佐」

 

急に影の転移魔法で潜ったのが悪かったのか、まだ混乱して暴れてます。

その振り回してる両腕を押さえ、目を合わせて呼びかけました。

 

「ヒューズ中佐、落ち着いてください」

 

「…あ、ああ。すまない、…じゃなくてありゃなんだよ⁈」

 

「何だとは?」

 

「あの地面に沈んでいったやつだよ!しかも浮かんでみりゃ司令部にいたはずがうちの近くの公園だ‼︎もはや錬金術って範疇じゃないぞ⁉︎」

 

混乱は治まったものの、影に沈むという未知の体験に興奮の方は治まってないみたいです。

 

「正確には地面ではなく影に沈んだんですよ。私は錬金術を使っていないと前にも言ったじゃないですか」

 

「あの魔術とか言ってた氷の矢のことか?俺は錬金術については門外漢だが、ありゃ自分の錬金術を誤魔化す為の方便じゃなかったのか?」

 

そういう捉え方をされてたんですか?

魔法と素直に言っても信じてもらえないと思ったから、あんな言い方をしたんですが…。

 

「方便でもなんでもなく、私は錬金術を使ってません。私が使ってるのは魔法です」

 

「…魔法って、おとぎ話なんかで空飛んだりするあの魔法か?」

 

「はい、その魔法です。因みに私も空を飛べますよ」

 

私が断言すると、中佐は頭をガシガシ掻きながらベンチに腰を下ろしました。

 

「まったく、ホクロを自在につけれるようなロス少尉の偽者が現れたと思えば今度は魔法かよ…」

 

「私はてっきり信じてもらえないかと思ってました」

 

「あのなぁ、自分自身影ってやつに潜らされたり、何もない空間で銃弾を止められたら信じざるを得ないだろうが…。そういや、よく俺がピンチな時に現れてくれたな。助かったよ」

 

中佐が私の言葉に呆れたように返事してから、謝意を示してくれました。

 

「あの少尉の姿をしていたのは、第五研究所で私とエド君が見たウロボロスの少年なんですよ。なぜわかるかというのは、その気配を感じられるからとしか言えないんですが…。とりあえず、あの人間離れした気配に反応する仕掛けを勝手ながら皆さんにつけさせてもらったわけです」

 

私の説明に中佐が唖然とした表情を浮かべます。

 

「さすが、魔法。なんでもアリだな」

 

「イヤイヤ、なんでもできるわけではありませんよ。そういえば、ヒューズ中佐は何に気付いてしまったんですか?」

 

その言葉で思い出したように真剣な表情を浮かべる中佐。

 

「そうだ!地図持ってないか?」

 

「地図ですか?ちょっと待ってください」

 

以前買っておいた地図を影の袋から取り出し、中佐に渡しました。

地図を取り出した時にまた唖然とした表情をされましたが、地図を広げると次々と印を付け始めます。

 

「1558年、リヴィエラ事変。1661年、カメロン内乱。1799年、ソープマン事件…と過去の流血事件やら内乱が起こった地に印につけていくと…アメストリス全土を使った賢者の石の錬成陣が出来上がりって訳だ。幸い、北ではまだそんな事件は起きてないが、それも時間の問題だろう。錬成陣はその一点で完成だからな」

 

はぁ、今が1914年ですから360年程かけて準備をしてきたということですか。

敵がどこの誰かはわかりませんが、用意周到ですね。

 

「話はそれだけじゃない。建国当初から流血事件を起こしてたということは、政権を握る軍上層部は敵と見るべきだろう。さらに言えば、キング・ブラッドレイが大総統に就任してから大規模な戦闘が続け様に起こっているのを考えると、大総統さえも怪しむべきだろう」

 

「国のトップからしてアウトということですか?」

 

「俺の推測が正しければな」

 

そう言うと、中佐は黙り込んでしまいました。

しかし、とんでもないことになってきましたね。

国家ぐるみの陰謀とか私のキャラじゃないでしょうに。

 

「とりあえず、どうします?」

 

「どうしますっつったってなぁ…。軍がヤバいから俺はセントラルにはいられないだろ。敵さんからすれば、俺は知り過ぎた厄介者だからな。なんらかの容疑で捕まって闇から闇へなんて真っ平御免だ。だが、嫁さんと娘のこともある…。計画が発動すれば国民の命も危ない。ホントどうしたもんだかなぁ」

 

頭を抱えて呻く中佐。

 

「ひとまず、奥さんと娘さんを連れてセントラルを離れましょう。といっても、私も頼れる伝手は少ないんですが、リゼンブールのピナコ・ロックベルさんを頼ってみましょう」

 

「リゼンブールのロックベルってことはウィンリィちゃんの?」

 

「ええ、ウィンリィさんのお祖母さんです。情に深くサバサバした性格の方なので、込み入った話をしなくても大丈夫でしょう。軍も手を伸ばしてない田舎ですし」

 

「だがこの国にいる限りは…」

 

「なのでひとまずですよ。計画については私もエド君やマスタング大佐にかけあってみます。錬金術に関してはズブの素人ですが相談と戦うくらいはやりますから。それでダメなら、みんな終わりでしょう。さすがに国民全員を逃すなんて私にもできませんよ」

 

「嫁さんと娘を守るにはそれしかないか…。わかった!すぐに家に帰ったら準備して、家族も連れてセントラルから出るぞ」

 

中佐が宣言するようにそう告げて、ベンチからガバッと立ち上がりました。

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