ーサラ・ヒューイットー
「国家錬金術師の証の銀時計が無い…‼︎」
ウィンリィちゃんの希望で
聖地と呼ばれるだけあって、この街の技師の熱意は凄まじいもので、エド君の機械鎧が珍しい型だとわかった途端、エド君の身包みをマルッと剥がして調べだしました。
技師達がいなくなったので、やっと服を着なおしてるところで銀時計が無いことにエド君は気付き、茫然と呟きます。
「「「えー⁈」」」
思わず私も驚いてしまいました。
慌てて周辺を見渡しますが、その辺に転がってる訳もなく…。
仕方がないのでさっきまで群がってた技師や通りに軒を連ねる人達に何か手がかりがないか尋ね回ります。
すると、ある技師の情報でパニーニャという女の子の仕業だろうということがわかりました。
その子は観光客を狙ってスリをしていることで有名らしく、裏路地の古物商に盗んだ物を持って行くそうです。
「ウィンリィとサラはここで待っててくれ!オレとアルは盗人を捕まえてくる‼︎」
「ウィンリィはともかく、サラさんには手伝ってもらったほうがいいんじゃない、兄さん?」
私も手伝うのは吝かでない、と返事をしようとしたんですが
「師匠に鍛えてもらおうっていうのに、コソ泥1匹捕まえられなくってどうすんだよ⁈オレ達だけでカタをつけるぞ。だから、サラは手出しすんなよ!」
「わかりました。ウィンリィさんと大人しく待ってます」
「よし!行くぞ、アル‼︎」
「待ってよ、兄さん!」
そう言って、2人はタレコミのあった古物商へと走って行きました。
「じゃあ、どこかのお店で休憩します?」
「折角だから、あたしは機械鎧の店を見るわ」
この暑い中、休憩も取らずに研究熱心ですねぇ。
とは言え、ウィンリィちゃんと離れるわけにもいかないので、
「大通りから離れてない店を見て回りましょう。エド君達を迷子にはできませんから」
私もウィンリィちゃんのウィンドウショッピングに付き合うことにしました。
「サラ!見てよ、この機械鎧‼︎素晴らしい曲線美だわ!きゃぁー!こっちの武骨なシルエットも素敵‼︎」
そんなキラキラした目でショーウィンドウに貼り付いているウィンリィちゃんが、私にはわかりません。
機械鎧好きというのは知ってましたが、聖地に来て暴走気味になってますよ。
時間があればあるだけ、この暴走は止まりそうにありません。
エド君達は、まだ戻ってこないんですかねぇ…。
そんな私の思いが天に通じたのでしょうか、大通りにアル君の姿が現れました。
「ウィンリィさん。ほら、アル君が来ましたよ」
「えー、もうちょっと見ていたかったんだけどなぁ…」
まだ見ていたかったと仰りますか⁈
「まぁまぁ、十分見たじゃないです…あら?アル君しかいませんね」
私達の姿を見つけたのか、アル君がこちらへと走ってきてるんですが、その隣にいるはずのエド君がいません。
「ウィンリィー!サラさーん!」
手をブンブン振りながらアル君が来ました。
「早かったわね、アル。エドはどうしたのよ?」
いやいや、全然早くはありませんよ?
「それが、犯人を捕まえられなかったんだよね。だから兄さんが追い込みをかけて、ボクが罠を仕掛けて捕まえることにしたんだ。そういうことで2人もついてきてよ」
「いやぁ、私は機械鎧を見るのに忙しいから…」
そう言ってウィンリィちゃんは断ろうとしたみたいですが、そうはいきません。
もう十分過ぎるほど見たんですから。
「いえ、アル君が呼びに来たということはもうすぐ犯人を捕まえられるということです。それなのに私達はウィンドウショッピングというわけにはいかないでしょう?ということで、アル君。罠を仕掛けるという場所に行きますよ。ウィンリィさんも、ほら」
そう言って、その場を離れまいとするウィンリィちゃんの手を掴んで引っ張ります。
アル君は状況を理解してるのか、「ハハハ…」と乾いた笑いを浮かべました。
「あぁ〜、あたしの機械鎧ゥ〜…」
いつの間にウィンリィちゃんの機械鎧になったんですか?
