雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第23話

ーサラ・ヒューイットー

 

ヒューズ一家をリゼンブールのピナコさんの元へ避難させ、私はエルリック兄弟とウィンリィちゃんが乗っている汽車へと戻りました。

ですが、汽車を離れていた時間が少し長かったので、このまま3人のところへ戻っては色々問い質されて面倒なことになりそうですね。

そこで影の袋から懐中時計型航時機(タイムマシン)「カシオペア」を取り出します。

汽車に戻った時も確認したんですが、もう一度周囲に人がいないことを確認し、「カシオペア」を起動しました。

途端に周囲の光景がグルンと回ります。

と言っても、人目につかない暗い場所だったので、起動前も起動後も目につく光景は変わらないんですが…。

 

「ただいま戻りました」

 

「おい、サラ!お前がさっき変なことを言ったせいでウィンリィがヤバいんだよ‼︎どうにかしてくれ!」

 

私が座席に戻るとエド君が怒声とも懇願とも思えるようなことを言いました。

どうやら、ちゃんとセントラルに行った時間帯に戻れたみたいですね。

 

「まあ、エド君が言ったことは事実ですが…。ウィンリィさん、エド君にデリカシーがないというのは私よりも付き合いの長いウィンリィさんの方が理解しているのではないですか?」

 

「そりゃそうだけど…」

 

私が戻ってきた時には般若のようだったウィンリィちゃんの顔がいつもの表情に戻ります。

向かい合わせで座っていたウィンリィちゃんに顔を近づけ、小声でさらに追い討ちをかけました。

 

「それにエド君は感情が直ぐ面に出るタイプですから。側から見ててもウィンリィさんを大事に思ってるのはわかりますよ。大丈夫、エド君はウィンリィさんのことが好きですよ」

 

何を言ってるのかわからないという表情だったウィンリィちゃんの顔が見る見る赤くなっていき、

 

「…!もう!何言ってんのよ、サラ‼︎」

 

そう言って隣に座っていたエド君の肩をバシバシ叩きます。

私は叩かれる前に近付けていた顔を離しました。

 

「痛っ!痛い‼︎サラ!今度は何を言ったんだよ⁈ちょっ⁉︎止めろって、ウィンリィ!」

 

「何を言ったかは秘密ですが、機嫌がよくなったんですからいいじゃないですか」

 

「う〜ん、青春だねぇ」

 

ボソッとアル君が呟きます。

 

「青春ですねぇ」

 

私もそう返事をして、汽車は賑やかなままラッシュバレーへと走っていきました。

 

 

 

そして私達4人はラッシュバレーへとやってきました。

ラッシュバレー…「にわか景気の谷」と呼ばれる所以は、イシュヴァールの内乱の時に義肢技術を発達させることで急速に大きくなった街だそうです。

ヒューズ中佐も言ってましたが、この国ではまだ国土錬成陣形成のための戦いが続いているので、義肢の需要というのは多いみたいです。

そんな義肢技術で大きくなった街のあちこちに機械鎧(オートメイル)を着けた人がいたり、整備士やパーツを売る商人が出店を出したり、機械鎧の店が軒を連ねてます。

機械鎧が大好きなウィンリィちゃんはというと、陳列棚に並べられた機械鎧を眺めて、目を輝かせてました。

エド君とアル君はそんなウィンリィちゃんを冷めた目で見ています。

私もどちらかというとエルリック兄弟寄りですね。

まあ、人の趣味にケチをつけるつもりはありませんが、機械鎧が好きという感覚はわかりません。

ひとしきりウィンドウショッピングに満足したのか、ウィンリィちゃんがやっと店から離れたので通りを歩いていると、とある一画から大きなどよめき声が聞こえました。

声がした方を見ると人だかりができてます。

その中央には腕を組んで椅子に踏ん反り返る男性がいました。

この人、両腕がゴツい機械鎧を装備してます。

機械鎧の人の前にテーブル、そして対面するように椅子が置いてあり、別の男性が司会者っぽくここの人だかりを仕切ってました。

 

「マシン・アーム・レスリング‼︎機械鎧装備者限定の腕相撲だ!賭け金10,000センズでこいつに勝ちゃ、テーブルの上の賭け金の山は全部進呈さ!」

 

なるほど、テーブルの上にはあの豪腕のチャンピオンに挑んで負けた人が払ったお金が積まれてます。

 

「よしっ!俺がやってやる!今日新調したばかりでね、性能を試したかったんだ」

 

人だかりの中から挑戦者が現れ、チャンピオンと手を組みました。

 

「おっ⁈いいねぇ、お兄さん!ノってるね‼︎」

 

司会者は挑戦者を褒めそやします。

そしてチャンピオンと挑戦者が組んだ手を握り、しっかり固定すると、

 

「それじゃ試合と行きますか!レディ…ファイッ‼︎」

 

と試合開始の合図とともに握った手を離しました。

その途端チャンピオンが挑戦者の腕を捩じ伏せます。

チャンピオンの力が強かったのか、挑戦者の新品の腕は壊れてしまいネジやらボルト、ケーブルの類が吹っ飛び、腕も外れてしまいました。

 

「新品だったっけか?悪ぃな、廃品回収に出しとくよ」

 

チャンピオンがニヤリと笑いながら呟きます。

 

「そんなぁ〜」

 

挑戦者は顔が真っ青です。

そりゃ、新調した腕が壊れたらショックですよね。

しかし、ここは機械鎧で生計を立ててる人が多い街。

見物人の中には機械鎧技師もいたらしく、

 

「壊れた!」

 

「腕壊れたね⁉︎」

 

「うちで腕を作り直そう!」

 