そんなことを思いながらも、ウィンリィちゃんの言葉を無視してアル君が罠を仕掛ける場所へと行くことになりました。
エド君が追い込むという場所に着くと、アル君が手早く錬成陣を書きます。
街中ではさっきから、ドドドドとかズドーンという地鳴りのような音と錬金術特有の光が輝いています。
エド君がパニーニャを追いかけてるんですが、彼女もちょこまかと動き回って追手をかいくぐります。
「うわー…、すっごい運動能力。あの女の子、サルみたいよ」
望遠鏡でエド君とパニーニャの追いかけっこを見ていたウィンリィちゃんが呟きます。
確かにエド君の錬金術から逃げ回る運動能力の高さはなかなかのものですね。
まぁ、ここに追い込むためにエド君が誘導してると言うのもあるんでしょうけど。
地鳴りが段々近付いてきて、私達が待っている場所の正面の店からドーンという大きな音が響き、店内から土煙が溢れました。
その土煙とともに小走りで出てきたのは、迷彩柄のズボンに黒のタンクトップ、褐色の肌に黒髪を後ろで結んだ女の子です。
彼女が件のパニーニャなんでしょう。
エド君から逃げ果せたと言わんばかりのホクホク顏ですが、それもエルリック兄弟の計算の内なんですよね。
パニーニャもアル君の姿に気付いて警戒しますが、時既に遅し。
「待ってたよ」
その一言と共に錬金術を発動させるアル君。
金属製の鳥籠を大きくしたような檻があっという間に出来上がり、錬成陣の上に立っていたパニーニャを捕まえてしまいました。
「流石ね!」
錬金術の発動から、素早くパニーニャを捕らえたことにウィンリィちゃんも声をあげます。
アル君は随分集中していたからか、「ふう」と溜息を吐きました。
そこへ
「ったく、手間かけさせやがって。このアマ!」
パニーニャを追いかけていたエド君がやってきました。
彼女を罠にかけるために随分無理をしたんでしょうか?
息が荒くなってます。
「兄さん、それめちゃくちゃ悪役のセリフだよ」
アル君の言う通りなんですが、それだけ罠に嵌めるために追いかけたことがエド君にはストレスだったのかもしれません。
ただ、パニーニャの運動能力の高さや地形を知り尽くしてる地元の利を考えると、エド君が無理矢理捕まえようとしても逃げられてたかもしれませんし、罠を張る方法で良かったような気もします。
そんなことを考えていると、さっきから檻を触っていたパニーニャが
「危ないから少し離れてて」
と言って右脚をスッと引きました。
「は?」
エド君は意味がわからないという表情でしたが、次の瞬間驚きの色に変わります。
パニーニャが回し蹴りのように右脚を2度振ると、彼女を閉じ込めていた金属の棒がガランガランと音を立てて崩れました。
彼女の右脚は、破れたズボンの脛部分から片刃の剣と金属製の脚を覗かせてます。
「珍しくもないでしょ?こんな街なんだし」
そう言いながら脛の剣を収納するパニーニャ。
さらに檻を握って、左脚を曲げると膝の部分から砲弾が飛び出しました。
「ちなみに左脚には1.5インチカルバリン砲がついてます」
パニーニャは両脚が機械鎧だったんです。
「両脚が機械鎧であの運動能力かよ…」
「うそでしょ…」
これにはエルリック兄弟も驚いたみたいで、思わず呆然となってしまいました。
パニーニャはその隙を逃すはずもなく、
「それじゃ、バイバーイ」
と言って、檻からさっさと抜け出して走ります。
気が抜けていたエルリック兄弟はワンテンポ遅れてしまい、
「あっ…!待て‼︎」
エド君が声をあげますが、パニーニャは待つわけも無く。
「へっへー、捕まえてごらん‼︎」
余裕そうにニコニコ笑って走り出したので、流石に私も操糸術で捕まえようかと思ったんですが、私よりも早くパニーニャを捕まえた人がいました。
それは今まで黙っていたウィンリィちゃんだったんです。
「逃げようったってそうはいかないわよ」
と言いながら捕まえた腕を締め上げるウィンリィちゃん。
まさか私より速く動くとは思わなかったので、驚いてしまいました。
「でかした、ウィンリィ!その盗人を離すなよ‼︎」
そう言ってエルリック兄弟が駆け寄ります。
パニーニャもウィンリィちゃんに捕まるとは思ってなかったのか、余裕の表情から一転、焦りの色が見えています。
「ええ…、離すもんですか…。その機械鎧、もっとよく見せてくれるまで離さない♡」
そう叫んだウィンリィちゃんの瞳はとても輝いていて、私も彼女が素早く動けた理由を理解できました。
それを納得できるかと言われたら、複雑な気分ですが…。