「いや!うちでやろう」

 

「こっちはサービスするぜ、兄さん!」

 

「見積もりはこん位でいいかな⁉︎」

 

「分割も大丈夫だから!」

 

なんて言いながら、挑戦者をあれよあれよと言う間に連れ去ってしまいました。

 

「まだローン終わってないのに〜」

 

哀れ、挑戦者…。

 

「さあ、オチが着いた所で次の挑戦者…。おお⁉︎そこのデカくて強そうなお兄さん!どうだい?一勝負!」

 

司会者の目に留まったのはアル君。

しかし、アル君は大人しい性格ですからその申し出を断ります。

 

「ボク⁈いやいや、やりませんよ‼︎」

 

「それじゃあ、こっちの右腕が機械鎧の…」

 

そう言って、司会者はエド君に目をつけました。

いつもは長袖の服とコートを羽織ってるんですが、南に来て気温が高いせいか長袖もコートも脱いでます。

なので、右腕も剥き出しだったんですが、

 

「おっと失礼!こんな豆坊ちゃんじゃ、そもそも勝負にならないか‼︎」

 

と司会者はNGワードを言ってしまいました。

司会者は見物人の笑いを誘うつもりで言ったんでしょう。

実際、周りの人は笑ってます。

しかし、本人は禁句を言われプッツンきてるのでドスンと椅子に腰を落としました。

 

「…ありゃ⁈ヤル気満々だよ、この坊ちゃん」

 

「おもしろいじゃねぇか‼︎」

 

司会者は驚いて、チャンピオンは笑いが止まらないといった感じです。

 

「ちょっとエド!幾らなんでも勝てないわよ!」

 

ウィンリィちゃんの言葉にも耳を貸さないエド君。

見物人は誰一人としてエド君は勝てないだろうと囁いてます。

腕の長さや太さも違うので力負けは必須という見解で一致してるみたいです。

しかし、エド君はチャンピオンと手を組んで、先程同様司会者がその手を載せます。

 

「レディ…ファイッ‼︎」

 

そして司会者が合図をあげると、見物人の予想を大きく裏切るような形でエド君がチャンピオンに勝ってしまいました。

なんと、さっきの挑戦者のようにチャンピオンの腕を捩じ伏せ肘から先を引きちぎったんです。

ウィンリィちゃんを含め見物人は目を見開いて驚いてます。

私も気付かなければ驚いてたと思いますが、司会者の合図とともに静電気のような光が走ったのを私は見逃しませんでした。

タイミングはわかりませんでしたが、相手の腕をイジる錬金術の準備を済ませてたんでしょう。

 

「悪ぃね、こいつも廃品回収に出しとくよ」

 

チャンピオンが先の挑戦者に言ったセリフをそっくり返すエド君。

それを合図に元チャンピオンに群がる技師(ハイエナ)達。

 

「壊れた!」

 

「腕、壊れたね⁈」

 

「さあ、うちで腕直そう!」

 

「いや、うちで作ろう!」

 

「サービスするぜ‼︎」

 

エド君は左団扇でそれを眺めます。

 

「何かしたでしょ?」

 

「ウィンリィが注意した時に錬金術で相手の腕を脆い物質に変えたの」

 

ウィンリィちゃんもエド君が何かしたことに気付いたみたいで、アル君に尋ねました。

椅子に座った直後に準備してたんですね。

 

「それってずるーい」

 

「はっはっは!何も聞こえんなぁ‼︎」

 

ウィンリィちゃんは避難しますが、暖簾に腕押し。

エド君は実に悪役っぽい返事をするだけです。

そこに、

 

「君の機械鎧、珍しい形をしているね」

 

と1人の技師がエド君の機械鎧に目をつけました。

 

「おお、本当だ!この造りはここら辺では見ない」

 

「これを作ったのは誰かね?」

 

「あ、あたしです」

 

「へぇ、お嬢ちゃんが製作者かい。いい仕事してるねぇ」

 

元チャンピオンに群がれなかった技師達がエド君の周りに集まり始めます。

 

「東部の?道理で珍しい型だと思ったよ」

 

「なるほど。ここにこのパーツを…」

 

ウィンリィちゃんはエド君の腕を上げて、群がる技師達に説明を始めました。

エド君は「え?」とか「おい」と言って、ウィンリィちゃんを止めようとしますが、スイッチが入ったウィンリィちゃんと技師(ハイエナ)達は止まりません。

 

「何?左脚も機械鎧?」

 

「見せろ見せろ!」

 

「脚出せ‼︎」

 

「あぁ、まどろっこしい!ズボン脱がしちまえ‼︎」

 

ハイエナ達がいなくなると、エド君は身包み剥がされパンツ一丁姿になってました。

 

「さすが、聖地(メッカ)と言われるだけあるわ。みんな研究熱心だもの!」

 

ウィンリィちゃんは目を輝かせてうんうんと頷きますが、研究熱心の一言で済ませていいんでしょうか?

 

「だからってなんでオレがこんな目に会わなきゃなんねーんだよ⁉︎」

 

仰る通りです。

 

「あっはっは。大通りでパンツ一丁になった国家錬金術師なんて史上初なんじゃない?兄さん!」

 

「ああ、そうですね。フンドシ一丁のアルフォンス君!」

 

アル君が馬鹿にするかのようにパンツ一丁をイジると、エド君もフンドシっぽく見える鎧の装飾品を馬鹿にします。

そして、ぶつくさ言いながら服を着なおしてる途中で、バタバタとズボンのポケットに手を突っ込むエド君。

 

「無い…。国家錬金術師の証…銀時計が無い……‼︎」

 

そう呆然とした表情で呟くのでした。

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